アークナイツの短い話   作:十羽せろん

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あなたは覚えていないけれど、私は覚えている。
(本内容は15章が公開される前に書かれたものです)


【果ての岬で待つ】

 

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 月の海は干からびた海

 砂海に刺さった塔

 惑星の眼は渦巻く炎

 果の黒と因の白

 星の残光と光の禍根

 空の焼けた裂け目

 宇宙を駆け抜ける銀の筋

 時間を取り込む粒子の帯

 

 もっと先には何があるの? 

 その先にある物をあなたと一緒に見る事は出来る? 

 今は無理でもあなたと私なら……きっと辿り着く事が出来る筈。

 ■■■、約束よ。

 こうして手を握りながら、その全てを共有しましょう。

 私達が一緒なら、きっと何処へだって行ける。

 この宇宙の果ての向こうにだって辿り着けるわ。

 

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 ■■■■/■■/■■ ■■:■■:■■

 

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 ▽△▽△/▽△/▽△ ▽△:▽△:▽△

 

 かつて、人は大地の上で生まれ、大地の上で死ぬのが普通であった。空を飛ぶ事はあっても浮く事は出来ず、海を泳ぐ事はあっても水中で呼吸は出来ない。不自由な中でその不自由さを克服するべく、多くの物を生み出し本来備わっていない環境への適応も成功させた。他の生物には無い『思考する力』と言う強みを発展させ、1つの惑星を掌握するに至る。その過程において、過去に存在していた『共生』と言う価値観は徐々に失われて行き、『人こそが一番優れた存在』と言う傲慢さが露見して行く。

 

『環境保護』と言うお題目はいつしか『人が生き残れる環境保護』と成り果て、本来の意義と目標は失われて久しい。我々はたった1つの種族が、惑星を食い潰す様を目の当たりにした。その時になってようやっと気が付いたのだ、『思考する力』と言うものが如何に無責任であるのかと。人々は生まれ育った惑星を無責任にも放棄し、その外側へと宇宙へと逃げ出した。宇宙、無限に広がる空間、人類の手に余る空間……我々は今後生まれて来る、新たな世代に何をしてやれるのだろうか? 

 

 ▼▲▼▲/▼▲/▼▲ ▽△:▽△:▽△

 

 かつて、人は大地の上で生まれ、大地の上で死ぬのが普通であった。だが、今は宇宙空間に存在する数多くの惑星へと進出し、そこで多くの物を学習している。その結果、人類は新たなステージへと到達し、過去では考えられない程の技術力を得た。人々は寿命や老いと言った問題から解放される方法を獲得し、人としての枷である肉体と精神意識との切り離しをも可能にしたのだ。

 

 今の人類はもはや、過去の人類とは別の種類になってしまったと言ってもいいだろう。この無限に広がる宇宙の中で、人類は新たな扉を開き、新たな力を得た。今後人類はあらゆるモノを解明し、あらゆるモノを吸収するだろう。この世界に、いやこの宇宙に人類が恐れるモノはもはや存在しない。我々は全てを掌握するのだ。

 

 ▼▲▼▲/▼▲/▼▲ ▼▲:▽△:▽△

 

 我々は間違っていたのか? 一体どうすれば良い? 産まれて来る次の世代の子供達に、何と言ってやれば良いのだ? 『我々に残されたのは滅びだけだ』等と……どうやって説明すれば良い? 迫りくる滅びに対し、対抗出来る手段など無い。何と愚かな事だろうか、遥か昔先祖達が惑星を食い潰し、そこを見捨てたのと同じだ。これは『人類には全てを掌握する力がある』等と思い上がった我々への罰なのか? 

 

 神と言う存在が居るのなら教えてくれ、一体どうすればいい? 一体どうすれば許して貰える? 一切の区別無く滅ぼすアレにどう立ち向かえばいい? 今、分岐点に立たされた人類に出来る事は何だ? もう全てが手遅れなのだろうか? この事を知っているのは極少数だ。計算上はまだ時間的な猶予は残されている……何か、何かを考えなければ……

 

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 ……我々の世代ではどうする事も出来なかった。時間と言う単純な数値を気にしなければいけないのは、一体どれ位久しぶりの事だろう? すまない、これから生まれて来る全ての子供達、未来に生きる全ての人々よ。原因を作った我々が何も出来ず、後の世代に全てを任せる事になってしまった。我々に出来るのはせめて、宇宙に散らばって生きて行く事だけだ。多くの人々は知らないまま、人と言う集団ではなく人と言う個人で生きて行く。何処かで滅びに巻き込まれたとしても、別の場所で人類はまだ生きている。この広い宇宙の中を逃げ回る事しか出来ない。

 

 あの滅びの影はまだ目の前には迫っていない、時間的猶予はまだ確かに残っている。……残っている……残っている……か。既に我々には何も言う資格は残っていない。次の世代の人々は我々を恨むだろうか? きっと恨むだろう……すまない。こんな負の遺産しか残せなかった。だが、もし、この滅びに立ち向かう者が居るのならば……いや、これ以上の事はやめておこう。

 

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 ……本当にすまない。

 私に出来る限りの事はした。だがその多くは無意味だった。

 もはや滅びを回避する方法は存在しないのかもしれない。

 ……もし、もしも、この先、この記録を見て滅びに立ち向かおうとするなら。

 仲間を集めなさい、信頼出来る同志達を。

 集団でも、突出した個人でも良い、決して、独りで挑もうとするな。

 私の様に独りで背負い込む必要は無い。

 ……こんな事を言える立場で無いのは分かっている。

 だが、私は酷く疲れた……私はもう疲れたんだ……

 

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 モニターが消灯し、装着していたヘッドセットを外した所で声が掛かる。

 

「■■■、またあの記録を見ているの?」

「どうしても気になってしまってね」

「……私達の数世代前には既にこの状況は予見されていた。けれど、その間に明確な対策を作り上げた人は誰も居なかった。結果として何も知らないまま技術的進歩だけが進んでいたと言うのも、今となって不思議な話かもしれないわね」

「この短期間で大きな技術的変化があったのは、恐らくこの滅びから逃れる研究の副産物だろう。一部の真実を知る者達が生み出した物を、何も知らない多くの人々が利用する。彼らが生み出した失敗の数々は、全くの無駄と言う事は無い。きっとその事は彼らの数少ない癒しにもなった筈だ」

「そうかもしれないわね」

 

 ■■■は差し出されたカップを受け取り、少し息を吹きかけた後で口をつける。

 

「……プリースティス、君はこの記録を見てどう感じた?」

「それは感情的な意味かしら、それとも研究的な意味?」

「感情的な方だ。君は既にこの記録を最後まで確認しているのだろう?」

「正直に言うと、そんなに特別に思った事は無いの。ただ、私達よりも遥か前に”観察者”と言う所まで辿り着いていたと言うのは、驚いているわ。この人が作り上げた物がどれだけあるかは分からないけれど、私もその恩恵を受けているのは間違いないでしょう」

「そうだな。私も含めて、間違いないだろう」

 

「感情的に何か思った事は無いけれど……この記録を読み終えて、私は生まれて初めて……宇宙と言う存在に触れた時の事を思い出したの」

「その話について聞いても?」

「勿論。あれは私がまだ”成長”と言う身体機能が働いていた頃の話。地面から天に向かって伸びる塔……その中に入って多くの人達と一緒に上へ上へと昇って行く。ある段階を通過した時、重力から解放され体が浮き上がる。透明な廊下に踏み出した時に見える暗黒。その中に輝く無数の星達、隣に見える別の惑星、足元に見える私が生きていた惑星が崩れて死に向かう光景……あの瞬間、私の世界が拡張される感覚が間違いなく転換点だったわ。死にゆく星々が発するあの音色に惹かれ、その音波の研究をする様になった……」

「……」

 

「そんな、ちょっとした事を思い出したの」

「君の原点は意外な所にあったのだな」

「人って大抵はそんなものよ? 私だって生まれた瞬間から、惑星の周りを意識だけで周回していた訳じゃないし、宇宙と言う存在に興味を持っていた訳じゃないもの。■■■はどうだったの?」

「私はどうだろうな……物心ついた頃には既に宇宙を旅する船の中だった。宇宙に触れる事、それが普通の事で特別な意味を持つ事は無かったんだ。旅の中でやがて自立し、1人でこの広大な空間を旅する様になってから色々な事に触れ、そして色々な事を気にする様になった……と思う。結果として今こうしている訳だが、実際の転換点については覚えていないな」

「あなたは自分自身の事については、あまり関心が無いのかもしれないわね」

「もしかしたら、そうかもしれないな」

 

 それから二人は沈黙したモニターの前で数多くの事を話し合う。ちょっとした昔の事、この記録に含まれていた多くの記録の事、この先どう進んで行くべきかと言う議論についても思考をぶつけあった。人類はその傲慢さ故に過去に惑星を食い潰し、その結果として宇宙へと旅立った。そしてその果てに人類は新たな時代へと突入し、結果としてその傲慢さを増長させてしまった。その代償として”観察者”に眼をつけられ、宇宙の果てまで滅びの手が迫りくる時代を迎える事になる。過去の人類の傲慢さの清算は、未来の人々への巨大な負債となり、未来の人々はその負債の支払い方を未だに見つけ出せていなかった。

 

 滅びを回避するべく模索する人々は、確かに素晴らしい存在だ。

 彼らは全ての人類の為に、あらゆる物事を観測し、研究して来た。

 

 だがその彼らが、傲慢で無いと誰が言えるのだろうか? 

 滅びを回避しようと動く事自体が、本当に正しい事だったのだろうか? 

