古代魔法の詠唱がAVタイトルなんだが、犯人出てこい 作:匿名さん
研究室でリュカとオルケインに対して「聖なる翻訳者」として認められた翌朝。俺とリュカは食堂で朝食をとっていた。
昨晩、リュカは自室で何度も「マルノウチ・オーエル・センモン・マッサージテン」や「デカシリ・ヨガインストラクター・ノ・ガニマタ・ストレッチ」を唱え、身体のメンテナンスを行ったらしい。
非常に晴れやかな表情をしてパンを頬張っている。全ての悩みが解決したように朗らかだ。
一方の俺は、パンを口に運びながらも、思考の泥沼に沈んでいた。
この街の実力者らしいオルケインに認められたのはいいが、今後の生活については全く見通しが立っていない。
元の世界に戻れる見込みはない。かと言って、ずっとリュカの家でヒモをするのは憚られる。
せっかくの異世界なんだから外に出たいし、色んなものを見てみたい。しかしそれにはある程度の力が必要だろう。
「ねえ、リュカ。古代魔法って、俺にも使えるのか?」
リュカは驚いて目を丸くし、慌ててパンを飲み下した。
「えっ、使えないの? 聖句を解析できるんだから、使えるんじゃないの?」
質問に対して、質問が返ってきた。これがバイトの面接であれば、リュカは不合格であろう。いや、美形エルフだから合格か? まぁ、いい。
「いや、正直わからないんだ。聖句は読めるけど、魔法自体は使ったことがない。魔法ってどうやって使うんだ?」
リュカはゆっくり紅茶を飲んでから、静かに答える。
「魔法は、魔力を込めながら詠唱することで発動するの。口から発する音に魔力を込めるイメージね。でも、古代魔法は違う。詠唱を通して、自分の外にあるマナに呼び掛ける必要があるの」
いきなり難しい説明をする奴だ。
「普通の魔法は自前の魔力で発動。古代魔法は自分の外のマナを使って発動させるってことか?」
「その通りよ」
なるほど。かつて、地球からこの世界に転移したAV大好き野郎は、たぶん普通の日本人だ。魔力なんてものは持っていない。だから、自分の外にあるマナを使って魔法を発動させようとして、古代魔法を生み出したのか。
「古代魔法って、誰でも使えるのか?」
リュカは少し呆れたような顔をして、手を横に振る。
「古代魔法を使うには才能が必要なの。普通の人は自分の体内の魔力が干渉して、マナに対して詠唱を伝えることができないのよ。私やオルケインが古代魔法を使えるのは、長い長い修練を経て、やっとのことよ。オルケイン、もうおじいちゃんでしょ?」
少し昔を懐かしむリュカ。今も筋骨隆々のジジイだったが、昔のオルケインはもっと凄かったのだろう。
「てことは、体内にまったく魔力のない人は、簡単に古代魔法を使うことが出来ると?」
「理屈としてはそうなるけど……まさかヒロシ、魔力ゼロなの!?」
IQゼロなの? ぐらいの驚かれようである。
「たぶん魔力ゼロだ。もといた世界にはそもそも、魔力なんて空想上の力だったからな」
「ふぅー」と長い息を吐くと、リュカは顔を引き締める。
「じゃ、試しにやってみて。空気中のマナにお願いするイメージで、『デカシリ・ヨガインストラクター・ノ・ガニマタ・ストレッチ』を唱えてみて」
絶世の美女ともいえるリュカが真顔で「デカ尻ヨガインストラクターのガニ股ストレッチ」と言っている。なんだか凄い背徳感だ。
「はやく!」
「は、はい……! では!」
空気中に漂っているというマナを意識する。昨日、リュカやオルケインが古代魔法を使ったとき、空気にうねりのようなものが生まれた。きっとあれは、マナに働きかけた結果なのだろう。
五感を集中し、自分の外に向ける。小さな小さな光の粒をイメージした。その一粒一粒に呼びかける。
「……『デカシリ・ヨガインストラクター・ノ・ガニマタ・ストレッチ』……!」
途端、自分が世界と一体化したような感覚に包まれた。自分の境界が曖昧になり、全てが味方になったような気分になる。
身体が光りの粒子につつまれ、力が湧く。光は腰回りに集約され、強く点滅を始めた。まるで目に見えない巨大な手に、グイグイと骨盤を広げられるような強烈な刺激が走る
「……くっ……!? くはぁ……っ」
臀部の筋肉が一本一本、解きほぐされる感覚……。凝り固まっていた股関節が、すっと伸びていく……。
「これが、古代魔法……」
「まさか、一発で成功させてしまうとは。流石は『聖なる翻訳者』ね」
リュカは呆れた様子で呟く。
やがて、「デカ尻ヨガインストラクターのガニ股ストレッチ」の効果は途切れた。腰回りが驚くほど軽い。古代魔法、恐るべし。
「おれ、古代魔法が使えるなら、外に出ても大丈夫じゃない?」
「確かに、護身用の古代魔法を覚えれば、問題ないかもね」
リュカはいくつかの古代魔法のリストアップを始める。
「俺、冒険者っていうのやってみるよ。依頼をこなせば、お金がもらえるんだろ? 流石にずっとリュカの好意に甘えるわけにはいかないから、少しはお金を入れたい」
「私は遺跡や遺物の調査があるから、一緒に冒険者ギルドにいって依頼を受けることは出来ないけど、大丈夫?」
「冒険者ギルドはオルケインの管理下だろ? その辺は大丈夫じゃない?」
口に手を当て、リュカは考え込む。
「何か危ないことがあれば、絶対に無理しないって約束する?」
「当然だよ。俺は単にお金を稼ぎたいだけで、功名心に駆られているわけじゃない。地味な依頼をこなして、小銭を稼ぐだけだよ」
「いくつか条件をつけさせてもらうわ。それを守れるなら、冒険者として登録してもいいわよ」
俺は「わかった」と答え、リュカから諸々の条件を聞くことになった。これでやっと、自由に行動できる。
胸を弾ませながら、急いで朝食を平らげた。