色々とデカい魔王様に告白されて夜も眠れない 作:タラコパスタ
一夜が明けて――“幸運が巡って来る”。
「おい! 何とか言えよ!」
「……い、いいですよ。わ、私は大丈夫ですから」
俺の前で剣の柄に手を掛ける赤髪に青い瞳の野性的イケメン――主人公様だ。
正義に満ちた目。
意志が強く、真っすぐで綺麗な目だった。
が、今は怒りに染まっていて――俺を睨んでいた。
魔王様に引きずられながらの登校。
命を懸けたスリリングな授業を乗り切り。
心身ともに疲弊した俺に対して教師が“とある命令”を与えて来た。
貴重な休み時間を削って命令を遂行しながら。
任務を果たすと同時に、学食でハンバーガーでも食べようとやって来て――因縁を吹っ掛けられた。
俺は知っている。
このイベントは主人公である“ナイン・オールディン”が学食にてヒロインを助けるイベントだ。
主人公の後ろに立つ黒髪ぼさぼさ頭の低身長巨乳眼鏡っ娘のアイシャ・ムール。
彼女が何十人もいるヒロインの一人であり。
彼女が此処で食事を取ろうとしている時に、運悪く不良に絡まれるのだ。
そこを我らが主人公様が現れて、彼が不良たちを瞬殺するという流れだ。
――が、今は本来の流れとは違う。
今、俺たちの周りには不良たちが倒れていた。
それをしたのは主人公であるナインだ。
彼の力は現時点ではそれなりであり、授業をなまけているような不良は簡単に倒せた。
が、彼が無双をしている時に、俺が不良たちの側にいた事によって“運の良い事”に奴らの仲間だと思われてしまった。
彼がきゃんきゃんと喚いている間に事の流れを簡単に言うのであれば。
俺は先生に頼まれてプリントを不良の一人に渡しに来た。
ぽっと出の不良の行動パターン何て俺は知らないからこそ。
人づてに聞いて、最終的に学食には絶対に行っていると聞いてやってきた。
目的の不良少年を発見してプリントを渡しに近寄れば、彼はモブである俺には気づかず。
そのままアイシャさんの足を引っかけて転がし……後は分かるだろう。
『おい!! お前ら、アイシャに何してんだ!!』
『サトゥ君。プリント持ってきたよぉ。おーい、サト』
『あぁん? この芋女がとれぇのが悪いんだろうよ?』
『何ッ! テメェら性根が腐ってやがるな!! 俺が叩き直してやらァ!』
『サトゥくーん。プリント、プリントだよぉ。お願いだからこっち見てぇ。鼻くそつけるよぉ』
『はは!! おもしれぇ!! 上等だァ!! テメェらこのヒーロー気取りをぼこってやるぞ!!』
『かかってこいやァ!!!』
『こっちを見ろォォォ!!! サトゥゥゥゥァァァァ――ッ!!!』
さっさとプリントを渡したかった。
だからこそ、何度も彼の名前を呼んだ。
が、ド〇クエの村人よろしくイベントに入った途端に周りの声が聞こえなくなったらしい。
後は主人公様が無双をして暴れん〇将軍よろしく、五人の不良をあったという間に制圧し――俺にも攻撃してきやがった。
思わず、主人公様の拳を手で払ってしまった。
が、それがいけなかったのだろう。
主人公様は俺を骨のある敵だとみなし。
恐れ多くも決闘を申し込んできて、此処で剣を抜こうとしていた。
周りの状況は悲惨そのものだ。
長い机も椅子も転がっている。
食べ物は無事であり、喧嘩が始まる前に生徒たちは避難していた。
今は遠巻きに生徒たちが俺たちを見ている状況だ……ほぇぇ。
俺はゆっくりと状況を飲み込む。
その間も、主人公君は俺にさっさと剣を抜くように言ってくる。
俺はそんな彼の言葉を無視して、近くの給水機へと近づき、コップに水を注いでいった。
「……何してんだよ」
「何って、そりゃ……喉が渇いたんだよ」
「あぁ? 喉が渇いただぁ? テメェ……俺を挑発しようってか? ハッ! その手には乗らねぇぜ。生憎と俺は」
「――傭兵として戦い慣れている、てか?」
「……! どうしてそれをッ!!」
ナイン・オールディン。
彼は所謂――“名誉貴族”だ。
武功によって、平民でありながら貴族としての地位を与えられている。
元々、彼の祖父や父親は名のある傭兵で。
彼はそんな武闘派の家の三男であり、オールディン家は“傭兵一家”と呼ばれていた。
貴族となった今でも、オールディン家は傭兵として暮らしている。
貴族という地位があるだけであり、領地なんてものはない。
だからこそ、周りの貴族からはあまり快く思われてはいない。
そもそも、貴族として認められたのも、他国へと渡られない為の縛りであり。
有事の際には、オールディン家は王国の先兵として戦場へと行く事になっている。
因みに、彼の祖父は既に戦死しており、魔王によって殺されている。
ナイン君の夢は勇者になる事で、祖父の仇もそうであるが……いや、どうでもいいか!
