ラーイエローの神楽坂   作:ラララララクダ

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第6話 Z-ONE

Z-ONE side

 

 

 

『あれ』を観測したのは、 全くの偶然でした。

仲間たちをすべて見送り、たった一人残された私は、それでも彼らと交わした「世界を必ず救う」という約束を果たすべく、幾度となく試行錯誤を繰り返していました。

しかし、神の権能を間接的に行使できる今でさえ、世界を救う糸口すら見えません。

 

『モーメント』を除去しようとも、滅びは避けれぬ運命であるかのように、人類はその持つ魅力に抗うことができず、何度でもあの忌まわしい装置を作り出してしまう。

そして結局暴走して、世界を焼き尽くす。

概念そのものを消し去るため、不動博士が開発に着手せぬよう歴史を修正しても、その都度別の人間が『モーメント』を作り上げ、正史よりも凄惨な結末を迎えるだけ。

『モーメント』の誕生は防げないと悟り、過去の人類を「クリアマインド」へと導こうとしても、結局のところ人類は、その危険性と必要性を説いたところで、境地に達する者は極わずか。

結局、世界は私が辿った結末を繰り返すだけでした。

 

おそらく、疲れていたのでしょう。

私に残された時間が人類に残された時間と等しいと考えるならば、 一分一秒を無駄にすることは罪悪。

それでも私は、この世界がこれまで幾度となく迎えてきた滅びの瞬間に現れ、英雄のように活躍し、世界の滅亡を食い止めてきた歴代の決闘者たちの姿を見てみたかったのです。

 

武藤遊戯、遊城十代、そして……不動遊星。

 

記録としてではなく、実際の過去の時代を投影して彼らの活躍を確認することは、今の私には容易なことでした。

実際にAIを用いて膨大な過去をモニタリングし、救いの端緒を探らせています。

 

私自身が直接それを見ることに、合理的な意味はありません。

だとしても、彼らの勇姿に何かを掴むのではないか。

そんな縋るような思いで、変動しても結局は収束する歴史のその小さな枝を投影し、高速で再生しようとしたのです。

 

その時でした。

私が観測していた歴史の枝が、信じがたい速度で『横』へと伸びていったのです。

長い研究の中でも初めて目にする現象でした。

放置すれば瞬時に光速を超えて遠ざかり、二度と捉えることは不可能になる。私は持てる技術のすべてを動員し、その枝を追跡しました。

 

その座標を過去の観測データから既に把握していたこと。私の目の前で起きた事象であったがゆえに、直接全力で対処できたこと。

そんな、いくつもの幸運が重なって、私はついにその歴史の枝に干渉用の『楔』を打ち込むことに成功。

これにより、その歴史がどのような挙動を見せようとも観測し続けることが可能となったのです。

私は直ちに、歴史がこのような異常を見せた原因を探るべく、モニタリングを開始しました。

 

その原因を突き止めるのに、さほど時間はかかりませんでした。原因があまりにも明確な痕跡を残していたからです。

このような挙動を引き起こした原因――

それは、この世界を構成する『十二の次元』、そのいずれにも属さない『未知の次元』からの干渉。

莫大な力によってこの世界に穴を穿ち侵入してきた何者かに対し、世界そのものが自らを守るため、侵入された歴史の枝を可能な限り遠くへと押しやったのです。

 

この現象を利用し、モーメントが存在し得ない歴史を作り出して隔離すれば、その歴史では人類が存続可能なのではないか、そのような仮説も浮かびましたが。

結局のところ歴史の枝が完全に切り離されたわけではなく、ただ一時的に遠ざけられているに過ぎないのだとすれば、やがてこの侵入者に対しても歴史が耐性を獲得し、以前と同じように収束するのでしょう。

それでも、サンプルデータの一つとして利用する価値はあると判断し、この歴史の枝へ侵入した存在を突き止めるため、逆追跡を行いました。

 

その発見も、やはりそれほど時間はかかりませんでした。

その存在はカードの精霊。

観測装置をもってしても正確な姿を確認することはできませんでしたが、その力は測定すら困難なほどの規模。

 

仮にその力を利用できれば世界を救えるのではないか?そうした思考実験も行いました。

しかし、たとえ力が存在していたとしても、その向かう先が定まっていなければ意味はありません。

そう判断し、私は観測を終了しようとしました。

 

その時でした。

 

 

「イリアステル……いや、Z-ONE! 貴様、見ているなッ! 俺はモーメントの暴走をほぼ確実に防ぎ、世界を救う方法を知っている。

その方法を知りたければ、直接会って話をしよう。30分後に迎えを寄越せ」

 

観測対象の隣にいた少年……いや、少年と呼ぶには幼すぎる五歳ほどの子供の声が、観測機器を通じて私に届いたのです。

私は絶句しました。

この世界の運命、その解決法、そして私の存在。

この幼き少年は、少なくとも解決法を除いた二つを完璧に把握している。

 

