色々とデカい魔王様に告白されて夜も眠れない   作:タラコパスタ

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第11話:救いのヒーローは現れない(side:ケント→ヒルレーヤ)

「こちらが、かの光の勇者アダム・オルフェウスが冒険の終わりまで持っていたとされる――宝珠です!!」

「「「……!」」」

「ほ、宝珠……て、何だ?」

「「「……はぁ」」」

「え?」

 

 カメリアに案内されて店の奥へと行き。

 これ見よがしな地下へと続く梯子を降りて行けば……それはあった。

 

 宝珠――魔王を殺す事が出来る魔力を秘めた玉。

 

 青い光を放つ莫大な魔力が込められた球で。

 それ一つで、禁忌級の魔法を何発撃ちこもうとも尽きる事はない無尽蔵に等しい……いや、違うな。

 

 俺は真っすぐにその宝珠を見つめる。

 知識として知っているのもあるが。

 どう見てもあれは――贋作だ。

 

 ヒロインズのような騎士の卵であれば分からないだろう。

 アホのナインは論外だ。

 が、俺にはハッキリとアレが偽物であると分かる……さて。

 

 カメリアを見ればニコニコと笑っている。

 が、明らかに俺を試す気満々だった。

 このまますんなりと信じて宝珠を見に行けば。

 俺だけでなくナイン共も一緒に無力化されちまうだろうさ。

 

 回避するのは簡単だ。

 が、回避してしまえば後々面倒な事になる。

 魔王関連のイベントにおいて不利益をこうむるのは確実だ。

 最も恐ろしいのは予測の出来ない行動を取られる事で……まぁ、何だ……こうするしかねぇだろう!

 

「うひょぉぉぉぉぉ!!! マジックアイテムの中でも超超レアな宝珠ちゃんだぁぁぁ!!」

「「「……!?」」」

 

 俺はナインを無理矢理に弾き飛ばす。

 が、ただ弾き飛ばす訳ではなく手に仕込んでいた“不可視の札”を奴の体に張る。

 ナインを後ろへと飛ばせば、嫌でもヒロインは奴の元へと行く。

 俺は涎を垂れ流しながら、宝珠へと走り――瞬間、凄まじい電流が俺を襲う。

 

「ふぎゃああああぁぁぁ!!?」

「「「……!?」」」

 

 激しい電流を浴びて、俺の体は黒焦げとなる。

 そうして、気絶するふりをしてその場に倒れた。

 すると、カメリアはにやりと笑い――奴は俺へと飛び掛かり掴んできた。

 

 あっという間に、奴は空間を引き裂いて。

 その裂け目の中へと飛び込み。

 ナインたちは呆気に取られたまま、地下空間に閉じ込められた。

 

 魔族の女は、建物の外へと出る。

 そうして、そのまま指笛を吹く。

 すると、近くの林の中で待機していた。

 デカい蝙蝠のような魔物が姿を現す。

 奴は俺を掴んだまま、そいつの背中に乗る。

 これで任務は完了――甘いな。

 

 瞬間、店があった場所から――炎の柱が噴き上がる。

 

「……!! 飛べ!!」

「ギィィィィィ!!!!」

 

 魔物に命じ飛ばせる。

 チラリと見れば、建物の中からナイン一行が飛び出してきた。

 一周目であれば、謎解き要素もあっただろう。

 が、二周目であればごり押しであんな仕掛けは秒で突破できる。

 奴はそのままペットに騎乗し、俺たちを追い掛けて来た。

 

 女の魔族は少し焦っている。

 らしくねぇじゃねぇか。

 テメェならもっとスマートに仕事が出来た筈。

 まさか、俺がアホ丸出しで罠にかかるなんて思っても見なかったかぁ?

