多分なんだけど、俺が天才パイロットすぎる。   作:泥人形

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連盟の黒い死神

 宙央同盟のメイン基地たる小惑星帯基地は、直径約5kmの小惑星をくり抜いて建設されたものであり、その名の通り、大小様々な小惑星が密集したエリアに存在している。

 その関係性上、誰しもが避けて通るような空間にあり、だからこそ、見つかる危険性が無いに等しい。

 その上で、外見的にも、システム的にも巧妙なカモフラージュが施されているのだから、まあ見つかりっこないよね……って感じだ。

 

 いや、まあ、原作だと主人公が、星骸の力でサクッと見つけちゃうんだが……。

 逆を言えば、正攻法では見つけることすら困難である、ということを意味していた。

 が、しかし、隠蔽性に特化しているからこそ、難攻不落な要塞とは言い難い。

 だからこそ、その内部構造は実にシンプルで、基地全体は3つの層に分けられる。

 

 第1層:最上層……というか、表面にあたるそこは、アイギスの格納・発着エリア。

 基地全体を通して複数のハッチが設けられおり、出入り口として機能している。

 第2層:中間層となるそこは、居住区及び、研究・指令区であり、多くの人間がここで暮らしている。

 星骸に絡む人体実験場は、主にここになる。

 第3層:最下層になるそこが、今回の目標である、基地の動力炉だ。

 小惑星の3分の1を占有する空間にある、巨大動力炉によって、小惑星帯基地は機能しており──破壊すれば全てが停止する。

 

 無論、馬鹿正直に上から攻める必要はない。

 ゲームでもそうだったが、基地には冷却のため、外部に通じる20mほどの排熱口が複数設置されているし、そうでなくとも、メンテ用の出入口が複数ある。

 それらから侵入し、適切なルートを辿りさえすれば、動力炉とはすぐにご対面だ。

 

 ──なんて、文字に起こしてしまうと、実に簡単な作業に見えるのだが、実際のところ、そんなことはない。当然だ。

 許可されていない機体や生体反応が、一歩でも踏み込んだ瞬間、大量の無人機が押し寄せてくる上に、動力炉までの道筋はかなり複雑化されている。

 

 要するに、突破できるだけの戦力と、基地の詳細マップ。

 この2つがないと作戦は成り立たない。

 机上の空論という訳だ──だからまあ、できるってことなんだけど。

 

 1番のネックはマップなのだが、これがもう既にあるのである。

 どこに? 何故?

 答えは簡単だ──俺の脳内に、ゲームで覚えたマップがある。

 何度も失敗して脳に刻み込まれたそれは、今なお鮮明に思い描けるほどだ。

 

 ……さ、流石にゲーム脳すぎるかなあ!? 

 敵の懐に実際のマップ無しで突入って、客観視しなくても、普通にただの自殺志願者なんだよね。

 俺がそれでも全突破できる、一騎当千の猛者であるかどうかは、試してみないと分かんないし……。

 

 正直ちょっと不安だ。

 嘘、超不安。ちょっと手とか震えてきたレベル。

 しかし、だからと言って別の方法がある訳もない。

 そうなってきたら、やはり原作に頼りたくなるというものだろう……。

 

「や、今更悩んでも仕方ないんだけどさあ……。やるって決めたからと言って、悩まない訳じゃないんだよね……」

「のどか、また独り言~? ブツブツ言うくらいなら、ひよりに構ってくれても良いと思うんだけどなー」

「全部終わったらな。今はほら、こう見えて繊細な作業中だから……」

 

 無人機部隊を殲滅した後、俺たちは小惑星帯基地へと接近していた。

 警戒態勢は厳重というほどでもない。

 無人機が幾らか飛び回っているけれど、それだけだ。

 アイギス単体で動いていれば、見つかる可能性は限りなくゼロに近い──搭載された最新のステルス機能が、有り得ないくらい無人機に刺さってるんだと思う。

 

 確か、ネビュラペンドラの能力から着想を得たとか言っていたか。

 当然ながら、原作にそんなものはなかったはずなので、余裕で宇宙猫になったのだが、それはそれ。

 有用なものは使うに限る。それだけだ。

 

 因みに発案と初期構想はオペさんらしい。

 あの人有能すぎるだろ。

 本当にいつもありがとうオペさん、愛してます……。

 

「むっ、浮気の気配だ!」

「いや、してないしてない。これはほら、神に対する敬いみたいなもんだから」

「それはそれでどういうことなの……!?」

 

