色々とデカい魔王様に告白されて夜も眠れない 作:タラコパスタ
雲が下にあり、凍えるような寒さの山の頂。
吐く息は白く、身も凍るような冷気が充満している。
が、俺の心臓は張り裂けそうなほどに鼓動している。
鼓動しているが、体は氷のように冷たく顔色は土気色だろう。
俺は目を大きく見開き――巨大な赤き眼に見つめられていた。
「ぁ、ぁぁ、ああ――ふ、ふへ」
「……」
ババアに担がれて、十傑走りでものの数十分足らずで“霊峰アラヤ”への山頂へと至り。
ババアは紅の眼の主の前で俺を放り投げて、魔王様と共に気配を消して潜伏した。
どういう事なのか。否、奴には人の心は無いのか。
俺は棒立ちで、眠りから覚めてジッと俺を見つめる――山のように巨大な深紅のドラゴンを見つめる。
デカい――デカすぎるだろうぉぉぉぉぉ!!!?。
全長にして恐らく五十メートルは優に超えている。
翼を広げれば更にデカいだろう。
返り血に染まったかのような紅の体であり。
設定通りであれば、その鱗はアダマンタイトに匹敵するほどの強度となる。
鋭利な爪は如何なる物質であろうとも切断し。
体内で魔力と共に生成された炎のブレスは全てを焼き尽くす。
強さの象徴。
神すらも恐れる存在たちで。
そんな災害のような存在が血走った目で俺を見つめている。
ふ、震える……恐怖が、俺の心を凍り付かせる。
「ぁ、ぁ、ぅぁ、ぁ、ぃ、ぁぁ」
足はがくぶるだ。
汗が噴き出して全身びしゃびしゃだ。
歯をガチガチと鳴らし、鼻水と涙を垂れ流しながら死を見つめる。
小便をまき散らさないだけ褒めて欲しい。
それほどまでの恐怖であり――嫌だぁぁぁぁ!!!!
い、いぎだい、いぎだい――神様助けてェェェェ!!!!!
俺は必死に女神様に祈る。
俺の知る女神様はポテチを食べながら、腹を抱えて笑っているだろう……く、クソがぁぁ!
もしも、助けてくれるのであれば全てを差し出してもいい。
俺の持つマジックアイテムも俺のなけなしの才能も、全部だ。
それほどまでに生きたいと俺は願い――ドラゴン様がゆっくりと体を持ち上げる。
「ふ、ふひ、ふへ……わ、わぁぁ」
「――――ッ!!!!!!!」
笑みを浮かべながら涙を流し――絶叫。
凄まじいシャウトであり、“身代わりの指輪”が砕け散る。
身代わりの指輪は即死級の攻撃を無効化するマジックアイテムで。
つまり、あの叫びだけで俺は簡単に死んでいたということだ。
シャウトは空気を激しく振動させて、それだけで山全体が震えていた。
恐怖が一周廻って冷静な分析が出来ていたが。
その間にも、ドラゴンは起き上がり口の中で凄まじい熱を貯めて――俺は一瞬で制服の上を脱ぐ。
下にあったのは無数のチャックがついた奇妙なシャツで。
俺が一瞬で一つのチャックを開けて中から取り出したのは――マントだ。
ボロボロの黒いマントであり。
俺は一瞬でそれを身に纏い――瞬間、強烈なブレスが俺を襲う。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は恐怖から叫ぶ。
これは火除けの加護が込められたマジックアイテムの一つ。
ドラゴン相手に使った事は無かったが、俺は咄嗟にこれを出していた。
効果は十分であるが、マントの中はサウナのように蒸し暑い。
火除けでも完全に防げないほどの熱。
シャトルのジェットも真っ青な火力で――今だぁぁぁ!!!
