色々とデカい魔王様に告白されて夜も眠れない   作:タラコパスタ

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第1話:魔王様からの愛の宣告

 春真っ盛り――“デカい”。

 

「好きです」

「お、ぅあ、あ、あぁ、ふ、ふぁ?」

 

 

 聖テレンス学園の誰もいない空き教室で――“告白された”。

 

 

 夕暮れに照らされる彼女の青い瞳に睨まれながら。

 俺は何故、こうなってしまったのかを考える。

 

 思えば、全てが出来過ぎていた。

 

 前世の記憶あり、三十代後半の童貞薄給サラリーマン。

 四十手前まで頑張っていたほうだ。

 が、最期は降り注ぐ鉄骨の下敷きになり死んでしまったと思われる……俺は転生した。

 

 何の因果か、前世でも遊んでいた大人気ラブコメゲームの世界に転生したのだ。

 何故、それが分かったのかと言えば、その世界にある場所の名前がゲームのものと同じであったからだ。

 魔法もあり、騎士もいて――最高だった。

 

 顔の良い女が集まって来る聖テレンス学園。

 一癖も二癖もある美少女たちとのドタバタラブストーリー。

 ハーレムも夢ではなく、夢の十五股の果てに待つのは酒池肉林。

 

 学園に入って頑張れば、俺でも誰かしらと付き合える。

 主人公のような才能も顔面力なかったが。

 それでも、モブ生徒であればまだ望みはある筈だと思っていた。

 だからこそ、平民でありながらも前世の知識や経験を生かして稼いだ金を使って。

 何とか入学の権利を勝ち取った。

 

 

 これから俺の青春ストーリが始まる――そう思っていた時期も俺にはあった。

 

 

 入学イベントを完了し、クラスメイトとも仲良くなり。

 初日の授業を終えて、さぁ帰ろうと思ったら……手紙が入っていた。

 

 可愛らしいピンクの便箋で。

 下駄箱に入れられたそれからは良い匂いがほのかにした。

 名前は無い。が、確実に女子であると秒で理解した。

 まぁ、書かれていた内容と文字が丸っこい女性らしいものだったからこそ――俺は罠にかかった。

 

 空き教室に入れば、凄まじい殺気が俺を襲ってきた。

 身に着けていた“マジックアイテム”の一つである“根性の指輪”によってギリギリ意識を保てたから良かった。

 が、中で待っていたのは――魔王であった。

 

 身長195㎝、体重120キロ。

 白いマントをはためかせて、女学生の服を身にまとうケツとタッパと色々デカい女子生徒。

 絶世の美女の顔立ちだ。

 クールビューティであり、綺麗な青い瞳が特徴的だ。

 長いプラチナブロンドの髪は三つ編みにされて首元に垂れていた。

 女の子らしい青いカチューシもつけていて――デカすぎんだろ。

 

 筋肉的。ムキムキであり、超巨乳であるが逞しさをふんだんに感じる。

 手足は丸太のように太く、俺五人分はある筋肉量。

 その上、尋常じゃない殺気が彼女から漏れている。

 近くを飛んでいた鳥は気絶して落下していき。

 外から聞こえていた生徒や教師の声もぴたりと止んだ……え、死んだ?

 

 今にも吐血しそうだ。

 いや、実際、口元から血が垂れている。

 現実逃避も不可能な絶望。

 

 

 彼女の名前はエレイン・アーティカルト――“魔王だ”。

 

 

 比喩ではない。正真正銘の魔王だ。

 隠されている訳でもなく、当然の如く存在している魔王。

 別にゲーム内で魔王と呼ばれている訳ではなく。

 魔王というポジションでもないが。

 彼女の圧倒的な力を前にしたプレイヤーたちは口を揃えて彼女を魔王と呼んだ。

 

 ゲーム内では彼女に関する理不尽なイベントは多数存在する。

 どれもがラブコメのイベントでは考えられないようなもので。

 選択肢の間違いは、死へと直結している。

 

 

 歴戦のプレイヤー曰く――彼女は絶対に怒らせてはいけない。

 

 

 あるイベントでは、彼女に挨拶をしなかっただけで。

 主人公も含めたパーティメンバーは塵も残さず消滅した。

 ある時は、彼女に体が触れただけで主人公は宇宙の彼方まで吹き飛ばされた。

 またある時は、偶然にも彼女が着替えている場面を目撃してパソコン諸共吹き飛んだという話もあった。

 

 戦闘を行う事も何故か出来る。

 が、彼女のステータスは全て測定不能とされていた。

 あらゆるプレイヤーが彼女を打倒しようとしたが。

 どれだけの策やバグ技を利用しようとしても、彼女が敗れる事は無かった。

 不正の極みであるチート行為でさえも、彼女の謎の力によって無効にされてしまう。

 

 策は全て打ち砕かれて。

 バグ技は、何故かすぐに適応されてしまう。

 理不尽の極みであり、魔王と呼ぶべき絶対的な存在だ。

 プレイヤーの中では、未知の進化する高性能のAIでも積んでいるのではないかと言われていた。

 

 そんな存在が――俺を睨んでいた。

 

「……」

「ふ、ふへ、ふ、ふひ」

 

 告白された。誰が――俺?