 ね〜えっ! と俺を揺するひよりをそのままに、チマチマとデコイを各所に設置していく。

 一度起動すれば、強力な信号とジャミングをばら撒きながら、自律的に動き出してくれる便利アイテムだ。

 これで基地から戦力を釣り上げつつ、小型艇を上から自動操縦で飛び込ませ、俺は下から悠々自適に潜入する……というのが、原作に倣った今回の作戦だ。

 

 ……いや、まあ、原作はもっと丁寧にやっていたというか。

 星骸の力を使い、完璧なステルス状態で一気に最深部まで辿り着くのだが……。

 俺にはできない芸当である以上、どうしたって猿真似になってしまう。

 足りない部分はテクでカバー、という脳筋スタイルだ。

 

「これが最後のデコイだ。設置次第、突入ポイントに移動して、起動させるぞ」

「これだけで良いんだ? もっとたくさん、設置しなくても大丈夫なの?」

「そりゃ、有れば有るほど良いけれど……俺が侵入した時点で、バレるのは確定だしな」

 

 宙央同盟だってバカじゃない。

 たった1機が超スピードで突入してきたら、すぐに気付くだろう──でも、だからと言って、デコイを無視は出来ない。

 確信を持てない以上、戦力は分散せざるを得ない。

 組織とは、そういうものだ。

 

 だから、この任務で一番の障害は時間だ。

 如何にスムーズに動力炉に辿り着くか。

 そして、如何に素早く離脱するか。

 少しでも手間取れば、それが死に直結する。

 

「……とっても危険な任務になるね」

「そうだな、帰りたくなったか?」

「んーん。もっと、一緒にいてあげなきゃなーって思っただけ」

「あ、そう……」

 

 本当であれば、引き返したい。

 というか、ひよりに気付いた時点で、無理してでも帰るべきだったな……という後悔に、じわじわと苛まれていた。

 今や俺の死は、イコールでひよりの死だ。

 自分の命ならともかく、他人の命は重すぎる。

 

「いや、でも、この重さが自分自身への戒めにはなるか……?」

 

 曰く、責任こそが人を大人にするという。

 これを機に、俺ももう一歩くらい成長するとしよう。

 

「良し、設置完了。これから突入ポイントに移動するぞ」

「ふふ、何だかドキドキしてきたね?」

「や、そんなポップな感じじゃないけどね?」

 

 ドキドキっつーか、ドックンドックン! え、心臓破裂する!? って感じだから。

 胃とか普通にひっくり返りそう。

 指先が震えていて──だけど、任務前特有の、少しの高揚感が俺を抱えている。

 

「目標ポイント到着。これより作戦を開始する──と、その前に。ひより、言っておきたいことがあるんだけど……良いか?」

「ん? なぁに?」

「いや、言っておきたいっていうか、言ってみたいことなんだけど……」

 

 疑問符を飛ばし、ひよりが首を傾ける。

 その姿に、言っても分かんねーよなあと思いながら、笑いを溢した。

 

「わはは、死ぬ時は一緒だぞ?」

「ロマンチックさが足りてないなあ。あーちゃんだったら、センス0、赤点ねーって言ってたよ?」

「うお解像度エグ──よしっ。廿楽木閑、出る!」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 宙央同盟筆頭パイロット:No.123──ヒフミと自称する彼は、最も成功作に近い男である。

 星骸への拒絶反応は限りなく低く、その目は赤く染まったものの、知能は落とさなかった。

 身体的変化もわずかな体表の変色と、側頭部から小さな角が生えた程度に留まり、その適合率はかつての成功作──フィオラ・アルテマリアを幻視させるほどであった。

 

 その戦績は、未だ負けなし。

 どの星骸であろうと、歴戦の連盟パイロットであろうと、これまで返り討ちにしてきた、宙央同盟のエースパイロット。

 失敗作の中の成功作。

 そんな彼が──しかし、その日の惨劇を生まれ変わってもなお忘れないと、そう思った。

 

 銀河共通時間、02:00。

 小惑星帯基地周辺にて、突如として複数の敵性反応アリ。

 アラートと共に、レムナント小部隊と、無人機部隊が出撃──同時に、小型艇による第1層への襲撃を確認。

 被害は微少。無人機による小部隊の偵察が放たれると同時、メンテナンス通路から、何者かの侵入を感知した。

 

「はいはいは~い、侵入者あり、侵入者あり~。E番メンテ通路から侵入者~!」

「よりによってEか、侵入者もついてないねぇ。あそこは地獄の迷路だぜ?」

「そりゃ、どこから入っても一緒でしょ。ほら、さっさと隔壁閉めて、無人機部隊出しな~」

「へーいほー。訓練場に誘導しまーす」

「ウチらに突っかかったこと、後悔させてやらにゃ~ね」

「了解了解──っと、ついでにモニターに出しますか。映像出ま~す」

 

