【漆黒の豹戦士パンサーウォリアー】の鋭い一閃が、銛で反撃を試みようとしていた【伝説のフィッシャーマン】を真一文字に切り裂く。
梶木漁太
LP 150→0
ソリッドビジョンが静かに消え去り、あとに残されたのは、目から涙をこぼしながらもどこか清々しい表情でその光景を見つめる梶木漁太の姿だった。
「見事だったぜよ、城之内。俺の負けじゃ」
「梶木……」
デュエルに勝利した城之内は、どこか心配そうな面持ちで梶木に声をかける。
そんな城之内を見つめ、目元の涙を拭った梶木は、デュエルディスクから2枚のカードを引き抜いた。
「さて……ルールじゃ」
そう言って【伝説のフィッシャーマン】と【要塞クジラ】、そして2枚のパズルカードを城之内へと差し出した。
城之内は、父親の形見を渡されたことにひどく狼狽した。
「バカ!そんなカード、受け取れるわけねえだろ!」
固辞しようとする城之内だったが、梶木は毅然とした態度で言葉を重ねる。
「このカードは、お前に受け取ってほしいんじゃ。こいつがあれば、俺はまたきっと甘えてしまうじゃろが……お前がもらってくれれば生まれ変わることができる」
その言葉に宿る強い決意を感じ取ったのか、城之内もまた、真剣にそれに応えた。
「梶木……このカード、俺の宝にするぜ!」
「頼むぜよ! 次は俺が必ず勝つきに!」
「俺も、もっと強くなるぜ!」
二人は熱い握手を交わし、その様子を見守っている水族館の観客たちからは、割れんばかりの拍手と歓声が送られた。
こうして 熾烈だったデュエルは幕を下ろし、城之内は観戦していた真崎杏子、武藤双六と合流して水族館を後にしようとする。
それを見送る梶木が、急に何か思い出したのか声をかけてきた。
「忘れるところだったぜよ! おい、城之内!」
「ん? なんだ、梶木?」
「俺は昨日、すさまじい奴と戦ったんだぜよ!」
「!? すさまじい奴? どんな奴だ!?」
城之内は瞬時に身を乗り出した。
頭に浮かんだのは、バトルシティ開幕前に自分を襲って、レッドアイズを強奪していったグールズの影。
梶木も奴らに襲われたのではないか?
――そんな懸念を吹き飛ばすように、梶木の口から出たのは拍子抜けするような言葉だった。
「子供じゃ」
「「え……子供!?」」
城之内だけでなく、杏子も双六も予想外すぎる答えにお互いの顔を見合わせた。
「ああ、子供じゃ! どう見ても小学生くらいのガキんちょ……俺も最初は見た目に騙されて少し油断したところもある。
……だが、実力は本物だぜよ」
城之内は「へぇ、珍しいな」くらいの軽いノリで受け止めようとしたが、続く梶木の言葉に一転して愕然とすることになった。
「ああ……俺は奴に、手も足も出ずに『瞬殺』されたんだぜよ」
「はあ!? 梶木、お前が……!?」
梶木の強さは、今しがたデュエルを繰り広げた城之内自身が一番よく知っている。
その梶木が、手も足も出ずに瞬殺された? しかも小学生程度のガキに?
「ああ……奴には、普通のデュエリストとは違う何かを感じたんじゃ。
そいつは絶対に決勝トーナメントに進出してくると、俺の勘が囁いとるぜよ。気をつけろよ城之内」
「梶木、ありがとな! もしそいつと当たることになったら、油断せずに戦うぜ!」
「おう! 簡単に負けるんじゃないぜよ!」
そう言って背を向け、水族館の出口へと歩き出す城之内。
同行する仲間たちもそれに続こうとしたが、杏子がふと何かを思い出したように、最後に梶木へ問いかけた。
「ねえ、梶木くん。もしかして、その子の名前って分かる?」
「ああ、奴の名前は――」
――神楽坂太郎
▽
童実野町『バーガーワールド』
「ハックション!」
「あら? どこかで、お兄様の悪口でも言われているのでしょうか?」
「おい。そこは悪口じゃなくて、噂だろ」
「同じでは?」
「同じじゃねえよ!」
ロゼの毒舌が炸裂し、いつもの不毛なやり取りを繰り広げる。 今、俺とロゼがいる場所はバーガーワールド。
今年、凶悪な脱獄囚が絡む人質事件が発生した場所だが、現在は何事もなく通常営業している。
(というか、メニュー表にサラッとアルコール度数90度のウォッカが並んでいるあたり、実に頭童実野町だな)
そうやって注文したハンバーガーが運ばれてくるのを待っていると、ロゼが突如として耳元に手を当てた。
通信を受けているらしい。
待っていると、彼女は手を下ろし、受け取った情報を報告してきた。
「ジョン・クロード・マグナムが、3枚目のパズルカードを賭けた、デュエルを開始した模様です」
「いよいよか。ならサッと飯を食って、あのハリウッドスター様をにお目にかかるとするか」
▽
ジョン・クロード・マグナム。アニオリキャラであり、ハリウッドのB級映画『ニンジャシリーズ』の主演俳優。
孔雀舞に求婚するためバトルシティに参加、アニメ原作通りならパズルカードを5枚も集める男だ。
このまま行けば今日の夕方、パズルカードを6枚集めて童実野スタジアムへ向かう遊戯一行の前を立ちはだかり、孔雀舞にプロポーズをかけたデュエルを挑んでくるはずだ。
