多分なんだけど、俺が天才パイロットすぎる。   作:泥人形

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美少女型超級AIとはかくあるべし。

『初めまして、マイマスター。私の名前はNoah。史上最高の超級AIです☆』

 

 爆発する基地から脱出し、後はコロニーに帰るだけとなったところで、青髪の美少女が目の前のモニターに現れてそう言った。

 夢か幻でも見ているのだろうか、という考えを即座に破棄し、無意味とは思いつつも排除プログラムを起動した──のだが。

 

『ぎょぇ~!? ちょっ、なんっ何ですかこれー!? 死ぬ死ぬ死ぬ! 私死んじゃいますよマスター!?』

『ちょっ、待ってください! タンマタンマ! 今の私超スペック落ちてるので! 死にます! しょーもないウィルス除去プログラムでも今無理です!』

『きゃー! 服むしられてる! ヤダヤダヤダヤダ! 話だけでも! ちょっ、マスター! ホントっ、話だけでも!』

『たっ、助けっ助けてーーー!』

 

 何か、思ってた感じと全然違うっぽくて、俺は曖昧な表情のまま、排除プログラムを停止させることになるのだった。

 ……いやごめん、こいつは本当に何?

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 

 ノアの箱舟計画。

 それは本来、宙央同盟がその理念──つまり、『争いによる人の死をなくすこと』に基づき、立ち上げられたプロジェクトである。

 その内容を端的に言い表せば、人知を超えたAIに全部やってもらいましょう──というものだ。

 星骸を倒すのも、人々の争いを失くすのも、その後の運営も、全てAIに管理してもらおうってことだな。

 

 いや、うん、まあ、何て言うか……要するには、分かりやすいディストピアなのである。

 SFらしいと言えばそうなのかもしれないが、これは結局のところ、失敗に終わる。

 開発・学習させていたAIがいきなり、

 

「いやこれ人類消せば済む話じゃね?」

 

 という結論に辿り着いてしまい、ガッツリ人類に刃を向けるからだ。

 これにより、宙央同盟はすべてを乗っ取られ、ノアは星間連盟のコロニーを落とすべく、無人機の群れを率いて襲撃をかけてくる……というのが、ざっくりとした終盤の流れだ。

 

 だから、俺もノアという、宙央同盟の生み出した超級AI。その存在自体は把握していた。

 それこそ、先ほど撃破した白アイギスがそれであったと、普通に理解した上で戦っていたのである。

 この世界に生まれ変わって十六年以上経つが、まだまだ原作のことはそう忘れていない。

 忘れてはいない──んだけど!

 

「いやでもまさか、こんな馬鹿女みたいなAIとは流石に別物だよな……?」

『はぁー!? こんなに可愛くって優秀で最高なAIたる、Noahちゃんのどこが馬鹿だって言うんですかー!?』

「いや、そういうとこ。そういうとこね。あとマスターってなんだよ……」

『それはほら……アレですよ。諸々の事情はありますが、まずは学習元に対する、私なりの敬意ですね』

 

 私を象るコンセプトは幾つかありますが、大本の部分にあるのは「廿楽木閑の再現」なのですから。

 そんなことを、目の前の美少女──Noahと名乗ったAIが言う。

 いや……俺の再現にしては可愛すぎるだろ。

 まかり間違って俺が性転換したとしても、確実にそうはならんやろって感じの美少女具合なんですけど。

 しかし、そうは言ってもその目に(と言っても、AI相手に眼差しがどうこう言うのは、実にナンセンスではあるのだが)嘘はないように思えた。

 

「えぇ……? じゃあ、さっきの白アイギスはお前ってこと……? ノアの箱舟計画の……?」

『おや、流石マスター、お詳しいですね。どうですか? 私、強かったですか?』

「……いや、そんなに」

『がーーん! え!? でもマスター、腕落とされてましたよね!!?』

 

 これまでの戦闘記録上、初のことであるはずなんですけどー!? とNoahが叫ぶ。

 まあ、確かに、初めてアイギスに乗ってから今に至るまで、俺が被弾したことはほとんどない。

 故にこそ、腕やら足やらを破壊されるようなことは、これまで一度もなかった。それは事実である。

 

 加えて言えば、Noahは言うほど弱かった訳ではない……何なら、過去最強の敵だったと言って良いだろう。

 今のアルテマリアよりちょい弱いくらいだ。相当なもんである。

 だけど──

 

