少し長くなってしまいました。ご了承ください。
騒がしかった入団式から一夜が明けた
現在、104期訓練兵は適正訓練を受けていた。
戦場を生き抜く上で必須となる立体機動装置の姿勢制御訓練だ。
その訓練の中、視線は1人の少年に注がれていた。
キース「何をやってるエレン・イェーガー!!早く上体を起こせ!!」
エレンは宙吊りになって焦りの表情を見せていた。
エレン(え...?なんだこれ...こんなの...どうやって...ウソ...だろ?こんなハズじゃ...)
──────────
ミカサ「基本通りにやればできるはず。上手くやろうとか考えなくていい」
カイル達4人は居残ってエレンに付き合っていた。
カイル「エレンならできるさ、身体能力に問題はないはずだし、自分の感覚を信じろ」
カイルはエレンの目を見て言う
アルミン「落ち着いてやればできるよ。運動苦手な僕だってできたんだから」
アルミンは自信をつけるように計らう。
エレンは覚悟を決めたようだ。
エレン「...今度こそできる気がする。上げてくれアルミン!」
アルミンの言葉で自信がつくのはどうかと思ったが言わないでおこうと思ったカイルであった。
アルミン「いくよ」
キリキリキリキリとアルミンがレバーを回してエレンを釣り上げていく。
徐々に体が浮いていく
一通りからだが浮いた。あとは姿勢制御のみ...
と思った矢先。
エレン「ん?!なっ!!」
ガッ!
いきなり体勢を崩してしまった。
カイル「危ない!」
ガシッ!
誰よりも早く動きエレンを抱き留め、支えた。
その時少しだけエレンの腰あたりに違和感を覚えた、が数瞬の事だったので、確信が持てなかった。
カイル「エレン!怪我は?」
エレン「...大丈夫だ、助かった...」
カイル「なら良かった、アルミン、一度下げよう。」
アルミンが「わかった」とレバーを戻す。
地面に降りたエレンは、真っ白な顔で自分の手を見つめて震えていた。
ミカサも、かける言葉が見つからないように唇を噛んでいる。
──────────
周囲がざわざわと騒がしい。
エレンの噂は既に広がっているようで、姿勢制御すらできない癖に巨人を駆逐するとか言ってる大ホラ吹きだと言われているようだ。
エレンは呆然としているが、周囲の声が耳に入ってくるようで、様々な言葉に、表情を絶望に染めていくようであった。
ミカサはエレンに声をかけるが全く聞こえていない、数回肩を強く揺らし、やっとエレンは呼ばれていることに気がついた。
アルミン「気にしても仕方ないよ。明日できるようになればいいんだから。それよりちゃんと食べて明日に備えよう」
エレン「情けねぇよ、こんなことできないであいつらを根絶やしにすることなんて────」「もうそんなこと目指すべきじゃない」
ミカサ「向いてないものは仕方がない、生産者として開拓地で支えることも悪いことでは無いと思う」
ミカサはキッパリと言う。家族を失いたくないのだろう、少し語気が強い気がした。
カイル「まあ、そう言ってやるなよミカサ」
ここまで黙って聞いていたカイルが口を挟む。
カイル「お前の気持ちは痛いほどわかる。俺だってお前らが死ぬなんて考えたくない。だがな、ミカサ。エレンだってあの日、あの光景を見てしまったんだ。生半可な気持ちでここにいる訳じゃない」
ミカサ「...カイルがそう言うなら、もう言わない...」
ミカサはカイルの言葉に少ししょげてしまった。
カイルはそっと自分の分のパンを半分ミカサのトレイに置いておくのだった。
そんな様子を横目にアルミンが話を進める。
アルミン「エレン、特に今回姿勢制御が上手かった人達にコツを聞いてみるのはどうかな?」
エレン「...そうだな、できることは何でもしなくちゃ、開拓地行きなんて真っ平御免だ!」
カイル「俺も付き合うよ、仲間と打ち解け合うチャンスだしな」
そう言っていそいそと食事をし、カイルはミカサに「また明日」手を振ると男子3人は男用の宿舎に戻っていくのだった。
──────────
コニー「コツだって?悪ぃけど俺...天才だから"感じろ"としか言えん」
ジャン「俺は逆に教えてほしい。あんな無様な姿晒しておいて正気を保っていられる秘訣とかをよぉ...」
無情な言葉がエレンを襲う。
エレン「お...お前ら人が頭下げて頼んでるのに...────」「まぁまぁ」
マルコがエレンを宥める。
マルコは何かを思い出したように二段ベッドの上を見る。
