【TS】原作知識持ちだけど病んだ二週目の主人公がいるとか聞いてない   作:匿名

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第三話

「ミリィ=グレパスです。よろしくね、アリアちゃん」

「は、はい! よろしくお願いします先生!!」

 

 俺の前でにこにこと楽しげに笑う、三十歳半ばくらいの女性。

 少しウェーブがかった短い茶髪に、よく映える紅い瞳が特徴的だ。

 腰には短くて細身な曲剣を帯刀していて、とても強そうには見えない。

 

 だが、そんな彼女こそ、父が私の指南役として連れてきた剣術の先生だった。

 

「ミリィは私が知る中で最も剣才に優れた女だ。振るう剣術もよく考えられている。きっと、アリアにもよく合うだろう」

「ありがとうございます、お父様!」

 

 ミリィの隣に立ったジュリアスは、俺の言葉を聞いて満足気に頷くと、後は任せたと言い残して仕事に行った。

 残されたのは俺とミリィ、それから執事長のルトだけだ。

 

 ルトはあくまで俺の側仕えとしているだけなので、置物として扱って欲しいと言われている。

 ミリィもそれをよく分かっているのか、ルトの存在には触れなかった。

 

「じゃあまず、私が修めている剣術のことから説明していこうかな」

 

 ミリィはそう言うと、腰に佩いていた曲刀を抜き放った。

 鈍色の刀身が日光を反射して、ぼんやりと輝いている。ところどころ変色し、細かな傷がいくつも入ったそれを見て、俺はミリィが歴戦の剣士であることを確信した。

 

「私のは完全に我流。大体どこの剣術教室も、男の剣術しか教えてくれないからさ。堅実に受けて、果敢に攻めて、ってやつ」

 

 ミリィは曲刀を軽く握る。叩かれたら落としてしまいそうなくらいの遊びを持たせて、優しさすら感じるほどの握りだった。

 

「でもそれは、女が上手く扱えるものじゃない。女性には、女性にしかない武器がある。体は細く柔軟で、小さくて素早い。生き物を殺すのに、勇者の剣は必要ない。良く研がれた刃渡り40センチの刃があれば良いの」

 

 スッ、とミリィが一歩踏み出した、と思った次の瞬間には、彼女は地に触れそうなほど姿勢を低く沈めていた。

 

 それからバネが跳ね上がるように、しなやかに体を跳ね上げる。

 立てられていた練習用のカカシに向かって、下から抉るような角度で一閃。

 

 右足の付け根の部分にクっと引っ掛けるように刃を入れ、裂け目を入れる。

 それから踊るようにクルリと反転。回転の勢いを活かしたまま、目にも止まらぬ神速でカカシの首筋を切り裂いた。

 

 この間、一秒にも満たぬ早業。

 俺もギリギリ目に追えはしたものの、どんな技術があればここまで出来るのか、まるで見当もつかない。

 

「滑らかさ、澱みなさ、柔らかさ。この三つにおいて、女は男を凌駕すると、私は思ってる。相手から見たら、今の私の動きは凄く捉えにくいんだ」

 

 ミリィの説明によると、どうやら彼女の剣術は彼女自身が生み出した、女性のための剣術、というやつらしい。

 動きの緩急によって、動きを実際の倍以上速く見せる。なのにその動きはどこか今までの延長線上にあって、反応が遅れてしまう。

 

 大切なのは動き始めを隠すことと、動き始めたと認識されるであろう瞬間を限りなく遅くすること。そして、そこから緩急をつけることの三つ。

 

 彼女の説明を要約すると、そういうことらしかった。

 

 俺は思った。

 無理じゃね……? と。

 

 どうも説明を聞いている限り、ミリィはとんでもない天才であるように思う。我流でここまでの剣術を完成させるなど、化物以外の何者でもない。

 

 そりゃ女性で、30手前という若さで軍の中将にまで上り詰めるのも納得だわ。

 この人の動き、明らかにおかしいもん。

 任務で負傷した療養期間と聞いているが、これが本当に負傷者の動きか? 

