『ところで、貴方が先ほど言った目的とは何なのですか?』
俺は自信満々に答えようとして一瞬、口をつぐんだ。
いや、待てよ。さっきまでバタフライエフェクトだの散々偉そうに語っておいて「俺の個人的な趣味でラーを奪って活躍させたい」なんて、特大の歴史の改変をやろうとするのは、流石に格好がつかないだろう。
だが、隠しても何かが変わるわけでもない。俺は観念して、洗いざらい話した。
「実は、この世界に来て真っ先に立てた目標が、不遇な扱いを受ける【ラーの翼神竜】を手に入れ、獅子奮迅の活躍をさせることだったんだ」
『ラー、三幻神の一柱ですか。不遇?とは聞きませんでしたが』
「不遇なんてレベルじゃねーよ!」
思わず食い気味に反論した。
「まともに使いこなしたのはマリクだけ。その後は登場しても強奪されるか!石化されるか!爆死するか!
劇場版だってソウルエナジーMAX用の生贄にされて終わりだぞ!?
そんなラーを、あの遊戯ですら活躍させられないなら、俺がバトルシティに出場してマリクからひったくって、その後もラー無双をしてやろうと思ってたんだ」
俺は熱弁をしたが、話す途中で少しトーンを落とした。
「けど、さっき散々バタフライエフェクトを気にしてた手前、自分から超弩級の歴史改変を起こすのはちょっと、と思ってさ」
自嘲気味に言うと、Z-ONEは「なるほど」と頷き、考え込むように目を閉じた。
……が、次の瞬間、彼はカッと目を見開き、驚愕の表情で俺を見つめた。
『その計画……むしろ、世界を救う助けになるかもしれません』
「は? どういうことだ?」
Z-ONEは、俺が提唱した「新しい召喚法でモーメントの暴走を止める」という案について、理論的には可能だと前置きした上で、恐ろしい事実を語り始めた。
『歴史には「大きな幹」が存在します。過去を変えてもそれは幹から分かれた小さな「枝」に過ぎず、その枝はいずれまた幹へと合流し、改変された事象は元に戻される。
そんな「歴史の修正力」が存在するのです』
俺が首を傾げていると、彼は分かりやすく例え話をしてくれた。
『例えば、過去に戻ってモーメントを破壊したとしましょう。一時的にモーメントは消えますが、時間が経てば別の誰かがそれを修理するか、新しく作り直し、結局は「暴走する」という結末に収束する。
召喚法も同じです。広めたとしても、修正力によって「カードの紛失」や「集団的な記憶喪失」が起き、結局は無に帰す可能性が高い。
私は、そう危惧していました』
「ええっ!? じゃあ俺がドヤ顔で説明した召喚法たちも、全部意味なかったってことかよ!? おいおい、このままだと未来破滅じゃねーか!」
俺の顔は一瞬で真っ青になった。切り札だと思ってた知識がゴミになるかもしれない。慌てている俺を余所に、Z-ONEは続けた。
『ですが、この世界の根幹と深く関わる「カード」にまつわる事象ならば、歴史の修正力に打ち勝ち、改変を固定できるかもしれない。
そう信じ、試そうとしました』
こいつマジか?思ったよりはるかに精神力バグってるだろ。
『だが今、貴方の夢を聞いて、一つの光明が見えました』
Z-ONEは、自分が俺を観測できた原因を話し出した。
結論から言うと、ソピアが世界の壁をぶち破って降臨したせいに、世界そのものが驚いて、俺がいる歴史の枝を隔離してしまったらしい。
(おいソピア! 世界の壁ぶち破っても問題ないって言ったじゃねーか! 世界さん、めちゃくちゃ困惑してんぞ!)
『世界はいずれ耐性をつけ、この枝を統合しようとするでしょう。しかし、世界程度には貴方のそばにいる神をどうにかする力はありません。
ならば、統合される際に神の庇護を受ける貴方の存在は、修正できぬ事実として残る』
……ってことは、俺、下手したら世界に修正…消されてたってこと? ソピアのおかげで生き残ったのか。
いや、そもそも消されそうになった原因もソピアだよな?
『もし、そんな貴方が正史とは明らかに異なる軌跡を刻んだら?
それも、決闘王が使った神のカードを使いこなし、歴史に消せない痕跡を残したとしたら?
世界の修正力は、この枝を吸収するのではなく、むしろこの枝を「幹」として受け入れこれまでの滅びの歴史をこちらに統合する、その方が効率的だと判断するはず!』
Z-ONEの瞳に熱い輝きが宿る。彼は力強く言い放った。
『そうなると、歴史の修正力は無いに等しい。モーメントを新しい召喚法で抑制する計画は、ほぼ確実……いえ、確実に成功します!』
『世界は……救える』
言い終えたZ-ONEの目から、涙が溢れ出した。
さっきまでの理路整然とした科学者の姿はどこへやら、沈黙してただ涙を流している。
声を上げるわけではないが、形容できない激しい感情がここまで伝わってきた。
隣ではラドリーも「きゅ…(。>Д<。)」と声を漏らして号泣している。
……俺か? 勘違いするな、これは目汁だ。涙ではない!