マルコ「コニーとジャンの他にも上手いって言われてたのは二人だよ。名前は確か────」
???「う〜ん...姿勢制御のコツか...」
エレン「頼む教えてくれ、二人ともすごく上手いって聞いたぞ」
カイル「あぁ、俺からも頼むよ、ベルトルト、ライナー」
カイル達の対面には、がっしりした体格のライナーと、身長が高く意志の弱そうな目をしているベルトルトが座っている。
ライナー「すまんが...ぶら下がるのにコツがいるとは思えん。期待するような助言はできそうにないな...」
申し訳なさそうにライナーは告げる。
エレン「そうか...」
アルミン「明日に懸けるしかない...」
カイル「まあ、仕方ないな」
五人の間に静寂が生まれる。
するとベルトルトが口を開いた。
ベルトルト「三人は...シガンシナ区出身だよね?」
アルミン「うん...そうだけど...」
ベルトルト「じゃあ、巨人の恐ろしさも知っているはずだ。なのに、どうして兵士を目指すの?」
アルミン「えーと────」
アルミンは、アルミンのおじいさんが亡くなってしまったウォール・マリア奪還作戦を強行した王政があることにじっとしていられず、自分にできることは分からないがこの状況を黙って見ていられない、と語った。
ベルトルト「そ、そっか」
エレン「俺も似たようなもんだ...」
カイルもエレンに同意するように頷く。
アルミン「聞いてもいいかな?二人はどこ出身なの?」
ベルトルトはライナーの方をチラリと見たあとおずおずと語り出した。
自分たちがウォール・マリア南東の山奥の村出身だということ、その村に巨人が襲ってきて混乱しながらも馬に乗って逃げたあと開拓地で二年暮らし、今に至ることを。
ライナー「まったく...お前は何だって突然そんな話すんだよ」
ベルトルト「ご...ごめん...えっと...つまり僕が言いたかったことは......君たちは彼らとは違うだろ?」
エレン「彼ら?」
ベルトルト「巨人の恐怖を知らずにここにいる人たちだ。彼らの大半がここにいる理由は世間的な体裁を守るため...臆病なところはボクも彼らと同じだ...僕も憲兵団の特権階級狙いで兵士を選んだ...」
ベルトルトはゆっくりと言葉を噛み締めながら語る。
ベルトルト「羨ましいよ...自分の命より大事なものがあって...」
ベルトルトは俯く。
カイル「お前らは巨人の恐怖を知っているんだ、そうなるのも仕方ないさ、自分の命を優先したくなるものだろう」
二人を優しい目で見る。
カイルはそのまま続ける。
カイル「俺だって巨人は恐いよ、目の前で母親が食われたんだ」
カイルの言葉にライナーとベルトルトは目を見開いた。
カイル「正直戦いたくない...でも、俺は巨人に食われる直前の母親に言われたんだ『大事なものは必ず守れ』って、そして『生きろ』って...だから俺は誓った...何があっても、守りたいと思ったものは守り抜く、と」
あの日誓った決意を冷静ながら燃える瞳で語る。
その瞳にベルトルトとライナーは戦慄した。
流れでそのままエレンも自分の信念を語った。
調査兵団に入り、巨人を『一匹残らず駆逐する』と。
ライナー「すごいな、巨人と遭遇してからもその決意が変わらないなんて」
素直に尊敬しているような目でカイルを見る。
ライナー「俺にもあるぜ、絶対に曲がらないものが...」
カイル達三人は興味深げに耳を傾ける。
ライナー「帰れなくなった故郷に帰る、絶対に...何としてもだ」
ライナーは気迫のこもった目でカイル達を見る。
その目にエレンも「あぁ...」としか言えないようだ。
ライナー「ベルトの調整から見直してみろ、明日は上手くいく...」
最後にライナーはそう告げた。
ライナー「お前ならやれるはずだ。エレン・イェーガーだったっけ?」
エレン「あぁ、ありがとな...ライナー・ブラウンだよな?」
カイルはここに男の友情を確かに見た気がした。
──────────
翌日、再び適正訓練の場所に一同が集められた。
キース「エレン・イェーガー、覚悟はいいか?立体機動装置を操るとは兵士の最低条件だ。できなければ開拓地に戻ってもらう...いいな?」「はい!」
エレンの覚悟のこもった返事が響く。その表情に迷いはないようだ。
キース「始めろ」
キース教官の声でエレンは少しずつ釣り上げられていく。そして上まで上がりあとは姿勢制御だけ...
