【TS】原作知識持ちだけど病んだ二週目の主人公がいるとか聞いてない   作:匿名

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第二話

 

「おはようっ!」

「端無いですよお嬢様。そんなお言葉使いでは、私がジュリアス様に叱られてしまいます」

 

 俺がバンっ、と勢いよく書斎の扉を開けながら挨拶すると、いつも通りの様子で本を読んでいたケセルが、呆れたようにため息を吐いた。

 彼は手に持った書物に栞を挟み、それを机の上に置くと、受付のカウンターの中から出てきて出迎えてくれた。

 

「今日もやるのですかな」

「もちろん。私はいつかこの国を代表する大魔法使いになってみせるんだから」

 

 俺は手をほにょほにょ動かしながら、ケセルに宣言する。

『ユウスク』は剣と魔法の世界だ。一応、魔法銃なんてアイテムが無いわけではないが、やはりボスクラスは大体、自らの鍛え上げた武術と魔法で戦ってくる。

 

 なんでって、それがシンプルに一番強いんだ。

 道具を使うのに比べて、威力に限界が無いからな。努力次第で幾らでも威力を高められる。

 

 加えて『ユウスク』では、隠しステータスとして才能値というものが定められている。武術適正、魔法適正、身体適正の三つで、上限が1000、下限が100。

 前から順番に、武器を扱う才能、魔法を扱う才能、持って生まれた身体能力の高さだ。

 

 基本的に女性より男性の方が身体適正が高く設定されていることが多く、代わりに男性より女性の方が魔法適正が高く設定されていることが多い。

 

 せっかくアリアという女性の体に転生したのだから、初めに鍛錬するのは魔法が一番良いだろう、という判断だった。

 

「夢はご立派ですが、まだまだ届きませんぞ。この一週間で、まだ初級魔法の発動すら成功していないのですから」

 

 ケセルの言葉に、俺はうぅっとひるんだ。

 そうなんだよなぁ。魔法、難しすぎる……。

 

 魔法は基本的に、詠唱と発動に分かれている。

 体の中に循環する魔力を喉に集め、そこから魔法ごとに決められた言葉を詠唱することで、魔法陣を作り出すのだ。

 最後に、作り出した魔法陣から魔法を発動させれば、成功である。

 

 俺が行き詰まっているのは、魔力を喉に集めた状態で詠唱する部分だった。

 魔力の影響で、普段より格段に喋りにくくなり、上手く声が出なくなる。これは魔力の扱いが雑な新人魔法使いによくあることなのだと、ケセルは教えてくれた。

 

「うぐぐぐぐ」

 

 体の中に巡る魔力を何とか動かして……ダメだ、全然ダメ。

 そもそも魔力の存在を上手く感じ取れず、魔法発動以前の問題であるような気がしてきた。

 

『ユウスク』の公式設定においても、魔法は99%の才能と1%の努力だと書かれている。きっと俺は、魔力を感じ取る力が弱いのだろう。

 

「お嬢様、お伝えしにくいことではあるのですが……どうやらお嬢様にはさっぱり魔法の才能が無いようです。一週間で初級魔法の詠唱すらままならないとなると、間違いないかと」

 

 一時間ほどケセルの細かいアドバイスを受けながら奮闘してみたが、ついにケセルからそう言われた。

 人生経験豊富な彼が言うなら、恐らく正しいんだろう。

 

 くぅ〜、魔法はダメかぁ。『ユウスク』は結構役立つ魔法が多いから、出来れば習得したかったんだけどなぁ。

 まあ、練習を続ければ最低限の初級魔法くらいは使えるようになるだろうから、それまでは頑張ってみようかな。

 

 だけど、そんなのじゃ全然足りない。俺の目標を達成するのに、初級魔法程度の戦闘力を提げて飛び出すなんて、無謀すぎる。

 

 勇者関連シナリオの登場人物は全員死ぬ。ただし、勇者を除く。

 

『ユウスク』関連の掲示板で、こんな格言を見たことがあった。

 勇者の周りで起きる事件はどれもこれも壮絶で、それなりの実力者でも割と簡単に死ぬということだ。

 