 

 何故、何故、何故何故何故何故何故何故何故――ほわい?

 

 俺は必死になって考える。

 断るべきだ。絶対にノーを言うべきだった。

 どんなに美人であろうとも、彼女にだけは関わってはいけない。

 そりゃ好かと聞かれれば、好だと答えるくらいには性癖にぶっ刺さってますよ。

 が、彼女は歩く終末兵器だ。

 機嫌を損ねれば俺だけの命では済まない。

 

 確実に世界は滅ぶ。

 この世界がゲームの世界通りであれば、確実にだ。

 それだけはダメであり……い、今は、う、受け入れるしか、ないのか?

 

 彼女はずっと俺を見ている。

 無表情であり、今、何を思っているのかは不明だ。

 が、返事もせずに不気味な笑みを浮かべていれば――死。

 

 俺はゆっくりと制服を脱ぐ。

 彼女はそんな俺をジッと見つめていた。

 

 受け入れても、世界が滅ぶ時間を少し伸ばすだけ。

 きっぱりと断れば一瞬で世界が滅ぶ――だったらッ!

 

 俺は全裸になる。

 そうして、ゆっくりと両手を床につき――土下座をする。

 

「どうか、どうか……私めに、時間を……御願い致します。心の、いえ――魂の準備を」

「…………! …………分かりました。待ちます」

 

 彼女は考えた末に、それだけ俺に伝えて来た。

 そうして、彼女は教室から出て行き――瞬間、俺の全身はバイブのように震え始めた。

 

 怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――死ぬ。

 

「あ、あぁ、どう、して、何、で……あ、あぁ、ぅぁ、あ、いき、だい、いぎ、だいぃ」

 

 俺は涙を流す。

 そうして、命がけの時間稼ぎの次を考えようとしたが。

 助かった事で沸き上がる生への渇望で、暫くの間、ただただ全裸で泣き震えていた――

 

 

 ◇

 

 

 ――気持ちの良い朝だ!

 

 快晴であり、小鳥がちゅんちゅんと鳴いている。

 昨日は何かあった気がしたが忘れた。

 俺はベッドから起き上がり、そのまま朝食を食べに向かう。

 すると、既にメイドのコイケが作ってくれた朝飯が並べられていた。

 

「あらぁ坊ちゃん。今日は早いんだねぇ? 何か良い事でもあったかい?」

「はは、そんなんじゃないよ。まぁ、華の十代だからね。これから沢山、青春しないとさ! はは!」

「はぁぁ、眩しいねぇ。私にもそういう時代があったもんだよぉ。かぁ、若いねぇ」

 

 ちりちり頭のメイドのコイケはそう言いながら煙草を吸う。

 彼女は態度や口は悪いが、家事の腕は本物で。

 貴族様に愛想をつかして仕事を探している時に俺と出会った。

 俺は平民だが、それなりの蓄えはある。

 とあるビジネスによって金は定期的に入って来るからな。

 だからこそ、メイドの一人くらいなら雇えるが……まぁいい。

 

 俺は早速、朝食を食べて行く。

 ベーコンエッグにトースト。

 コーヒーにサラダ……普通だな。

 

 ファンタジー世界であり、中世のような街並みだが。

 普通に飯は現代日本のようであり、動力は別であるが車のようなものもある。

 なんちゃって中世であり、俺としては生き易くて良い。

 

 ごく普通の美味い朝飯をぺろり平らげる。

 そうして、コイケから手渡された歯磨きセットを受け取り。

 そのまま歯を磨いていく。

 すると、歯磨きをしている最中に家のベルが鳴る。

 コイケが対応に向かい、俺は洗面所へと向かった。

 

 洗面台の前に立ち、水をコップに入れて口の中に汲んだ水を入れて――

 

「……ぺっ……うん、決まってるな」

 

 今日もモブっぽい顔立ちだった。

 黒いショートヘアに、細い目。

 中肉中背で、影の薄さが際立っている。

 これがこの世界での俺――ケント・モーブレンの姿だ。

 

「……イケメンだったら、人生イージーモードだったろうけど……ま、いいさいいさ。多くを求めたって仕方ないさ。男は心さ」

「ぼっちゃぁん? お取込み中悪いけどさぁ……お友達が来てるよぉ?」

「……? 友達? 誰だろう」

 

 まだ、それほど交友関係を深めた相手はいないと思っていたが。

 態々、家に迎えに来てくれたのなら対応する他ない……いや、家の住所って教えたっけ?