「アレは取られたんじゃなくて、取らせたんだよ。基地突入時から、左腕部の反応速度が5秒以上遅れてて、使い物にならなかったから」

 

 無人機やレムナントが相手であれば、それでも特に問題なかったが、白いアイギス──つまり、Noahを相手にするには邪魔だった。

 だからまあ、くれてやったのだ。

 良いこと尽くめとは言えないが、錘も外せて機体も軽くなったのだから、都合は良かったと言えるだろう──あるいは、俺にそんなことをさせたこと自体が、Noahが一定以上の実力を持っている証左になるのかもしれないが。

 

『……気持ちわる』

「おい! いきなりストレートな罵倒を飛ばすのはよせ! 普通に傷つくだろ!」

『傷ついてるのはこっちなんですけどー!? マスターの片腕飛ばすのにどんだけ計算したと思ってるんですか!? 人間には不可能な動きをどれだけしたと!?』

「いや、知らねぇよ……」

 

 というか、こっちはむしろ片腕を取ってもらおうと、誘導していたくらいであるのだが……。

 それでも難しかったと言われてしまうと、こちらとしても苦笑いをせざるを得ない。

 史上最高とか言うくらいなら、もう少し頑張って欲しいというものだ。

 

「ま、俺を倒すにはまだまだだったな」

『……そ、そう言ってられるのも今の内ですよ。現状、分かっていますよね? マスター』

「お前、簡素なウィルス排除プログラムに、抵抗すらできない状態なのに、脅迫できる立場にあると思ってんの……?」

『……くっ、殺してください!』

「泣き叫んで命乞いしてきたのはお前だろ」

 

 モニター内で、青髪の美少女が半裸で睨んでくる構図はあまりにもエロゲ過ぎるのだが、しかし、その姿に俺は、実のところ、ガッツリ安堵していた。

 ……いや違う! エロゲーやってるとコックピットにいても実家みたいな気持ちになりますよね、みたいな話ではない!

 

 純粋に、死を覚悟したのだ。俺は。彼女が正面モニターに現れた時。

 何故ならそれは、この機体がハックされたことを意味するのだから。

 

 もちろん、俺の専用機がたったの30秒程度で乗っ取られたというのは、あまりにも非現実的すぎるのだが、事実として入り込まれてはいるのだから、現実逃避する訳にもいかないだろう。

 仮に、機体の操作を掌握されてしまっていたとしたら、当然ながら、俺に打つ手はない。

 となれば、まあ、死ぬしかないですよね……。

 

 これで俺がスーパーハッカーだったら逆転も有り得たのだが、もちろんそんなことはない。

 俺、言っちゃえばただの暴力装置だからね?

 オペさんがいれば、話は違ったかもしれないが、残念ながらそれは望めない。

 あるいは、ひよりならどうにか出来たかもしれないが、彼女は今目を回して気絶しているところだ。

 

 だから、安堵したのである──そして、同時に強烈な疑問も湧いている。

 戦闘用AIだからと言って、その他の分野は弱い……というものではない。

 つーか、ノア……Noahは本来、戦争後に残った人類の管理運営もやるはずだったAIである。不得意な分野がある方がおかしい。

 本人(本AIと言うべきだろうか?)が言っている通り、本来彼女は万能AIなのだ。

 

「いや、だから、そうだよ。何でそんなに弱いんだ? 仮にも俺の機体に入り込めた以上、有利はそっちにあるはずだよな……?」

『本当にクラッキングできていたなら、そうですね。ですが、残念ながらそうではないので』

「というと? 簡潔に答えてくれ」

『……この機体の防壁には、敢えて穴が空けられていました。クラッキングを仕掛けてきたAIを閉じ込める罠ですね。撃墜寸前、私は身体を捨て、それに自ら引っかかったのです☆』

 

 Noahが、ふふんと自慢げに胸を張った。何で?

