多分なんだけど、俺が天才パイロットすぎる。   作:泥人形

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彼にも考える時がある。

 死ぬということがどういうことか、最近は良く考える──なんてことを言い始めると、まるで俺が急に希死念慮を持ち出したのか、あるいは突然メンタルに限界がきたのかと思われるかもしれないので、先んじて言っておくのだが、そんなことはない。

 ただし、以前よりは確かに考えることが増えた。それは事実と言えるだろう。

 具体的に言えば、俺が未来で死ぬという話を、聞いたあたりから。

 

 ご存知の通り、俺は実に楽観的な男であり、意図せず調子に乗ってしまう愚か者であるからして、正直なことを言うと、それまで自分が死ぬとは全く思っていなかったのだ。

 いや、いいや。

 思わなくなった──という表現の方が適切か。

 

 幾度もアイギスに乗って、戦場に出た。その度に勝利の美酒に酔いしれた。

 生身のところを襲撃されたこともあった。その度に傷一つ負わないことに、違和感を覚えた。

 あまりにも死が身近なところにいたはずなのに、確かに死が遠のいていくような、そんな感覚があった。

 

 だから、未来の俺の訃報というのは、衝撃的であったと言っても良い。

 え? マジで? 俺が!? 誰に!!?

 そんな奴がこの世にいるのかよ! とすら思った。というか、今ですら思っている。

 

 だけど、それ以来だ。

 俺が死ぬとはどういうことか、なんて堅苦しいことを考え始めたのは。

 死。命の終わり。人生の果て──あるいは、新たな生が始まる、その契機。

 

 それは、恐ろしいことなのだろうか?

 それは果たして、恐怖するべきことなのだろうか?

 

 前の人生における俺の死というのは、実にあっさりとしたものであった。

 赤信号を無視したトラックが突っ込んできた。

 俺はそれを躱しきれなくって、普通に死んだ。

 それだけだ。

 

 今にして思えば、痛みがあったのかすら分からない。

 それくらい一瞬で、本当にあっけないものであった。

 で、気付けば今の人生が始まっていた。不思議な話だ。

 

 不思議な話だけれども──実際に起こったことで、だからこそ、死ぬということに、あまり現実味がないのかもしれない。

 そりゃあ、死ぬのは怖い。普通に忌避してる。望んで死にたいとは全く思わない。当然だ。

 だけど、そう思う一方で、死んだらまた別の人生が始まるんじゃないか? なんてことを思わないでもない。

 もし仮に始まるのなら、別に良いじゃないのか──と、思わないと言ったら、嘘になる。

 

 もちろん、悔いが全く無い訳ではない。

 如何にこの世界が過酷と言っても、好きだったゲームの世界であり、好きだった登場人物がいて、カッコいロボットがいるのだから。

 そんなの、最高としか言いようがないだろう。1ファンとして、夢のようだと言っても良い。

 

 だから、ひよりとあーちゃんが幼馴染と分かった時は、滅茶苦茶に舞い上がった。

 二人と交友を深めるにつれ、葛藤と喜びを得た。

 アイギスを初めて見た時は興奮した。思わず乗り込んで、動かせてしまった時は、ドキドキが止まらなかった。

 たくさんの武装を扱えるのは純粋に楽しかった。星骸を倒せば倒すほど快感を得た。

 

 ──でも、言ってしまえばそれだけだ。

 あーちゃんに見透かされていた通り、俺は2人に──否、2人に関わらず、他人には線引きして接していたし、アイギスにだってもう、嫌になるほど乗った。

 それでもう、満足していたのだ。それこそ、ほとんど悔いが残らないほどに。

 

 20歳までは生きよう。

 大人と呼ばれる歳になって、大人らしいことをしてみよう。

 今にして思えば、最初に立てたその目標こそが、俺をここまで惰性のように連れてきたとすら思えるほどだ。

 それももう、俺の中では形骸化していたようなものなのに──何せ、俺は自分が死ぬとは到底思っていなかったのだから。

 

 あとは流れ作業。

 適当に戦って、適当に生き残って、その時その時でやりたいことやって、最後は多分、適当に死ぬ。

 それで良い。いや、それが良い。

 俺にはそれが、きっと相応しい──そんな生き方が、多分ジジイには、命知らずに見えていたのだろう。

 

 命を軽く扱っているように見えたのだろう。

 あの人は、本気で生きてきた人だから。

 一瞬一瞬を全力で生きてきて、今がある人だから。

 

 そしてそれは、間違いじゃない。

 俺は自分の生き死にをぞんざいに扱ってきた。

 

 でもさ、ジジイ。笑わないで、聞いてくれよ。

 

「俺、最近マジで、死ぬのが怖いんだ……」

 

 きっかけは、食堂での一件だった。

 レムナントの襲撃で、あーちゃんとひよりが襲われた時のこと。

 ──別に、俺が命を狙われていたこと自体に、改めて恐怖を覚えた訳じゃない。

 俺だって散々人を殺してる。

 その時が来たのなら、それは仕方のないことだろう。

 

 ──だけど、その後は?