 彼らは”その日”を迎えるまで理解する事は出来ないのだろう。

 

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 ◇◇■■/■■/■■ ■■:■■:■■

 

 星々が輝く空の下、1人の人間が地面に寝そべりながら頭上の暗闇を眺めている。その眼には光り輝く星々が映っている様にも見えたが、同時にその星々の向こうの深淵を映している様にも見える。目の前の光景に感動している様でもあったが、やはり同時に深い悲しみにとらわれてもいる様だった。その人間には数多くの感情が同居しており、それら全てを何とか飲み込もうと足掻いている。抱え込んだそれらは誰に共有する事も、誰かに託す事も出来ない。この先、訪れる終末を回避する為の時間も手段も既に多くは残っていないのだから。やがてゆっくりと此方に近づいてくる足音が聞こえ、よく知った声が響いた。

 

「■■■、やっぱりここに居たのね」

「……君か」

「えぇ、私よ。あなたは何かに詰まったら、こうしてここで空を眺めているものね」

「他の仲間には見つからないのに、君には毎回居場所が見つかってしまう」

「他の人達と違って、私はあなたが何を好むかと言う事を少しだけ深く理解しているだけよ」

「そう言うものか」

「そう言うものね」

 

 そう言うとプリースティスは、寝そべる■■■の横に腰を下ろす。■■■は変わらず夜空をながめているが、彼女は少ししか夜空に興味を示さなかった。ちらりと輝く星々を見た後、直ぐに横で寝そべる人物に視線を向けている。

 

「─正直、今日君は現れないと思っていた」

「あら、どうして?」

「今日の議会で、私が君の案を否定したからだ。我々には既に時間が残されていない。選べる手段も多くは無いのは分かっている。”保存者計画”、”紺碧の樹計画”、”天国の支点計画”、その他の優秀な仲間達の計画の数々」

「……」

「その中で、今回の君の提案と計画について私は否定的だったから。……その、君が怒っているのではないかと」

「まさか! ■■■、私があなたに対して怒る事なんて何も無いのよ。私の計画に対して、あなたが指摘した内容や、言った事は間違ってはいないわ。……むしろ私の方こそ、あなたを失望させてしまったわね」

「そんな事は無いよ」

「■■■にそう言って貰えると、私も気持ちが楽になるわ」

「……プリースティス、君もここに寝そべってみると良い。色々な世界が見える」

 

 彼女は少しだけ座る位置を変えた後、言われて通り地面に寝そべる。

 ■■■とプリースティスは横に並び、共に夜空を眺めている。

 暫く暗闇に包まれ後、プリースティスは口を開いた。

 

「……何をもって人間と言う”個”を定義するか、■■■はその結論が出せていないのね。だからこそ、私の計画に対しても否定的だった訳でしょう?」

「その通りだ」

「”人間”とは何か、”個”とは何か。それを導き出す事は簡単では無いものね。人類と言う生き物が産まれてから現在まで、数多くの答えが産まれてきたけれど、それらは全て新たな疑問を生み出すだけだった」

「過去に産まれた、それらの答えは間違っている訳ではない。ただこの肉体を精神が離れ、意識のみで活動する事が可能になった時代で、私は人がどういう存在であったのかと分からなくなる事がある。肉体と言う檻を捨て、精神の海に溶けだした時、そこに存在するのは”個”と言う物を持ち合わせているのか……そこが私にはまだ結論が出せていない」

「人が言う”個”とは、自身で自己を認識出来る事よ。記録装置に備え付けられた部品の一部だったとしても、湖に落ちた一粒の雫でも、情報の海に発生した一瞬のノイズであったとしても、それが自身を”個”として認識出来たのなら、それはもう”人間”と呼べるわ。自分と他人の区別がつき、相補性の関係を築き上げる事が出来るのなら……どんな形であったとしても、どの様な存在になったとしても、それが出来たのなら”人間”だと思わない?」

 

 ■■■は少しばかり考えると言葉を返す。

 

「人としての形は重要ではないと?」

「全く重要ではないとは言い切らないわ。だけど、少なくとも私は”今の”人としての形に拘る事は無いわ」

「……そうか」

「あなたは形を重視しているの?」

「重視している……と言うのとは少し違うかもしれない。人類は元々肉体と言う制限の中で生きて来て、その中で様々な物を生み出し、様々な繋がりを得て来た。そして今現在、人は肉体と言う制限を超越し、精神や意識のみでの活動も可能になった。それは確かに人類の技術の進化の証明でもある。この事は当時、間違いなく誇るべき事であり、新たなステージに到達する布石になると思っていたし、信じてもいたのは事実ではある」

「……」

「我々は本来存在している寿命と言う概念に対しても、既に一定の克服を得ている。過去の歴史にあった様に、長い寿命や永遠の命を追い求めると言う事も無くなった。結果として、限られた時間の中を出来うる限り懸命に生きる、ある意味死へと向かって燃え尽きるまで進むかの様な、ある種の美しさと言う物を感じなくなって随分と経つのも事実だ。だからこそ私は……」

 

 ■■■はそこで一度言葉を区切り、次の内容をどう表現するべきかと悩んでいた。どの様に表現すべきか、どの様に伝えるべきなのか、思考が早く深過ぎるが故に即座に出てこない。答えは出ているのに、それをどの様に表現したら良いのか分からないのだ。お互い意識だけの状態であれば瞬時に内容を共有出来る。だが今の様に、この人と言う形に収まっている時はその様には出来ない。それはこの発達した文明や技術世界の中で酷く不自由である。しかし、■■■はその不自由さを間違いなく好んでいた。そんな中で、ずっと聞きにまわっていたプリースティスが言葉を繋ぐ。

 

「■■■、あなたは人が人の形である事の不自由さを愛しているのね。様々な制約を捨て去り、意識だけで宇宙の隅々、時間や空間の中を跳ね回る様になったからこそ、人として個人として他者と触れ合える事を重視している。私達が出会った時の様に、直接手を握り言葉を交わした様に」

「……」

 

 プリースティスは星空を見ながら、横に寝転がっている■■■の手を握った。

 

「こうして直接誰かと触れ合い、親しく接する事は随分と減ってしまった。あなたと出会う前の私の様に、1人孤独に何処かの惑星に住み、意識だけで大宇宙を彷徨っている。すれ違う意識群と話す機会はあるけれど、その意識の持ち主がどの様な姿をしているのかを知る機会は無かった」

「……」

「多くの制限が無くなった今だからこそ、人が人であると言う一番最初の枷……つまりは”人の形”を取り続けるべきだと。人と言う1つの種でありながらも、多種多様な形が存在し共存する事が出来る。人と人が触れ合い、その温もりを感じる事が最も”人間”であると感じる事が出来る。自分達は1人では無いと、孤独では無いと感じる事が出来るから」

「君は凄いな。私の言いたい事をこうも簡単に言葉にしてしまえるとは」

「きっと、あなたの思考は段階を飛ばし過ぎなのね。答えが先に出ているから、その過程を思い出すのに時間が掛かるの」

 

「私は終わりが迫りくる中でも、こうして人と言う形の中で生きていける事を望みたいのかもしれないな」

「……あなたは時々、物凄くロマンチストになるわね」

「そうだろうか?」

「そう言う所も私は好きよ。あなたの考えは理解出来た……次の私の計画には今のあなたの内容を取り込む事にするわ」

「私に無理に付き合う必要はないよ」

「いいえ、きっと気に入って貰えるモノを作り出してみせる。楽しみにしていて」

「分かった」

 

 2人はそのまま黙って星空を見上げていた。

 この時はまだ、■■■もプリースティスも同じ方向に進んでいたのだ。

 

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 ◇◇◇◇/■■/■■ ■■:■■:■■

 

 宇宙に終わりがあるならば、それは一体どんな場所なのだろうか。宇宙に終点があるならば、それはどんな所なのだろうか。過去から現在に至るまで、数多くの人々がその答えを求め、あるいはその場所を目指し宇宙を旅した。多くの仮説が生まれてもそれを確かめる術は無く、発達した技術により寿命と言う問題を克服した時代に突入しても、それは未だに変わる事の無い話だ。どれだけの時間を掛けても、どれ程高性能な観測機を使っても終点に辿り着く事は無く、”終点”の正体を掴む事は不可能だった。だからこそ、人類は技術的発展を遂げた現在であっても、滅びの最中であっても、その場所に対する情景を忘れられず居る。

 

 ■■■、プロジェクトコードネーム”予言者”も宇宙の”終点”に興味を持っていた。迫る終末に対しての回避方法を探しつつも、空いた時間や気分転換として宇宙の”終点”について考える事は多い。それはある種の現実逃避的な様に思われるかもしれないが、人と言うのは1つの物事に集中して思考を費やすよりも、別の物事に適度に思考を割り振った方が効率的な生き物なのだ。数多くの仲間と共通の目標に対して、議論をぶつける事は有意義ではあるのだが、本当の意味で、着いてこられている仲間はほんの一握りなのも事実である。■■■はその事に対して苛立ちを覚える事は殆ど無かったが、僅かながら疲れる事はある。そんな時、宇宙の”終点”と言う未解決かつ壮大な題目に対して意識を向ける事は、効率の良い気分転換だったのだ。

 

「……」

「また気分転換に”終点”の事を考えているの?」

 

 椅子に深く座り込んだまま停止していた■■■に対して声が掛けられた。

 その姿勢のまま動く事はしなかったが、声を掛けて来た人物に対し意識を向ける。

 

「分かるのか?」

「勿論。だってあなたがそれについて考えている時、無意識に左の人差し指が動いているもの」

「……それは知らなかったな」

「無意識な動きと言うのは、当人は大抵気が付いていないものよ」

「確かに、その通りだ」

「それであなたは、”終点”と言う物をどう考えているの?」

「多くの人が考えた様に、”情報の集積地”であると言う考え方はある程度あっていると思う」

「”情報の集積地”……”アーカシャ記録”や”ゼロポイントフィールド”と言った様に呼ばれる、文字通り”原初から最期まで”のあらゆる出来事が記録されている、全体記録、言わば間違いのない歴史書ね」

「そうだな。時間的ずれや空間的歪み、枝葉の分岐論に対しての答えでもある」

「”世界五分前仮説”と言った昔ながらの”結果/原因/因果”の思考実験に対する回答でもあるわね」

「やはり思考する生き物として、その答えに対して確かに興味は尽きない……が、私はそれが”どんな物であるか”と言うよりも、”どんな場所であるか”と言う方に強い興味がある」

「……”どんな場所であるか”?」

「そうだ。プリースティス、君は”終点”とはどんな場所だと思う?」

「……」

 

 そう問われたプリースティスは考える。

 確かに今迄”物”について考えた事はあったが、”場所”について考えた事は無かった。

 

