古代魔法の詠唱がAVタイトルなんだが、犯人出てこい 作:匿名さん
空が茜色に染まり、空気が湿り気を帯び始めた頃。
俺とプリムは王都に戻り、冒険者ギルドへと向かっていた。
通り沿いの家々からは肉や魚を焼いた香ばしい匂いが流れてくる。
不意に隣から「グゥゥゥ」と地の底から得体のしれないモンスターが唸るような音がした。チラリと見下ろすと、プリムが顔を真っ赤にしてお腹を押さえている。
「腹、減ったのか?」
「少し減ったでしゅ」
「今日、食事は?」
「まだでしゅ……」
プリムは消え入りそうな声で答えた。
どうやら、一日メシ抜きで過ごしていたらしい。ダイエットでもしているのか、それとも食事をする金がないのか。
「穴ウサギの報酬で、メシでも行く?」
「えっ、いいんでしゅか?」
プリムは丸い目をさらに丸くして驚いた。
「パーティーメンバーなんだから、メシぐらいいくだろ? それとも、コンプラ的に駄目な感じ? 冒険者ギルドが厳しいの?」
「コンプラ? いえ、冒険者ギルドはパーティーメンバーが何をしようと関与しないでしゅ。ただ、ヒロシが私みたいなのと一緒にお店に入るの、嫌じゃないかなって……」
俯き、耳をぺたんと寝かせるプリム。なぜそんな自己評価が低いのか謎だが、とりあえず美味しいものを食べて元気を出してほしい。
「いや、よく分からないけど、俺はプリムとメシを食いたいぞ。今日は家主にも『遅くなるかも』と伝えているし」
「本当でしゅか……!?」
プリムは瞳に涙を溜めて上目遣いをした。小動物的な可愛さがある。
「あぁ。だからとっとと冒険者ギルドにいって報酬を貰おう」
「はい!」
跳ねるように歩き出したプリムを追いかけて冒険者ギルドへと歩き出す。大通りを行くと、すぐに例の屈強な建物が見えてきた。
冒険者ギルドの中は俺達と同じように依頼を終えた冒険者達でごった返していた。受付カウンターには列ができ、しばらく待ちそうな雰囲気がある。
「並ぶしかないか~」
「そうでしゅね~」
少しだけ短かった男性職員側の列の最後尾にプリムと二人で並ぶ。プリムはどこか居心地が悪そうに、下を向いた。待つのが苦手なのだろうか?
俺達の後ろにも次々と冒険者が並ぶ。今がピークのようだ。
リュカの研究室で見つけた数々の古代魔法の聖句(AVタイトルや淫語)を思い出しながら時間を潰していると、隣の列のスキンヘッドの男が不機嫌な顔で声を掛けてきた。
「……おい。クセえと思ったら、ギルドにドブネズミが紛れ込んでやがる」
ドブネズミ? それは間違っているな。
「いや、この袋の中身は穴ウサギだ。ネズミじゃない」
俺は肩に床に置いていたズタ袋の口を開けて中をみせようとする。
「ちげえよ! お前が連れてるリリパットのことだよ! 全く、なんでこんなやつが冒険者ギルドを出入りしてるんだよ……!? 恥知らずが……!!」
スキンヘッドの上げた大声にプリムはびくりと身体を強張らせた。事情はよく分からないが、どうやらこの男はリリパット族のことが嫌いらしい。
アンチ合法ロリを教義にしている尖がった宗教を信仰しているのかもしれない。しょうもないやつだ。
「自分の性癖にハマらないからって、文句を言うのは違うだろ? 誰もお前とこのリリパット族の娘をくっ付けようなんてしていない。ちょっと自意識過剰なんじゃないか?」
「はぁ……!? 何をわけの分からないことを言ってやがる……!? てめえ、ちょっと表へ出ろや!!」
スキンヘッドはこめかみに青筋を立て、今にも殴りかかってきそうな勢いだ。
「なんだ、男が好きなのか? 残念ながら俺はノンケだ。男には興味がない。すまない、ホモは帰ってくれないか」
「ふざけやがっ──」
「やめないか!」
スキンヘッドが拳を硬く握った瞬間、受付の奥にいた男性職員が物凄いスピードでカウンターを飛び越えた。そのまま俺とスキンヘッドの間に入る。
「この男は落ち人で何も事情はしらない。それに、リリパット族が冒険者ギルドを利用してはならない、なんて規則はない。これ以上騒ぐなら、相応の覚悟をしてもらうぞ?」
男性職員の低く、ドスの効いた声がギルド内に響く……。一瞬にして静寂が広がり、誰も声を発せなくなる。指一本動かすことすら、躊躇われるような空気だ。
この男性職員、只者ではない。
スキンヘッドの男はこめかみの青筋を引っ込める代わりに顔が蒼白となり、視線を泳がせた。そしてなんとか、口を開く。
「わ、悪かった。静かにする」
「よろしい」
職員は眼鏡をクイッと押し上げると、何事もなかったかのようにカウンターへ戻り、「はい、次の方どうぞー!」と元の陽気な声で列を捌き始めた。
ギルド内は徐々に音が戻ってくる。
「はい、次の方どうぞ!」
いつの間にか列は進み、俺達の番だ。依頼票とズタ袋をカウンターに置き、確認を依頼する。
男性職員はにこやかな笑顔と共に、素早く処理を終え、キャッシュトレイに硬貨を四枚置いた。銀貨っぽい。
「ご苦労様! 初日でしっかりノルマを達成するなんて、見込みがあるね!」
「この子が頑張ったので」
俺の影に隠れて小さくなっているプリムの背中を押す。プリムはまだおどおどしている。
「そうですか。これからも頑張ってくれよ!」
「はい……でしゅ……」
プリムの声は震えていた。見下ろすと、彼女の大きな瞳から、表面張力の限界を超えた大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちている。
よく分からないが、ギルドの職員に普通に労われたことが、泣くほど嬉しかったのだろうか。
俺はキャッシュトレイの銀貨を掴み、プリムの小さな両手に握らせた。
そして、泣きじゃくる彼女の背中をポンポンと軽く叩きながら、冒険者ギルドを後にする。
リリパット族の抱える事情とやらは、夕飯の席でゆっくり聞かせてもらうとしよう。