 

 一瞬、見えた奴の顔からは落胆が見て取れた。

 俺はそれでいいと思いながら、もう片方の手に仕込んでいた不可視の札を魔物の羽に張る。

 これで、大体の準備は整った。

 後は細かい修正だけであり……あぁぁぁあのマジックアイテムたちは勿体無かったなぁぁ。

 

 

 ◇

 

 

 なんやかんやあって――戦いも終盤。

 

 ナインとおっとり系お姉さんが放った合体技。

 炎と電気の砲撃であり、それを真面に受けた女魔族や魔物と共に、俺たちは天井が開いた洞窟の中に墜落した。

 女魔族は逃げようとしていたが、電気と炎の特性によりひどい火傷とシビレで魔物は飛べなくなった。

 女魔族は撤退を諦めて迎え撃つ選択を取った。

 ナインたちはすぐに洞窟の最奥に辿り着き、女魔族との戦闘を開始して……ふぁ。

 

 怒涛の追い上げを見せたナイン一行。

 絆の力で逃げようとしていた女魔族を追い詰めた。

 一対四という後の勇者にはあるまじき卑怯さではあるが。

 まぁそんな事を言ってしまえば、ゲームシステムそのものが破綻してしまう。

 仕方ない事だと思いながら、俺は魔族の女の魔法で作り出した糸で拘束されていた。

 

 今の状況は……若干、ナインたちが不利かぁ?

 

「……!!」

「「「――!!」」」

 

 逃がさんとばかりに魔物の飛行能力を奪ったのは100点だ。

 が、その後は魔族たちとの戦闘経験の無さが出ている。

 それぞれの得意な攻撃によって何と無しに連携は出来ているが。

 女魔族は腐っても戦闘のプロであり、不利な状況でも冷静に奴らを消耗させていた。

 いただけないのは、ナインが脳筋戦法ばかりで。

 相手の決定的な弱点を見抜けていない事だ。

 これでレベル差が良い意味でかけ離れているのであれば、ごり押しも可能だろう。

 が、ナインとヒロインズのレベルと魔族の女のレベルは……うん、魔族の女の方が高いな。

 

 運の良い事は、魔族の女が戦闘系ではなく。

 隠密や諜報に特化した存在だからこそまだ戦えている。

 これがゲームの中であれば、あの女魔族は戦闘になった時点で主人公たちに勝てる要素はほぼないのだが……ほぇぇ。

 

 やっぱり、完全にゲーム通りではない。

 まぁそもそもがターン性じゃないしな。

 自由に行動し、魔法だっていかように使える。

 あの女魔族は戦闘能力こそ低いが。

 それを技術や経験でうまくカバーしていた。

 

 魔法の糸によって、瞬時にその場から移動。

 攻撃が迫れば一時的な盾として回避の時間を稼ぎ。

 相手が接近しようものなら、目くらましや移動を阻害する目的で放つ。

 中々にしたたかな戦法で――まぁもう十分だろう。

 

 俺は静かに脳内で魔法を発動させる。

 瞬間、ナインの札とのパスが繋がり――奴の体の操作権が数秒の間だけ俺に移る。

 

「――え!?」

「……!!」

 

 ナインは敵へと攻撃をしかけようとし――横へと飛ぶ。

 

 女魔族の糸は空振りで。

 ナインは剣を地面に突き刺し――最後の必殺技によって硬い岩盤を撃ち砕いた。

 

「うぉぉ!?」

「これは!?」

 

 岩盤の下には――源泉に繋がっていた。

 

 勢いよく熱湯が噴き出し。

 周りに展開していた魔力の糸が――ぐずぐずに溶けていく。

 

 これこそが女魔族――“糸葬のヒルレーヤ”の弱点。

 

 奴の魔力の糸は強力だ。

 僅かな魔力で何処までも伸びる糸を作れる。

 糸の特性は変える事が可能で。

 粘度を上げたり、剛性を高めたり、ワイヤーのような切れ味も出せる。

 が、自由度の高い糸であれば弱点が存在し――それがお湯だ。

 

 ただの熱であれば問題ない。

 が、熱湯ともなれば話は別だ。

 奴の糸は熱湯にのみ耐性が無い。

 故にこそ、奴は今の今まで自らの立った場所において何かの危機を感じ取っていた。

 

 勢いよく噴き出す熱湯。

 それにより、お得意の糸が使えなくなった。

 

「――いで」

 

 ぼとりと地面に落ちる。

 が、誰も俺には気づいていない。

 魔物ですらも主人の心配をしていた……あぶねぇ。

 

 ナインたちは勢いを取り戻し――あっという間にゲームセットだ。

 

 ナインがヒルレーヤの短剣を弾く。

 ヒルレーヤの首元にはナインの剣が添えられて。

 ヒルレーヤは悔しそうな顔をして――にやりと笑う。

 

