俺のカードの中に宿っている精霊たちは、元いた世界からカードと共にこの世界へと転移してきた
……はずが、どういうわけか所持するカードに『この世界の精霊』が宿ってしまった。
それが、この【青き眼の乙女】。
最初はただ野生の精霊かと思っていたが、異常なほど「セト様の傍に行きたい」という言葉を繰り返す。
念のため過去の記憶について尋ねても「覚えていない」と言うばかり。
原作知識に基づけば、キサラの魂は石版に封印され、今も【青眼の白龍】そのものとして神官セトの転生体である海馬瀬人の傍にいるはず。
つまり、この子が本物のキサラであるわけがないと思うが……
だがまあ、分離した魂の残骸だとか、青き眼ではない人間だった部分といった可能性も捨てきれない。
だから海馬の元へ届けてやりたいのは山々なのだが、ご存じの通り青き眼の乙女は『チューナー』だ。
このDM時代にあってはならない、未来のカードの種類なのである。
そこで俺はZ-ONEに相談した。
Z-ONEはカードに特殊加工を施し、『チューナー』からただの『効果モンスター』へと偽装してくれた。
さらに、時が来れば再びチューナーへと戻るタイマー付き。
「もしチューナーという存在が今この時代に知られれば、最悪の場合は世界が滅びる。
だから、時間が過ぎるまでは絶対にチューナーであることを隠し通すと約束しろ。そうすれば、神官セトの転生体である海馬瀬人の元へ送り届けてやる」
俺の提案に、【青き眼の乙女】は快く承諾した。
こうして、【青眼の亜白龍】1枚で行くはずだった作戦に、この健気な乙女が追加され現在の形に落ち着いたわけだ。
▽
エレベーターに乗り到着したのは、遊戯王デュエルモンスターズ第1話で遊戯と海馬が決闘した——あの伝説の場所だった。
未来(GX170話)で十代と斎王が死闘を繰広げることになる場所でもある。
海馬社長は対面に毅然と立っており、俺はサイズが大きくてブカブカの、借りたデュエルディスクを無理やり左腕に装着している。
俺が持ちかけた取引を社長は承諾し、ここにデュエルが成立したのだ。
少し離れた場所には、こちらをじっと見つめている、モクバらしき小さな人影も見える。
バトルシティに参加する方法ならこんな面倒な真似をしなくても、レアカードハンティングをしているグールズをぶちのめし、作中で獏良がやったようにデュエルディスクやパズルカードを強奪する方法だってある。
だが、そんな真似をすればマリクに存在を察知されて警戒されるリスクがあるし、何より神のカード発見のためにデュエルディスクを通じて街全体を監視する、目の前にいるこの男に一発で見つかってしまう。
それくらいなら、どれほど険しい道だろうと交渉して手に入れる方がましだ 。
大体、この程度の試練も超えられないようで、ラーを使いこなせるなんて戯言だと思うし。
この日のために、三皇帝やロゼの手を借りて何度も模擬デュエルを繰り返してきたのだ。
決闘者としての経歴はともかく、前世からの遊戯王のプレイ年数を合計すれば、おそらく俺はこの世界で誰よりも長くカードを握り続けてきた人間。
その成果を、今こそ見せてやる!