俺はマントを剥がし、それを戻す。
そうして、奴が鋭利な爪を備えた前足を下ろそうとした瞬間に――杖を振る。
「ふぎゃあああああ!!?」
耳かきほどの小さな白い杖。
その効果は、振るった瞬間に小さなバリアを0.3秒間だけ展開し。
ジャストタイミングでバリアに触れた攻撃をそのままはじき返すものだ。
一瞬であり、ほぼ勘だったが発動した。
が、完全に奴へと攻撃を返す事は出来ず。
威力は分散して、周囲の地形が変わるほどの衝撃で地面が激しく揺れた。
俺は情けない悲鳴を上げながら転げまわる。
がばりと起き上がりドラゴンを見れば――魔法。
「ほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」
ドラゴンが使ったのは風の魔法。
風の刃を形成し射出する初歩的な魔法で――それが万を超えていた。
瞬きの合間に眼前を覆い尽くすほどの風の刃が飛ぶ。
ドラゴンの魔法が発動する一秒前に取り出したマジックアイテムで――地面に潜る。
地上では無数の破壊音が響き。
がりがりと地面が抉られているのが分かり――瞬間、強制的に地面から出される。
「ふひゃああああああああ!!!?」
ドラゴンの次なる魔法は――土だ。
地面を操作し、無数のトゲへと変えて。
アレで俺を射殺す気だったのだろう。
が、俺の使用したマジックアイテムの効果により。
俺の周りに存在する土のみ、俺が操作できるものになっていた。
故に攻撃としては失敗したが、俺は空中を舞い――奴が大きく口を開く。
瞬間、俺はまた別のマジックアイテムを取り出し――投げる。
瞬間、耳が裂けるほどの爆音が鳴り響き。
俺の体は強制的に地面へと叩きつけられる。
その一瞬の間に、俺が浮いていた場所を真っ白な輝きの“光線”が走る。
それは遥か方尚空まで届いていて。
そこを偶々飛んでいた大型の鳥型の魔物を――蒸発させた。
「ば、化け物……か、勝てる訳、ないよ……に、逃げなければ、は、早く」
俺は全身ズタボロだった。
鼓膜は裂けていないが、ノイズが走ったような音が響いていた。
もぞもぞと這いながら、必死にドラゴンから逃げようとした。
が、ドラゴンはそんな俺を見つめているのが分かる。
逃がさんとばかりに奴が口を開いていくのを感じた。
俺は強い吐き気を覚えた。
気分は最悪で、次の瞬間には死んでいると分かっていた。
が、いかれたババアは俺を助けない。
完全放置であり――ぶつりと俺の中の何かが切れた。
「――エレインッ!!!!! この戦いが終わったら君に伝えたい事がァァァァァ!!!!!!」
「――ッ!!!!」
俺の言葉は――“魔王の心を動かした”。
背後で凄まじい破壊音が響く。
遅れて突風が吹き荒れて、俺が振り返れば――魔王様が拳を振り抜いていた。
ドラゴンは血を吐き出しながら、遥か彼方へと飛ばされて行く。
鱗の一部は剥がれて、歯も折れて角も破壊されて――ドラゴンの体から魔力が噴き出す。
「GYAAAAAAAAAA――――ッ!!!!!」
「――邪魔、だァァ!!!!」
ドラゴンが羽を広げて大空を舞う。
それを魔王様は追いかけた。
片や空の王者で、片や地上最強の生命体。
互いに音速で空を舞いながら激しい攻防を繰り広げていた。
凄い。凄いとしかいいようがないほどに――化け物だ。
「はは!!! やるじゃないか!!! 見直したよクソガキ!!!」
「――クゥゥソォォォォバァァァァバァァウウウァァアアアア!!!!!」
ババアが姿を現す。
そうして、魔法を発動し空を飛んでいき――何故か、俺の体もついていく。
「ぎいぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!!!」
「遅れるんじゃないよッ!!!!」
ドラゴンへと接近し、何百もの魔方陣を展開し電撃による攻撃を繰り出すババア。
そして、ドラゴンの攻撃を全て無傷で受けながら、拳による攻撃を行い続ける魔王様。
ドラゴンは俺の時のような“弱い攻撃”ではなく。
正真正銘――強者として戦っていた。
今までの攻撃はほんのお遊びで。
今のドラゴンは奴本来の魔法を使用していた。
それも二級や一級なんてものじゃない――禁忌級のものだ。
「ふぎぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
ドラゴンを中心に、まるで台風でも発生したように凄まじい突風が吹く。
暴風であり、吹き荒れる風の中では奴の傷口から漏れ出した血が弾丸のように飛び回っていた。
俺は水泳の要領で平泳ぎをしながら、必死になって地上を目指す。
が、まるで俺の意思が反映されない。
「ほぉぉぉおおおおああああぁぁぁ!!!?」
「――落ちろォォ!!!!!」
「――――ッ!!!!?」
一瞬の閃光。
その後に強烈な破壊音が響き――巨大な何かが迫る。
それはドラゴン様であり、魔王様の攻撃を受けてこっちに――
「嘘だと言ってよぉぉぉぉぉぉ!!!!?」
ぐんぐんと迫る巨大なシルエット。
心臓が口から飛び出しそうだ。
雷鳴が轟き、ドラゴンへと稲妻の如き連撃を浴びせるババア。
ドラゴンは咆哮を上げて、自らを起点に炎を発生させる。
暴風の中が灼熱になり、暗黒の中で紅蓮の炎が広がっていく。
「あちゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
全身火だるま、慌てて火除けのマントを出して羽織る。
が、それでも火であぶられているような痛みが走る
魔王様は余裕だ。
恐らくは本気ではない。本気であったら、ドラゴンであっても一瞬で消滅していた。
何故、本気じゃないのかは分からない。
婆さんも婆さんであり、酒を手放していなかった事から――そんな事よりもぉぉぉぉぉ!!!!