 司令室で飛び交う緩い会話を、ヒフミは眠気眼を擦りながら聞き流す。

 侵入者だなんて珍しい──そんな感想と、とんだ愚か者だなという呆れた思考。

 2つを並び立たせながら、わざわざ起きる必要はなかったなと、映し出された映像を前に、大きくあくびを漏らし──

 

「ハァ……?」

 

 ──大口を開けたまま、眼を見開いた。

 あれほど騒がしかった司令室が、水を打ったように一瞬、静まり返る。

 そこにいたのは、真っ黒に塗られた一機のアイギスだった。

 第四世代──つまりは最新型。それは良い、そこまでは良い。

 星間連盟の連中が乗り回すのは、常に最新機体のみだから──でも、アレは!

 

()()……!」

 

 星間連盟の誇る最高最大戦力。

 かつて、ただ一人で木星基地を落とした傑物。

 その機体には触れることすら叶わない。

 直接出会ったら死は免れない。

 宙央同盟における、()()()()

 

「No.123、出る!」

「──ッ! 今すぐ全戦力を最下層部へ! 無人機全部出せ!」

「レムナント部隊も緊急招集しろ! 上なんてどうでも良い!」

「何でも良い! 全部だ、全部出せ! 早くしろ!」

「は、はぁ!? クソッ、こいつ最短ルートで動力炉に向かってる! 何でだ、どうしてそんなことができる!!?」

「ああああああ!? 第4、第5隔壁突破! こいつ、ウチのマップでも持ってんのか!?」

「向かっている迎撃部隊が躱されてます! こっちの防衛網が見えてるの!!?」

「し、死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ! アタシら、ここで死ぬんだ!」

「馬鹿っ、落ち着け。一人だぞ!? たった一人だ、何とかなるさ!」

 

 ヒフミが指令室を飛び出たのを皮切りに、司令室が蜂の巣をつついたようなパニックを引き起こす。

 しかし、それも仕方がない、と言うべきだろう。

 宇宙にて廿楽木閑に出会うこと。

 それは文字通り、死を意味するのだから。

 

「はいはーい。アンタら、一旦落ち着け~? たかが1機でしょ? 死神って言っても人間じゃない。冷静に対処して、その鼻っ柱折ってやりましょ」

 

 不意に、手を打ち鳴らす音が響いた。

 過呼吸を起こした、一人のオペレーターの頭を優しく撫でながら、彼女──宙央同盟:総司令官、白金(しろがね)ソラノがため息を吐く。

 若くして宙央同盟のトップに立っている彼女は、やはり一角の人間であり、この場で冷静にあれる、数少ない一人だった。

 

「ほーら、深呼吸深呼吸。大丈夫、いつも言ってるじゃない。ここは最強の要塞よ、そう簡単に落ちることはない」

「で、でも司令!」

「でもじゃなーい。慌てる必要もない、落ち着きなさいってば。この速度なら迎撃が間に合うわ」

「第10隔壁突破されました! ですが、同時にレムナント部隊到着!」

「同じく無人機部隊、αからΔ到着! 訓練場にて交戦開始!」

「──ね? うちの防衛設備はかなりのもんなのよ、連盟にだって負けないわ……ただし、訓練場はここまでの複数機による戦闘は想定していないはず。無人機部隊はレムナント部隊の支援にあてること!」

「り、了か──あ、ははっ。え? 嘘だろ?」

 

 一人のオペレーターが、幻でも見たかのように目を擦る。

 取り戻しかけていた活気が抜けていくかの如く、すぼんでいく言葉を、別のオペレーターが引き取った。

 

「れ、レムナント部隊、壊滅。部隊の残存反応2──いえ、1……0です」

「無人機部隊、か、壊滅──Δ部隊以外、反応消失しました……」

「──残りの部隊も全滅。反応、ゼロです」

「第11隔壁突破──このままだと8秒後には、最終隔壁に到達します!」

「──あるぇ?」

 

 ソラノが再び映像に目を移す──黒い機体が、一切の迷いも減速もなく、動力炉へ駆け抜けていく。

 止まらない。止まらない、止まらない!

 講じた全ての防御策が、まるで紙のように破られていく!

 

 計12枚の隔壁が。

 100を超える無人機たちが。

 幾重にも張り巡らされた電磁シールドが。

 選りすぐりのレムナント部隊が!

 

 破壊される。

 すり抜けられる。

 躱される!

