色々とデカい魔王様に告白されて夜も眠れない 作:タラコパスタ
「へい! へい! へい! へいぃぃぃぃ!!」
「…………大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。僕のデータによれば、後三時間は続行可能です」
「へいぃぃぃぃぃ!!」
学園で行われる授業の一つ――“剣術指導”。
一年は基本的に木剣による訓練で。
二年から刃を潰した剣を使用しての実践向け訓練となる。
三年以上ともなれば、特殊な空間限定ではあるが本当の剣を使用しての訓練や実戦となっていく。
此処はラブコメゲーの世界であるが。
何も青春ラブストーリーが全てではない。
危険な魔物が存在し、やべぇ組織も存在する。
勇者という役職も聖剣も、マジックアイテムだってあるんだ。
一応はラスボス的なものもいるが――今はどうでもいい。
今日も剣術指導が行われる日で――俺は木偶人形に向かって木剣を打ち込み続けていた。
何度も何度も何度も、気が狂ったように打ちこむ。
実際、気は狂っていた。
目は血走り、口からはへいとしか出ず。
教師である角刈り小麦肌の如何にもな剣術指導の先生であるダズは俺の狂気に恐れをなしていた。
友人であるぽっちゃり系丸眼鏡データキャラのセン・レンズが意味不明なデータで俺を分析する。
が、それすらも無視して剣を打ち続けて――バキリと剣が折れた。
「そ、そこまでだ! ケント・モーブレン! 止まるんだ!」
「へい! へい! へいぃぃぃい!」
「お、おい!!」
俺は折れても尚、木剣を振り続ける。
ダズに羽交い絞めにされながらも、俺はへいと叫び続けて――視線を感じた。
ハッとして振り返れば――いる。
「……」
「ぅ、ぁ、ぁ、ぁぁ、ふ、ぇ、あ?」
魔王様が俺の事を見下ろしていた。
何時からそこにいた。
音もなく近づき、気配も消していたのか。
いや、モブである俺なんかに気配なんかは分からない。
が、魔王様クラスの人間の気配に気づかない筈がない。
彼女は何も言わない。
ただジッと俺を見下ろしていた。
唇はきゅっと結ばれていて、心なしか頬が赤く感じる……お、怒っている?
心臓の鼓動が速くなっていく。
汗が吹き出し、俺は必死に口を動かした。
彼女に気づかなかったのは俺のミスだ。
それだけ精神的に追い詰められていたという事だが――教師が絶望を俺に届けた。
「すまんが、エレイン・アーティカルト。経験者として、こいつの面倒を見てやってくれんか? こいつからは並々ならぬ熱意を感じるが、少々危うくてな……そうだ! 一つ、手合わせをしてみるか? そうすれば、こいつもさっきまでのような無茶もせんだろう。お前たちも! 経験者の戦いを見ておけ!」
「「「はぁい」」」
「ふぁぁ!? じょじょ冗談じゃ――ふ、ふひ、ふ、ぇ、あ、あふ」
「……よろしくお願いします」
彼女はそう言って木剣――のように見える大剣を握る。
それは剣というには大き過ぎた。大きく分厚く大雑把――冗談じゃねぇよォォ!!
明らかに、アレは訓練で使う代物じゃねぇだろう!!
ほぼ丸太じゃねぇかよぉぉぉ!!!
全体的に赤黒いし、絶対に返り血に染まってるじゃねぇか!!
軽く振っただけで恐ろしい突風吹いてんですけどぉぉ!!?
そもそも禍々しいオーラが見えるって呪いの装備じゃねぇかぁぁぁああ!!?