 これでも俺は、相当な戦場を渡り歩いてきた。

 不特定多数に恨みを持たれているのは間違いない。

 宙央同盟が俺の捕獲を試みたのも、その現れだろう。

 では仮に、俺が死んだ後、俺と親しくしてくれた人に、そいつらが手を出さない保証はあるだろうか?

 

 残されたひよりは? あーちゃんは? ジジイは? アルテマリアは?

 道半ばで俺が命を落とした時、彼らはその後、平穏無事に幸せでいられるだろうか。

 

 そうでなくとも、守り切れなかったら?

 俺は、俺が死なないように立ち回るのは簡単だ。

 でも、守る人がいたら? 守れなかったら?

 誰かと一緒に戦うなんて、これまで碌にしてこなかったのに。

 

「それが、怖い。俺は、俺が死ぬことよりも、俺が死んだ後、皆が傷つくことの方が、よっぽど」

「じゃあやっぱり、のどかにはちゃ~んと守ってもらわないとだね」

「そりゃ言われるまでもなく、最大限の努力はするけどさ……それでも、俺の手が届く範囲ってのは、限られているから」

「だったら、ずっと傍にいるよ~。のどかの隣を、ひよりがずっと歩いてあげる。それで良いでしょ?」

「何だそりゃ、プロポーズか?」

「プロポーズですとも。そろそろお嫁さんにランクアップしても良い頃合いじゃん?」

「じゃんって……ひより、お前な──」

 

 ──ん? ひより?

 自分で口にしてから、「は?」と思った。

 次いで、「いや、いる訳ないだろ」と思い。

 それから、「じゃあ今の会話何?」という疑問を覚えた。

 

 そう、疑問だ。

 何故ならここは──教室でもなければ、俺の部屋でもない。

 もちろん、ひよりとあーちゃんの部屋でもないし、格納庫でもない。

 

 では、どこなのか?

 答えは簡潔だ。

 窓の向こうには、先の見えない真っ暗闇が広がっている。

 生身の人間では、数十秒ともたずに息絶える空間だ。

 その中を、俺たちは超高速で翔け抜けている──つまり!

 

 ここは──宙央同盟:小惑星基地に向かっている()()()()()()

 乗組員は俺1人だけ、操縦等はAIにお任せだ。

 だから、ひよりがいる訳がない。

 というか、いて良い訳がない──のだが。

 

 ゆっくりと横を見れば、腰が抜けるほど可憐な美少女がいた。

 

 美しい、銀色のセミロング。

 慈愛と悪戯心に満ちた、深い青の瞳。

 白磁器を思わせる透き通った白い肌。

 所作の一つにすら、魔性的な魅力を纏っている。

 

 というか、ひよりだった。

 な、何故ここに……。

 

「え、えへへ。来ちゃった」

「彼氏の部屋に初めて連絡なしで来ちゃった彼女の台詞?」

「当たらずとも遠からずじゃない?」

「遠からずって言うか、大暴投って感じなんですけど……」

 

 小型艇が発進したのは、先日のことである。

 だから、コロニーはとっくに見えなくなっており、今は優雅に宇宙旅行中だった。

 というか、だからこそ気が緩み、独り言をポロポロ漏らしていたと言いますか……。

 誰もいない前提でいたと言いますか……。

 

「えーっと、そのぉ……。お、怒ってる?」

 

 溜め息交じりにジロジロと見ていたら、ひよりが不安げにそう言った。

 返答としては、正直微妙なところだ──今回の作戦は、全てが俺に委ねられている。

 この小型艇を使用することに決めたのも、荷物を積み込んだのも、昨日出発したのも俺だ。

 

 だから、どこかのタイミングでひよりに気付けなかった、俺に落ち度がある──というのは、少々ひよりを甘やかしすぎか?