持参したデッキをセットし、デュエルディスクを展開すると、反対側で待っていた社長が一方的に宣言してきた。
「ルールはバトルシティルール、ライフポイントは4000!」
「了解!それじゃ――」
「「デュエル!!」」
神楽坂 LP 4000 海馬瀬人 LP 4000
「ふん、先攻はくれてやる。カードを抜くがいい」
「俺のターン!ドロー!!」
俺はデッキから勢いよくカードを引き抜いた。
【ドラゴンメイド・ラドリー】
【ブレイクスルー・スキル】
【ADチェンジャー】
【神の写し身との接触】
【貪欲な壺】
【氷水のアクティ】
ここで、この『バトルシティルール』について、ちょっと説明しておこう。
簡単にまとめると、
・LPは4000
・先攻ドロー有り
・モンスターは表側守備表示でも通常召喚可能
・プレイヤーに直接ダメージを与えるバーン魔法カードは禁止
(【溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム】や【オベリスクの巨神兵】の4000バーン効果などは、モンスターカードによる効果のため問題なし)
・融合モンスターは融合召喚されたターンには攻撃不可
・速攻魔法だけでなく、通常の魔法カードもセットすれば相手ターンで発動可能
・モンスターが攻撃する途中に相手がモンスターを召喚してフィールドの数が増える場合、巻き戻しは発生するが攻撃しているモンスターのターゲットはモンスターを召喚した側が選択する
・効果処理の際、たとえチェーンを組めない対象であってもソリッドビジョンのエフェクト演出が優先され、その演出に合わせてチェーンが成立してしまう
大体こんな感じだ。まさに奇妙さに満ちた、意味不明なルール。
だが、俺だってもうこの世界の住民。郷に入っては郷に従えという精神で適応するしかない。
「俺は【ドラゴンメイド・ラドリー】を攻撃表示で召喚!」
「くるるん~♪ ( -`ω´-)」
【ドラゴンメイド・ラドリー】レベル 2 ATK 500
「ラドリーの効果発動!このカードが召喚・特殊召喚した場合デッキの上からカードを3枚墓地へ送る。
カードを1枚セット!ターンエンド」
俺のエンド宣言とあまりにも貧弱な盤面を見て、海馬社長の目付きが一段と鋭くなった気がする。
「そのような小娘をしかも攻撃表示で晒すとはな。俺のターン!ドロー!!」
社長は一瞬の躊躇もなく、手札のカードを選択して盤面へと繰り出した。
「【ブラッド・ヴォルス】を攻撃表示で召喚!」
【ブラッド・ヴォルス】レベル 4 ATK 1900
「行け!【ブラッド・ヴォルス】! そのトカゲ小娘を粉砕しろ!!」
攻撃宣言と同時に、ラドリーめがけて猛烈な速度で突撃してくる【ブラッド・ヴォルス】。
大斧を振り上げる凶悪な野獣戦士を前にして、しかしラドリーは慌てるどころか、その口元に不敵な笑みを浮かべた。
【ブラッド・ヴォルス】がその巨大な凶器を振り下ろす直前、ラドリーの身体が眩い光を発光し瞬く間に白と空色そして、紺色が入り混じった巨大なドラゴンの姿へと変貌を遂げた。
【ドラゴンメイド・フルス】レベル 7 ATK 2600
「なにっ!?」
「これがラドリーの真の姿。俺は墓地から 【ドラゴンメイド・フルス】を特殊召喚!
ラドリーはバトルフェイズ開始時、自身を手札に戻し、手札・墓地からレベル7の『ドラゴンメイド』モンスター1体を特殊召喚できる!
反撃だ、フルス!【ブラッド・ヴォルス】を返り討ちにしてやれ! 『フルス・シュヴェムング』!!」
フルスの口から放たれた激流のブレスが、一瞬にして【ブラッド・ヴォルス】を呑み込み、跡形もなく消滅させた。
「……くっ!」
海馬瀬人
LP 4000→3300
「さらに、フルスの効果発動! バトルフェイズ終了時にこのカードを手札に戻し、手札からレベル2の『ドラゴンメイド』モンスター1体を特殊召喚する。【ドラゴンメイド・ラドリー】を守備表示で特殊召喚!」
フルスもまた光に包まれ、一瞬にして元のメイド姿へと戻っていく。
「そして特殊召喚に成功したラドリーの効果発動! 再びデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。
――よし、この効果で墓地へ送られた【シャドール・ヘッジホッグ】の効果発動!
このカードが効果で墓地へ送られた場合、デッキから【シャドール・ヘッジホッグ】以外の『シャドール』モンスター1体を手札に加える。
俺はデッキから【シャドール・リザード】を手札に加えるぜ」
社長は忌々しげな眼光でこちらを睨みつけながらも、そのままターンを進める。
「小賢しい真似を……! カードを2枚セット! ターンエンドだ」
(というか、やっぱり『ドラゴンメイド』ってこのバトルシティルールだと完全に無法じゃねえか!)