死ぬ――確実に殺される。
数分後には俺の肉片が辺りに飛び散っている事だろう。
ラブコメゲーでありながら、十八禁レベルの大惨事。
気分は完全体〇ルに戦いを挑むヤ〇チャだ。
死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
確実にであり、絶対であり、回避不能だ。
俺はその未来を幻視して、鼻水と涙を垂らしながら笑う。
「ふ、ふへ、あひ、あ、ひ、あひゃ、ふ、ぁ」
「……!」
「「「頑張れー!」」」
気づけば、俺たちの周りに観客が群がっていて。
彼らは安全圏から互いに頑張れと無責任に叫ぶ。
広々とした石壁に囲まれた訓練場の中心で俺は声にならない空気を吐く。
彼女は一定の距離を開けて止まって、ジッと俺を見つめる。
一瞬、眉が動いた気がするが些細な事だ。
その視線からは熱のようなものを感じて――全身の毛が逆立つ。
獲物を見る目だ。
肉食獣の目で、俺はガチガチと歯を鳴らしながら教師から強引に渡された新しい木剣を握る。
誰も俺の声など聴かない。
間に立った教師が心の準備どうのを聞くが、俺の言葉は無視した。
「それでは、両者――始めッ!!!」
「――ぁ」
教師の言葉と同時に――俺は横に飛ぶ。
瞬間、すぐ近くで爆発音のようなものが響いた。
凄まじい突風であり、巻き上げられた土や石が散弾のように俺の体を襲う。
「うげぇぇぇやああぁぁぁ!!?」
俺は情けない声を上げながらゴロゴロと地面を転がる。
周りを見れば、生徒たちも吹き飛ばされていた。
俺は何が起きたのかと土煙の先を見て――血の気が失せた。
「……」
「あ、あぁ、ぁ、ぁぁ、う、そ、だろ?」
俺は驚愕した――道だ。
真っすぐに続く道が出来ている。
否、それは道ではなく――溝だ。
彼女を起点として出来上がった溝であり。
それは真っすぐに続いていて、遥か先の石壁を破壊していた。
此処は生徒たちが訓練の為に使う訓練場で。
簡単に壊れないように特殊な素材や魔法で作られている。
が、壁はまるで大根を名刀で斬ったかのような切断面が出来ていて――恐怖。
「あ、あぁ、あぅ、ぅ、ぁ、ぁ?」
心臓の鼓動が急激に加速する。
体が異常なほどに寒く。
呼吸が出来ないほどに苦しい。
寒い、寒い、寒い――死にたくない。
剣を。それも、木剣を振り下ろしただけでそれを成した魔王様。
彼女の振り下ろしたそれが、訓練場の地面に真っすぐに続く亀裂を作っていた。
パラパラと石壁の残骸が舞っていて……に、人間じゃねぇ!!
俺はガチガチと歯を鳴らし、恐怖で腰が抜けたかと思ったが何故か逆に立ち上がっていた。
命の危機を感じて、体が勝手に剣を構えていた。
そんな俺を見て、魔王様は口角を上げる。
瞬間、俺の中の何かが切れて――だらりと腕が下がる。
「ひ、ひい、ひひ、う、うひ、うひひ、うぃ」
「……」
涙をボロボロと流す。
怖い、辛い、死ぬ――が、笑う。
分からない。何も分からない。
心が死にかけているのに、俺は笑っていた。
そんな俺を見て、魔王様は嬉しそうだった。
そうして、ゆっくりと剣を上げて近づいて来る魔王様を見つめる……あぁ、此処までか。
短い生涯であり、何も成せなかった。
心残りがあるとすれば、コイケが路頭に迷ってしまう事と。
産んで育ててくれた両親に、まだ何も恩返しが出来ていない事だ。
そして、何よりも甘酸っぱい青春を――魔王様が剣を上にあげる。
「……ふ、ふへ、ふ、ひ、ひ、ひひ」
「……」
彼女は冷たい目で俺を見ながら。
そのまま無慈悲の一刀でもって俺の頭蓋を――――…………
〇
「……」
「……ふ」
私は彼へと剣を振り下ろし――眼前でピタリと止めた。
瞬間、突風が吹き周囲に砂埃が舞う。
同級の方々が悲鳴を上げているが、今は気にしていられない。
私はただ真っすぐに彼を見つめて……やっぱり。
彼はジッと私の目を見つめる。それも、薄い笑みを浮かべたままだ。
目を閉じる事も、恐怖で腰を抜かす事も無い。
ただそこに立って、剣ではなく私を見つめて――微笑んでいた。
無感情。何も思ってはいない。
私を見ているようで、全く別の何かを見ている。
それでも、しっかりと私の瞳を見ていてくれていた……彼だけだ。
幼い頃、彼と一度だけ会った事がある。
お父様に連れられて行ったパーティ会場。
そこで出会う男たちは私にこびへつらい。
誰しもが恐怖し、私に従おうとしていた。
“最強の称号”を持つアーティカルト家。
王国にとっての切り札であり、人類にとっての希望。