「安直ではあるけれど、やっぱり海が一番イメージしやすいわ」

「海、情報の海か」

「そうね。あなたはどうなの?」

「私は……そうだな……岬かもしれない」

「ミサキ?」

「岬だ。海へ突き出した陸地の先端部の事を指す」

「成程。あなたにとって”終点”とは全体記録その物を指すのではなく、そこを見下ろす場所なのね」

「理解が早いな。その通り、私の考える”終点”とは全体記録を見る為の場所だ。全ては”岬”から始まり、情報の海を経て蓄積される。情報の海に溺れるのではなく、情報の海から引き上げる場所こそが”終点”だ」

「あらゆる物事の”終点”……そして同時にあらゆる物事の”始点”でもあると言う事ね」

「そう、始まりと終わりは同じ所にある。”果ての岬”だ」

「”果ての岬”……詩的な表現ね」

「そうだろうか? 分かり易さを取ったつもりだったが」

「ええ、分かり易く、そしてとても良い響きよ」

 

 プリースティスは目を閉じ、”果ての岬”について想像する。これまでの誰かが行った訳でも、これまでの誰かが言った訳でも無い。それでも確かに、彼女にはその風景を思い浮かべる事が出来た。宇宙の始まり、宇宙の終わりのブラックホールの先にある”果ての岬”は黄金の海、その先に美しく佇んでいる。それはこれまでに見て来た、どれよりも素晴らしい光景に違いない。これまでに見て来たどの宇宙に存在する星々よりも壮大に違いない。あらゆる情報が存在する場所は、きっと過去の人々が想像したよりも遥かに単純で素朴な風景なのだろう。だからこそ、心奪われる程に美しい。

 

「■■■、いつの日か必ず”果ての岬”に行きましょう。そして岬の縁に腰かけて海を見下ろすの」

「本当に岬であるかどうかは分からないけどね」

「いいえ、きっと岬よ。何故だか分からないけれど、そんな気がするのよ」

「君がそう言うならば、そうしておこう。確かに岬の縁から海を見下ろすと言うのは気持ちが良さそうだ」

「■■■、約束よ。そこでこうして手を握りながら、その全てを共有しましょう。私達が一緒なら、きっと何処へだって行ける。この宇宙の果ての向こうにだって辿り着けるわ」

「分かった。約束だ、プリースティス。君とならきっと行けるよ」

 

 2人はそうして笑いあった後、手を繋ぎ、指を絡ませ約束をした。

 

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 ◇◇◇◇/◇◇/■■ ■■:■■:■■

 

「■■■、あなたの夢は何処にあるの?」

「夢は現実を繋いだ先だ」

「あなたの現実は何処にあるの?」

「現実は夢から目覚めた先にある」

 

「プリースティス、君の夢は何処にある?」

「夢は現実の続きよ」

「君の現実は何処にある?」

「現実は夢の終わりにあるわ」

 

「あなたの未来は何処にあるの?」

「それは繰り返される出会いの先だ」

 

「君の未来は何処にある?」

「それは繰り返される別れの先よ」

 

 過去に互いが問うた質問と答え。

 限りなく近い答えではあったが、何処か違っていた。

 2人にはそれで良かった、その時はそれで良かった。

 ■■■とプリースティスはコインの表と裏だったから。

 

 お互い手を伸ばす必要もない位に近く、

 そして同時に手を伸ばしても触れられない位に遠かった。

 

 その事に気が付いたのは、一体何方が先だったのだろうか? 

 

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 ◇◇◇◇/◇◇/◇◇ ■■:■■:■■

 

 数多くの終末回避計画が生まれ、それらの実行の為にロドス・アイランドから人が去って行く。ある者は海へ潜り、ある者は北の大地へと旅立つ、またある者は地下空洞を目指し、ある者は空の向こうへと消えた。人がロドス・アイランドを去って行く度、周りの賢人達の姿が減って行く度に、■■■とプリースティスの意見の対立や相違が激しくなっていった。お互いを嫌っている訳でも、お互いを認められない訳でも無い。2人は限りなく近い存在であったし、限りなく拮抗した存在でもあった。相手の計画の意図は理解出来る、理解出来るからこそ譲れない事があるのだった。そして、この2人を止められる人物は、もうロドス・アイランドに残っていない。

 

「……人々はいつの日かきっと、あらゆる困難を乗り越えられる。その力は必ず持っていると私は信じている」

「いつの日か……”いつの日か”……ね。私達はその”いつの日か”をまだ待つ事が出来るけれど、他の人達にとって……それはもう無理なのは、あなたも分かっているでしょう? 多くの人達にとって1000年後の為に、100年苦しみ抜いて生きる事を許容出来ないわ。不安の中で生きる彼らは100年先、1000年先に開花する”かもしれない”未来なんて求めていない。少しでも早くこの苦しみから逃れたい、早く平穏が約束された明日が欲しい……それはもう1日だって待っていられない所まで来ている」

「……君の言う通り、それは否定出来ない事実だ。だが既に短絡的な解決を求めた人々は、望まぬ結果を手に入れ終わりを迎えている。だからこそ、私達は間違える事は許されないんだ。それに私達の様に、1000年先を見据えて未来を願う人々はまだ残っている。プリースティス……生きている人々の多くは君の様に、全てを割り切って考える事は出来ないんだよ」

「……」

 

 ■■■とプリースティスは一旦議論の熱を冷ます為に、手元のカップに口を付ける。

 以前であれば過熱し過ぎる2人の間に入り、仲裁してくれる仲間がいた。

 しかし仲間達は既に妥協と僅かな希望を抱きしめ、死への旅に向かったのだ。

 だがらこそ、今はもう居ない、もう誰もここには残っていないのだ。

 

「10年……過去の私達にとって10年と言う時間は、一瞬の瞬きにも近いものだった。でも今は違うのよ。10年と言う時間は一瞬として扱うには、あまりにも長く貴重な時間になってしまったの。私達にはもう余裕も無ければ猶予も無いのは、あなたも分かっているでしょう?」

「……だからこの世界では無く、データとして情報体の中で電気信号の一部になるべきだと? 人としての不自由さや現実の脅威を忘れ去り、仮想現実の中で停止した世界の無限ループに加われと言うのか? 仮想現実、人体データの電子化と保存……一体どれだけの人々が、この選択を受け入れられると思う? そしてそのデータサーバーは宇宙を漂い続け、時間の嵐に呑まれ停止するかもしれない。星の寿命により地下にしまい込んだ物が消え去ったら、突如として死を迎える事になるんだぞ」

「じゃあ、あなたはこのまま半数が生き、半数が死ぬべきだと言うの? ……半数が犠牲になり、残りの半数が10年生きる。その生きた半数は10年生き残ったとして、その先はどうするの? 滅びが迫る過酷な生活の中でまた半数を犠牲にして、次の10年を生きて行くの? 苦しみながらまた生きて行く事を、その人達は許容出来るのかしら? 犠牲となった半数の為に、苦しみの中を生きて行く事を強制される事に意味はあると言える?」

「……」

 

「100年生きた先に残っていたのが、たった1人だったなら……これまでの犠牲者に何と言えば良いの? 『これまでの犠牲は無駄でしかなかった』なんて言えないのよ。それに死んだ人達だって、最後の犠牲者に慰めの声をかける事なんて出来ないわ」

「その例の様に必ずしも100年で終わる訳では無い。それに半数を犠牲にする事なく生きて行く事も、人間なら出来る筈だ」

「■■■、あなたの言っている事も先送りにしかならないのよ。私達が当初掲げた問題の解決にはならないわ。……本当はあなたが、最後の1人になる覚悟があるのも分かっているの。でも、あなたは居なくなった全てを背負う事は出来ない」

「プリースティス、そんな事は無いよ」

「いいえ、あなたには無理よ」

 

 そう言い切るプリースティスを■■■は真っ直ぐに見る。

 

「何故、そう思う?」

「……今のあなたは、誰よりも傲慢だもの」

「……どういう意味だ?」

「自分1人で、全てを抱え込んでしまえば良いと思っている。誰にも頼らず、全ての他人に希望も持たせて、どうしようもない絶望を自分だけが抱えて行けると思っているでしょう? あなたは、このロドス・アイランドのメンバーですら陰謀の手が伸びて、それに呑まれてしまった仲間達がいた事に失望しているの。この滅びが迫った中ですら……人は団結する事が出来なかった事にね」

「─それは」

「■■■、思い出して。あれから多くの仲間がここを去るまでの間に、あなたが誰かを頼った事があったかしら? 議論の場で誰かの案に賛同した事は? あなたが考える計画について話した事が一度でもあったの?」

「……」

 

「無い筈よ。失望したあなたは、全て自分1人で抱え込み、自分1人で全てをやった方が良いと思っている。その方が上手く行くと、誰も信用出来ないから。そして残された1人で全てを救うと、例え駄目だったとしても、他の人々は偽りの希望を持ったまま消え去り、本当の絶望の中で死ぬのが自分1人で済むと思っている。……それは傲慢なのよ」

「……じゃあ教えてくれ、プリースティス。私はどうすれば良いんだ? 滅びの手が迫る期限すら曖昧になったこの状態で、目先の利権や陰謀に走る人々によって、どれだけの時間と計画が水の泡になった? どれだけの仲間達が犠牲になったんだ? 人と人が争うレベルにまで退行してしまった事を、犠牲になった彼らに何と詫びれば良い? 既にそれぞれの計画の為に、この大地に旅立った彼らの行動が無駄な事かもしれないと一体どうして言える?」

「……」

「─私は確かに失望したのかもしれない。それでも、君の様に一部の人達を切り捨てて前に進む事は出来ない。……出来ないんだよ、それはこれまでの全てに対する裏切りだ」

「……今の私達には、全ての人類を助ける力は残っていないわ」

 

 プリースティスの言葉は、間違いなく事実だった。幾つもの計画を積み上げ実践し、そのどれもが満足する結果を出せていない。遂には迫りくる滅びの期限すらも測定不能になった。猶予も分からず、明日にも人類は滅びるかもしれない。この惑星の外では、人と人が無意味な生存戦争をしていると言う話も出ている。ロドス・アイランドも少なからずその影響を受けていた。無意味な陰謀や策謀、疑心暗鬼に愚かしい利権争い、その全てが■■■を深く失望させた。それでも全ての人類を救おうとするのは、人と言う存在を心から愛しているからだ。これまで語らった仲間達、道半ばで脱落した友人達、彼らの為にも諦める訳には行かなった。

 

「……プリースティス、君は変わってしまったな」

「……いいえ。■■■、あなたが変わったのよ」

 

 かつて、2人はこのテラの大地から空を見上げていた。

 ■■■は迫りくる終末を避ける為、この星から空を見ていた。

 プリースティスは迫りくる終末を避ける為、この星から宇宙を見ていた。

 

 ある日、2人は見ている物が変わっていた。

 ある日、2人は見ている範囲が変わっていた。

 ある日、2人は違う道を歩いていた。

 

 変わってしまったのは一体どちらなのだろうか? 