「……どうした? さっさと殺せ。それとも……嬲って殺すか?」

「……ナイン! 早くとどめを!!」

「ナイン君! 気を付けて、まだ何か隠しているかもしれません!」

「躊躇いがあるのなら、お姉さんが……ナイン君?」

 

 ナインは魔族の首に剣を添えたままで斬ろうとしない。

 俺は薄く開いた目で奴を観察した。

 重要な選択だ。

 後に大きな影響を及ぼす選択であり、もしも、間違えようものなら……ナインは口を開く。

 

「何で、逃げなかった」

「……お前は馬鹿か? 逃げなかったんじゃない。逃げられなかったんだよ。飛べなくなったんだ。どう見ても」

「――何で、お前ひとりで逃げなかった?」

「「「……確かに」」」

 

 ヒロインズはナインの言葉に疑問を認識した……へぇ。

 

 馬鹿かと思っていたが。

 やはり、主人公なだけあって聡い所もある。

 ヒルレーヤはあの魔物には劣るものの飛行能力を持つ魔族ではあるが。

 流石にそこまでは認識できてはいねぇだろう。

 野生の勘のようなもので、ナインの野郎はヒルレースの心を読んじまっていた。

 奴への評価を少し改めて……女魔族は薄く笑う。

 

「勝算があったからだよ。お前たちのような取るに足らない存在。私であれば容易く殺せる。私はなぁ、今まで多くの人間を殺してきた。お前たちよりも遥かに強い奴すらも殺してやったさ。誇り高き魔族は弱者から逃げる事などしない。くくく」

 

 ヒルレーヤは両手を広げて悪い顔をしていた。

 それを受けて、ヒロインズは警戒心を高めて――ナインは首を傾げる。

 

「……? いや、どう見ても――そいつを置いていけなかったんだろう?」

「……は? 何を言って」

「いや、だってそうじゃねぇか。俺たちの攻撃が届かないように、あの魔物の事、庇ってたじゃんか。どう見ても、防ぐ必要のない攻撃も防いでたしよ……なぁ?」

「……確かに、そう言われれば……アンタ、よく気づいたわね?」

「さ、流石はナイン君! 凄いです!」

「うふふ、今のはお姉さん的にポイント高いわよぉ」

 

 ヒロインズはナインを賞賛する。

 俺自身も、戦闘中によく気づけるもんだと感心する。

 すると、魔族の女はわなわなと肩を震わせて――ナインの剣を両手で掴む。

 

「あ、おい!? 馬鹿、やめろ!! 死んじまうぞ!?」

「あぁそれでいい!! 殺せ!! 敗北した魔族に、生きる事など許されない!! 任務を失敗した私に待っているのは死よりも恐ろしい罰だけだ!! 此処で死んだ方が、マシだと……う、うぅ!」

 

 魔族の女は涙を流す。

 ナインはそんな魔族を見て――ここからはどうでもいい。

 

 感動的な会話であり、菩薩のナインは敵である魔族すらもハーレムに引き込む。

 死ぬな、生きろ。

 俺の為に生きてくれと。

 魔界へ帰れないのなら、ずっと此処にいればいいと。

 

 ヒルレーヤは語る。

 自分に人間社会で生きる資格はないと。

 大勢の村を襲っては、罪なき命を虐殺し。

 助けを求める幼子さえも手に掛けたと。

 涙ながらに語れば、ナインはヒルレーヤの手を握りしめて。

 これから償っていこうとほざく。

 死ぬことで罪は消えない、生きて罪を償おうと……か、感動、いたしまた!!

 

 内心でソーダ味の涙を流しながら、俺は意識を無くしたフリをし……あ、終わったな。

 

「……お前は、変な奴だ……魔族を殺さないなんてな……だが、敗者は勝者に従うものだ……償うさ。これから生きて、私は多くの命を救う。それが、私の……生きる意味だ」

「あぁ! そうだ! 何十年掛けたっていい。もしも、お前の旅が終わったら……旅の話、聞かせてくれよ!」

「……! ふふ……あぁ、約束だ」

 

 ヒルレーヤはナインと握手する。

 ヒロインズはため息を零しながら笑っていた。

 そうして、ヒルレーヤはヒロインズのお姉さんに魔物と共に治癒魔法をかけて貰い。

 そのまま、何処かへ飛び去っていく魔族の女を阿呆のナインは見送っていた。

 

