Z-ONEは、俺の「あんたがラスボスだ」という宣言を聞いても、特に驚いた様子はなかった。
あるいは、心のどこかでそうなる運命を予感していたのかもしれない。
『……私が貴方の見た未来でどのような行動をとったのか、教えていただけますか?』
静かな問いに、俺は知っていることを、そのまま洗いざらい全部話した。
「あんたは…いや、正確にはイリアステルは、ルドガーを唆してゼロリバースを引き起こす。その結果、多くの命が失われ、遊星、ジャック、クロウは孤児になった。
ネオ童実野シティは分断され、サテライトの住民はゴミ扱い。
さらにWR-GPXの時期には、罪のない市民の上にアーククレイドルを叩き落とそうとする」
『やはり、そうなりますか。モーメントの誕生を防げぬ以上、一度誕生させた後にそれに関連するすべてを破壊し、歴史を根こそぎ削除する。
それ以外に世界を救う術はないと、判断したのでしょうね』
それだけ言うと、Z-ONEは何も語らず、静かに目を閉じた。
今、こいつが何を考えているのか、俺には分からない。
そもそも俺はこの世界の人間ですらない。そんな俺が下手に慰めたところで、きっと何の重みもないだろう。
だから、むしろ遠慮なくぶつけることにする。
「よかったじゃねーか」
Z-ONEがカッと目を見開き、俺を射抜かんばかりに睨みつける。
『何が、よかったと?』
声は平穏だが、空気が震えている。これが殺気ってやつか?怖すぎて漏らしそうだ。
だが、啖呵を切った以上、止まるわけにはいかない。
「あんたは、武藤遊戯や遊城十代さらに、不動遊星ですら防げなかった『凶悪犯』を倒し、ネオ童実野シティの住民を魔の手から救い出すチャンスを手に入れたんだ」
『は?』
俺の滅茶苦茶な理屈に理解が追いつかないのか、Z-ONEの殺気が霧散した。
それを逃さず畳み掛ける。
「遊戯も海馬も十代も、ゼロリバースの時はピンピンしてただろうに、誰もそれを止められなかった。
あんたがゼロリバースの発生を防げば、あいつらより優れたヒーローだって証明される」
正確な年代は知らないが、牛尾さんが現役でバリバリ働いてるのを見るに、みんな生きてる確率は高いはずだ。なのに誰も止められなかった。
遊星は赤ん坊だった? 知るか!不満があるなら直接訪ねて抗議しろ。今はまだ生まれてもいないだろうけどな。(ゲス顔)
『それは詭弁だ! そのゼロリバースを引き起こしたのは……!』
「もし!」
俺は言葉を遮った。
「もし本当に、万に一つ、さっき言った召喚法を含むすべての手段が失敗して、ネオ童実野シティを消滅させるしか道が残っていないと判断した時、あんたはその手段を使わないのか?」
Z-ONEは息を呑み、沈黙した。
「ほら見ろ。あんたの中には、大邪神や破滅の光、ダークネスが赤ん坊に見えるほど邪悪な存在が封印されてる。それを叩き潰して市民を救えるのはあんただけだ。
遊戯王の醍醐味は『もう一人の自分』との対決だろ?かつての主人公たちがやったように、今度はあんたのターンだ!
ここから始めようぜ。DMでもGXでも5D'sでもない『遊戯王Z-ONE』を」
一気にまくしたてて、俺は肩で息をした。
(いや、何言ってるの、俺? 来る前に言おうと考えてた内容と、全然違うだろ!
何が遊戯王Z-ONEだ。Z-ONEからしたら完全に「こいつ何言ってんだ?」って感じだろ!
くそっ!なんか変なテンションになって 、やってしまった。
これ100%後で思い出して悶絶するやつだ。恥ずかしすぎて死ぬ)
隣を見ると、ラドリーは「きゅる!!( ✧ロ✧)」と目を輝かせ、ソピアは「ふも~ふも~」と頷いている。
おい、お前ら。ここはシリアスな場面なんだぞ。
別に俺は、正義感に目覚めてこんなことを言ったわけじゃない。
人を救うために始めたことが、結局は人を殺すことになったZ-ONEの胸クソ悪い結末が、前世から心底嫌いだっただけだ。
精神衛生上、かなり良くない。だから個人的な我儘を押し付けたに過ぎない。
「何様のつもりだ」と言われればそれまでだが、もし、最悪の決断を下そうとした時に、これを思い出してマイルドな方法に変えてくれたら御の字だ。
『先ほど、貴方とデュエルをした最後の一瞬…私はやはり、不動遊星とは違うのだと改めて痛感しました』
え? そんなこと考える要素あったか?と内心疑問を感じている俺を余所に、彼は目を閉じて続ける。
『あの日、世界が終わり、私を信じてついてきてくれたみんなを失った時、私は心のどこかで不動遊星に責任を転嫁していたのかもしれません。
「不動遊星でも救えなかったのだから、仕方なかった」と。
……ですが、違いました。
いくら彼の力と精神性を模したとしても、結局あそこに立っていたのは私であり、彼ではなかった。それを認められず、私の時間はあの日で止まっていたのですね』
その言葉を聞いて、俺は原作でZ-ONEが遊星とのデュエル中に言った台詞が、脳裏に浮かんだ。
(不動遊星、私は未来の貴方自身なのです)
(貴方が未来に現れても、未来は救えなかった)
『貴方が言った「私の中の邪悪な存在」……
それは、自分を不動遊星だと錯覚し、彼の可能性を、いえ、人の可能性を制限していた私自身の「弱さ」だったのでしょう』
再び目を開いたZ-ONEの瞳には、勘違いかもしれないけど、穏やかさが感じられる。
『ゼロリバースは、起こさせません。自分の弱さゆえに、私を信じて先に眠りについた同志たちの献身すら汚すところでした。
たとえ私自身に残された時間がなくとも、私が経験したすべてと未来の悲劇を、その時代の人々に伝え、託していきます。彼らなら、きっと未来を救えると信じて。
これは不動遊星ではない、彼を模倣しただけの、名前すら忘れた一人の科学者の誓いです』
(こいつ、なんか完全に主人公やってるじゃねーか)
「まあ、俺も自分の目的があるから、全部手伝ってやれるわけじゃないけどさ。助けが必要なら、いつでも言えよ」
こんな格好いい宣言を聞いておきながら、自分の目的を優先するなんて。俺、やっぱクズだな。
『力を貸してくださるのですか?』
「当たり前だろ。状況を知っておきながら知らんぷりできるほど、ひとでなしじゃねーよ。召喚法についても提案したの俺だしな」
するとZ-ONEは、遠くを見上げるように視線を上げて、
呟いた。
『見ていますか。アポリア、アンチノミー、パラドックス……新しい仲間が、できました』