古代魔法の詠唱がAVタイトルなんだが、犯人出てこい   作:匿名さん

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第3話 留守番

 リュカの家で居候を始めて二日目。

 

 昼間からリュカは出掛けていて、家には俺一人だ。「何かあったら強く握りなさい。飛んで戻るから」と、鶏の卵みたいな魔道具を渡されてお留守番。

 

 試しに玄関を回してみたが、がっちりロックされて動かない。

 

 要するに、俺は今、軟禁状態というわけだ。まあ、身元不明の「落ち人」だし、勝手に外に出てモンスターに食われても迷惑がかかるんだろう。納得はしている。

 

 しかし、暇だ。

 

 スマホは当然圏外だし、バッテリーももうすぐ切れる。異世界で強制デジタルデトックスとか、正直きつい。

 

 立ち入りが許されている一階の食堂と客間以外も探ってみたが、二階の研究室やリュカの寝室はしっかり鍵が掛かっていた。

 

 別に寝室を漁るつもりなんてない。本当だ。

 

 あまりに退屈なので、許可をもらっていた料理をすることにした。

 

 冷蔵庫っぽい魔道具を開けると、白い冷気の中から肉や人参、玉ねぎに似た野菜が出てきた。食材は案外、地球と変わらないらしい。

 

 物理法則が似ていれば、生態系も似たような形に収束するのだろうか。専門的なことは分からないが、今の俺には好都合だ。

 

 俺は「謎肉」と「謎人参」、「謎玉ねぎ」を調理台に並べた。

 

 さらに棚を漁ると、小瓶に入った数々の香辛料を発見した。蓋を開けて嗅いでみれば、鼻を突く刺激的な香り――クミン、コリアンダー、ターメリックにそっくりなものまである。

 

「おっ、これは……いけるかも」

 

 実は俺、スパイスカレーにはちょっとうるさい。

 

 スパイスの配合比率を思い出しながら、謎肉の脂を熱し、玉ねぎを飴色になるまで炒めていく。

 

 異世界のスパイスを少しずつ指先で舐め、味を確認する。一つ、妙に痺れる辛さのものがあったが、これを隠し味にすればコクが出そうだ。

 

 夢中で鍋を回しているうちに、窓の外はすっかり帳に包まれていた。

 

 パチン、と乾いた音と共に室内の灯りが自動で点る。魔道具文明とはいえ、便利さは地球とそう変わらないな、なんて感想を抱く。

 

 いよいよカレーを皿に盛ろうとした、その時だった。玄関の方で、いくつか物音がした。

 

 コツコツという軽い足音。これはリュカだ。

 

 でも、もう一つ。ミシッ……ミシッ……と床が悲鳴を上げるような、重い足音が聞こえる。

 

 熊か!? 異世界でも住宅地に熊が出るのか……!? 猟友会はどうなってるんだよ!?

 

 俺が震えながらお玉を構えていると、聞き慣れた声がした。

 

「あら、いい香りね。ヒロシ、あなたが作ったの?」

「そうだけど……」

 

 リュカの後ろにいたのは、熊じゃなくて「熊みたいな老人」だった。

 

 革鎧と鉄でガチガチに固めたその老人は、俺を鋭い目で睨んできた。

 

「……こ奴が、例の落ち人か」

「ええ。ヒロシよ。オルケイン、とりあえず座って。丁度いいから、食事にしましょう」

 

 このオルケインとかいうおじいさん、椅子に座るだけでミシミシ音がする。すごい圧だ。

 

 俺は寸胴鍋からスパイスカレーを平皿によそい、リュカとオルケインに配った。ライスが欲しいが見当たらないので、カゴに入っていたパンをカレーに添える。

 

 準備が整い、三人でテーブルを囲んだ。

 

 オルケインは皿から立ち上る香気を、深く吸い込む。

 

「……む。これは、嗅いだことのない刺激的な香気。貴殿の国の、高度な錬金術の一端と見える」

「あ、いや……ただのスパイスカレーですけど」

 

 どうやら異世界には、スパイスを大量に使う料理はないらしい。隠し味程度でしか使わないのだろう。

 

 何度もスパイスカレーの匂いを嗅いで確かめたオルケインは、意を決したようにスプーンを口に運んだ。

 

「……ッ!? なんという衝撃だ! 身体の芯から魔力が活性化していくようだ!」

 

 オルケインは咆哮した。スパイスの劇的な効果により、彼の額には汗が浮かび始める。

 

「ふぅ……。この発汗、まさに体内の不浄を焼き払う『浄化』の儀式のごとし」

 

 オルケインはあっという間に平らげた。その額には滝のような汗が流れている。

 

 すると彼は「さて、儀式の仕上げだ」とか何とか言いながら、腰のポーチから何かを取り出した。それはレースのついたフリフリの女性モノの下着。

 

 きっと、地球の集合住宅に住む若妻が、ベランダに干していたものだろう。このオッサン、どうするつもりだ……?

 

「……むんッ!」

 

 オルケインが白いフリル付きの下着を広げ、豪快に額の汗を拭き始めた。

 

 おい、やめろ。それ、誰かの家の洗濯物だぞ。

 

「おお……この吸水性。これこそ失われた時代の慈悲……」なんて感動してるけど、ただのコットンだから。

 

 オルケインは若妻の下着を丁寧な手つきで畳むと、大事そうに腰のポーチにしまった。

 

 やっと俺もカレーに手を出せる。

 

 ゴロゴロの肉がスパイスと絡み合い、滅茶苦茶美味い。リュカをみると、満足そうにスパイスカレーを食べ続けている。

 

 どうやら、口にあったらしい。

 

 寸胴鍋のスパイスカレーを三人で食べ尽くし──大半はオルケインだが──紅茶を飲んで一息ついた頃、リュカがサッと表情を変えた。

 

「実は、ヒロシの能力を知ってもらうために、オルケインを連れて来たのよ」

「俺の能力?」

「ええ。古代魔法の聖句を解析する能力のことよ」

 

 オルケインの眼光が鋭くなる。

 

 参ったな……。俺は日本語のAVに使われる隠語に詳しいだけで、古代魔法については何もしらないのだが……。

 

「もし、ヒロシが本当に古代魔法の詠唱に使われる聖句の解析が出来るのならば、我々人類は大きな力を得ることが出来る。未来すら変えるだろう。だから、ヒロシの力が本物か、確かめにきたのだ」

 

 人類。未来。話がデカすぎる……。

 

 まずいな……。俺は日本のAVに使われる淫語の知識だけで、この局面を乗り越えられるだろうか……。

 

「さあ、二階の研究室に行きましょう。そこでヒロシの力をみせて頂戴」

 

 リュカは期待に満ちた瞳で俺を見つめる。失望させたくない、という気持ちがモクモクと湧いてくる。

 

 どんな内容であれ、俺は期待には応えたいタイプだ。

 

「わかった。やってみるよ……」

 

 俺は覚悟を決めた。たとえその後に、盛大な幻滅が待っていたとしても。

 リュカ、オルケインに続き、二階への階段を上った。

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