 いや、でも実際、俺が悟れなかったことに、問題があるからな……。

 その気になれば、隠れていようが見つけられていた自信がある以上は、俺にも責任があると、言えなくもない。

 

 てか何かこれ、原作でも似たようなシチュエーションあったよな……。

 主人公の単独任務にひよりか、ルートによってはあーちゃんが付いてきちゃうやつ。

 途中で引き返したり、そもそも最初に気付いて置いてったりすると、死んじゃうんだよね。

 何でゲーム内容が普通にシビアなのに、選択肢でも詰む要素があるんだよ、このゲーム。

 

 ……。

 …………クソッ!

 

「はあ、怒ってないよ……俺はな。ただ、帰ったら偉い人にしこたま怒られるから、今のうちに覚悟はしておけな」

「……そ、それはそのぉ、のどかが庇ってくれたりは……?」

「しませ~ん。てか、俺は俺で怒られるから……2人仲良く土下座は確定だ」

「ど、土下座の練習とかしとく?」

「いや、俺はプロ級だからもう良い」

「や、でもほら! 2人合わせれば、100倍の謝罪力を発揮するかもしれないし!」

「1+1は10にも100にもなる理論の提唱者なん?」

 

 だとしたら、まだまだ土下座とは何たるものかを分かっていないと言わせていただく必要があるな。

 あーちゃん的に言わせてもらえば、「センス0、赤点ねー」ってところだ。

 

「謝罪ってのはな、静謐な空間にて、整えられた姿勢からのみ繰り出されることが許されるものであり、シンプルであるが故の美しさを内包する儀式なんだよ……」

「悟りの領域に到達してる!? これまで何回土下座してきたのさ……」

 

 そりゃもう、数えきれないほどに。

 整備班や開発班の方々に関しては、俺の下げられた頭なんて見飽きている頃合いだろう。

 新武装のテストとかも良くやって、その度に破壊したり捨てたりしてきたからな。

 お陰様で謝罪するまでの速度と、謝罪時の語彙力だけはうなぎのぼりだ。

 

「あー、でも。これだけは聞いとくか……何でついてきた? 目的は? 場合によっては、マジで引き返すけど」

「のどかが怖い顔してたから。一緒にいてあげなきゃなーって、思って」

「……何だそりゃ」

「んん~……何ていうか、ほら。のどかは死にたくなーいって口では言うのに、ビックリするくらい自分の命に無頓着でしょ? だから、ひよりが一緒にいれば、何としてでも生きよう! って思ってくれるかなー? って。あはは……ごめんね、自分勝手で」

「────」

 

 その言葉に、思わず黙り込んでしまった。

 そんなことを言われてしまったら、俺にはもう、返す言葉がなくなってしまう。

 あーちゃんといい、何でそう、俺を見透かせてしまうんだ。

 

 もしかして、大真面目に俺の顔にでも書いてあったのか?

 そうじゃないのであれば、ひよりが読心術の使い手すぎる。

 それだけで飯を食っていけるだろ──なんて、逃避的思考を回してしまうくらい、ひよりの言葉には、どうにも心を揺らされてしまった。

 

 あるいはそれは、未来の俺との記憶故にかもしれないが。

 それでも、理解されていたというその事実が、純粋に衝撃で、だけども嬉しい。

 

「後はね~、えへへ。その、離れたくないな~って思ったというか……二人っきりになりたかったというか……どうしても一緒にいたいなーって思っちゃったっていうか……」

「……おい、あんまり可愛いことを言うのはよせ。惚れちゃいそうになるだろ」

「もう惚れてるくせに~」

 

 えいえ~いと、俺の頬をつつくひよりだった。

 やめろと言っても、満面の笑みのまま、「や~だよ~」なんて言う。

 その姿に、もう完全に毒気が抜かれてしまった。

 しゃーないだろ、俺ってチョロい男なんだよ……。

 平和な世界で暮らすようになったら、ガチで詐欺とか引っかかると思う。

 

「分かった分かった、降参だ。ぶっちゃけ、理屈やルールを抜きにしたら、傍にいてくれるのは普通に……何だ、嬉しいし」

「わぁーお、のどかの貴重なデレだ!」

「俺をどっかの誰かさんみたいなツンデレ扱いするのはやめなさい。俺とかこの上なく素直だからね?」

 

 軍人にあるまじき素直さを誇っていると言っても良い。

 尋問とかされたら一撃で全部喋り出すまである。

 嘘とか吐いたことないからね、マジでマジで。

 ノドカ ウソ ツカナイ。

 

「ただし、コロニーに戻るまでは、何があっても俺から、片時も離れず傍にいること。約束できるか?」

「……のどかのスケベ」

「!!? いや違う! そういうんじゃないから! シャワーとか着替えも一緒にするぞ、みたいな強制痴漢野郎的なアレじゃないから!」

「でも良いよ、のどかなら。求めてくれるのは──えへへ、嬉しいし」

「クソッ! 誤解が加速していく!」

 

 危ないからねって話をしてんの! こっちは!