思わず脳内で盛大なツッコミを入れてしまった。
通常、『ドラゴンメイド』の効果による特殊召喚が行われるのは「バトルフェイズ開始時」と「終了時」だ。
つまり普通のデュエルなら、巻き戻しが発生する以前に、相手は攻撃力が高い『ドラゴンメイド』を見て攻撃を躊躇するか、そもそも攻撃対象に選ばない。
だが、このバトルシティにおいてはバトルフェイズ開始を宣言せずにいきなり攻撃に移る場合がほとんどだ。
そのため、相手からすれば攻撃宣言した瞬間に突然高打点モンスターが飛び出してくるという理不尽極まりない状況になる。
さらに恐ろしいのは、『戦闘中にモンスターが召喚された場合そのバトルの攻撃対象を選ぶ権利は、新たなモンスターを出した側(つまり防衛側)にある』というこの謎ルールだ。
おかげで、【立ちはだかる強敵】を発動しているのと同じ状況が作れてしまう。まさにルールの隙を突いたカウンター戦術。
(まあ、俺のデッキに『ドラゴンメイド』はラドリーとそのドラゴン形態であるフルスしか入ってないので、1回限りのだまし討ちだがな)
「俺のターン、ドロー」
【ハイドランダー・オービット】
「俺は【氷水のアクティ】を攻撃表示で召喚」
先ほどのバトルで大金星を挙げこれでもかとドヤ顔を決めているラドリーの横に、新たなモンスターが姿を現した。
透明感のあるグリーンの液体と黒い斑点で構成された身体を持つ、ミディアムレイヤーっぽい髪型をしたスライム娘アクティだ。
【氷水のアクティ】レベル 4 ATK 1000
「アクティの効果発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、手札から水属性モンスター1体を墓地へ送ることで、自分はデッキから1枚ドローできる! 俺は手札の【ドラゴンメイド・フルス】を墓地へ送り、デッキから1枚ドロー」
【ギャラクシー・サイクロン】
よし、ほとんどノーコストで手札補充。
「そして、今ドローした【ギャラクシー・サイクロン】を発動! フィールドの裏側表示の魔法・罠カード1枚を破壊する。
社長の左側のカードを破壊させてもらうぜ」
ピキィィィン! と鋭い音が室内に響き渡り、リバースカードが粉々に砕けた。
【亜空間物質転送装置】→破壊
「バトルだ! バトルフェイズ開始時に再びラドリーの効果発動! このカードを手札に戻し、墓地からフルスを特殊召喚! 」
【ドラゴンメイド・フルス】レベル 7 ATK 2600
「フルスでプレイヤーにダイレクトアタック!」
再び口元に激流のブレスをチャージし始めるフルス。だが、流石に今回は社長も黙って見てはいなかった。
「リバースカードオープン、【エネミーコントローラー】!!ライフを1000払い、左、右、A、B!
このコマンドにより、貴様のモンスターを操ることができる。その怖気が走る人擬きトカゲを寄越せ!」
海馬瀬人
LP 3300→2300
フィールドに出現した巨大なコントローラーから出た電線が、フルスをめがけて伸びていく。
それを見たフルスが慌ててブレスのチャージを中断し、涙目で逃げ回る。なんか薄い本でありそうな展開だな。
「いや社長、俺寝取られ趣味はないので! 手札から速攻魔法発動、【神の写し身との接触】。
自分の手札・フィールドのモンスターを融合素材とし、『シャドール』融合モンスター1体を融合召喚する。
俺はフィールドの【ドラゴンメイド・フルス】と、さっきヘッジホッグの効果で手札に加えた【シャドール・リザード】を素材にして融合!」
カードの発動と同時、必死に逃げ回っているフルスの目の前に謎の闇の空間が出現した。
フルスは「助かったー!」と言わんばかりに、躊躇なくその空間へと飛び込んでいく。
当然、対象を失った【エネミーコントローラー】の電線は虚空を掴み、そのまま透き通るように消滅した。
「サクリファイス・エスケープだと!?」
社長のリアクションを聞きながら、俺は融合デッキから新たなモンスターをフィールドに出す。
「現れろ! 【エルシャドール・アノマリリス】!!」
【エルシャドール・アノマリリス】レベル 9 ATK 2700
降臨したのは、凍てついた魔竜が美しい人形にまとわりついたような奇怪な姿をしたモンスター。
「融合素材として墓地へ送られた【シャドール・リザード】の効果発動!
デッキから【シャドール・リザード】以外の『シャドール』カード1枚を墓地へ送る。俺はデッキから【シャドール・ビースト】を墓地へ!