数秒の間に、脳内でそんな設定を思い出し。
俺はきゃんきゃんと喚いているナイン君の前に立つ。
「まぁ落ち着けよ。どうだっていいじゃないか。今、君が知るべきは僕が倒れている彼らの仲間はどうかだ……俺はそこにいるサトゥ君にプリントを渡す為に学園中を歩き回ってね。やっと見つけたって言うのに、君が襲い掛かって来るもんだ。もう、へとへとに疲れているんだよ。分かるかい?」
「あぁ? だったら何で、お前は離れていなかったんだ。あの状況で、戦いが始まらないなんて思わねぇ奴はいねぇだろう。全てが終わった後に、そのプリントとやらを渡せば良かったんじゃねぇか? えぇ?」
彼は目を細めて、俺にふざけた事を抜かす。
俺はコップとプリントを持ちながら――ニッと笑う。
「何だ。分かってんじゃん。馬鹿じゃないんだね。はは」
「――テメェ! やっぱり、俺をおちょくってたな!!」
彼は怒りと殺気で柄を握る手に力を込める。
先ほどまでは挑発には乗らないと言っておいて……若いねぇ。
主人公君は闘争心をむき出しにしている。
一触即発の空気であり、ヒロインズである金髪ツインテちゃんとぼさぼさ巨乳ちゃんは離れる。
互いに黙ったまま見つめ合い――俺はゆっくりと片手を動かす。
「まぁ、待てって。喉が渇いているのは本当なんだよ。腹が減ってはってあるだろ? 喉だって乾いてれば出すもんも出せねぇよ」
「あぁ!? さっきからぺらぺらと!! 良いから剣を抜けッ!! 決闘だッ!!」
おぉ、怖い怖い……流石は主人公様だ。
普通のモブのように妥協も己を曲げる事も知らない。
まるで、狂犬であり、如何にもスポコン系の男だ。
こうと決めれば直進であり――だからこそ、脆い。
「まぁまぁまぁまぁぁぁ……みずぅぅ、飲ませて貰うよぉ」
「あぁ!? その水飲んだら、俺と戦うって誓うなら――うぁ!?」
俺は口に水を含み――勢いよく噴き出す。
瞬間、油断していた主人公様は俺の水によって目を潰された。
が、彼はそれなりに戦闘経験がある。
だからこそ、すぐに剣での戦いから拳による頭の防御の姿勢を取る。
俺は空のコップを彼の腹へと投擲する。
それと同時に動き出せば、先にコップが彼の腹に当たった。
彼はそれを拳か蹴りによる攻撃だと錯覚し。
手を動かして、腕か足を掴もうとして――空を切る。
「……!!」
驚き一瞬硬直し――俺は背後から彼の両耳を強く叩く。
「うがぁ!?」
目を潰し、鼓膜も潰し――彼の姿勢が乱れた。
その瞬間、俺は奴の足を簡単に払ってやる。
彼の鍛え上げられた肉体は無様にも床に転がり。
俺はそのまま彼の鳩尾に向かって――エルボーを繰り出す。
「かはぁ――――…………」
「な、ナイン君!?」
「……! そんなナインが、こんな……っ」
「んんんん!! 実にぃぃぃイイィィィ感触だぁぁ」
俺の体重を乗せた一撃は、あっさりと彼の意識を断ち切る。
俺はぐりぐりと見せびらかすように彼の鳩尾を抉ってから。
ゆっくりと立ち上がり、ノビていた不良君の顔にプリントを載せる。
任務は完了した。
ハンバーガはオーダー出来なかったが。