 

 少しだけ不思議に思いながら。

 俺はコイケから渡された聖テレンスの濃い青を基調とした制服にさっと着替える。

 真っ赤なネクタイをキュッと締め。

 ショートソードを帯剣し、学生鞄をコイケから受け取ってから玄関へと向かう。

 

「……あれ? 中に入れなかったの?」

「いやぁ、窮屈そうだったんでねぇ……立派だったねぇ」

「……?」

 

 コイケの意味深な言葉に疑問を抱きながらも。

 俺はそのまま靴を履いて扉の取っ手を掴む。

 そうして、開いていけば陽光が差し込んできて――

 

「あ、すみません。お待たせ、し、て――――ふ、ぁ?」

「……待っていません……行きましょう」

 

 

 外へと出れば――魔王がいた。

 

 

 濃い青を基調とした女子の制服。

 赤いスカーフを巻いていて、長いスリットの入ったロングスカートを履いていた。

 彼女は一年でありながらも、“学園で力ある者に与えられる”白いマントを羽織っていた。

 

 静かに告げられた。

 共に、行こうと――彼女は手を差し出してきた。

 

 俺は反射的に手を差し出す。

 すると、彼女は俺の手を握り歩き出す。

 俺は足が動かず、彼女にずるずると引かれて行く。

 

「……」

 

 彼女は気づかない。

 俺が引きずられていても、全く動じない。

 恐らく、人間一人の体重何て彼女にとっては空気のようなものなんだろう。

 告白の意味が本当であれば緊張しているとも思えるが――俺は死にかけている。

 

 下手に動けば死ぬ。

 逆らっても殺される。

 だからこそ、俺は心を無にしていた。

 すると、道行く人はモーゼの如く秒で彼女に道を作る。

 

 国を守る為の騎士団ですらも、彼女に道を開けて敬礼していた……え?

 

 調教されたペット用の魔物ですらも、彼女に腹を見せて服従し。

 うるさく鳴いていた鳥たちも一瞬で黙る。

 そんな異様な光景に俺はただただ茫然とし――嘲りの声が聞きこえた。

 

「ぷっ、何だあれ。男の奴、引きずられてやがるぜぇ? だっせぇなぁ」

「はは、マジじゃん。うけるぅ。女に引きずら得るって。お、俺だったら、死にたくなるなぁ。はは!」

「……!」

 

 

 俺は危機を感じ――瞬間、凄まじい殺気が放たれた。

 

 

 一瞬だ。

 ほんの一瞬、彼女が怒った。

 体から発せられた殺気が王都中に広がり――人々が泡を吹いて倒れた。

 

 全員だ。

 例外なく、全ての人間が――気を失った。

 

 ……覇〇色?

 

「……ごめんなさい」

「え、あ、い、いや……ふ、ふへ、う、ひ」

 

 彼女は謝って来た。

 俺は碌な返事も出来ず。

 立ち上がってから、制服についた埃を手で払った。

 すると、彼女が少しだけしょんぼりしたように感じて……。

 

「そ、その……ありがとう、ござい、ます」

「……?」

「あ、い、いや……お、怒ってくれたのかなぁ、って……ひ、ひふ」

「……!」

 

 俺はだらだらと汗を掻きながらお礼を言う。

 すると、彼女は少し目を見開き――歩いていく。

 

 俺は呆気に取られながら彼女を見つめる。

 が、彼女はそのままスタスタと歩いて行った……え?

 

 

 此処にいたら――死。

 

 

「……ッ!!」

 

 俺は秒で全力ダッシュし彼女を追い――は、はやッ!?

 

 歩いている筈なのに、全く追いつけない。

 凄まじい速度であり、俺は更に加速する。

 心臓はバクバクであり、今にも破裂しそうだが。

 俺の過ちで世界を滅ぼす訳には行かない。

 

 勇者の気分となりながら、俺は早朝の全力ダッシュを行う。

 走って、走って、走って――俺の夢見た学園生活がズレて行くのを感じた。

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