また、デュエルの結果自体は彼の負けに終わるものの、この世界の住人らしからぬ往生際の悪さを見せ、自分のモンスターに変装させたスタントマンを使って孔雀舞を拉致しようとしたリアリストでもある。
彼をターゲットに選んだ理由は、あんな出落ちみたいなキャラのくせに大量のパズルカードを所持しているから、だけではない。
奴を今のうちにリタイアさせ、遊戯たちを余計な消耗なしで童実野スタジアムへ導くためだ。
特に、孔雀舞。
バトルシティの決勝トーナメント進出枠は8名と決まっている以上、出場するためには原作メンバーから枠を奪う必要がある。
俺が先に童実野スタジアムで待っていれば、原作で一番最後に到着したイシズ・イシュタールを除く8名が出場することになるかとも考えたが、彼女が未来を予知する『千年タウク』を持っている以上、確信は持てない。
マリクとリシドは、社長がヘリで到着した時にはすでにスタジアムの観客席に潜伏していた。
つまり俺が日の沈む前に到着すると仮定すれば、俺を含めた4名は遊戯たちが来るより前に到着していることになる。
そこに、もしイシズが未来の予知を見て遊戯たちより先にやってくるとすれば、計5名。
その後、遊戯一行3名が到着すれば、ちょうど8名で計算は合う。
だが、考慮すべきはバクラの存在だ。
作中では遊戯たちの後に到着するが、疑いを逸らすためにあえて遅れてやってきた可能性も十分考えられる。
つまり、まだどう転ぶかはわからない。
でも、もし遊戯一行の中で脱落者を出さなければならない状況になる場合、後のドーマによる闇落ちを防ぐためにも、ここで孔雀舞を落としマリクとの対戦を回避させ、トラウマを植え付けさせない方向でいきたい。
だが、俺がトーナメント進出をかけた勝負を挑んだとして、もしスタジアム到着前に原作通りマグナムと舞がデュエルしてしまえば、お節介な遊戯たちのことだ、舞の連戦を気遣って誰かが代わりに受けるかもしれない。
それを防ぐためにも、ジョン・クロード・マグナムをここで狩りたいと思うのだ。
▽
「スマナかったね、ボーイ」
「く、くそっ……!」
倒した男から3枚目のパズルカードとレアカードを回収するジョン・クロード・マグナム。
「パズルカードも3枚集まりマシタ。ソロソロ、マイサンを探したいデスが」
そう呟きながら、路肩に停めてあった高級リムジンの横へ移動し、ドアを開けようとした瞬間――
パパンッ! パパンッ!!
突然、リムジンの4輪すべてのタイヤが同時に爆発した。
「オー、ガッデム!? ナニが起きたのデスか!?」
中に乗っていたマグナムのスタッフや運転手も慌てて飛び出し、車の無残な状態を見て混乱に陥っている。
「うわぁ、一体誰がこんな酷いことをー(棒読み)」
どうすべきかとスタッフたちが頭を抱えているのを後ろで見ていた彼に、俺は声をかけた。
「よう!あんたジョン・クロード・マグナムだろ?助けが必要か?」
声をかけられたマグナムは振り向いたが、子供2人組だと知るや、また自分のファンが話しかけてきたのだと勘違いしたらしい。
露骨に鬱陶しそうな顔を浮かべた。
「ヒト違いデス、コドモはウチに帰りナサイ」
そう言った後、シッ、シッ、と手で追い払おうとする
(おい、ハリウッドスターのファンサービス、それも子供相手の対応がこれってどうなんだ? もし動画でも撮られてネットに流出したら大炎上だぞ)
まあ、作中の言動を見てこんな対応は織り込み済みだ。こういう奴を相手にする時は、目の前に餌をぶら下げてやるのが一番手っ取り早い。
俺はポケットから端末を取り出し、近くの壁に映像を投影した。
「ナッ!?」
目を剥いて驚くジョン・クロード・マグナム。
それもそのはず、壁に映し出されているのは、スポーツカーに川井静香と御伽龍児を乗せ、街を走らせている孔雀舞の姿なのだから。
現在、彼らの頭上には超小型のステルスドローンが旋回しており、そこからリアルタイムで映像が送られている。
「オー! マイサン! ソコにいましたか! イマ、迎えに行きマス!」
慌てて車に乗り込もうと背を向けたマグナムだったが、自分のリムジンの惨状を再び見てハッと正気に戻り、チッと舌打ちをした。
そして、再びこちらへと向き直る。俺は映像を切り、淡々と説明を始めた。
「この端末は、今もリアルタイムであんたが探している孔雀舞の居場所を示している」
「オー! ボウヤ! ソレをコッチに渡しナサイ!」
(お金で買わせてくれでもなく、ただ渡せだと? こいつ正気か?)
俺は鼻で笑い、こちらの条件を叩きつけた。
「この端末が欲しいなら、俺とパズルカード3枚を賭けてデュエルだ。あんたが勝てば、この端末もつけてやるよ」
そう言って、ポケットからパズルカード3枚を取り出してみせた。
マグナムは俺の左腕に装着されたデュエルディスクを目にし、ようやく俺がバトルシティの参加者であることに気づいたらしい。
目を見開いたが、次の瞬間にはその顔がニヤリとした笑みに歪んだ。多分、こんなガキくらい一瞬で捻り潰せるとか思っただろ 。
「オーケイ! ソノデュエル、受けて立ちマショウ!」