 逆にどんな任務だったらこの人が負傷するような事態になるのか、教えて欲しいくらいなんだけど。

 

「じゃじゃーん、ということでアリアちゃんには、プレゼントとして私と同じタイプの剣を持ってきてあげました〜」

 

 色々考えて惚けていると、ミリィが懐から赤いリボンで縛られた箱を取り出して、プレゼントしてくれた。

 早速開けてみると、中には刃渡り20センチほどの小さな曲剣が入っている。20センチと書くと短く感じると思うが、今の俺の小さな体からすれば、結構な重さと充分な長さである。

 

「ほ、ほわぁ!!」

 

 前世でもこういうのは大好きだった。お土産ショップに置いてある木刀を必ず一度は手に取るくらいには。

 

 それが、今世では本物の剣を手に入れたのである。

 興奮しないわけもない。

 

「まずは基礎の基礎、剣の素振りからやっていこっか」

「はいっ!」

 

 やる気もテンションもマックスで、俺はミリィの指導の元、何度も剣を振るのだった。

 

 

 ◆

 

 

 一年が経った。

 あれから毎日、魔法と剣術の鍛錬は続いている。

 

 魔法の方は、やっぱり全然ダメだ。

 最近やっと火属性初級魔法が詠唱できるようになったけど、威力はほとんどマッチの火だった。

 

 魔法の才能が如何に無いのか実感するが、魔力操作の鍛錬はこれからもずっと続けていくべきだろう。

 魔力を自在に操れるようになれば、それを身体強化に使えるようになる。これを出来ないと、そもそも戦いの舞台に上がれないことが殆どだ。

 

 この身体強化にもまた、魔法適正は関わってくるのだが、今はまだ良いだろう。

 

 それより、剣術のことだ。

 どうやら俺は、からっきしな魔法適正よりは、武術適正の方があるらしい。

 それでも多分、数値にして300とかそこらへんだとは思うけど。

 

 療養期間をとっくの昔に終えて、週に三回ほど教えに来てくれるミリィの元、俺の剣術の腕はメキメキ、ではなくちょびちょび上達していった。

 

 始めたての頃に比べれば間違いなく剣筋は良くなったのだが、いまだカカシの腕すら切り落とせない程度である。

 勿論、あの時のミリィみたいな動きなど出来ようはずもない。

 しょんぼりする俺に、ミリィは誰でも初めはそんなものだよ、と笑って励ましてくれた。

 

 そ、そうだよな! 

 俺はまだ、来月に10歳を迎える幼女だ。

 成長期はこれから訪れるはずであり、魔法も剣術も鍛錬する時間は幾らでもあるだろう。

 

「じゃあ今日はそろそろ、ステップについて教えてあげる」

「ステップ、ですか?」

 

 ミリィは一つ頷くと曲剣を取り出し、その肌を撫でる。

 すると、ミリィの指がなぞった跡を、蒼い文字が追いかけるように浮かび上がった。

 

「これは?」

「この剣には、私の剣術に必須な『空歩《ステップ》』の魔法が刻まれているんだよ。軍が抱えている優秀な鍛治師の一品でね」

 

 へぇ〜、ミリィの曲剣は魔法武器だったのか。

 魔法武器とは、『ユウスク』では結構なレア物として扱われている、その身に魔法の術式が刻まれた武器のことだ。

 勇者が持つ聖剣や、父ジュリアスが佩いている剣も、同じく魔法武器だったはず。

 

 これがまた強力で、その魔法に消費する魔力が倍以上跳ね上がる代わりに、詠唱無しで魔法を扱うことが出来る代物なのだ。

 これに関しては魔力さえあれば本人の魔法適正は関係無いので、今の俺からすれば喉から手が出るほど欲しい装備の一つだと言えた。

 

「私の剣術は、この『空歩』を使うことで完成する。自由自在に空を飛び回り、目にも止まらぬ速さで首を狩れる」

 

 ミリィはそれだけ言うと、その場で高くジャンプした。

 魔力でそれなりに身体能力を強化しているのだろう。2メートル近く跳躍した彼女は、唐突に空を蹴った。

 

 すると、まるでそこに透明な板でも置いてあるかのように、ミリィの足を何かが受け止め、彼女の体を前に押し出す。

 空中で方向転換した彼女は、それから同じ要領で空を飛び回り、カカシの首元を剣で撫で切りにしながら着地した。

 

「す、すごぉい!!」

 

 めちゃくちゃかっこいいんだけど!! 

 なにそれ、最高に憧れるってばよ! 

 

『空歩』を使った彼女は、まるで空で踊っているみたいだった。蝶のように優雅で捉えにくく、蜂のように素早く、どこまでも鋭い。

 

「これが、アリアちゃんの目指すべき完成形。もうちょっと剣の扱いが上手くなったら、私から『空歩』の魔法武器を贈ってあげる」

「ほ、ほんとですか!」

 

 そ、そんなの頑張るしかない! 

 実は俺には全然剣術の才能が無いんじゃ無いかと萎れていたけど、そんな場合じゃなかった。

 

 俄然やる気が出てきた俺は、ぶんぶん剣を振りまくるのだった。

 

 

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