 悪いけど、出撃時も一緒に乗せてくよって話をしてんだよ……!

 言語による相互理解が如何に難しいことなのか、身を以って味わっていると、ひよりがにんまりと笑った。

 

「たはー、冗談冗談。分かってるよ。のどかの命令にはちゃーんと従うから」

「なら良い……ったく、あんまり俺で遊ぶのはよせ。本気になっちゃったらどうするんだ」

「えー? 遊んでないよー」

 

 ほわほわとした雰囲気のまま、ひよりが笑う。

 俺の片手を握って引いて──耳元で囁いた。

 

「だって、全部本気だもん」

 

 甘ったるい声音が鼓膜を撫ぜる。

 電流のようなものが、背筋を流れていくようだった。

 

「今すぐそれを、証明しても良いんだよ?」

「……と、い、言いますと?」

「分かってるくせに。ひよりに言わせたいんだ? いじわるだな~」

 

 身体が密着する面積が増える。

 ひよりの体温が、直に伝わってくる。

 

「今は、二人っきりだから」

 

 肉感的な感触が、脳を満たしていく。

 痺れるような快感が齎されていた。

 

「のどかの好きにして良いんだよ」

「──ッ!」

 

 背筋が伸びる。

 緊張と興奮で頭がどうにかなりそうだ。

 え? やばい!

 本当に好きにしちゃっていいやつなのか!?

 

【警告!】【警告!】【警告!】【警告!】 

【当艇に敵性反応が接近中!】

【乗組員は直ちに対応してください!】

【繰り返します──】

 

「きゃぁ~~!? わっ、えっ、なに!?」

「うわー! ビックリした!!! あぶね~! アラートだ! 行くぞ、ひより!」

 

 キュイン!  キュイン! という甲高い警報音に、頭を殴られるようにして正気に戻る。

 本能に従いそうになっていた脳みそが、リフレッシュされた気分だ──危ない危ない。

 ここは比較的安全なコロニーじゃない。

 宇宙は危険で溢れ返っている──そうでなくとも、宙央同盟の基地に自ら飛び込んでいるのだ。

 敵機と遭遇しても、おかしくはない。

 気を引き締めないと。いやマジで……。

 

「詳細出せるか!?」

【可変有人戦術装甲アイギス:第3世代型。推定:宙央同盟、数は3。当艇には300秒以内に到達されると想定されます】

「了解。廿楽木閑、出る!」

 

 この船は小型なだけあって装備は少ないし、アイギスを乗せている、というよりかは接続している──と言った方が、見た目的には正確だ。

 だから、メインルームでもあり、リラックスルームでもあるここから、扉を一つ抜ければすぐに、アイギスのコックピットに繋がっている。

 

 そこに、ひよりを横抱きにして飛び込んだ。

 先ほども言ったけれど、残しておく方が危険……だと思うから。

 

「少し狭いが、席はもう一つ出せる。我慢できるか?」

「だ、大丈夫……うん、もう平気。ありがとね、のどか」

「ん、気にすんな──ああ、それと」

 

 隣に座り、固定まで完了したひよりに、にやりと笑う。

 そうすれば、ひよりがコテンと小さく首を傾げた。

 

「悪いけど、酔っても粗相だけは勘弁な」

「へ? 待って。それって、どういう──」

 

 ひよりが言い切らない内に、小型艇との接続を解除した。

 各箇所のロックが外れ、アイギスが自由を得る。

 瞬間、加速。

 大きく唸りを上げたアイギスが、真っすぐに飛翔した──いつも通りに。

 

「わひゃああああああ!?」

「うお声デッカ。あんま叫ぶな、ビビるだろ」

「や、だってこれ、うへぇぇ、どういう軌道で飛んでるの~!?」

「一番読まれづらい軌道だよ──敵は3……だな、うん。変わりない」

 

 小型艇のレーダーが捕捉した3機が、かなりの速度で接近してる。

 拡大されたモニターが、敵機に刻まれた、歪んだ天秤を映し出す──宙央同盟のエンブレムだ。

 それぞれが均一な距離を保った編隊を組んだまま、こちらに向かっている。

 

