デュエルには勝った。
Z-ONEのやつ、ドローを見て絶望した顔でセットしたから、どれだけ使えないカードを引いたんだと思ったら、そのカードは【愚者の裁定】効果は「自分への戦闘ダメージを0にする」こと。
つまり、あの表情に騙されて【地征竜-リアクタン】を召喚せずに【創星神 sophia】だけで攻撃してたら、逆転のチャンスを与えていたってわけだ。
まあ、前のターンで【地征竜-リアクタン】をサーチするのを見てたZ-ONEにとっては、あのドローは死刑宣告も同然だったんだろうけど。
「きゅるるるっ!!(ノ≧∀≦)ノ」
「ぶもぉぉぉぉぉっ!」
隣ではラドリーとソピアが狂喜乱舞している。特にソピア、神の威厳が迷子になるくらい浮かれまくっている。
まあ、最近の身内デュエルじゃ出番なかったもんな。
友達とやろうとすると、あいつ『M∀LICE』とか使ってくるし。全除外しても「リソースあざーす!」って展開される悪夢。
あいつ、人の心とかないんか?
さて、
デュエルが終わっても魂が抜けたように呆然としているZ-ONEに歩み寄る。
やっぱり遊戯王の住民、負けたショックがデカいのか。それとも、老体にあのド派手なソリッドビジョンの応酬はキツかったか?
言葉で説明すればよかったかな……いや、この世界でソピアを活躍させられるの、ここくらいしかなかったからな。しゃーない。
「おい、大丈夫か?」
『お気になさらず。自分自身を見つめ直す良い機会となりました。素晴らしいデュエルでしたよ』
……こいつ聖人か? 後半、俺が一方的に展開して終わったデュエルを素晴らしいだなんて。良心が痛む。いやマジで。
Z-ONEは深く息を吐き、静かに口を開いた。
『貴方 がデュエルで示したかったのは、その強大な神の力……その力で世界を救済する、ということですね』
「いや、全然」
俺は首を傾げた。こいつ何言ってんだ? 負けてメンタルいかれたか?
予想じゃ、Z-ONEなら『なるほど、その手がありましたか』って俺の意図を察して、実現可能性を淡々と議論してくれるはずだっだが。
「そもそもソピアにそんな難しいことできないだろ、たぶん。だってこいつ分身だし」
横でソピアが「もぉぉお〜っ!!」(私なら何でもできるよ!)と抗議してるが無視だ無視。
Z-ONEは戸惑ったように聞き返してくる。
『では……貴方 はあのデュエルで、私に何を伝えようと?』
よし、説明タイムだ。
「さっきのデュエルで分かったと思うけど、俺の世界には融合・儀式・シンクロ以外にも、エクシーズ・ペンデュラム・リンクっていう召喚法がある。
でも、最初から全部あったわけじゃないんだ。最初はこっちと同じで、融合・儀式からシンクロへと発展した」
『この世界と同じ、だと?』
「シンクロが出た当初は、それまでの融合・儀式デッキが絶滅するくらいシンクロ一色だった。でも、この世界とは違ってシンクロの時代は唐突に終わりを迎えたんだ。
エクシーズの登場でな」
Z-ONEの表情が変わる。
「最初は『シンクロの方がパワーがある』『オーバーレイユニットの回数制限が不便だ』なんて評価もあった。
でも、チューナー不要で同じレベルを並べるだけの圧倒的な手軽さと汎用性が、シンクロを瞬く間に駆逐」
俺はキャリアケースからエクシーズカードを数枚取り出し、その仕組みを解説した。
(あぁ、当時の『甲虫装機』はヤバかったな。ゼンマイハンターでハンデス……うっ、頭が)
『まさか、貴方 の狙いは……』
「まあ待て。さらにそこから、埃を被ってた融合がデッキ融合なんてイカれたギミックを引っ提げて復活したり、全召喚法と相性のいいペンデュラムが登場したり、さらにはリンク召喚が環境を塗り替えたり。あっ!なんか儀式召喚もパワーアップして帰ってきたし。
結果として、今の俺の世界はどの召喚法も独自の強みを持って競争してる。カードのインフレはとんでもないことになったけどな」
Z-ONEは情報を整理するように、しばらく沈黙してまた口を開けた。
『貴方 が考えるモーメントの暴走を防ぐ方法とは、過去にそれらの召喚法を流布し、シンクロ召喚を相対化……
いえ、淘汰させることでモーメントの回転を抑制することですか』
「正確には、淘汰じゃなく『生半可なシンクロじゃ勝負にならない』環境を作ることだ。