「誰かぁぁぁぁぁぁ助けでぇぇぇぇぇ!!!! いやぁぁぁぁぁ!!!!」
耳が裂ける程の轟音。
風によってもう目は開けられない。
化け物同士のぶつかりあいが空気の振動と破壊音で聞こえて――“限界が来た”。
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!!」
俺は体を激しく回転させる。
上か下か右か左かも分からない。
心臓は裂けるほどに鼓動していて。
耐えていたのに汗と涙と鼻水と共に小便が噴き出していた。
豪快な小便スプラッシュであり、決壊したダムのように垂れ流しだ。
そうして、俺は自らの死の恐怖に呑まれてチャックを開けて――適当に掴んだ何かを振る。
「きいいいいぃぃぃぃええええぇぇぇぇ!!!!」
もうどうにでもなれ。
そういう気持ちで振るって――ぶすりと何かに刺さる。
「――――ッ!!!!!!!」
「ふぎぁぁぁあああああああ!!?」
耳が裂けるほどのシャウト。
最後の身代わりの指輪が砕けたのが分かった。
俺は絶対に死んだと思って――あ、あれ?
風の勢いが弱まっていく。
けたたましいほどの音が止んでいって……轟音と共に俺は地面に足をつけた。
「え、え、え、ぁ、ぅ、え?」
何が起きた。いや、俺は生きているのか。
べしょべしょの顔を拭き、周りに視線を向ける。
此処は山の上ではなく、平原のど真ん中だ。
すると、すぐ目の前に魔王様とババアが降り立つ。
「……おいおい。こりゃ……たまげたねぇ」
「……流石です」
俺は何が起きたのかと目を白黒させて――何かが俺の体を伝う。
ざらざらとしていてぬめぬめとしていた。
俺はそのまま前に転がり、振り返れば――紅の眼がある。
「あ、あぁ、ぅあ、お、お助けぇ」
「ぐるぅぅぅ?」
ドラゴンは生きている。
そうして、何故か、先ほどまでも殺気は消えていて……襲って、こない?
何がどうなったのかと見て……それを見つけた。
ドラゴンの傷口を抉るように刺さった物干しざおのようなもの。
奴にとっては木のトゲのようなもので。
それは俺が適当に取り出して振っていた、も、の……まさか!?