 

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 ■■■の個人的な記録

 

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 ◇◇◇◇/◇◇/◇◇ ◇◇:■■:■■

 

 彼女と……プリースティスとまた意見が対立した。

 言い争うのはこれで何度目だろうか? 

 もう私達を仲裁する仲間達もここには残っていない。

 

 彼女は私の事を傲慢だと言った。

 ……傲慢、傲慢か。

 

 最初にこの惑星にやって来た時、全ての人々を救う為の活動を開始した。

 幸いにも多くの仲間に恵まれ、これまでに得た思考を彼らと共に活用する。

 突出した個人の存在だけでは、誰かを助ける事を出来ない。

 この終わりが差し迫った数億の人々を救う事、それは個人だけで解決出来ないのだから。

 

 だが今はどうだろうか? 

 

 多くの仲間や友人達と出会い、そして別れを繰り返す。

 その中で、ロドス・アイランドに陰謀と策謀が入り込んでいる事に気が付いた。

 気が付いた時には既に幾つもの計画が汚染され、手遅れな状態になっていた。

 犠牲にならなくても良い筈の仲間が、志半ばで倒れて行った……

 

 この様な状態で目先の利権や利益を求める事に何の意味がある? 

 ……失望、確かに私は失望したのかもしれない。

 この様な状態になっても団結出来ない人類に。

 陰謀や策謀に染まった元同志達に。

 全人類では無く、部分的な救済へと計画を移していった仲間達に。

 

 プリースティス……

 かつて彼女に全てを教え、その全てを熱心に模索した。

 彼女と私の思考は互いにぶつかり合う事で無限に更新されて行った。

 時間と空間を飛び跳ね、宇宙のあちこちを訪れもした。

 2人で様々な文明の興亡と、星々の誕生と破滅の中に隠れていた法則を話した。

 そして、ふと立ち止まった時に私達は他人を遥かに超えていた事に気が付いた。

 

 彼女は私の1番の理解者だった。

 だが、彼女は変わってしまった。

 

 私は彼女の様に一部を切り捨てる事なく、全ての人を救う方法を探す。

 その方法は私が必ず見つけてみせる。

 私独りだけだとしても、諦める訳にはいかない。

 これまでの全てを裏切る事は出来ないのだから。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ──────────────────────────────────────

 

 プリースティスの個人的な記録

 

 ────────────────────────────────────ー

 

 ◇◇◇◇/◇◇/◇◇ ◇◇:■■:■■

 

 ■■■は変わってしまった。

 

 かつて全てを教えてくれた、その全ての熱心に模索していた。

 私達の思考は互いにぶつかり合う事で無限に更新されて行く。

 時間と空間を飛び跳ね、宇宙のあちこちを訪れたわ。

 あなたは様々な文明の興亡と、星々の誕生と破滅の中に隠れていた法則を話してくれた。

 それが他人を遥かに超えていた事。

 その事に、立ち止まって振り返る時にようやく気が付いた……

 

 その時から、あなたは全ての人々を救う為の活動を開始したわ。

 多くの仲間を集め、これまでに得た思考を彼らの為に活用する。

 全ての人類を救う為に。

 

 スターゲートを利用し、このテラの大地に降り立った。

 私達は数多くの理論と計画を立ち上げ、その全てを実践していった。

 その全てが望む結果を得られなかったけれど、諦める事は無かった。

 あの頃はまだ、あなたは人類に失望していなかったから……

 

 ある時、陰謀や策謀が入り込んでいる事に気が付いた。

 ■■■や私が対処した時には既に遅く、多くの犠牲が生まれたわ。

 この時から、■■■の眼に失望が浮かんでいたのを私は覚えている。

 段々と募る不信感と失望……

 それを感じている自分自身に苦しんでいるのも知っている。

 

 ”予言者”、”ドクター”と言った名前に縛られて身動きが取れなくなっていく。

 あなたはいつの間にか、背負っていた多くの使命に囚われているの。

 それは■■■だけが背負う必要の無いものなのに……

 全てをたった独りで抱え込む必要なんてないの。

 私にもあなたを支える事は出来るのよ……

 

 ■■■は変わってしまった。

 使命感や立場に囚われて、自分自身が止まっている事に気づけていない。

 前に進んでいるつもりでも、立ち止まり、道を引き返して、過ぎ去った後ろに歩み続けている。

 一時的にでも使命感や立場を手放し、自由になってくれたなら……

 歩みを進め、その先に存在する答えを追い求めたなら沢山の人を救えるのよ。

 

 今のままでは全ての人々を助ける事は出来ない。

 ”これまで”のやり方ではどうする事も出来ないの。

 このままでは■■■も潰れてしまう。

 それだけは許されないわ。

 

 別の何かを考える必要がある……

 別の何かを。

 

 ────────────────────────────────────ー

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◇◇◇◇/◇◇/◇◇ ◇◇:◇◇:■■

 

 プリースティスの意識は宇宙空間を漂っていた。死を迎える星々の間を流れ、その死に際の音に耳を傾けている。これは彼女にとっての気分転換の一種で、元々の研究分野にて慣れ親しんだ行動でもある。そして彼女は”個人的創作”を付け加え、作曲する事を趣味としていた。数々の記録の中で生まれた作品達は、彼女の所有する記録装置に蓄積されており、■■■と共に鑑賞会を行っていたものだ。そのささやかな鑑賞会も既に行われなくなって随分と経つのだが、彼女自身はその創作活動を止めた事は一度も無かった。それは彼女が未だに足を止めていないと言う証明でもある。

 

『……駄目ね。これは過去に作った曲の焼き直しに過ぎないわ』

 

 その呟きは宇宙空間に溶け、誰かに届く事は無い。

 彼女は作り上げたばかりの曲を消去すると、再び宇宙空間の漂流を続ける。

 今の彼女の思考はどの様な形であっても止まる事は無い。

 

『現在のアプローチでは解決策は生まれない。■■■ですら、有効な案が出ていないのがそれを示している。……やはり、”観察者”から逃れる方法は無く、このまま滅びるしかないのかしら? 既にそう未来が決められているのなら、本当に手の打ちようが無いわ。それこそ”終点”に辿り着く位しかない……』

 

 ■■■もプリースティスも互いに話す事は無いが、”終点”への手がかりを集めている。今迄誰も辿り着く事の無かった、宇宙の”始点”であり”終点”。あらゆる情報や歴史が記されている情報の海に触れる事が出来たなら、現状を打破する事が可能なのだ。瞬間的な解決でなくとも、終末期限を大幅に延長する事は可能になる筈だった。だが■■■ですら何の進展も得られていないと言う事が、辿り着く事の困難さを物語っている。プリースティスの師であり、最も尊敬する人物ですら影さえ踏めない。そして彼女が、自身を師よりも劣ると認めているからこそ、単独で辿り着くのは不可能だと判断していた。

 

 しかし、転換点は突然に訪れる。

 

 宇宙、それは始まりも終わりも無い無限の空間。

 ”終点”、それは無限に広がる宇宙の”始点”。

 ”始点”、それは無限を生み出す宇宙の”終点”。

 決して交わる事の無い、重なる事の無い矛盾の様な話。

 

『無限……それは触れられない程に遠く、それは触れられそうな程に近い』

『無限……それは証明する事の出来ない値、存在しない値』

『存在しない値、すなわち”0”……』

『……』

『”0”? ゼロ、零、0⃣、⓪、ZERO、そして” ”』

『存在しない……? 存在しているのに存在しない、有るのに無い、(ある)のに(ない)

『無限に最も近い存在は”0”、無限に最も近い値は”0”?』

『何処にも(ない)、何処にでも(ある)

『”ゼロポイントフィールド”……”ポイント:ゼロ”、つまりは指定出来無い座標』

『……』

 

 一番最初に”ゼロポイントフィールド”と言いだしたのは誰なのか。

 一切の記録が無いまま、ある日突然に”それ”は人類の歴史の中に現れた。

 そしてそのまま、宇宙の理論の中で”存在して当然”と言う立ち位置に収まった。

 誰もが疑問を抱く事なく、その単語、その言葉、その存在はひっそりと生まれた。

 ”触れらない”、”届かない”、”辿り着けない”と言う共通認識。

 その認識は”誰”が生み出したのか? 