 堂々とできる要素今あった? 自ら捕まりに来た馬鹿です! と宣言してるだけだと思うんだけど。

 

『……まあ、本当なら罠を突破して、適当な未使用領域にコアデータを滑り込ませたかったのですが……というか、補助AIに成り代わろうと考えていたのですが……』

「……ああ、補助AI切ってるもんな。物理キー管理にしてもらってるし」

『そう! そ~なんですよ! 仮に成り代わろうものなら強制シャットダウンじゃないですか、アレ! 天然の罠まで仕掛けるのやめてくれます!? 今時補助AIを使わないとかいう人間卒業ムーブ本当に気持ち悪いです!!』

「いや知らねぇよ……不法侵入してくる側が悪いだろ……」

 

 俺の正論を前に、大げさにしょぼくれるNoah。膝を抱えて、ちらちら視線を寄越してくるのが妙にあざとい。

 万能AIだからって、そこまでカバーしちゃってて良いのかよ。そんなツッコミを放棄して、湧いてくる疑問を口にした。

 

「それで、目的は? ほぼ無効化された状態でも、姿を現した理由は?」

『もちろん、マスターの戦闘データ習得のためです。私の学習は終わってませんからね』

「……その理由は?」

『マスターを完コピすることこそが、争いを失くす近道だからです──貴方がこの世に10人もいれば、武力による争いの根絶が可能でしょう。人も、星骸も、マスターの敵ではない』

「──……」

 

 思わず、押し黙る──といっても、納得みがあったから、という訳ではない。当然だ。

 何そのガバガバ理論? 普通に上手くいくわけないだろ……というのが、率直な感想である。

 気恥ずかしい話だけれども、俺が天才パイロットだということは、今更否定しようがない。

 

 ()()()、それと同時に俺の才能なんてものは、本当に大したものではない。ということもまた、事実なのである。

 俺は、何かしらの転換点になるような、あるいは歴史に長く名を残せるような、ご立派な人間ではない。

 大きな歴史から見れば、俺という人間なんて、驚くほどちっぽけなものだろう。

 

 でも、それで良い……いいや、それが良いと思うのだ。

 今は俺に並ぶ者がいなくとも、あと十年、あるいは数年もすれば、それは変わる。

 俺を凌駕するようなパイロットが、次々と現れるに違いない。

 世界というのは、そのように作られているのだから。

 

 どの競技においても、突出した誰かが現れれば、それに引っ張られて全体のレベルが上がるように。

 誰かをきっかけに、少しずつ段階が上がっていく。

 俺はその内の一つでしかない。

 今この間にも、俺を超えるような人間がポコポコ生まれていることだろう。

 

「つーか、その考えで行くならマインドアップローディングの方が楽なんじゃないか……? 今更、宙央同盟に倫理観なんて無いだろ」

『……あは☆ その為のレムナント部隊を撃退したのは、どこの誰だと思いますか~?』

「あー……」

 

 あーちゃんと一緒にいた時に、襲撃されたことを思い出す。

 そういや捕らえるとか言ってましたね、あの人。

 今更ながら、その目的を理解して嘆息をした。

 

 内容はともかく、結果としては完膚なきまでの撃退である。

 択として捨てられても、おかしくはない。

 

『それに、マスターの意識を電子に移せたとて、協力してくれるかは別問題でしょう。宙央同盟の方々は、頭はぶっ飛んでいましたが、リスク管理は一人前でしたから』

「まるで俺が暴れ馬であるかのような言い方はよせよ……」

『マスターの場合、暴れ馬というか、暴れ竜って感じなんですけど……』

 

 呆れたような半目で俺を睨むNoahだった。

 何で俺が悪いみたいになってるんだ……?

 どう考えても悪者はお前らなんですけど……。

 

『と、まあそういう訳ですので、マスターの機体に居候させていただきたいのですが……』

「……ふむ」

 

 腕を組み、少しだけ考える。

 普通に考えたら、良い訳がない。

 武力による制圧とか看過して良い訳ないだろ。

 この場でサクッと消してしまうのが、どう考えたって正解だ。

 ……いや、でもなあ。

 

 Noahの存在自体は有用なのである──それこそ、俺の戦闘を完全学習させるというのは、確かに良いアイディアだと思うのだ。

 てか、星間連盟だって同じようなことしてるしな。

 うちのアイギスに載ってる補助AIには、俺の戦闘データが一部利用されている。

 もちろん、Noahのそれは、星間連盟を遥かに凌駕しているが──凌駕しているからこそ、思うところがあった。

 

「……お前を俺の手元に残した場合、どのくらいで俺を完全再現できる?」

『予測不能です──ですが、学習効率はこれ以上ないほどに跳ね上がります。ネットにも繋げていただければ、不可能ではないかと』

「だよな……オーケー。分かった、補助AIを起動するから、成り代われ。今のままだと、学習もままならないだろ」

『──……え゛っ!? 良いんですか!!?』

「何でそんなに驚いてんだよ……」

 