クリアマインドの境地くらい平然と使いこなさないと生き残れない魔境にすれば、どっち に転んでもモーメントの暴走は防げるだろ?」
『確かに、これまでの試行錯誤とはまったく異なる方向からのアプローチです。
想像すらしていなかった発想……
……いいえ、これは言い訳に過ぎないのでしょう。
この世界にも、融合・儀式召喚という別の召喚法が確かにあった。
それを最初から選択肢から外し、「すべての方法を試した」などと一瞬でも思ってしまったとは。
これは、紛れもなく私の怠慢。
私はいつしか、進化とはシンクロだけの特権――
アクセルシンクロやデルタアクセルシンクロこそが、デュエルの最終進化であると信じ込んでいた。
そして気づかぬうちに、滅びの原因であるシンクロに自ら囚われ、人類の持つ新たな可能性を、私自身が否定していたのですね』
おいおい、めちゃくちゃ自責してるな。融合と儀式の話はしない方がよかったか? まあこいつの頭脳ならいつか気づくだろうし。
『立ち止まっている時間はありません。
この方法も解決しなければならない問題はいくつもあるんですが、まずは実験を。
私はこれより、計画を現実のものとするためのツールの作成に取りかかることにします。』
急にやる気を出してどこかへ行こうとするZ-ONEを、慌てて止める。
「待て待て! 普及させるのはいいけど時期はWR-GPX、せめてダークシグナー掃討の後にしてくれ」
『理由を伺っても?』
「さっき、別の世界からこの世界を見てきたと言ったろ? 俺が知る限り、この世界は何度も滅びの危機に瀕してきた。
それを武藤遊戯、遊城十代、不動遊星みたいな決闘者たちが、デュエルで解決してきたんだ。」
(なんだよ、 何度も世界滅亡のピンチて? 頭おかしいんじゃねーのか?世界征服とか永遠の命とか、そんな可愛げがあることにしとけよ!
なんでみんな破滅志向なんだよ!?)
内心ではこの世界の理不尽さにそうツッコミを入れつつ、俺は言葉を続けた。
「しかも、それらは全部、奇跡の連続で掴み取った勝利。
新しい召喚法を広めて彼らが強くなればいいけど、それ以上に敵側が強化されて、モーメントの暴走以前に世界が滅んだら元も子もないんだろ?」
もしエクシーズ召喚なんて広めたせいで、敵がフルパワーの『ライゼオル』やら『K9』やらを担いできたら……
想像しただけで背筋が凍る。
あんなの悪夢以外の何物でもない。
『確かに、彼らの戦いに不必要な変数を加えるのは、私としても避けたいところです。
ですが、なぜWR-GPXの時期なのですか? それ以降も、不動遊星とその仲間たちは何度も世界を賭けた戦いに巻き込まれたと記録されていますが』
「……は?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
え、何それ? ダークシグナーの後にも、さらにおっかない連中が控えてたってことか?
そういえば、Z-ONEのいた未来の遊星やジャックも、『トップクリアマインド』やら『バーニング・ソウル』やらを習得してたって設定資料集か何かで見たような……
つまり、イリアステルが介入しなかった歴史でも、それらが必要になるレベルの激戦があったってことか?
そういえば、スカーレッド・ノヴァもあっさり封印された感があったけど、もし復活して暴れ回ってたら……?
極神がいるなら、それに対抗する死神みたいな連中がいてもおかしくないし。
……やっぱりこの世界、ガチの魔境じゃねーか!
俺は冷や汗を拭いながら、せめて俺が知っている範囲の真実を告げた。
「とにかく、俺が知っている彼らの最後の戦いはWR-GPXの時点なんだ。
そして、そこで彼らの前に立ちはだかる最後にして最大の敵こそが――」
「Z-ONE、あんたなんだよ」
なぜ敵が影響を受けて強くなることを恐れていたはずなのに、Z-ONEの前で別の召喚法を使っちゃうの?
という、支離滅裂な行動を取った理由が出てきた回でした。
要するに主人公は、すべてをぶっちゃけた上で、それを利用してモーメントを止める方法と提示し、Z-ONEを説得するつもりだったわけです。
そして万が一、話が変な方向に転がって敵対することになっても、
ソピアが一瞬で塵にできると断言していたので、それを信じてそのまま突っ走った、という感じです。