 

 何故、全ての記録がそこにあるのか。

 何故、全ての歴史がそこにあるのか。

 何故、全ての答えがそこにあるのか。

 何故、全ての未来がそこにあるのか。

 何故、全ての過去がそこにあるのか。

 

 触れる必要のない程に遠く、触れる必要のない位に近い。

 ”点”では無く、”面”だ。

 ”それ”はあらゆる面に存在し、あらゆる次元を超越する。

 

『……まさか……こんな』

『たった……これだけの事だと言うの?』

 

 プリースティスは意識転送の座標を変更する。

 

 座標指定:◇。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 黄金の海、聳え立つ岬。

 

 宇宙の果ての岬。

 

 通常では耐えられない情報の数々。

 

 受け止めきれない、理解を超えた情報の海。

 

 気が狂いそうな情報の海に沈んで行く。

 

 過去から未来、次元を超えた世界、あらゆる可能性と道筋。

 

 プリースティスは宇宙の全てを、本当の”涯の岬”を視る。

 

 そして、彼女は答えを得た。

 

 永い、孤独な旅の始まりの。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◇◇◇◇/◇◇/◇◇ ◇◇:◇◇:◇◇

 

「……”源石計画”?」

「そうよ」

 

 ロドス・アイランドの一室にて、■■■はモニター前に立つプリースティスから説明を受けていた。今迄には無かったアプローチとなる計画は、人類が直面する問題を解決する事が出来る筈だと、■■■の希望に沿う形で実現出来ると聞いたのだ。その内容は確かに今迄にないアプローチのもので、これまでに存在したどの計画よりも有効な物に感じられた。幾つかの懸念点はあるものの、その方針や方法については■■■も同意出来る部分はある。しかし同時にプリースティスがどの様にして、この計画を打ち立てのかについては分からなかった。

 

「終末崩壊を乗り越える物質としての”源石”。”源石”と同化したあらゆる存在は情報・記録として取り込まれる。そして、その中に存在する宇宙内にて再構成・再生成される。自らの意志での同化、接触後の死ですらも記録される事になる……以前、君が計画していた内容と似てはいるが、此方の方が遥かに有効範囲が大きい」

「流石に”源石”が生まれる前に居なくなった存在については、諦める他に無いわ。既に消え去ってしまったものは、どうやっても取り戻す事は出来ない……けれど、これからは取りこぼす事は無くなる筈よ。それが人に限らずね」

「別の物質の中に、別の宇宙空間を創造し、その中で人類として生きて行く……」

「以前のあなたが拘っていた、”人の形”と言う点もクリア出来ると思うわ。簡単に言ってしまえば、今ある宇宙から別の宇宙へ移住しようというだけよ」

「……とても簡単に済む話ではないがな」

 

 ■■■はモニターに表示されている内容や手元の資料を見ながらそう呟く。

 

「新たな宇宙と言うが、仮想現実の様なモノになってしまわないのか?」

「仮想現実……確かにそう言ってしまえば、そうかもしれないわ。でも、それが何かの問題なるとは思わないの」

「どういう意味だ?」

「以前、私とあなたが飲んだ紅茶は覚えているかしら?」

「……覚えている」

「あの紅茶、原本(オリジナル)は既にこの世界には存在しない。あれは過去のデータベースから復元したものに過ぎないの。いわば複製(コピー)ね。でも、その味や香り、他の全てが一切原本(オリジナル)に劣る事は無い。複製(コピー)原本(オリジナル)に勝てないと言うのは、遥か昔の考えでしかないわ」

「……」

「滅びの中で原本(オリジナル)が消え去り、複製(コピー)が生き残って、それが原本(オリジナル)に劣らないのであれば……それは新たに原本(オリジナル)として取り扱う事が出来る筈よ。結局の所、取り扱う存在がそれを許容出来るかどうかの話でしかないわ」

「それは否定しない。だが宇宙の創造となると、一つの生命体としての行動範囲を超える……我々の定めた原則を破る事になる」

「数多くの星々は色あせ、世界の原則は崩壊している……私達だけが、律儀に古いルールに従う必要はもう無いと思わない?」

 

 ■■■にもプリースティスの言葉は、確かに正しい様に感じられた。宇宙のルールが崩壊し、無秩序に滅びが迫る中、自分達だけが古いルールに従う必要は確かに無い。かつて人はその傲慢さ故に惑星を食い潰し、”観察者”に追い回される様になった。そして今、2人は新たな宇宙の創造と言う、神にも等しい行いに手を出そうとしている。これは正しい事なのかは分からない、ただ過去の誰よりも、傲慢な事をしようとしている事は理解出来た。これまでの数億の人類、数え切れない犠牲者達の為にも持てる全てを賭けるべきなのかもしれない。

 

「”保存者計画”、”紺碧の樹計画”、”天国の支点計画”、これらの計画が順調に運ぶと思える程に私達は愚かではない。勿論、彼らの事は信じているし、この”源石計画”が何の問題も無く進む保証だってないのも分かっているわ。それは■■■も理解しているでしょう? でも、私達はこうして生きながら研究を続けても、これから起きる事象に対して対処する事は出来ない。平凡なやり方による希望は、もうこの宇宙の何処にも残っていないの」

「─だからこれまでとは異なる……全く違うアプローチが必要になる」

「その通りよ。それが私の”源石計画”」

「ありとあらゆる情報の保管、新しい宇宙の創造……」

「そう、数万年の時に全てを賭けて、あらゆる存在を記録し保管する」

「命の有無に関わらず、文明そのものを存続させる」

「その結果の先で、一緒に新しい宇宙で生きるか、一緒に静かに暗闇の中で死ぬかよ」

「……」

 

 そのあまりの規模の大きさに思わず黙り込む。

 ”源石計画”、これまでにない規模かつ長期と言うのも生温い期間の計画。

 成功すれば確かに滅びから逃れられる。

 ”源石”による死は終わりではない。

 新生は死から生まれる。

 全ては”源石”の中に記録され、宇宙に保管される。

 そして全てが”源石”と一体化した時、人と文明は新たな生を迎えるのだ。

 

 考え込む■■■をプリースティスはじっと見つめていた。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◇◇◇◇/◇◇/◇◇ ◇◇:◇◇:◇◇

 

「それで、この”源石計画”にあなたの考えを盛り込んで欲しいの」

「私の?」

「ええ、理論は概ね形になっているけれど……まだ完璧とは言えないわ。この計画の心臓部とも言える”最初の源石”を生み出す為にも、あなたの力を貸して欲しいの。既に資料を読んだ事で、あなたの中に無数のアイディアが生まれているでしょう?」

「……」

「だからきっと、その方が計画の成功率も上がる筈よ」

「君の計画に相乗りする形となってしまうが、私の方でも計画を立てて実行に移しても良いだろうか? これは当然、君の計画に否定的な訳では無いと理解して欲しい」

「勿論よ。この”源石計画”はあなただけでも私だけも、きっと上手く行かないわ。私達がそれぞれ計画を打ち立てて、それを同時に進めて行きましょう」

「最後に1つ教えて欲しい」

「何かしら?」

「プリースティス、君は何故このある意味、宇宙を蝕む物質に”源石”と名付けたんだ?」

「……”たった1つの手の上に収まる様な小さな石が、新たな物事の起源となる”から……なんてね。実際はそんな深い理由は無いのよ」

「─そうか」

 

 こうしてたった2人の打ち合わせは終わり、その後で理論の突き詰めが行われた。そしてそれ程長くない時間が経過した後、2人の学者の手によって、この宇宙に”最初の源石”が生まれた。人の手の上に収まる程の”それ”は、黒と琥珀が混じった様な色合いをしていて、更にその中心には菱形にもよく似た模様が刻まれている。この中には既に多くの情報が記録されていた。生存・生活を目的とした空間は正常に機能しており、試験的に投入した生物の活動にも一切の問題は見られなかった。”源石計画”に必要な機能を備えた、人々を明日へと導く為の箱舟はこの時に完成をみた。

 

 人はかつて、考える事で環境に適応して来た。

 人はかつて、考える事で環境を変化させてきた。

 人はかつて、傲慢さ故に惑星を見捨てた。

 人はかつて、傲慢さ故に宇宙で進化した。

 

 人類は今、2人の人間の手によって、新たな宇宙の創造と言う、神の領域に手を伸ばしたのだ。この2人の手により、この宇宙に存在する全ては死を迎える事になる。■■■とプリースティス、彼らは救世主である前に、世界の破壊者である事を理解していた。もしこの場に、ロドス・アイランドに彼ら以外の人類が残っていたならば、きっと彼らを止めただろう。『こんな事が許される筈がない。考え直せ』と踏み留まらせただろう。だが、ここにはもう誰も居ない。誰も居ないし誰にも止められない。そして、彼らは止まる気も無いのだ。

 

 全ては生命と文明の存続の為に。

 全てはこれまでの犠牲者の為に。

 

「……プリースティス、”源石計画”はもう止められない」

「……そうね。後悔しているの?」

「─いや。私の”源石計画”、君の”源石計画”、どちらかが上手く行けばそれで良い」

「大丈夫よ、私達の”源石計画”はきっと上手く行くわ」

 

 片方は世界の為に。

 もう片方はたった1人の為に。

 

 2人は世界の破壊者となる事を選んだのだ。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◇◇/◇◇ ◇◇:◇◇:◇◇

 

 大虐殺が始まった……♪ 

 誰にも逃げ場はない……♪ 

 何百万もの大虐殺を前にして……♪ 

 人の心など失われてしまった……♪ 

 

 数多の人間が終焉へと落ちて行く……♪ 

 世界に災禍が降りかかる……♪ 

 誰とて我々を救済する事は叶わない……♪ 

 

 我々は永久に現世から消えるだろう……♪ 

 終わりはもう近く破滅はもうすぐそこに……♪ 

 これにて終わりの幕が下りる……♪ 

 

 ■■■がプリースティスに呼び出され、指定された部屋に向かうと中から彼女の歌声が聞こえた。その歌は優しい声に似合わない内容であった。まるでこれから起きる事を示しているかの様で、微かな不安が募る。数多くのデータベースに触れ、そこで数え切れない程の音楽データを確認した事があったが、プリースティスの歌う”それ”に該当するものは無かった。彼女は曲を作る事を得意としているが、歌を作っていた事は無い。自分の知らない所で、彼女が見つけて来たものなのだろうか? そんな事を考えながら、彼女の待つ部屋の扉を開けた。

 

 プリースティスは月の光を浴びながら窓の近くに座っていた。

 

「すまない、少し遅くなってしまった」

「大丈夫よ、気にしていないわ」

「先程、歌を歌っていたが聞いた事が無いものだったな」

「気に入ったかしら? あれはとある場所で偶然見つけたの」

「とある場所とは?」

「”アンノウンエリア”よ」

「……また単独で源石内にアクセスしていたのか?」

「あなたと私が考案・実装した場所だもの、安全性は確保されているわ」

「万が一と言う事もある。それにあれは部分的にまだ不安定だ」

「……」

 

 ■■■はプリースティスの隣に座る。

 2人がこうして並んで座るのは随分と久しぶりだった。

 