 俺はそのタイミングで起き上がる……これで――“魔王の関心はナインに移った”。

 

「よっこらしょっと……あぁだりぃ」

「お! 無事だったか! 良かったぁ……て、おい! 何処に行くんだよ!?」

「そうよ!! そもそも、助けてやったんだから御礼くらい」

「ドウモ、アリガトウ。サンキューベリーファック」

「はぁぁぁ!!? 何よそれぇぇ!? ちょ待ちなさいよ!!」

「れ、レイさん落ち着いてぇぇぇ!?」

「あらあらぁふふふ」

「何だよぉ、たくよぉぉ……はぁぁ不幸だぁ」

 

 馬鹿共を放置し俺は洞窟の出口を目指す。

 その間にも、俺は脳内で魔法を発動し……なるほどねぇ。

 

 〇

 

「……ふふ、ナイン、か……本当に変わった奴だったな……約束、か。ふふ」

「きぃぃぃぃ?」

「あぁすまん。デスビア、もう少し寝ていろ。もう魔界へは帰らないんだ。のんびりと行こうじゃないか」

 

 任務を失敗した私に帰る場所は無い。

 心残りがあるとすれば、魔界にいる家族の事だが。

 私の失敗によって断罪される心配はない。

 そもそも、あの任務は私が死ぬ前提であったと考える事も出来る。

 

 私が失敗すれば、魔王様は今後の人類との戦いで奴を警戒する。

 成功すれば、洗脳でも抹殺でもとれていたが。

 十中八九が、無理であろうと思っていただろう。

 つまり、私は単なる捨て駒で……別にいいさ。

 

 これから私は、全く違う魔族のヒルレーヤとして生きる。

 ナインとの約束を守って、大勢の人間を助けて行く。

 どんなに苦難に塗れた旅路になろうとも。

 私は必ず、自らの過ちで奪ってしまった命以上に……?

 

「……何だ? 風が」

 

 風が――止んだ。

 

 今、私たちがいる場所は。

 山の中腹に掘られた洞穴の中だ。

 そこで火を囲んで休んでいた。

 当然だが、冷たい風が吹いていたが……ぱたりと止んだ。

 

 音もしない。

 何も感じられない。この感覚は――結界?

 

 嫌な予感がし、私は短剣を掴み――瞬間、デスビアが苦し気な鳴き声を上げた。

 

「きぃぃぃぃぃ!!?」

「デスビア!? どうし――何者だ!!」

 

 私は洞穴の入口に立つ影に言葉を掛ける。

 すると、影の主はぬるりと姿を現し――絶句した。

 

「お、お前は……何故、此処に……ケント・モーブレン!?」

「……何でってそりゃぁ……馬鹿の後始末をする為だよ?」

「くぅ!!」

「――動くなッ!!!!」

「……!?」

 

 モーブレンは私に命じた。

 瞬間、私は反射的に動きを止める。

 奴はゆっくりと人差し指をデスビアに向けて――薄く笑う。

 

「もしも、妙な真似をすれば……そいつは死ぬよ?」

「きぃぃぃぃぃぃ!!?」

「デスビア!! 貴様ぁぁぁ!!!」

 

 私は短剣を抜き――デスビアが倒れる。

 

「……ッ!!」

「俺の言葉は通じなかったかなぁ? 理解できねぇならいいけどよぉ……次、ねぇぞ?」

「わ、分かった。もう、何もしない、だから、デスビアは……っ」

 

 私は短剣を地面に捨てる。

 抵抗の意思がないと奴に示した。

 奴は静かに頷き「それでいい」と言う……クズがぁ!

 

「質問するけどさぁ。魔界にいる魔王は……“何代目だぁ”?」

「何代目か、だと……それを知ってどうする! そもそも、こんな事をして何の目的が――あがぁ!?」

 

 私が問いかければ――乾いた音が鳴る。

 

 遅れて激痛が走り。

 私は穴の開いたふとももを抑えながら跪く。

 奴の手には人間が作り出した武器――銃が握られていた。

 

「おいおいおいおいおい……質問に質問に返すなんて何て失礼な奴なんだぁぁぁ? 一歩間違えればお前……手元が狂っちまいそうだよぉ」

「……! す、すまなかった!! 八代目だ!! 今の魔王様は八代目だ!!」

「……嘘、ではねぇな……なるほどなるほどぉ……となると、流れ的には一周目を基準にしてんのかぁ?」

「な、何を……お前は、何を知って……っ」

 