故にこそ、その力を欲する人間もいれば、恐怖によって服従する者もいる。
全ての人間、全ての命が御家の事や私の事を――神のように見ている。
うんざりだ。呆れて何も言えない……そんな時、彼に出会った。
『お嬢さん。そんな顔をしていれば、幸せが逃げていきますよ?』
『……!』
怪しい仮面をしていたが、後に調べて彼であると分かった。
パーティ会場から抜け出し、噴水の前で暇つぶしをしていれば。
怪しい集団に襲われて、返り討ちにして、その後に彼がやって来た。
気配は全く感じず、反射的に攻撃をしてしまった。
手加減などせずに全力で――が、彼は生きていた。
無傷であり、その身で私の全力の拳を受けた。
動揺しているようには感じた。
けど、それはきっと演技だと思った。
私は距離を取り警戒した。
今まで会った事が無い強敵、何をしてくるかと考えて――彼は私に花束を差し出してきた。
その行動に驚き、思わず花束を受け取った。
そうして、その花束があまりにも綺麗で数分見惚れていて……彼はいなくなった。
彼は当時は七歳。私と同い年だ。
何故、幼子があんな人目につかない場所にいたのか。
何故、あんな格好をして花束を持っていたのか。
分からない、何も分からない。
全てが不明で、謎めいていた。
が、彼は人生に退屈していた私に――熱をくれた。
何かが変わる。変えてくれる。
そう思っていたからこそ、私は彼の事を調べて彼を探し。
見つけた彼の事を隠れてこっそりと見ていた。
すると、彼は他の男性とは違い、とても面白い存在だった。
五歳で既に商会とのコネクションを築き。
奇想天外なアイデアで、多くの不思議なアイテムを作っては商会へと提供し。
そのお金で何をするのかと思えば、本を買ったりしてずっと読書をしていた。
本が好きだったのかは分からない。
でも、彼はどんなジャンルであっても熱心に読んでいた。
彼は一度読んだ本は、公共施設に無償で提供し。
貯金をしながら、“マジックアイテム”などの収集もしていた。
勿論、他の事もしていた。
一日一回、教会で祈りを捧げて。
一日に三回、不気味なお菓子屋で買った不気味な飴を食べて。
深夜になれば、体中に何かの塗料で体に文様を書いて王都にある心霊スポットで舞を舞っていた。
本を読んで、その知識で何かを生み出し。
それでお金を集めては、また別の知識を手に入れて。
マジックアイテムを収集し、自らの体で効果を実験し。
他の男性とはかけ離れた行動を取っていて……気が付けば、私の日記帳は彼の事で埋まっていた。
面白い、とても面白い。
彼の発想が、彼の行動が。
彼が成す奇想天外な事が――私の心に熱をくれた。
故にこそ、この気持ちが――愛であると気づいた。
運の良い事に彼は聖テレンス学園に入学しようとしていたと知り。
本来であれば裏口など認められない行為でも。
お父様の力で根回しし、彼の入学許可を強引に取りつけさせた。
同じクラスであれば、私の事も気づくと思っていた……でも、気づかれなかった。
否、気づいていたけど……無視された。
傷ついた、悲しくなった……そして、燃えた。
彼の気持ちを私へと向ける。
その為に告白した。
普通の男性であれば、私との結婚で手に入る益に目が眩む筈が――彼は待つように言った。
初めてだった。
生まれて初めて、告白の返事を待たされた。
が、嫌な気持ちなんて全くない。
寧ろ、裸になって頭を床につけるほどの誠意を見せてくれた。
男として、一人の女性の気持ちを傷つけない為の行動で――素敵だった。
待てと言われても、心が勝手に彼の家へと向かわせて。
ふしだらな女と思われないかと心配しながらも、彼と共に初めて通学路を歩いた……でも、彼は歩いていなかった。
それはきっと、私の心が先走っている事を教える為だ。
その上、彼は私の理不尽な怒りにでさえもお礼を言ってくれて……益々、好きになった。
初めてのことだらけで。
今もこうして、彼は私へと剣を向ける事無く。
ただただ目を開いて私の目を見つめていた。
まるで、私の緊張や焦りを微笑ましく思っているようで……罪な人だ。
私は思わず笑みを浮かべて――さっと顔を背ける。
緊張する。恥ずかしい。
彼にもしも、変だと思われたのなら……私は木剣を地面に刺す。
「……体調が悪いので、保健室に行きます」
「え、あ、あぁ……あぁ?」
私は先生の言葉も待たず、そのまま保健室へと向かう……絶対に振り向かせる。
私は拳を握り、恋の炎を燃やす。
例え、卒業まで待たされようとも――アーティカルトの女は獲物を逃さない。