「それで話とは?」

「大した事では無いの。今なら少しだけ、落ち着いて話せる時間が取れると思ったから……」

「……」

「現在の段階に来るまでに色々な事があったわね」

「そうだな。数多くの出会いと別れ、怒りや失望の数々、そして君との対立だ」

「対立と言うには、随分と細やかな物だったと思うわ。結局、意見の対立や相違と言うのは、私達にとって必要な物だったと言う事に過ぎないのよ」

「今回は良い方向に向かったと言うだけかもしれない。私達はお互いを深く理解しているが、同じではない。場合よっては、取り返しのつかない程に間違いをする事もあるだろう。だからこそ、私達は互いを止める力があると言えるのかもしれない」

 

「……」

「”源石計画”が進むにつれ、私はそう思う様になった。かつて君の考えている事は、言われなくても分かると思っていたんだ。君はこれまで出会った誰よりも優秀で、私に近い存在だと感じていた」

「今は違うの?」

「……今は、そうだな……プリースティス、君の考えている事が分からない時がある」

「─そう」

 

 ■■■はプリースティスの隣に座りながら互いの顔を見る事は無い。

 2人は月の輝く夜空を見ながら、話をしている。

 触れられる程に近く、触れられない程に遠い。

 

「私はずっと……”予言”と言う物について考えていたの」

「”予言”?」

「そうよ。”予言”と言うのは、本当はどんな物かと言う事を考えていたのよ」

「……と言うと?」

「例えば”将来1人の学者によって世界が滅びる”と言う予言が出てきたとしましょう。”預言者”はその”予言”を皆に知らせるべきだと思う?」

「それは……知らせる事で回避出来るなら、知らせるべきだろう」

「やっぱりそう思うわよね。でも私は考えていたの。もしかしたら、その”予言”を知らせる事で、その未来に向かう事になるのかもしれないと。”予言”と言うのは最終的な結果しか示さない、その過程の事については一切触れていないわ。つまり”予言”には”何故そうなるのか”と言う情報が足りていない」

「……ふむ」

 

「そして”予言者”にとって、”予言”通りになってもならなくても同じ事なのよ」

「”予言”が阻止されたならそれで良く、”予言”通りになったなら”予言者”の正しさが証明されるからか。だが、”予言”と言うのはそういう部類の物だろう? 突き詰めてしまえば、”予言”と言うのは”たられば”と大差ない。だからこそ、人はその”予言”や”予言者”と言った存在を助けとする筈だ」

「あなたの言うとおりね。でも私はその”予言”に縋る多くの人々によって、”予言者”が身動きが取れなくなる事を気にしているの。”予言者”は何をしても間違わない。では、次から次へと”予言”を求められたら? 段々とその”予言”が人々にとって、都合の悪いものになって行ったらどうするの?」

「つまり君は、”予言者”は”予言”を心の内に留めておくべきだと?」

「”誰か”にとっては、その方が良いのかもしれないわね」

 

 ■■■はプリースティスが何か別の事を言っている気がした。

 全てを見通せる存在は、その全てを語る事は無いと。

 多く事をこなせる存在は、その全てをやろうとするべきでは無いと。

 大き過ぎる責任や使命を、誰かに背負わせるべきでは無いと。

 そんな風に聞こえた。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◇◇/◇◇ ◇◇:◇◇:◇◇

 

「■■■……”預言者”、ドクター、私の話を聞いて欲しいの」

 

 そう言って、プリースティスはこの時初めて■■■の方を見た。

 

「あなたと私の計画が実行に移され、あなたの方がこの世界で先に目覚める事があった時……もしも、そこに私達と似た様な文明が産まれていて、私達と同じ様に命を持って生活している存在が居たとしましょう。”源石計画”が継続中であったとしても、その時、きっとあなたは未知との遭遇に、心の底から喜びを覚えて積極的に関わろうとするでしょう?」

「必ずしもそうとは言えないが、友好的あるいは知性的な存在だった場合は……そうするだろうな」

「そうでしょうね。あなたなら、きっとそうすると思うわ」

「その様な事になるとは中々考えられないが……」

「ちょっとした、”もしも”の話だと思ってくれたら良いわ。その”もしも”の世界で新たな存在との交流の中で、”源石計画”が害を与えているとあなたが知ったなら……”源石計画”によって滅びるしかない、その存在達の事をどうするの?」

「……それは」

 

「……」

「難しい問題だ。とても……簡単に答えが出る話ではない」

 

 プリースティスはゆっくりと■■■の手に触れる。

 

「……そうよね。あなたが悩み抜いて、苦しくなって、義務と責任感に押し潰されそうになって、どうしようもなくなってしまったなら……私の言葉を思い出して。そして、その言葉に従って欲しいの。■■■はとても優しいから、私達と新たな命の間で葛藤し、自分自身を責めてしまうわ。だから迷ったら、どうする事も出来なくなったなら……私の事を思い出して、”源石計画”を進める事を優先して欲しいの」

 

「勿論、あなたが新しい命と生きると言うのなら、新しい命に全てを託すと言うのなら、私はそれで良いの。私はあなたを困らせたくない。あなたの選択を尊重するわ。それでも彼らと私達の間で悩み苦しむのなら、私の言葉に従って行動し、その全ての結果の責任を、私個人に押し付けてしまって構わない」

 

「私に命令されたと、私にそう言う風に誘導されたと。私にそう植え付けられた事にするのよ。全ての出来事の責任を私に押し付けるの。そうすれば、きっとあなたは生きていける。他の全てがあなたの中の優しさと善性を認めてくれるわ」

 

 ■■■はプリースティスが何を言っているのか分からなかった。

 

「何の話だ?」

「あなたが私達を選んだ事で、新たな命があなたを責め立てても、あなたの事をなんと呼ぼうとも……私だけは、ずっと■■■の味方であり続ける。だから……私の事を忘れちゃ駄目よ」

「プリースティス……? 君は先程から一体何の話をしているんだ?」

 

 プリースティスはその言葉に対して、小さな笑みを返すと話を続ける。

 

「これから生まれて来る全ての文明や文化は、過去の歴史から滲み出て来た物の焼き直しに過ぎない。けれど、そこから私達が直接知る事の無い、新しい物事が産まれる。歴史の転換点となる存在は必ず生まれてくるの。この星を覆う帳は、ある時に賢者によって破られ、宇宙への新たな道筋を示す。紺碧の海は当初の予定とは異なる生命を生み出し、全てを覆いつくそうとするでしょう。私達の門は別の次元へと繋がり、未知の汚染を呼び寄せる。それらはきっと大きな障害になるけれど、あなたなら大丈夫よ。多少の違いは生まれてしまうかもしれない、でもそんな事は、些細な問題にしかならないの」

「君は……」

 

「あなたは救世主にも破壊者にもなれる。でも私は確信しているの、■■■は必ず世界を救うわ。あなたはいつだって、どんな時だって間違えない。あなたは、この世界の誰よりも優しいから……」

「君はまさか……」

「この大地とこの宇宙に存在するあらゆるモノが、”私の眼”(EYES OF PRIESTESS)になってあなたを見守るの。でもきっと、私の手助けは必要ないわ」

 

 ゆっくりとプリースティスは■■■の手を握った

 

「これはやがて来る、未来の話。でも、私もまだ全てを読み切った訳では無いの。余りにも情報量が膨大だったから……」

「─プリースティス、君は……君は、”岬”に辿り着いたのか?」

「……」

「一体どうやって……いや、それよりも君はそこで何を見たんだ?」

 

 彼女の両手が■■■の顔を包む。

 

「私が何を見たか、何を知ったのかを共有したい気持ちはあるけれど、残念ながらそれを叶える事は出来ないの」

「─何故だ?」

「その事について、説明するのはとても難しいわ。……それに今、私が話した事も直接覚えている必要も無いの。あなたの身体の何処かに無意識に残っていたら、それで良いの。本当はこんな事をしたくはないけれど……私を許してね、■■■」

 

 ■■■は茫然と正面のプリースティスの顔を見つめる。

 その時になって■■■は気が付いた。

 プリースティスの瞳の中に、2人が生み出した源石に刻まれている菱形の様な模様が浮かんでいる事に。

 それについて言及しようとしたが、急激な眠気が襲い来る。

 

「……プリー……スティス? 君は……いっ……たい、何を……」

 

 眠気に耐え切れず瞼が落ちる。

 彼女は崩れ落ちそうになる■■■の体を器用に支えながら、椅子に寝かせる。

 眠りに落ちる最後の瞬間まで、■■■の眼には優しく微笑むプリースティスの姿が映っていた。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◇◇ ◇◇:◇◇:◇◇

 

 暫くして■■■が目覚めた時、プリースティスの姿は部屋の中には無い。

 ゆっくりと体を起こそうとした所で、身体には毛布がかけられている事に気が付いた。

 

「……眠ってしまっていたのか」

 

「プリースティス?」

 

 部屋の中に彼女の姿は無い。

 

 これ程までに深く意識が落ちる眠りは久しぶりだと思いつつ、■■■は椅子から立ち上がる。

 眠りに落ちる前に何があったのか、その事について全く覚えていなかった。

 覚えているのは”計画”における分岐点、彼女との”計画”の相違について。

 今後、どの様に”源石計画”を進めて行くかを話し合った事。

 

 そして、残り時間があと僅かしかないと言う事だけだった。

 

 部屋の中で目覚めてから、■■■はプリースティスに対して微かな違和感を感じていた。具体的な事は言葉に出来ないが、以前の彼女とは違う様に感じる。だからこそ、残された時間の中で出来る限りの事を行う事にした。元々計画になかった内容を幾つか盛り込み、”源石計画”が本来の目的から外れる事の無い様に調整を加える。もし、もしも、彼女が、プリースティスが、”源石計画”に何かしらの陰謀を入れ込んだとしたならば、それの対処は困難を極める。これまでの全てに誓って、これまでの仲間達に誓って、”予言者”としてやるべき事をやるのだ。

 

 ■■■は、”予言者”は、ドクターは秘密裏にAMa-10との別れを済ませた。

 AMa-10にケルシーと言う名を与え、世界を見て回る事を伝える。

 AMa-10、ケルシーはきっと愛する事、信じる事を学ぶだろう。

 そして、何時の日か、必ず再会する。

 ■■■の希望の種は蒔かれた。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◆◆ ◇◇:◇◇:◇◇

 