エレンは浮いていた。
キィ...キィ...という音を立て、不器用ながら確かに宙に浮いていた。
一同「おぉ!!」
エレンの「できた!」というドヤ顔がカイル達を見る。
だが一転
グルン!ガシャン!
という音を立ててエレンは後ろにひっくり返った。
先程の歓声は静寂に変わった。
エレンは何が起きたか分からないという顔をしていた。
キース「降ろせ」
静かに告げる。
エレンの顔は絶望に変わっていた。
エレン「ま、まだ!俺は!」
キース「早く降ろせ」
エレンは地面に降ろされた。
キース「お前には開拓地に帰ってもらおう、エレン・イェーガー...」
キース教官は残酷に言葉を放つ。
???「ちょっと待ってください教官、もう一度だけチャンスをあげて貰えますか?俺とベルトの装備を交換して!」
一人の少年がキース教官の前に歩み出る。
エレン「カイル!お前...!」
そう、ずっとエレンの動きを注視していたカイルだった。
キース「どうした、フューラー、何度やっても同じことだ」
フューラー「いいえ、お願いします。ベルトの装備を変えればできるはずなんです!」
カイルの気づきは、疑惑から確信に変わっているようだった。自信に満ちた顔をしている
キース「...いいだろう、もう一度だけだぞ。」
カイルの自信に興味を持ったようにキース教官は言った。
カイル「ありがとうございます!さぁ、エレンこれを使ってくれ」
深々と頭を下げ、エレンに自分のベルトの装備を渡す。
数分後
エレン「あれ?できるぞ...なんで、急に...?」
先程よりも安定してエレンは宙に浮いていた。
カイル「やっぱりな、少しおかしいと思ったんだ」
キース「どういうことか説明してもらおうか?フューラー」
キース教官はカイルを少し驚いたように見る。
カイル「はい、実は昨日、適正訓練が終わった後にエレンの練習に付き合っていたんです。その時エレンが前に姿勢を崩しそうになったとき、咄嗟に受け止めたんです、で、その時たまたまベルトの金具に触れたんです。その時、俺のものとは違う歪みのような感覚があった気がして、今まで引っかかっていたんです。でも、さっきのエレンの動きを見て確信したんです。」
キース教官はカイルの鋭い感覚と洞察力に感心しているようだった。
キース「そうか、確かに鋭いな腰まで浮いた状態で反転して地面に頭を打つはずがない...。ベルトの金具の破損など聞いたことがないが、新たに整備項目に加える必要があるな...」
エレン「で、では!」
エレンは緊張した面持ちで教官に問う。
キース「...問題ない...修練に励め」
その瞬間エレンは両手を天高く突き上げ喜びを全身で表した。
エレン「ありがとう!カイル!」
その言葉にカイルも安心したように幼なじみの親友を見つめるのであった。
キース教官「……フューラー。お前、兵士よりも整備班に向いているんじゃないか?」
カイル「いえ。俺は、この立体機動を使いこなして守りたい奴らがいるんです」
カイルは優しく笑って、地面に降りたエレンと拳を合わせた。
現在公開可能な情報
カイルは適正訓練では非凡な才を見せ、ミカサに次いで高い評価を得ている。