私は彼が要求した時間に間に合わせるべく、急ぎ『楔』を利用してその歴史と相互作用できる通路を構築しました。

楔を打ち込んだ以上、私のいるこの場所とその歴史は連動しています。時間の流れさえ同期しており、遡ることはできません。

彼が要求した30分は、私にとっても等しく30分。

私はその歴史に潜伏させていた三皇帝を遠隔起動し、時間通りに迎えに行くよう命じました。

 

通路は完成し、少年は予定通り、時空を越えて私の拠点へと到着しました。

急造の通路による時空移動は、計算上では肉体に多大な負担を強いるはずでしたが、彼が使役する神の助けか、スキャン結果に異常は見られません。

そうして私は、彼に言葉を掛け、対談を開始したのです。

 

対談の中で語られた内容は、信じがたいものばかりでした。

まず、彼はこの世界を『創作物』として観測できる『上位次元』から魂だけが転移してきた存在であるということ。

上位次元という仮説は持っていましたが、その証左がこのような形で現れるとは。

彼は自らについて説明した後、本題を切り出しました。

 

「世界を救う方法を教えると言ったな。俺はその方法がモーメントの暴走を止めると確信している。だが、言葉で長く説明する必要はない。デュエルで見せてやる」

 

私は一瞬、この幼い少年が何を言っているのか理解できませんでした。

しかし、その意図を理解すると同時に、失望に近い苛立ちを覚えたのも事実です。

 

「デュエルで見せる」とは、すなわち彼が使役する精霊……神の力を私に見せつけるということだと解釈したからです。

私自身、神の恩恵を受けている身として、その強大さは熟知しています。しかし、世界の滅びは神の力をもってしても回避できなかった。

求めているのは「力の強大さ」ではなく、その力を振るうべき「方向性」であるということを、この少年は理解していないのか。

一時はそう考えましたが、彼は異世界の存在だと自らを納得させ、わずかな可能性に賭けてデュエルを承諾しました。

 

果たして、彼のデュエルは実に見事なものでした。

まるで私のデッキを完璧に把握しているかのように……いえ、実際に観測していたのでしょう。

致命的な瞬間に妨害を仕掛け、私の行動を制約してくる。伏せカードの内容まで読み切るその優れた戦略眼。

一時は頭に血が上り、挑発的な言動をしてしまったが、称賛すべき実力であることは疑いようもありません。

 

結局、彼のバトルフェイズは終わり、未知のカードではあっても異世界のデュエルも大差はないと結論付けようとしたその時。

彼は不敵に笑い、新たな召喚法を見せつけた。

 

エクシーズ召喚。

この世界では見たことも聞いたこともない、未知の召喚法。

空に浮かぶそのモンスターの威容は、彼のデュエルはここからが本番であるという警笛を、私の心に鳴り響かせたのです。

 

 

 

 

 

 

【No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク】ランク 7 DEF 3000

 

 

『……エクシーズ召喚、ですか?』

 

私の問いに、少年は「まあこれから展開するから、召喚法の説明はデュエルが終わってからでもゆっくりするよ」と軽く受け流し、ターンを継続します。

 

「【No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク】の効果発動!

このカードのオーバーレイユニットを二つ使い、自分フィールドに【バトル・イーグル・トークン】を可能な限り特殊召喚する!」

 

その宣言とともに、巨大な宇宙戦艦の周囲を回っていた光が消え、代わりに小型のモンスターが4体出現しました。

 

 

【バトル・イーグル・トークン】×4 レベル 6 ATK 2000

 

 

『同時に攻撃力2000のモンスターを4体も……』

 

私の動揺を見透かしたように、彼は語ります。

 

「一見インチキ効果に見えるけど、発動後、相手が受ける戦闘ダメージは0になるデメリットがあるんだ」

 

『ダメージが0……まさか、それゆえに?』

 

「正解。バトルフェイズを先にして【焔征竜-ブラスター】で攻撃したのは、このデメリットを回避するためさ」

 

私は彼の戦略に、再び感嘆せざるを得ませんでした。

これにより彼のフィールドには攻撃力2000を超えるモンスターが4体。並の決闘者ならば圧倒される物量でしょう。

 

だが、

 

『時械神の前では、数の優位など無意味。攻撃力の高さは自らの首を絞める行為であると、貴方ならご存じのはずですが?』

 

「ん? ああ、トークンはこのターンのエンドフェイズに破壊されるから、そんな心配は無用だ」

 

『何ですと?』

 

理解が追いつきません。緻密な戦略で私を追い詰めた彼が、なぜエンドフェイズに自壊する無意味な効果を使ったのか。

しかし、その疑問はすぐに氷解しました。またしても、私の知らぬ『召喚法』によって。

 

「現れろ! 未来を……えーっと、何とかするサーキット!」

 

彼の宣言とともに、虚空に八方向へと矢印が伸びた青い回路、サーキットが出現しました。

 

「召喚条件は機械族モンスター二体以上! 俺は【スターシップ・ギャラクシー・トマホーク】と【バトル・イーグル・トークン】二体、合計3体をリンクマーカーにセット!」

 