 突破される。

 

「ホンット、ありえない──風邪の時に見る夢みたい、非現実的だわ」

『──No.123現着。これより第1研究室にて、交戦に入る』

「……了解、ごめん、足止めに徹してくれる? ()()を出すわ」

『アレはまだ、テスト段階のはずじゃ……』

「言ってる場合じゃないもの。今やらなきゃ、二度と完成することはない──ヒフミ、出来れば10秒耐えて」

『……了。全霊を尽くす』

 

 通信が切れる。

 それと同時に、宙央同盟のエースと、星間連盟のエースの戦闘が、静かに始まった。

 

 映像の中、イエローのラインが入ったグレーの機体が姿を消した──ヒフミが使いこなす能力は、瞬間移動。

 能力行使から、実際に発動するまでのラグはほぼゼロタイム。

 出現場所やタイミングは、ヒフミの思考を読み取らない限り、予測不能。

 

 だから、誰かが安堵の息を吐いた。

 彼が来たなら少しは安心だと、誰もが思ったのだ。ヒフミはそれほどの勇士だった。

 ピリついた緊張感はそのままに、けれども少しだけ、司令室の息苦しさが薄れる。

 その空気を砕くかの如く、機体ごと消えると同時、廿楽木機の背後に現れたヒフミ機は、既に放たれていたビームライフルに穿たれた。

 

 ──否!

 直撃寸前で、二度目の瞬間移動が発動し、これを回避。

 廿楽木機の死角に出現後──更に、姿をかき消した。

 無差別、無尽蔵な瞬間移動の連続行使。

 光の残像を残すように、超高速で各所に現れては消えるヒフミ機が。

 

 出現場所に置くように振るわれていた、ビームサーベルに両断された。

 

 戦闘時間、10秒。

 コックピットを焼き切っていたビームサーベルが、名残惜し気に振り切られる。

 反転、加速──廿楽木機が、最後の隔壁を突破した。

 

「──ご苦労様、ヒフミ。良い仕事をしてくれたわね……見てて。貴方の作った10秒が、死神を殺すわよ」

 

 ホログラムキーボードを叩き続けていたソラノが、強くエンターを叩く。

 直後、動力炉前に()()は投下された。

 まるで、廿楽木機と対を成すような、真っ白なカラーリングのアイギス。

 それに──搭乗者はいない。

 

「頼んだわよ、Noah」

 

 Noah──そう名付けられている()()は、宙央同盟の切り札だ。

 いつか、死神を撃ち落とすために開発され続けていた、星骸とアイギスの複合体。

 廿楽木閑との戦闘データ、その全てを無限に解析し、無限に学習させ続けている、()廿()()()()()()()()()()を以って、星骸のコアを制御している。

 それの、仮想:廿楽木閑シミュレート戦の勝率は、100%を誇る。

 

 モニターの中。両機が、数秒間睨み合う。

 互いがまるで、人同士であるかのように間合いを計り──Noahが動いた。

 最低限の加速、最低限の制動。

 達人の剣士を思わせる一太刀が閃いて、火花を散らす。

 

 一度、二度、三度。

 幾度となく振るわれるそれが、滑らかな動きと共に弾き合う。

 アイギス戦とは到底思えない──だけど、だけれども! 対抗できている!

 

「フッ、ふふっあはははは! 最ッ高じゃない! Noah計画は大成功よ! 完全にコアをAIの制御下に置けている!」

 

 死神、と。

 そう呼ばれる、廿楽木閑の異常性。

 その一つは、まるで自身の肉体かのようにアイギスを操ることにある。

 15mという巨体でありながら、ミリ単位での精密な操作を可能とする繊細さ。

 それを宙央同盟は、星骸の万能力と、AI操縦による緻密なコントロールにより再現して見せた。

 

「そ、総司令、アレは一体……?」

「ん~? ウチの秘蔵っ子よ。本当はもうちょっと、隠しておきたかったんだけど、仕方ないわよね」

 

 両機が距離を取るたび光が走る。

 接近する度に火花が散らばる。

 アイギスとは思えない挙動による、異様な戦闘が高速で描かれていく。

 

「厄介な未来予知も防げてるわね。重畳、重畳」

 

 廿楽木閑は未来を見る。

 そう言ったのは、誰であったか。

 先ほどの123がそうであったように──移動した先に、何故か既に置いてある攻撃。

 有人機、無人機関係ない、回避不能の未来視攻撃。

 彼にはそれが多い。多すぎる。

 狙っているとしか思えない──それを、Noahは学習した廿楽木閑の癖と、莫大な計算。それから、星骸の力が起こす奇跡で回避していた。

 その姿は、宙央同盟の士気を高めることにも作用し始める。

 

