「やった! 遊戯が勝った!」
海馬コーポレーション本社の分析室に、海馬モクバの歓喜の声が響き渡った。
メインモニターには、先ほどグールズのレアハンターと武藤遊戯が繰り広げたデュエルの結果が表示されている。
武藤遊戯→WINNER
LP 4000
「フン、大会最初のデュエルは、やはり遊戯が制したか」
宿敵の成果を淡々と評価する海馬瀬人。
そんな独白に反応するように、隣のサブモニターにも別の結果がポップアップされた。
神楽坂太郎→WINNER
LP 4000
「えっ……!? あいつは……!?」
驚愕を露わにするモクバ。
自分の弟の取り乱しようとは対照的に、海馬瀬人は無表情のままその結果を横目で一瞥するだけ。
「俺もこうしてはおれんな」
それだけ言い残し、分析室を出ていこうとする海馬。モクバは慌ててその後を追いかけながら、心配そうに兄に声をかけた。
「兄サマ、本当にいいのか!? あいつは海馬コーポレーションが機密にしていた、バトルシティの開催をあらかじめ知っていたんだぞ!?」
「フン、所詮はネズミ。好きにさせればいい、だが――」
海馬は一度言葉を区切り、獰猛な肉食獣のような瞳を覗かせた。
「奴には返すべき借りがある。次に相まみえる時は、必ずこの手で葬り去る」
その言葉から、兄が自分より年下の子供を『敵』として認めたことを悟るモクバ。
どこか不満そうな表情を浮かべたものの、すぐに首を振って気持ちを切り替えた。
「俺もバトルシティ運営委員長として、街を見回るぜ!」
モクバはそう言い残し、海馬と共にバトルシティの戦場と化した童実野町へと繰り出していくのだった。
▽
「さて、まずは1勝」
バトルシティはまだ初日。だが、のんびり構えている余裕なんて微塵もない。
原作の描写を振り返ってみると、遊戯は初日にレアハンターと奇術師パンドラを撃破。
翌日にはパントマイマーと光と闇の仮面との2連戦を制し、6枚のパズルカードをすべて集めきっている。
マリクに洗脳された城之内を救うために時間を費やしたため、 飛行船が係留されている『童実野スタジアム』に到着したのは日が暮れた後だったが、飛行船内で夕食を食べる描写を見る限り、日付が変わったわけではない。
つまり、このバトルシティ予選のタイムリミットは明日まで。
それも安全マージンをとるなら、日が沈む前までにパズルカードを6枚すべて集めきることが良い。
別の目的もあるから、今日中に6枚全部集める必要はないが……追加で1、2枚は確保しておきたいところだ。
そんなことを考えながら、俺とロゼは対戦相手を求めて街をうろついている。
今いる場所は、童実野埠頭。
明日、おそらくここでマリクによって洗脳された城之内と遊戯が、仁義なき死闘を繰り広げる場所でもある。
(まあ、俺がそれを止めるつもりはないが)
この世界において、『精神力』という要素は重要な役割を果たしている。
城之内の妹である静香は、あの眼の大手術を終えてから一週間も経っていないというのに、包帯をほどいた直後からごく普通に日常生活を送っているのだ。
異常極まりない。だがそれも、『兄である城之内を救いたい』という強靭な精神力によって、奇跡的に回復力を引き上げた結果だと解釈すれば辻褄が合う。
彼ら自身の問題に下手に介入して、万が一にも彼女の術後の経過が悪くなったりしたら、ただの邪魔者だ。
(念のための安全装置くらいは仕掛けておきたいところだがな)
そう思いながら埠頭を見回すが、人影は見当たらない。さすがにこんな海風の強い場所に、デュエリストはいないらしい。
「ほかの場所を探すか」と呟きながら引き返そうとした、その瞬間だった。
バシャァァーーーーンッ
「ドリャアアアッ!! よっしゃ、大漁じゃ!!」
凄まじい水柱と共に、海の中から大量の魚を網に詰めた男が飛び出してきた。
「ウワッ!?」
突然の水飛沫の急襲に、俺はギリギリで 後ろへバックステップを踏んで回避。
なお、ロゼはすでに遙か後方へと避難済みである。
男はこちらに気づいたのか、頭を下げてきた。
「おっ、人がいたのか?すまんかったぜよ!」
青いツンツン頭に小麦色に焼けた肌、顔には野性味あふれる傷跡。
――こいつ、梶木漁太だ。
俺が凝視していると、梶木は不思議そうに首をかしげていたが、俺の左腕に装着されたデュエルディスクを目にした瞬間、その表情をガラリと変えた。
「ほう……その歳でこのバトルシティに参加してるのは、相当な腕前なんだぜよ」
「全国大会3位で、決闘者の王国にも出場したあんたから言われると照れるぜ」
「おっ! 俺のことを知ってるんか! じゃあ話が早いぜよ!」
梶木は爽やかな表情を、獲物を狙うような鋭い笑みへと変えた。
「お前、俺とデュエルじゃ!」
彼はズボンのポケットから、パズルカードを2枚取り出してこちらに見せつけてきた。
(いや、お前……さっきまで海の中に潜ってたろ!?)
思わず心の中で突っ込んでしまった。
海馬コーポレーションの技術力を考えれば、カードの防水加工くらいはデフォルトなんだろうが……それにしても豪快すぎる。
まあ、梶木とのデュエル自体は願ったり叶ったりだ。梶木が水族館で城之内と激突するのは明日。
今ここで俺とデュエルしたからといって、城之内が梶木と戦えなくなって決勝トーナメントに進出できなくなる……なんて事態に陥る可能性は低い。
いくら原作改変をやっている身とはいえ、後の『ドーマ』関連のことを考えると、城之内の成長機会を奪い遊戯側の戦力をダウンさせるような真似は極力避けたいからな。
重要なのは、賭けるパズルカードの枚数だが……梶木が提示した枚数は2枚。俺は少し考えた後、ポケットからパズルカードを1枚だけ取り出した。
「おっ、俺が初の相手なんだぜよ! まあ悪く思うなよ!」
(ここで俺がドヤ顔で2枚見せつけたら、「じゃあ2枚賭けで勝負じゃ!」って流れになれば面倒だし)
梶木はどこかに脱ぎ捨ててあったデュエルディスクとデッキを素早く装着し、俺と一定の距離を取って仁王立ちした。
「さあ!」
「「デュエル!!」」