ゾンビとは何か。
死者の魂が肉体から離れることができず生きた屍として身体を腐らせながらも世を彷徨う存在である。
つい最近まではその筈だった。
魔王領、人間と戦争をしていた人ならざる者たちが住まう地にゾンビが現れた。
普段なら『ああ、天に召されてないんだな』と哀れみながらも魂本人と肉体から解放されるかどうか話し合いをして最期を決めるのだが、そのゾンビは訳が違うかった。
全く理性がなく、攻撃されても怯まず、そして無限に飢えているかのように噛みついてきた。
噛まれた獣人がそのゾンビを叩き潰して今回の件は終わりとなる、筈だった。
これが普通のゾンビであったら悲劇は生まれなかった。誰が知るものか、ここに現れたゾンビが従来の物ではなく、どこぞの研究所から産まれたウイルス系ゾンビだったのだと。
その日の夜、噛まれた獣人は体調不良を起こし寝込んでいた。
獣人故に回復力は人間よりも高く、傷も簡単に洗うだけで放置していたのだ。
その日の晩、噛まれた獣人は突如ゾンビとなり寝入っていた仲間へ襲い掛かった。
獣人という種族は肉体が丈夫なだけでなく、そこそこの巨体に似合わぬ素早さを有している。
ゾンビとは、生前の肉体が発揮できるスペックを「死」という力で痛みを度外視して出すことが出来る地味に厄介な特性を持っていた。
傷つけば弱り、遅くなるはずの肉体。それがそこらの生物ではなく鍛え上げた肉体をもつ獣人だったら?
獣人ゾンビは暴れに暴れて新たな感染源を作り出し、そして時間経過と共に新たなゾンビを生み出していった。
ネズミ算のように、獣人だけでなく他種族を巻き込んでゾンビが増えていくではないか。
流石に異常発生して生物を無差別に襲うゾンビに魔王軍は動き出す。
そして、その結果は…………
「これで、眠るといい。『インフェルノ・スパイラル』!!!!」
魔王渾身の魔法が山と見間違うほど大きい肉塊に向けて放たれる。
鼻につく腐臭が焼かれていき、地獄の業火が数多の死体とゾンビと瓦礫を巻き込んで巨大化した肉塊が炭と灰へ変貌していく。
永遠に続くかと思われていた業火は次第に収まっていき、そして魔王の目の前に残ったのは命のかけらもない炭だった。
「…………ふ、ふはははは!どうだ!これが我が全力、我が持ちうるもの全て使う大魔法よ!」
事実、魔王が放った『インフェルノ・スパイラル』は今代魔王が使用できる最大の殲滅魔法である。
本来なら人間の軍隊相手に使用してもオーバーキルとなる魔法であり開発したのはいいものの使い道が全くないため今日にいたるまで使うことは無かったのだ。
「見たか!俺の、最大火力を誇る魔法を!なあ!なあ!」
空中で放った魔法の感想を誰かに求め、両腕を広げ高らかに叫ぶ。
しかし、返事は誰もしない。
何故なら空中に居るのは魔王だけだからだ。
そして、先ほど述べた魔法を放つことが出来たのも、生存者が魔王以外居なくなったからだ。
「誰か…………誰かいないのか!魔王がここに居るぞ!王が、怪物を倒したんだぞ!」
それでもしんと静まり返った空気しか魔王の青い肌に感じ取ることは出来ない。
国民は逃げたか、皆あの肉塊に吸収されていったか。
一応、肉体のない種族もいるため全滅だけは免れている。
どこへ行ったのかは今のところ定かではない、無限に肉を喰らい成長し続ける化け物相手にできることなく、しかし被害が広がらないように周囲に呼びかけはしていた。
「何故、何故だ!どうしてこうなったんだ!ふざけるな、ふざけるなぁーーーーっ!」
かくして、魔族からすると完全に新種のゾンビに魔王は国を滅ぼされた。
虚しい慟哭が響き続ける中、滅んでしまった城下町は静かであった。
肉体のない種族が戻って来るまで、魔王はその場を動くことは出来なかった。
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