「さあ、さあ、さあ──」

 

 廿楽木機とNoahがぶつかり合う。

 弾き合ってはぶつかって、激しい光と炎が舞い上がり──廿()()()()()()()()()()()()()

 

「さあ! 神殺しといきましょう!」

 

 Noah──ノアの箱舟。

 それは、神の絶対粛清から逃れ得た、唯一の存在。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 争いによる()の死を失くす──宙央同盟の掲げる理念の体現者。

 それが今、神を討つ。

 

「……はぇ?」

 

 ()()()()()

 Noahの両腕が、爆風の中からひしゃげて飛散した。

 次いで、頭部を失ったNoahが、爆風から転がるように吹き飛んでいく。

 

 距離を取ろうとしたNoahを追う、黒い影。

 激しいスラスターを吹かせながら、舞うようにNoahを追い詰めていく。

 

「──……化け物め」

 

 小さな絶望が、ソラノの口から零れ落ちた。

 その視線の先で、Noahが八つ裂きにされ──機能を停止する。

 直後、緊急アラートが鳴り響いた。

 司令室の騒ぎが一際大きくなるが、それを宥める人間はもういない。

 発狂する者、泣き出す者、逃げ出す者、抗おうとする者。

 彼らの目線の先で、黒い死神は動力炉に近づいていく。

 

 小惑星帯基地の動力炉は、言ってしまえば、極小の恒星核だ。

 4本のアームから出力される磁力でプラズマを圧縮し、太陽の中心部を再現することで、高効率での核融合反応を連続発生させている。

 それによって吹き荒れる、磁力の嵐を4本の巨大アームで受け止め、電力に変えている──だから。

 アームが砕かれれば、動力炉は簡単に自壊する。

 

 抜かれたビームマグナムが、四つのアームを完全に破壊する。

 小さな太陽を抑えていた力が消失し、その形が不定形に蠢きだす。

 

「──動力炉、制御不能。爆発まで推定……60秒!」

 

 悲鳴のような報告。

 更に響く悲鳴と怒号──しかし、それも長くは続かなかった。

 何せ、たったの60秒だ。死神はともかく、ソラノたちの脱出が間に合う訳がない。

 

 放心からやっと戻ってきたソラノは、自身の椅子に深く座り直した。

 背もたれに背を預け、小さく笑う。

 視線の先には、既に離脱を始めている、黒い死神の機体。

 

「あ~あ。こんなことになるんなら、一回でもお爺ちゃんの顔、拝みにいけば良かったかもな~」

 

 白金ソラノ。

 敢えて、そう名乗っている彼女の苗字は、母親のもの。

 父親の名は──黒鉄ミチヒサ。

 かの有名な、星間連盟総司令官:黒鉄ライドウの息子だという。

 

 幼い頃に宙央同盟に連れ去られ、その理念に同意し、その思想に染められ──生涯を全うした。

 その娘が、現宙央同盟総司令官:白金──黒鉄ソラノである。

 

「じゃあね、死神さん。義理の……弟くんになるのかしら? 地獄で待ってるわ」

 

 ソラノがそう口にするのと。

 暴力的な光が彼女の全てを塗りつぶしたのは、同時のことだった。

 

 

 




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いつも励みになっています。


特に描写されることがなくなった設定④
『宙央同盟』
・木星基地襲撃時に、古株の人間がほとんど死んだ。
・その為、大規模な世代交代が起こっており、構成メンバーの多くが若い人間に占められている。
・白金ソラノがトップだったことや、司令室の人間が若者で占められていたのもこれが理由。
・宙央同盟の若者はほぼ全員が、宙央同盟基地で生まれ育っている為、自身らの行為を悪事だとは考えていない。
・トップが代わってからレムナント研究は縮小化した。

『木星基地襲撃作戦』
・原作だと、失敗しているという話が一行だけ出てくる。どっかの馬鹿が力尽くで成功させてしまった。
・廿楽木閑をメンバーに入れたのは、黒鉄ライドウの采配によるもの。

『小惑星帯基地』
・比較的、研究施設としての側面が強い。
・木星基地の件があってから、大量かつ厳重な防衛措置が取られた。

『白金ソラノ』
・ジジイに唯一残されていた血縁のある家族。孫娘。義理の息子に殺された。
・No.123(ヒフミ)とは親友であった。

『No.123』
・4歳の頃に誘拐されてきた。フィオラとも面識がある。
・思いを寄せていた人がいた。

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