「……何か、動きが気持ち悪いな。無人機か?」

「そういうのって見て分かるものなんだ……?」

「んん、まあな。別に、俺に限った話じゃないとは思うけど」

 

 それなりの経験を積んでいるパイロットであれば、その辺は意外と分かる──というと、如何にも俺がベテラン振っているように見えるので、補足しておくのだが、そもそも宙央同盟のメイン戦力が無人機なのである。

 レムナントはその出自から、数はそんなに多くない──レムナントにすらなれず、死ぬことの方が多いから。

 いや、まあ、そんなことを言ったら、星間連盟のパイロットも少ないのだが……うちは厳選してるからな。

 宙央同盟と違って、無人機はあまり採用していない──その理由は、星骸との相性が悪いから、の一言に尽きる。

 

 例えば、ネビュラペンドラのように、レーダーに一切捕捉されないような星骸が相手だと、無人機では勝ち目がない。

 そういったイレギュラーを前にしても、必ずコロニーを守り通し、必ず殲滅しなければならない。

 星間連盟はそういう使命を帯びている。

 故にこそ、アイギスにおけるAI使用は、現在に至っても補助に留められていた。

 

 一方で、宙央同盟には守るべき大衆がいない。

 そして、無理に倒す必要もない。必要があれば、幾らでも撤退するだろう。

 更に言うならば、彼らの理念は【争いによる人の死をなくす】というものである──形骸化してそうなものではあるが、しかし実際に、その理念のもとにAI開発が盛んだ。

 それこそ、AIに関して言えば、星間連盟を越えてすらいるかもしれないほどに。

 

「まあ、だから何? って話なんだけど」

 

 小型艇に備え付けられているビーム砲に、発射時間と狙う座標を遠隔設定してから、アイギスのスラスターペダルを踏み込んだ。

 マニュアルで設定した多連装ミサイルを発射しながら、こちらに飛び込んでくる3機と、正面衝突するように加速する。

 

「結構衝撃がある、転げ落ちるなよ」

 

 無言で何度も頷いたひよりを横目に、1機目に急接近し──衝突しない。

 振るったビームサーベルの出力をゼロにして、鍔迫り合いを起こさず、最低限の制動だけですれ違った。

 その瞬間にフックを引っかけ、蹴り付けるように急上昇。

 挟むように追いかけてきた、別の2機が──しかし、急速に俺から離れた。

 

 瞬間、先ほどばら撒いてた無数のミサイルが、無人機を追うように殺到する。

 それを急加速して器用に躱す2機に、ビームライフルを撃ち放った。

 

 ここに逃げるだろうという予測撃ち。

 見事に的中したそれを、無人機は片腕を犠牲に回避して──その全身を、小型艇から放たれていたビーム砲が貫いた。

 

「まずは2」

 

 言いながら、ビームサーベルを振るう。

 最後の無人機が振るっていたビームサーベルと、激しく火花を散らして弾き合い、

 

「逃がすか」

 

 強引にスラスターを吹かした。機体の制御はそこまで必要ない。

 引っかけたばかりのフックから()()()()()()()が、無人機を中心に、アイギスを無軌道に加速させた。

 中に人が乗っていれば、俺の姿は瞬間移動しているようにすら見えるだろう。

 

「これで3」

 

 そのすれ違い様にビームライフルを撃つ。

 1、2発と躱させてから、ビームサーベルで腕を落とす。

 直後、小型艇から放たれたビーム砲が、俺のアイギスをギリギリ掠めないまま、無人機を穿った。

 

「ん~、完璧……でも、思ったより優秀な無人機だったな」

 

 視界に収めてから思い描いた軌跡をなぞるように撃破したけれど、最後はちょっとだけ急がされた。

 やっぱりこういうのって、日進月歩なんだなあと思う。

 星骸相手ならともかく、有人機相手ならAI機って出し得だし。

 その内、俺も負ける日が来るのだろうか──だとしたら、それは素晴らしいことだと本気で思う。

 それほどであれば、星骸を倒した後、俺がアイギスに乗る必要もない。

 

「──っと、そうだ。ひより、大丈夫か? さっきから黙って……って、あちゃー」

 

 横を見ると、ひよりはクルクルと目を回している。

 その姿に苦笑して、結局、小型艇に乗せっぱなしで良かったな……と独り言ちる俺だった。

 

 




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特に描写されることがなくなった設定③
『廿楽木閑』
・前世では4人の同級生を救った結果死んでいる。事故に遭った時、1人であれば掠り傷なしで生き残っていたと話題に。
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