さらに墓地へ送られたビーストの効果発動! デッキからカードを1枚ドローする!」
【氷水のエジル】
「バトルシティルール上、融合モンスターは融合召喚したターンには攻撃できない。
だが、俺のフィールドにはまだ【氷水のアクティ】が残っているぜ! アクティで社長にダイレクトアタック!」
緑の水流が海馬の身体を直撃する。
海馬瀬人
LP 2300→1300
「俺はこれでターンエンド」
内心で舌打ちをする。
(チッ……やっぱりこのターンでは決めきれなかったか)
こちらをただの子供だとナメているうちに一瞬でケリをつけたかったが、やはり歴史に名を残す伝説のデュエリストの一人。
そう簡単に首を獲らせてはくれない。
ふと社長の顔を見ると、先ほどまでの怒りに狂ったような表情は消え失せて、むしろ冷徹なまでに静まり返った無表情でこちらを見据えている。
どうやら、俺に対する認識をそこら辺を飛び回る羽虫から今すぐ踏み潰し、葬り去るべき敵へと改めたらしい。
「俺のターン、ドロー!!」
海馬社長は引き入れたカードを、確認するまでもないと言わんばかりに即座に使用した。
「【強欲な壺】発動! デッキからカードを2枚ドローする!」
社長はデッキのトップに指をかけ、凄まじい風圧と共に電光石火の速度で2枚のカードを引き抜いた。
――ドクン。
(な、何だ……!?)
海馬社長が引いたカードから、重苦しいプレッシャーが部屋中に響き渡る。まさに、全身を押し潰さんばかりの重圧。
(このゾクゾクとするような、魂を直接揺さぶられる感覚は……まさか!?)
引き抜いた2枚のカードのうちの1枚を、社長自身もまた、血に飢えた猛獣のようなギラついた瞳で見つめているのだった。
『本作における「バトルシティルール」』
・LPは4000
・先攻ドロー有り
・モンスターは表側守備表示でも通常召喚可能
・プレイヤーに直接ダメージを与えるバーン魔法カードは禁止
(【溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム】や【オベリスクの巨神兵】の4000バーン効果などは、モンスターカードによる効果のため問題なし)
・融合モンスターは融合召喚されたターンには攻撃不可
・速攻魔法だけでなく、通常の魔法カードもセットすれば相手ターンで発動可能
・モンスターが攻撃する途中に相手がモンスターを召喚してフィールドの数が増える場合、巻き戻しは発生するが攻撃しているモンスターのターゲットはモンスターを召喚した側が選択する
・効果処理の際、たとえチェーンを組めない対象であってもソリッドビジョンのエフェクト演出が優先され、その演出に合わせてチェーンが成立してしまう
『融合モンスターの融合召喚ターン攻撃不可について』
原作では、ほぼ全ての融合召喚が行われた回でこのルールが言及されています。なお、召喚されたターンでも攻撃を可能にする【速攻】という専用カードが存在します。(第65話の【ヒューマノイド・ドレイク】など)
『セットされた魔法カードの相手ターン発動について』
【マジック・サンクチュアリ】が発動された第129話だけでなく、原作のほぼ全てのデュエルにおいて、相手ターンにセットされた魔法カードが罠カードのように使用されています。
『バトルフェイズ中の巻き戻しの不発生について』
第132話において、【ブラック・マジシャン】の攻撃を【オベリスクの巨神兵】を盾にすることで防いだ描写や、第139話の【ラーの翼神竜】の攻撃時に【デビルズ・サンクチュアリ】を召喚した際、巻き戻しが発生せずにそのまま攻撃が続行された描写など。
『ソリッドビジョン・プレイヤーのリアル動作優先判定について』
第67話にて、再生途中の【リバイバルスライム】を【洗脳-ブレインコントロール】で奪った描写や、第129話で【クロス・サクリファイス】によって相手モンスターを生け贄に捧げる際「一度海馬のフィールドへ移動させてから生け贄にする」というソリッドビジョンの演出なので、そこに【心変わり】をチェーンして阻止できた描写などを根拠としています。(第57話でドローフェイズのドロー直前に『時間封印』をチェーンした描写や、第129話でオベリスクを召喚する直前の手札を『光の封札剣』で射抜いた描写など)
『前話に出てきたZ-ONEのリミットレギュレーションについて』
シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンクに関連するカードだけでなく、今のところ前例のない特殊なギミック(デッキ融合を行う【影依融合】や、エクストラデッキから素材を調達する【影霊衣の万華鏡】など)を持つカードも規制されています。
相手フィールドを巻き込む【超融合】も規制対象ですが、【超融合】に関しては世界を越える際のバグにより、主人公が 所持していたものは全て白紙化バグで真っ白になりました。
また、Z-ONEの規制は単なるカードパワーよりも『ギミックの異質さ』を優先しています。
そのため、【影依融合】より後に発売された【エルシャドール・アプカローネ】とかは普通に使用できるし、墓地で効果を発動するカードについても【超電磁タートル】など、この時代に存在する概念であるため、かなり自由に採用できます。
そして、採用可能なカードすべて制限指定となるため、強制的にハイランダー構築です。