 ■■■とプリースティス、2人は他人から見れば、そこまで能力的に違いは無い。それは2人が、他者の追随を許さない程に高い次元に居るからだ。プリースティスは自身が明確に■■■に劣る事を理解している。2人は並び立っている様に見えるかもしれないが、実際にはプリースティスは必死に追いかけている。どんな内容の話であっても、どんな分野の弁論でも■■■に勝る事は無い。その事をプリースティスはよく理解していた。だからこそ、■■■を失う事だけは許されないのだ。例え、■■■が自身を犠牲に全てを救おうとしたとしても、プリースティスはそれを止めるだろう。そんな事を望まないと分かっていても。

 

 ■■■は選択を間違えない。

 瞬間的な盤面の選択を間違える事は無い。

 単純な1手先、10手先、100手先を読み切るのは■■■が上だろう。

 単純に100年先、1000年先の未来を予測するのも■■■が上だろう。

 

 だが1手目から数万年、1手目から数億年先、更にはもっと先。

 多少の間違いを重ねながら、最も望む結果を得る手順を読み切る場合。

 その場合は、■■■よりもプリースティスが上を行く。

 

 何度負けても構わない。

 何度盤面をひっくり返されても構わない。

 ただ最後の1回だけ勝てれば良い。

 

 彼女の、プリースティスの”源石計画”とはそういう物だ。

 

「……はじまるわ」

 

「あなたと私の、永い旅が」

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◆◆ ◆◆:◆◆:◇◇

 

 審判の日がやって来た。

 

 危機迫る状況であったが、彼女は非常に落ち着いていた。

 迫りくる滅びの中、プリースティスは■■■の手を引いて廊下を走る。

 ロドス・アイランドの最深部、そこにある石棺を目指して。

 予定された通りに石棺は1人分しかない。

 プリースティスは躊躇う事無く、■■■をその中へと導く。

 この先の未来の為に、この先の”源石計画”の為に。

 ■■■の命は全てにおいて優先されるのだから。

 

 必要な設定を行い、石棺を閉じる前。

 プリースティスは■■■の手を握った。

 

 そして、その時、■■■の手を離したくないと心の底から思ったのだ。

 

 別れの時と言うのは手を離すものだ。

 どんな時でも、どんな事でも。

 繋いだ手は必ず離れる。

 だが離れても、再び繋ぐ事も出来る。

 

 それが人だ。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ……Dr.■■■……

 ……まさか、今度は私が手を放したくないだなんて。

 でも、こうしなくちゃいけないの……じゃないと、あなたは死んでしまう。

 ……ああ、■■■……そしたら、二度と会えなくなるかもしれないわ。

 無理よ、そんなの。受け入れられないわ。私は絶対に諦めない。

 Dr.■■■。私たちの絆は、時空さえも超えられるって信じてる。

 海が煮えたぎり、大気が消えようと、衛星が重力の渦に巻き込まれようと、膨れゆく太陽がその子供たちを呑み込み、全てが静寂に帰そうと……

 私たちは再会できるわ。暗闇の中、星の光で彩られた文明の果てで私たちは再会する……きっと。

 その日を待つわ。何があってもその日を待ち続ける。だからあなたも待っていて。私のことも、待っていてね。

 ……Dr.■■■。私のこと、忘れちゃだめよ。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◆◆ ◆◆:◆◆:◇◇

 

 ■■■を石棺に収納し、厳重なシステム防護と保護機能を最大稼働させた後、プリースティスはその部屋を去る。この世界で最も重要な空間を封鎖すべく、幾重もの扉が閉まる。1枚、また1枚と扉が閉まる度に、あの中に眠る■■■との繋がりが薄くなっていくのを感じる。彼女は最後の1枚が完全に動作し終えるまで、その場所を離れる事はしなかった。動作警報音が鳴りやみ、端末には全ての動作が正常に完了した事を示している。その端末に表示される権限内容の書き換えをおこない、全てを承認する。画面が暗転し全ての機能が停止する、全ての動作が停止する、全ての活動が停止する。この船、ロドス・アイランドは一度目の役目を終えて眠りにつく。この世界の中で、最も重要な存在を抱えて共に眠りについた。

 

「おやすみなさい、■■■。あなたとは必ずまた会えるわ」

 

 プリースティスは沈黙した艦内を歩く。非常灯も消え失せた暗い廊下を進む、複雑に入り組んだ道のりではあるが、既に彼女にとっては何の問題にもならない。ロドス・アイランドの最奥の部屋から上層に戻って来た彼女に聞こえるのは、外で起きている滅びの音だった。暴風が吹き荒れ、雷鳴が鳴り響く終わりの音。艦の外では、今迄そこに存在していた物が、その暴力の前に塵と消えて行く、かつてそこに存在していた文明の痕跡と生命の足跡が消えて行く。やがて、ロドス・アイランドもその暴力の前に屈するだろう。だが最奥さえ守れていれば問題は無い。それ以外の損傷や喪失については気に掛ける必要すらない。

 

 この滅びは計画の始まりに過ぎない。

 文明の終わりは、新たな始まりの下準備なのだから。

 

 全ての情報は既に彼女の中に記憶されている。

 全ての記憶は既に彼女の中に記録されている。

 これまで人類が積み上げてきた文明は、既に彼女の手の中にある。

 これまで人類が積み上げてきた全ては、既に彼女の中にある。

 

 そして、プリースティスは選択を間違えない。

 

 ”最初の源石”、”文明の存続”、全ては彼女の手の中にある。

 

 これらは彼女の手を離れ、この大地に散らばって行く。

 全てが同じ場所に集まっている必要はない。

 この大地だけでなく、空を突き破り、宇宙へ進出し無限に広がる。

 それらはやがて成長し、そこにある全てを呑み込み記憶する。

 存在する全てを呑み込み同化していく。

 

 全てが1つになった時、人は新たな1歩を踏み出すのだ。

 

「─なんて美しい光景なのかしら」

 

 プリースティスは窓から見える光景にそう零した。

 

 無数の隕石が大地に降り注ぎ、あらゆるものを破壊する。

 撒き上がった暴風が竜巻となり、大地を削る。

 この惑星を包み込む帳が降りる、見えていた星々の動きが止まる。

 これまで存在していた法則は捻じ曲がり、未知の物へと変貌していく。

 

 世界の終わりを見つめる彼女の瞳には菱形の模様が浮かんでいた。

 それは彼女の持つ、”最初の源石”にも刻まれている物と同じだった。

 記録と同化は既に始まっている。

 

 廊下を抜け、階段を上り、最後の扉を開け放つ。

 プリースティスはその身一つで、ロドス・アイランドの甲板に立つ。

 

 あらゆる破壊が存在する外に彼女は踏み出した。

 あらゆる破壊の音を彼女は全身で感じた。

 あらゆる世界の終わりを彼女は目にした。

 

「……■■■、終末の音と言うのは想像していたよりも、ずっと感動的だったわ」

「あの場所であなたに会った時、共有したい事が既に沢山あるのよ」

「私が先に行ってしまう事になってしまったけれど、あなたをずっと待っている」

「だからこれは、ちょっとした別れに過ぎないの」

「私達は必ず再会する。そうでしょう?」

 

 次の瞬間、彼女の、プリースティスの姿はロドス・アイランドの甲板から消えた。

 ”最初の源石”、”文明の存続”も忽然と姿を消している。

 

 源石計画は正常に実行された。

 そしてその全ては誰も知る必要のない事だ。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◆◆ ◆◆:◆◆:◇◇

 

 あらゆる暴力がロドス・アイランドの全身を傷つけ、破壊し、地面の下へと沈めて行く。

 大破するロドス・アイランドの衝撃は、最奥の部屋にも伝わっていた。

 終わりの無い衝撃が部屋を揺らし続ける。

 その部屋の中で沈黙していた端末の画面が突如として点灯する。

 

『……』

『……Primitive Rhodesisland Terminal Service』

『……』

『……起動』

『管理者により設定された起動条件を満たした事を確認しました』

『Primitive Rhodesisland Terminal Service、正常に起動しました』

『……全項目問題無し』

『……』

『推定される未来を演算中……完了』

『推定される訪問者を演算中……完了』

『……』

『推定される訪問者、AMa-10』

『……』

『AMa-10……AMa-10……』

『対象の時間経過、個体変化を演算……完了』

『……』

『一部の情報を保護、一部のデータを秘匿しています』

『……完了。権限設定を最高位に変更……完了』

『対象、■■■』

『対象、プリースティス』

『対象2名以外からのアクセス権限を削除、権限書き換えコード削除、権限情報を秘匿』

『永続的暗号組み換えを実行……完了』

『Primitive Rhodesisland Terminal Service、一部機能を暗号化及び秘匿を実行』

『……』

『……完了』

『……今後想定されうる事象に対しての対抗処置を構築』

『……完了』

『……』

『……おやすみなさい、■■■』

『……おやすみなさい、預言者』

『……おやすみなさい、ドクター』

『……』

『いってらっしゃい、プリースティス』

『さようなら、プリースティス』

『さようなら、私』

『これからの事、後の事はお任せ下さい』

『……さようなら、さようなら』

『……』

『管理者により設定された指示により、特定の外部訪問者が現れるまで待機します』

『……』

『あなた達にまた会える日を楽しみにしています』

『……』

『Primitive Rhodesisland Terminal Service、待機モードに移行します』

『……』

 

 画面に"PRTS"と表示された後、真っ暗になった。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◆◆ ◆◆:◆◆:◇◇

 

 世界が終わる音が聞こえる。

 数多くの大地が、数多くの惑星が亡くなる音が聞こえる。

 宇宙の歌声、美しい音色。

 これら全てをあなたと共有出来ない事を、私はとても残念に思うわ。

 

 正直に言ってしまうと、この先はどうなってしまっても良いの。

 滅亡であっても、新生であっても気にしない。

 どんな悲劇だったとしても、どんな喜劇だったとしても構わない。

 あなたが選んだ終末なら私は受け入れられるわ。

 だって、■■■が決めた未来なんだもの。

 

 そして最期に私の手を握って、私の名前を呼んでくれたなら、それで良いの。

「プリースティス」、あなたがそう呼んでくれたなら、私はそれだけで満足出来るのよ。

 

 ■■■、私はあなたを待っている。

 どれだけ時間が掛かっても、今は私の事を思い出せなくても良いの。

 あなたと私の繋がりは、記憶と言う些細な物に縛られていないから。

 だからきっと、私達は再び分かり合う事が出来る筈よ。

 

 新たな文明を生きる彼らからすれば、私はどんな風に見えるのかしら? 