フラストレーションが解放されたので良しとする。
さっさと教室に帰らねば、魔王様に――道を塞がれた。
視線を向ければ、勝気な目をした巨乳のパツ金ツインテの巨乳ちゃんが立っていた……デカい。
「待ちなさいよ。アンタ……恥ずかしくないの?」
「……? 何が?」
「何がって……騎士の卵として、男として! あんなだまし討ちなんかで勝って……それで嬉しいの!?」
巨乳の巨乳ちゃんは悔し気に吐き捨てる。
俺は顎に指を添えて考える。
考えて、考えて、巨乳で、考えて――にんまりと笑った。
「嬉しいに決まってるじゃないかぁぁ!」
「はぁ!?」
「嬉しい嬉しいさぁぁ! どんな過程であっても、勝ちは勝ちだ。勝った人間が正しいんだ。負けた奴はゴミだ……そもそも、そこのナイン君が馬鹿正直に剣を抜いていたとしたら……死んでいたよッ!!!」
「「……!」」
死んでいた――“俺がな”。
拳であれば此方に分はあるが。
彼の才能とあの剣は厄介極まりない。
見たところ、あの剣は一周目クリア特典の武器である――“レーヴァンテ”だ。
その性能は、聖剣にも匹敵するレベルで。
戦闘時には持ち主の全ステータスを20も引き上げる上に。
一日に三回限定であるが、必殺技である“フレイムストーム”を放てる。
フレイムストームは全体攻撃であり、初期レベルであっても一周目の中ボス程度であれば一撃で屠れる威力を持つ。
更に、あの武器には他の二周目武器同様に“装備レベル”が備えられており。
経験を積めば積むほどに、武器としての格は上がっていく。
熟練のプレイヤーの中には、あの武器を極めた者もいる。
アレで暗黒神を倒した者もいるほどだ。
それほどまでに強力な装備だからこそ、抜かれたら俺には勝ち目なんて無い。
俺は目をかっぴらいて互いの実力差を教えてやる。
絶対に勝てない、戦うだけ無駄であると。
そう伝えてやれば、流石の巨乳の巨乳ちゃんも理解してくれたらしい。
恐れなのか憐れみなのか分からない視線を俺に向けながら道を開ける……分かればいいんだよ。
「……あぁ、最後に一つ。俺から彼にアドバイスを……あまり、調子に乗らない方が良い。特に、この学園にいる間は、ね」
「「……っ」」
俺はそれだけ伝えて去る……いや、マジだからな?
力に溺れて、魔王様に挑んだ馬鹿は多い。
そうして、その全てが星にもなれず消滅していった。
俺はそんな悲しい存在に主人公君になって欲しくない。
ただハーレムを築くのなら、死なない程度に苦しんで欲しいと思っているだけだ。
俺の言葉を受けて、ヒロインズは無言で床を見つめる……無礼だなぁ。
〇
「……あ、れ……ここ、は……いっ!」
「……やっと気づいたのね。馬鹿ナイン……はぁ」
「な、ナイン君! だ、大丈夫ですか!?」
俺が目を開ければ、そこは保健室のベッドの上で。
体を起き上がらせれば、腹の当たりに軽く痛みが走る。
そんな俺を呆れたように見つめるレイと心配そうに見つめるクラスメイトのアイシャ。
対照的な二人だが、俺経由で二人は友達になって……て、そうじゃねぇ!
