古代魔法の詠唱がAVタイトルなんだが、犯人出てこい 作:匿名さん
リュカが研究室の明かりを灯すと、壁一杯の本棚にギッチリつまった書物と、作業台に所狭しと並べられている石板が顕になった。
どうやら研究室の明かりは自動点灯ではないらしかった。場所によって細かく制御しているのだろう。魔道具文明侮りがたし。
「相変わらず、散らかっているなぁ。これじゃあ、何か盗まれても分からないだろう?」
オルケインが散らかり放題の研究室を見渡し、呆れたように言った。それに対し、リュカはキッと目つきを鋭くして反論する。
「そんなことないわ。資料がどこにあるか全て把握しているし、私に取って効率のよい配置になっているのよ!」
ゴミ屋敷のオーナーのような発言だ。リュカはあまり、整理整頓が得意ではないらしい。
リュカの声が影響したのか、机に絶妙なバランスで平積みされていた古い書物がガラガラと音を立てて崩れる。
リュカは一瞬気まずそうにしたが、直ぐに気を取り直し、作業台の前に立った。
そして、石板を眺め始める。
「……どの魔法の詠唱を解析してもらおうかしら?」
「まずは、発動時のリスクが少ない『生活支援系』の古代魔法が妥当だろう」
「そうね、それだと……」
リュカは作業台の上の一枚の石板を手に取った。オルケインが後ろから覗き込み、難しい顔をする。
「ヒロシ、これを。最近遺跡から出土した、最上級の癒やしを司ると推測されている魔法よ。解読できるかしら? いきなり、かなり難しいやつだけど……」
そう言って、リュカは俺に石板を手渡す。
「なるほど……」
石板に視線を落とす。経年劣化によって、表面は掠れており、半分ぐらいが読み取ることができない。しかし──。
『マルノウチ・オーエル・セ○○○・○ッ○ー○○○』
──俺には分かった。脳内にハッキリ文字が浮かんでいる。
石板から顔を上げ、リュカとオルケインの様子を窺う。二人とも緊張した面持ちで、俺の顔をじっと見ていた。
「欠けている文字は『ンモンマッサージテン』だ」
リュカが目を丸くする。一方のオルケインは目つきを鋭くした。俺の言葉を疑っているようだ。
「いくらなんでも早過ぎる。そんな簡単に、古代魔法の解析が出来るわけないだろう?」
オルケインの気持ちも分からなくもない。しかし、俺の脳裏にはしっかりと日本のAVのタイトルが浮かんでいる。恐らく、これで間違いないだろう。
「詠唱すれば、ヒロシの力が本物か分かるはずよ」
「あぁ、そうしてくれ」
リュカに石板を渡し、欠けていた部分の音を伝える。
「唱えるわ……『マルノウチ・オーエル・センモン・マッサージテン』……!!」
途端、部屋の空気が変わる。目に見えない何かが、リュカの身体に集まり、その身を包んで光を放つ。
光りは次第にリュカの両肩に集約された。光は柔らかく点滅を繰り返す。
「……これは一体……!?」
驚嘆するオルケイン。一方のリュカの瞳がとろんと蕩け、頬が薔薇色に染まる。
彼女は恍惚とした表情で、己の肩をさすった。
「信じられない……。千年の時を経て蓄積された魔力の凝りが、霧散していくわ……。なんて……なんて慈悲深い魔法なの……」
流石は丸の内OL専門マッサージ店である。古代魔法の研究で凝り固まったリュカの肩を見事に解したようだ。
「これで、俺の力を信じてもらえたかな?」
少し得意になって、オルケインに問い掛ける。オルケインは少し考えてから、一枚の石板を手に取った。
「一度だけなら、偶然ということもあり得る。これも読み解くことが出来るか?」
オルケインが俺の前に石板を置く。さっきよりも更に劣化が激しい。しかし──。
『デカシリ・ヨガ○○○○○○○○・ノ・ガ○○○・○○○ッチ』
──俺にかかれば容易い。自然と笑みを浮かべてしまう。
「まさか……もう解析が完了したのか……!?」
「あぁ。ハッキリと文字が浮かんでいる」
オルケインの額に粒の汗が浮かぶ。スパイスカレーを食べていたとき以上の大粒だ。
「……『インストラクター・ノ・ガニマタ・ストレッチ』……」
静寂がさざ波のように広がった。二人が唾を呑み込むと音が聞こえてくる。
「今度は、儂が唱えてみる」
オルケインが石板を手に取った。俺は、欠けていた部分の音を伝えた。
「いくぞ……『デカシリ・ヨガインストラクター・ノ・ガニマタ・ストレッチ』……!!」
詠唱が研究室に響き渡り、それに呼応するように、空間にうねりが生じた。
光りの粒が顕在化し、オルケインを包む。そして光は、臀部に集約された。
光は激しく点滅を繰り返す。まるで、オルケインの尻を揉みしだくように。
「……くっ……!? これは……なんということだ……!? 股関節の……深淵が、開かれる……っ!」
いかつい老人が顔を赤らめる。リュカの時と違って、何も嬉しくない。むしろ、心が冷えてくる。
少しすると『デカ尻ヨガインストラクターのガニ股ストレッチ』の効果は消え、オルケインは咳払いをして、自分の痴態を誤魔化した。
「これで、力は証明できましたか?」
オルケインに問う。彼はすっと身を正し、ゆっくりと口を開いた。
「ヒロシの古代魔法を解析する力は本物だった。疑って、本当に済まなかった。これからは、全力でサポートさせてもらう」
「ありがとうございます」
オルケインは右手を差し出し、俺もそれに応える。
「……改めて、君の力に敬意を表そう。ヒロシ、君こそがこの国の、いや世界の宝だ」
その瞳には一点の曇りもなく、真実の探求者としての熱い光が宿っている。
「ええ、本当に助かるわ! これで長年の謎だった石板が次々と解明されるわね!」
肩が軽くなったリュカも、期待に胸を膨らませて身を乗り出してきた。
二人の期待に俺の淫語知識は応えられるだろうか……?
こうして、俺の「聖なる翻訳家」としての多難な日々が幕を開けたのだった。