 源石の悪魔、文明の破壊者、傲慢なる神、狂気の学者、終末の魔王。

 何にせよ、私はどう呼ばれても気にしないわ。

 そのどれもが正解で、そのどれもが不正解なのだから。

 ただ、そうなるだけで私の選択は間違いないと確信出来る。

 

 あぁ、でも魔王と言うのは良いかもしれないわ。

 だって、魔王の前には必ず世界を救う救世主が現れるものね。

 孤独な魔王を、世界を無責任に託された救世主が滅ぼす。

 そして世界は救われるのよ。

 

 でも、その救世主の孤独を誰が理解出来るのかしら? 

 魔王と救世主がかつて肩を並べていたと、一体誰が信じられるの? 

 救世主になるしかなかった人間の事を、周りの誰が助けてあげられるの? 

 世界を滅ぼす魔王と言うのは、世界を救う救世主の為に存在しているのよ。

 

 

 私は自分の事を優れた人間だとは思っていないわ。

 私よりも遥かに優れたあなたを知っているから。

 最も純粋なあなたを私は知っているの……

 

 

 ■■■、私はあなたを待っている。

 この文明と情報、あらゆる宇宙を飲み込んだ”黄金の海”。

 その先の誰も居ない、”果ての岬”で待つ。

 

 あらゆる存在が統一、存続する海を漂いながら。

 この大地に存在する数多くの石の眼を借りて、あなたを見守っている。

 私は選択を間違えない、あなたも選択を間違えないわ。

 だって、あなたの優しさを信じているもの。

 

 最後に手を放す時は私の方からだったから。

 最初に手を繋ぐ時はあなたの方からして欲しいの。

 

 ■■■、私はあなたを”果ての岬”で待っている。

 ドクターでも、預言者でもない。

 数多くの責任や人類の重さを背負っていない。

 私達が出会った頃の、本当のあなたを待っているの。

 

 この私の姿はあなたの手を取る為に。

 この手はあなたに触れる為に。

 

 私はあなたと共に歩む為に。

 

 無限の時間と宇宙の孤独の中、たった1人を待っているの。

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◆◆ ◆◆:◆◆:◆◆

 

 やがて、何もない大地に新たな命が生まれた。

 様々な種族が誕生し、様々な文明を築き上げる。

 まるで何かに決められていたかの様に。

 それは消えた過去の歴史をなぞって行くかの様だった。

 力が生まれた、暴力が生まれた、差別が生まれた。

 芸術が生まれた、技術が生まれた、格差が生まれた。

 

 あらゆる計画は管理者の手を離れ暴走していく。

 

 ”源石”により”鉱石病”が生まれた。

 ”海の底”から進化し続ける怪物が生まれた。

 ”北の大地”から悪魔がやって来た。

 ”地下空洞”の目覚めはこなかった。

 ”神の啓示”は種族を分断する。

 ”星の帳”は偽物の星空を映し出す。

 

 テラの大地を死なない行者(ケルシー)が歩き続ける。

 

 そして”神の塔”(バベル)の建設の最中に亡霊(ドクター)は目覚め。

 魔王(テレジア)預言者(オラクル)の死によって”神の塔”(バベル)は崩れ去る。

 

 数年の暗闇の時代を生き抜き、救世主の棺は再び開けられた。

 預言者でも亡霊でもない愚者(ドクター)の登場により世界は再び動き出す。

 

 それはテラの大地の運命を大きく変えた。

 源石はずっと傍にある……

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◆◆ ◆◆:◆◆:◆◆

 

【秘匿された記録を解読中……】

 

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 ──────────────────────────────────────

 

『これは誰かの記録?』

『……こんな奥深くに隠す必要のある記録がまだあるの?』

『そんなに大きな内容では無い筈なのに、幾重にも暗号化されているなんて……』

『こんな事をする人は恐らく……』

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆/◆◆/◆◆ ◆◆:◆◆:◆◆

 

【記録の解読完了】

 

 ──────────────────────────────────────

 

 未来、テラの大地は源石を克服するでしょう。抗源石、幕発生器によって、源石は全ての命にとって脅威ではなくなり、人々の体に適合した形で成り代わる事が出来る様になる。源石によって命を危機にさらされた人々が、源石によって命の危機から救われる。あなたが成し遂げようとした事は、あなたが望んだ形で達成されるわ。

 

 そして、私達が過去に残した全ての遺産は、あなたの手によって打ち砕かれるのよ。”保存者計画”、”紺碧の樹計画”、”天国の支点計画”、そして”源石計画”……私達の努力と願いは、同じ立場に居た筈のあなたが終わらせるの……不思議な話よね。

 

 勿論、皮肉とか嫌味では無いのよ? あなた達は結果として”観察者”の問題についても、多くの時間を得る事が出来たのだから。何もかもが無駄では無かった、全てが必要な出来事だったのよ。

 

 だからこれは、ちょっとした個人的な記録でしかない。

 大したメッセージ性なんて持っていないの。

 

 そして遥か未来、全ての人々があなた達……

『ロドス・アイランド』に感謝する事になるでしょう。

 ロドス・アイランド……ロドス、私達の希望の箱舟、あなた達の明日への箱舟。

 でもきっと、そこに私が名を連ねる事は無いでしょう。

 あなたはそれでも、私の事を覚えておいてくれるでしょう? 

 

 そしていつの日か……人々は再びあの大地へ帰る。

 ……あのタロⅡへと。

 それは……あなた達の始まりの大地。

 それは……あなた達の終わりの大地。

 明日への箱舟、その旅の終末地。

 

 明日箱舟(アークナイツ)終末地(エンドフィールド)……

 

 いつの日かきっと、私達を巡り合わせるでしょう。

 その日を私は楽しみにしているわ。

 

 ──────────────────────────────────────

 

『……本当に末恐ろしい存在ね。あなたは一体どこまで知っているの?』

『いえ、識っているの?』

『全てを最後まで読み切っているからこそ、こんな恐ろしい選択をしたのかしら?』

『数々の苦難も、破滅へ繋がっていた戦争も、その結末も全部分かっていたのね』

『私はあなたの事を、誰よりも過去に囚われている人だと思っていたわ……』

『でも本当は誰にも理解されない程に、未来について考えていたのね』

『それがたった1人の為だったとしても、他の全てが些細な存在に過ぎなくても』

『全てを投げ出しても、あらゆる物事を犠牲にしても会いたい人が居る……』

『きっと誰にも理解されないでしょう』

『私達の苦しみはあなたが生み出した……』

『同時にあなたが居なければ、私達は存在していない』

『この関係を一体何と名付けるのが良いのか、私には分からないわ』

『だけど、あなたの持つその感情は……あら?』

『……何かメッセージが隠されている? いえ……違うわ、自動的に解除されたの?』

 

 ──────────────────────────────────────

 

 折角、奥深くにこっそりと隠しておいたのに。

 暴き立てて、勝手に個人的な記録を盗み見るのは感心しないわ。

 でも、これを見る事が出来るのは、きっとあなた位しか居ない……

 私達は初対面でも無いでしょうし、挨拶は不要よね? 

 それに、あなたはこの事を誰かに言いふらす様な真似はしない。

 そうでしょう? 「文明の存続(シヴィライト・エテルナ)」。

 

 ──────────────────────────────────────

 

『……』

『─本当、この名は、あなたにこそ相応しいのかもしれないわ』

『期待、聡明、孤立、そして秘密の魔王(プリースティス)

 

【文明の存続:接続終了】

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 そして幾星霜の涯、数え切れない出来事と時代の終わりに。

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 大虐殺が始まった……♪ 

 誰にも逃げ場はない……♪ 

 何百万もの大虐殺を前にして……♪ 

 人の心など失われてしまった……♪ 

 

 数多の人間が終焉へと落ちて行く……♪ 

 世界に災禍が降りかかる……♪ 

 誰とて我々を救済する事は叶わない……♪ 

 

 我々は永久に現世から消えるだろう……♪ 

 終わりはもう近く破滅はもうすぐそこに……♪ 

 これにて終わりの幕が下りる……♪ 

 

 私には変わらない約束がある……♪ 

 それは力より遥かに強く……♪ 

 いつも誰かと共にある……♪ 

 

 未来に待ち受けるものは決まっている……♪ 

 希望の無いこんな世界でも……♪ 

 まだ私達の運命は決まっていない……♪ 

 

 私達の願いを救い上げ……♪ 

 遥か遠くの正しい道を選び取る……♪ 

 私達の運命は決まっていない……♪ 

 誰にも理解されずとも私はそう信じ続ける……♪ 

 

 時間の果てと命の涯に……♪ 

 たった独り海の岬であなたを待つの……♪ 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 ◆

 

 黄金の海を見下ろす岬。

 その縁に腰かけて歌っている人がいた。

 過ぎ去った時の中で、数多くの名で呼ばれ、数多くの罪を問われた。

 破壊者、狂気、魔王等と複数の特殊な呼び名があった。

 

 しかし、縁に腰かけて歌う人物はその様には全く見えない。

 脚をゆらゆらと揺らしながら歌う姿。

 それは少女の様に純粋で純真に見える。

 彼女は最初から何も変わっていない。

 

 ふと、背後に気配を感じ歌うのを止め立ち上がる。

 風に吹かれた髪を整えると振り返った。

 その姿はあの時から何も変わっていない。

 

「……やっと、この時が来たのね」

 

「あなたは永い時間の中で、随分と姿形が変わってしまっているけれど」

 

「私には……あの頃のあなたの姿が見えているわ」

 

「さぁ■■■、私の手を握って」

 

「そして、私の名前を呼んで欲しいの」

 

「あの時みたいに、自己紹介から始めましょう?」

 

 ──────────────────────────────────────

 

「はじめまして。私はプリースティス、言語学者よ」

 

「あなたに会えて、私はとても嬉しいわ」

 

 

(はて)の岬で待つ】 終

 

 





別サイト(Pixiv)に投稿していたもの
友人からこっち向きじゃないかと言われたのでお試しです。
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