 奴はぶつぶつと何かを言う。

 隙だらけであり、紅蓮龍がいない今なら。

 奴の首を糸で斬る事も出来る。

 が、それは恐らく奴の策であり。

 もしも、私が攻撃を仕掛ければ……デスビアは死ぬ。

 

 危険だ。危険すぎるほどに……こいつには人としての情が無い。

 

 こいつは平気で命を奪える。

 何の罪悪感も抱く事無く。

 蝋燭の火を吹き消すように簡単に。

 私は奴への評価を最悪のものとして変える。

 そうして、何とか隙を作ろうと――ぶしゅりと何かが潰れる音がした。

 

「…………え?」

 

 私は振り返り――絶望した。

 

 そこには、頭が潰れた――デスビアがいた。

 

「ああ、あぁ、あああぁ、ああああああああ!!!?」

「静かにしてくれよ。寝不足なんだ」

「お前がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 奴は煩わしそうな顔で耳を掻く。

 私は魔法を使用し奴の首を落とそうと――瞬間、体から血が噴き出す。

 

「うがぁ!!?」

 

 私は倒れる。

 何が起きた、何をされた……奴が近寄って来る。

 

「何をされたか、分からないよなぁ……ヒントは自己紹介」

「じこ、しょう……握手……そうか、あの時に!!」

 

 互いに自己紹介し、握手をした。

 店主と客の挨拶。

 普通であり、何の敵意も感じなかった。

 が、その時点で奴は――私の体に仕込んでいた。

 

 震えながら掌を見つめる。

 魔力を目に集中すれば、小さな紙片が張り付いていた。

 それも魔力を通して見なければ見えない不可視の紙片。

 一文字の古代文字が書かれていて、その意味は――“傷”。

 

「古代文字、お前は、おま、え、は……なに、もの……かはぁ」

「何者、かぁ。そうだねぇ」

 

 奴は腕を組んで考えて――語りだした。

 

「聖テレンス学園1年A組、出席番号13番。名前はケント・モーブレン。趣味はマジックアイテム取集で、ちょっとしたビジネスで小遣い稼ぎをしているぜぇ。紅蓮龍の五郎丸の主で、俺が勝手に魔王って思ってる最強の女子に告白されたハッピーな童貞様だなぁ。結果が全てだと思ってて、どんな手段でも勝てたらハッピーだと思ってるそんな男で……これで、いいか?」

「……は、は……狂人、め……私を、捕えても、お前の、好きには」

「あぁ違う違う違う違う……君は別に、いらないんだ」

「……ぇ、ぁ……ぇ?」

 

 奴はにこりと笑う。

 そうして、眼を薄く開き氷のように冷たい目で私を見下ろして――

 

 

 

「君は、俺の為。そして、世界の為に――死ななくてはならないんだよ」

「ぅ、ぁ、ぁぁ、ぁあ!」

 

 

 

 奴の目的を理解し――私は地を這う。

 

 必死になって外を目指す。

 そんな私を奴は無言で見つめていた。

 

 嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ……生きたい。

 

 ようやく自由を手に入れて、ようやく生きる意味を見つけて……ナインと約束して!!

 

「たす、け……い、やぁ、だれ、か……な、いん」

「救いのヒーローは……君にはいないよ。殺戮者」

「ちが、わた、し、ぁ……わた、ぁ、ぅ、ぁぁ!!」

 

 私は必死に這う。

 硬い土で爪が剥がれようとも這う。

 這って、這って、這って――光が見えた。

 

 

「あ、あぁ、光、月が、見え――ぇ?」

 

 

 私が手を地面に当てれば――かちりと音が鳴る。

 

 

 瞬間、眩いばかりの閃光が身を包み――空を舞う。

 

 

 スローモーションに感じる中で空を舞った。

 手足が宙を舞っていて、私はそれを見ながら落下し――奴の前に転がる。

 

「……ぁ……ぁぁ」

「……さようなう。“魔族の”ヒルレーヤ」

 

 奴はそれだけ呟き。

 暗闇へと消えて行く私にポケットから、取り出した、何か、を――――…………

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