三体のモンスターが次々と回路へ吸い込まれていきます。

 

「サーキット・コンバイン! リンク召喚! リンク3、【幻獣機アウローラドン】!」

 

 

【幻獣機アウローラドン】リンク 3 ATK 2100

 

 

回路の向こう側から、幻影を纏った漆黒の戦闘機が飛び出してきました。

 

『なるほど…トークンの多量展開は、それを素材とした新たな召喚法に繋げるためでしたか?それにしても、『幻獣機』とは……』

 

『幻獣機』は私の世界にも存在したカード群です。それが別世界では新たな召喚の力を受け入れ、さらなる進化を遂げていると。

 

「【幻獣機アウローラドン】の効果発動! リンク召喚に成功した場合、自分フィールドに【幻獣機トークン】三体を特殊召喚する!」

 

『三体!? しかし、貴方のフィールドには既に……』

 

私は思わず動揺し、スキャン機能で情報を確認しました。

すると驚いたことに、彼のフィールドには通常のモンスターゾーン五か所に加え、その上部に見慣れない謎のゾーンが二つ存在していたのです。

そして、彼が召喚した【幻獣機アウローラドン】は、そのうちの一つに存在していました。

 

 

【幻獣機トークン】×3 レベル 3 DEF 0

 

 

『これが、異世界のデュエル……』

 

未だ全容が見えません。

 

「驚くのはまだ早い。あんたの反応を見るに『幻獣機』を知ってるんだろ? なら、こいつらがどんな召喚法に適しているかも知ってるはずだ」

 

『適しているのは当然……まさか』

 

「そのまさかだ! 【幻獣機アウローラドン】の効果発動! フィールドのモンスター二体をリリースし、デッキからチューナーモンスター【幻獣機オライオン】を特殊召喚!」

 

 

【幻獣機オライオン】レベル 2 DEF 1000

 

 

「レベル3の【幻獣機トークン】に、レベル2の【幻獣機オライオン】をチューニング!

シンクロ召喚!

現れろ、シンクロチューナー【源竜星-ボウテンコウ】!」

 

 

【源竜星-ボウテンコウ】レベル 5 DEF 2800

 

 

「【源竜星-ボウテンコウ】と墓地へ送られた【幻獣機オライオン】の効果を発動!

【幻獣機トークン】を1体フィールドに特殊召喚。

そしてデッキから【光竜星-リフン】を手札に加える!」

 

 

【幻獣機トークン】レベル 3 DEF 0

 

 

『私が知らぬシンクロチューナーだと!?』

 

(彼のいた次元は、シンクロ召喚さえもこちらとは違う進化を遂げているというのか)

 

「まだまだ行くぜ!レベル3の【幻獣機トークン】にレベル5の【源竜星-ボウテンコウ】をチューニング!

【カラクリ大将軍 無零怒】をエクストラモンスターゾーンにシンクロ召喚!

さらに、召喚された【カラクリ大将軍 無零怒】と墓地へ送られた【源竜星-ボウテンコウ】の効果で、デッキから【光竜星-リフン】と【カラクリ守衛 参壱参】がフィールドへ特殊召喚される」

 

【カラクリ大将軍 無零怒】レベル 8 ATK 2800

 

【光竜星-リフン】 レベル 1 DEF 0

 

【カラクリ守衛 参壱参】 レベル 4 DEF 1800

 

 

再びフィールドに並ぶ六体のモンスター。

彼は【No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク】を召喚して以来、手札の枚数がまったく減っていないのです。

モンスターがモンスターを呼ぶ無限の連鎖。思わず感嘆せずにはいられませんでした。

 

ですが、

真に驚くべき事態は、この直後に起こったのです。

 

「俺はレベル8の【カラクリ大将軍 無零怒】にレベル4の【カラクリ守衛 参壱参】をチューニング!

集いしロボットがなんか凄い神となる!

光差す道となれ!

シンクロ召喚! 光臨せよ、【赤き竜】!!」

 

調律 の光の中から現れたのは、紅蓮の光をまとった巨大な龍。

 

 

【赤き竜】 レベル 12 DEF 0

 

 

『……なっ!?』

 

それは、滅びをもたらす冥界の王と幾度となく死闘を繰り広げ、そのたびに勝利し、世界を守ってきた守護神。

赤き竜【ケッツァーコアトル】だったのです。

 




『Z-ONEが行っている試行錯誤や、未来を救えない理由』
彼の心境含めて、すべてオリジナルです。
おそらくこういう理由だったのではないか?と考えながら書きました。

『現れろ! 未来を……えーっと、何とかするサーキット!』
主人公は最初は普通にプレイメーカーの召喚口上「現れろ!未来を導くサーキット!」をそのまま丸パクリする予定でした。
ですが途中で、(……あれ?『未来を導く』って、Z-ONEにとって完全に地雷ワードでは?)
ということに気づいて、慌てて頭をフル回転させてひねり出した結果です。
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