「思い、出した!! アイツ、あの野郎は――いで!?」
「馬鹿! 負けたってのにまた挑みに行く気!? バッカじゃないの!」
「あ、あわわ……な、ナイン君。お、落ち着いて、ね?」
レイにチョップされて頭を押さえる。
アイシャは何時もと違って、レイと同じように俺を諫める。
二人の表情から俺は大体の事を察した……やっぱり、負けたのか。
正直、俺はアイツを舐めていた。
何処にでもいるごく普通の男だ。
アイシャに絡んできたアイツらの方がまだ強そうに見えていたからな。
だからこそ、攻撃を避けられた時には内心では焦っていた。
それに加えて、アイツは俺の事を知っているような口ぶりで。
動揺していたからこそ、アイツの挑発にも乗っちまった。
今にして思えば、その全てが奴の計算づくの行動だったんだろう。
最悪の場合は、爺ちゃんのこの剣の技を使おうとも考えていたさ。
でも、アイツは疲れただの水を飲みたいなど言いやがって……結果、俺はまんまと奴に騙された。
飲んだ水を吐いて目を潰し。
目が見えない状態では切り札は勿論、簡単に剣なんか振るえない。
だからこそ、咄嗟に頭をガードすれば、腹に拳ほどの大きさの衝撃が走った。
奴の攻撃だと錯覚し、掴めようとしたが掴めず。
そのまま、両耳が爆ぜたような痛みが走り何も聞こえなくなった……あの瞬間に、鼓膜は破れていたんだろうさ。
何も見えず、何も聞こえず。
まるで、自分自身の姿が分からなくなったように不安定になって。
そのまま俺はあっさりと体勢を崩されて……その後は記憶にない。
恐らくは、強力な攻撃を受けたんだろう。
そうして、意識を失って……保健室の先生が治療してくれたんだ。
俺はゆっくりと自分の手を見つめる。
俺は負けた。騙し討ちのようでも、負けは負けだ。
「……なぁ、アイツ……何か言ってたか?」
「……剣を抜いてたら……アンタは死んでたって言ってたわ」
「……! そうか……他には?」
「……何をしても無駄だってさ……それと、あまりに調子にも乗るなって……出る杭は打たれるっていうけど……まさか、あんな奴がいたなんて……アイツは一体、何者なの?」
「……私、聞いたことがあります……彼はこの学園では珍しい、へ、平民の出らしくて。へ、平民の方は、それこそ勇者候補になるくらいに、ぬ、抜きんでた才能でもない限りは絶対にこの学園には入れないから……た、多分、かなり強いって……で、でも! 誰もあの人が本気で戦っている姿は見た事が無いって……っ」
俺はアイシャの言葉を聞いて――笑った。
すげぇ。すげぇよ……そんなスゲェ奴と俺は……あぁ、良いじゃねぇか。
「決めたぜ。俺の次の目標は――アイツに勝つ事だ」
「……本気? ハッキリ言うけど……アイツは危険よ。まるで、底が見えない。この私の目でも、アイツの実力は……」
「な、ナイン君」
「……いいや、決めたんだ。俺は自分の言葉を曲げねぇ。次は絶対に――勝つ!!」
俺は拳を硬く握る。
あぁそうさ。親父と約束したんだ。
俺は誰よりも強くなって――勇者になるってな!
その為にも、アイツは超えなきゃいけねぇ。
アイツに勝てないんだったら、勇者何てなれっこない。
いや、勇者になれたとしても……爺ちゃんの仇は打てねぇ。
強くならなきゃいけねぇ。先ずはアイツに勝つ為にまた一から己を鍛える。
俺は両手で頬を叩き、ベッドから飛び出す。
そうして、ベッドの近くの剣を取ろうとし――姿勢が崩れる。
「うぉ!? ……むにゅ?」
手が思わず何かを掴んだ。
それはマシュマロのように柔らかくて……ゆっくりと視線を向けた。
「こ、こんのぉ――スケベ魔人がァ!!!!」
「ぶぅぅぅ!!!」
俺は顔を真っ赤にしたレイの平手打ちを受けた。
彼女は機嫌を悪くして保健室から出て行く。
ヨーコは扉と俺を交互に見て、あわあわとしていて……は、はは。
「ふ、不幸だ……ぜ」
「な、ナイン君!?」
俺は涙を流しながら、今日もついていないと愚痴を零した。