 この世界は徹底的に勇者を曇らせるために動くみたいで、シナリオで勇者と関係を持った人物は、一人残らず凄惨な死を遂げている。

 生き残るのはいつだって勇者だけ。でもこれは、彼が主人公だから生き残ったとか、一人だけ命からがら逃げ延びたとか、そういうのじゃないんだ。

 

 ただ単純に、誰も勇者を殺せないほどに、彼が強すぎただけ。

 純然たる実力ゆえに、勇者だけは絶望のシナリオを切り抜いていける。

 

 なら、勇者を救いたいと、彼に積極的に関わりに行く予定の俺が中途半端な実力で手を出すわけにはいかないだろう。

 魔法がダメなら、次の案を考えないと。

 

 

 ◆

 

 

「最近、魔法の鍛錬に励んでいるようだな」

 

 夕食の時間を終えて、ふぅっと一息吐いていると、父がそう声を掛けてきた。

 今世の俺の父と言えば、あのジュリアス=フォン=ランフォードである。

 

 王国が滅ぶシナリオでは必ず勇者の前に立ち塞がるラスボスであり、勇者を除けば、このイージス王国において最強を誇る男だ。

 武術適正1000、身体適正も1000。唯一魔法適正だけが低いが、それを補ってあまりあるだけの戦闘センスを持ち合わせている。

 

「はい、お父様。ですが、魔法は不得手のようで……」

「そうか。顔立ちはメルシィに似たが、そういうところは私に似てしまったのかもしれんな」

 

 父は優しげな表情で微笑みながら、俺の頭をぽんぽんと撫でた。

 どうやら彼は俺が魔法の練習をしていること自体は、頑張っていて偉いと思っているようなのだが、俺が戦いの場に出ることには反対らしい。

 

 なので、魔法が上手に使えないと分かって、ほっとする所もあったのではないかと思う。だけどまだだ、まだ俺には武術がある! 

 

 よくよく考えてみれば、俺ことアリアはあのジュリアスの娘なのだ。

 幾ら女性は魔法適正が高く設定されがちだとはいえ、その常識すら飛び越えて武術適正が高い可能性は充分にある。

 

「ですが、私はお父様のように強くなって、お母様を守りたいと思うのです」

 

 俺は、お目目をくるくる潤ませながら、父に上目遣いした。

 やっていてだいぶ恥ずかしいが、これが父に効果抜群なことは、転生して一週間の俺でも分かること。

 

 この男、めちゃくちゃ娘に甘いのである。

 お父様、魔王を倒してきて……と言ったら本当にやってしまいそうなくらい、激甘の甘たんなのだ。

 

 思った通り、父はぐはぁと何か見えない衝撃でも受けたかのように仰け反り、それからコホンと息を吐いた。

 どうやら、耐え切ったらしい。

 

「そうか、私のように強く、か。この歳で母を守りたいとは、なんと立派な子に育ったものか」

 

 あ、全然耐え切ってなかった。

 ちょっと目が潤んでる。えっ、な、泣いてる!? 

 あの鬼のジュリアスが泣いてるところなんて、スチルですら見たことないぞ!? 

 

 父はそれから一分ほど感慨に耽った後、俺の頭が禿げ上がりそうなほど高速で撫で撫でしながら、口を開いた。

 

「ならば、剣術の指南役に私の知り合いを一人付けよう。軍の中将で、私が信を置いている実力者だ。最近負傷して帰ってきたところで、リハビリには丁度良いだろう」

 

 お、おぉ! 

 思った以上に効果てきめんだった! 

 中将ってことは、とんでもなく高い地位の人じゃないか。

 

 イージス王国にも強い人は沢山いるから、素直にありがたい。

 それもジュリアスが信を置くレベルってことは、武術適正が800を超えてきても不思議じゃないぞ。

 

 うちの娘を見れば怪我の治りも早かろう、と意味の分からないレベルの親バカを発揮している父を尻目に、俺は明日からの訓練に思いを馳せるのだった。

 

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