「え、あ、え? お、俺が……て、テイム、した、のか?」
「あぁ? 何言ってんだい? 最初からそれが狙いだったんだろう……たく、ビビらせようと思ってたのに。逆に、利用されちまうとはねぇ……やっぱり、お前さんは普通じゃないらしいねぇ」
ババアは笑みを浮かべながら――熱のこもった目を俺に向ける。
テイム――それは、プレイヤーが魔物などに限定で行える技だ。
魔物使いと呼ばれる職業であれば、特殊な道具も必要なく行えるが。
道具さえあれば、魔物使いで無くともテイムは出来る。
奴に刺さったマジックアイテムは正にテイムをする為のアイテムだった。
確かに、高レベルの魔物であってもテイムが出来るような特別なマジックアイテムではある。
が、間違ってもレベル差がとんでもない筈なのにこの俺がドラゴンをテイム出来る筈がない。
が、どう見てもテイムは成功していて……可能性は幾つかある。
先ず初めに、この状況であれば。
ドラゴンへと挑んだのは俺と婆さんと魔王様という構図になる。
これは計らずも、ゲームでいうところのパーティに相当するだろう。
つまり、ゲームの設定でいうのであれば。
パーティメンバーのレベルの平均から、テイムの成功度を算出する事になる。
この中でどう考えてもレベルが最低の俺と100は超えているだろうと思える婆さん。
そして、レベルの測定が出来ないほどの強者である魔王様。
そう、平均は――とんでもなく高くなっているだろう。
最低でも、100はある筈だ。
そうなってくれば、テイムが出来ないという訳ではなくなる。
だが、そうであるのなら何故、魔王様や婆さんではなく俺を主にしたのか。
あの棒は、別に刺した人間が主になるというものではない。
主となるのはゲームでいうのであれば、主人公であったりで。
この世界であれば、恐らくはパーティの中で最も強い存在だろう。
だからこそ、不思議で…………いや、待てよ?
そういえば、あのマジックアイテムにはフレーバーテキストが存在していた。
確か、あの棒の製作者は自らの血を流し込んであれを作ったと。
が、その血の効果は消えてなくなり。
“新たな血”を与える事によって、服従の契約はなされる……え、ま、まさか……。
俺は血なんて流していない。
そして、婆さんも魔王様も無傷だ。
だったら、何が血として機能したのか……小便……いや、汗とか涙とか、じゃね?
盛大にぶちまけていた。
それはもうカラカラになるほどで。
棒に掛ったのか、それとも奴の口に入ったのか。
分からないが、ドラゴンの体に入った事で……お、俺が主に……やべぇ。
狙ってなんていない。
訳も分からぬまま必死で。
偶々であり、何も考えていなかったが……俺はちりちりになった髪をかき上げる。
「まぁ、こんなもんでしょう。及第点? ま、七十点っすかね」
「ドラゴンのテイム……それも“紅蓮龍”のテイムで70点ねぇ……こりゃ相当な大物だねぇ」
「……ふふ」
「ふぅん。当然ですよ。全て計算通りですよ。ははははは!!」
「……? 何か、臭わないかい? 妙な臭いが……ん?」
婆さんが鼻を鳴らし……俺はズボンとパンツを脱ぎ捨てる。
「……!?」
「ひゅー……何で脱いだぁ?」
めちゃくちゃ寒い。
死にそうなほどの寒さだ。
が、俺は平静を装う。
そうして、無言でドラゴンの背によじのぼる。
「さ、帰りましょうや。此処にはもう用はないっすよね?」
「……何で脱いだんだい? まさか、さっきの臭いは……」
「え、あ、は、は? え、何、え、ちょ、意味不明っすね。俺の家では勝者は脱ぐ決まりがあるんすよ。いや、マジで漏らしてないっすよ? いや、本当に何考えてんすか? 漏らす訳ねぇじゃないっすか。いや、本当にやめてくださいよ。いや、何考えて、は、は、は? は、え? はぁぁ?」
俺は必死になって良い訳をする。
すると、明らかに不審な目を向ける婆さんを魔王様は諫める。
「……御婆様、失礼な事を言わないでください。彼への侮辱は私が」
「……恋は盲目ってか……まぁいいさ。お前さんの実力は……ま、これくらいはあるって事さね……で、だ……アンタ、そのまま帰るのかい? 王都へ、ドラゴンに乗って」
「――当然だァァァァ!!!!」
「――――ッ!!!!!!!」
俺が脳内で命令を下せば。
ドラゴンは翼を広げて大空に飛び立つ。
俺はドラゴンの頭の上で仁王立ちしながら高らかに笑う。
「フハハハハハ!!!! もうどうにでもなってしまえェェェ!!!」
俺は笑う。
こんな状況、もう俺の手には負えん。
だからこそ、盛大にフラグを立てるつもりで王都へ向かう。
何故か、魔王様が俺の事を睨んでいた気がするが……気のせいさ!!