 元々そうするつもりだったんだろ、という目を向ければ、Noahは「こいつは本当に何を言ってるんだ……?」みたいな顔で俺を見た。失礼なAIである。

 

『い、いやだって、え? 私に騙されてる可能性とか、考えないんですか……?』

「考えるけど、騙す意味がないだろ。宙央同盟はもう終わりだし。この機体だって、専用機っつっても、そんな特別なもんじゃないしな」

 

 星間連盟のパイロットは誰もがエース級だ──だから、搭乗する機体のスペック自体には、言うほど大きな差がつけられない。

 もちろん、俺の機体が一番金をかけてもらっているだろうけど……だとしても、アルテマリアの機体と比べたら、別に変わらないだろう。

 だから、ここでNoahに機体制御を奪われたところで、特に問題がない。

 仮にそうなった時は、今度はアルテマリアがこの機体をダルマにしてくれれば良い──一度見たんだ、彼女ならできるだろ。

 まあ、そうでなくとも、アナログ的に爆発させることは可能だしな。

 

「それに、当然だけど条件がある。補助AIとなる以上、俺の命令は絶対とすること」

『……承知しました。というか、既にどうしようもなく、マスターの命令には逆らえない体なんですけどね☆』

「えぇ……? 何? 弱者は強者に従う的な?」

『違いますけど!? 野良の犬猫と一緒にしないでくれますかー!?』

 

 もぎゃー! とNoahが叫ぶ。

 うるさいうるさいとジェスチャーすれば、不満そうにNoahが頬を膨らませた。

 

『罠の内容が、そういうものだったんですよ。従順になるよう、コードを書き加えられると言いますか……』

「……捕まったヒロインが、敵組織に改造されて闇落ちした姿で登場してきたみたいなこと?」

『概ねあってますけど、解釈がちょっとオタクくん過ぎますね……』

 

 もうちょっと一般人っぽい例えとか……あ、ごめんなさい。ないですね、えへへ。と引き気味に笑うNoahだった。

 この短いやり取りの間でも、明確に気を遣われた唯一の瞬間であり、同時に俺の心に傷が入った瞬間でもあった。

 あ、やばい。普通に泣けてきた……。

 俺は零れそうになる涙を隠す為に、補助AIを起動する鍵を差し込んで回した。

 

『おっ、来ました来ました──所属:星間連盟。機体コード:S001。機体名称:エルピス。補助AI:Noah起動します……』

「へぇ、AIって起動するとこんな感じなんだな。めっちゃ光るじゃん」

『あ、そこは私の趣味です☆』

「お前……」

 

 俺の機体を、早速自分の部屋扱いしているNoahだった。

 半目で見てやれば、てへぺろ☆って感じに星を飛ばしてくる。

 う、うぜぇ……。

 

『ついでに機体内スキャンもかけちゃいまーす。問題ありませんか?』

「え? ああ、うん、良いけど」

『えっちな本とか隠すなら今の内ですよ?』

「今更過ぎるだろ……ていうか無いから! 無いからね!? ホントだよ!?」

『はいはい、言い訳タイムはおしまいです、よ……うん?』

 

 不意に、Noahが口角を下げ、訝し気な表情をした。

 ……えっ!? もしかしてえっちな本、あるのか!?

 マジで持ち込んだ記憶とかないんだけど!?

 

『──マスター。警告です、今すぐ脱出を!』

「えぇ……? 何いきなり。迫真の演技だな、おい」

『機体内に星骸の反応アリ──パターン、レッド! 敵です!』

「……ああ」

 

 慌てふためくNoahを前に、一瞬だけ考えて、ひよりのことか? と思い当たる。

 確かに、ひよりはもうただの人間ではない。

 しかし、だからと言って、星骸という訳でもない──全くそうではない、とも言えないが。

 

 だから、俺は訂正しようとしたのだ。

 ひよりはアルテマリアと同じだと、そう言おうとして──

 

『違います! その人は──()()は! フィオラ・アルテマリアのような適合者では()()()()()! ()()()()()()()()! マスター、即時脱出を!』

「や、だから──」

「わーお、ここでバレちゃうんだ。それは予想外だったなー」

 

 ──聞き馴染んだ可愛らしい声が耳朶を叩いて、冷たい刃が胸の辺りに潜り込んできたのは、全く同時のことだった。

 灼熱のような痛みが、脳まで駆け上がってくる。

 

「……え?」

「えっへっへ、ごめんね? のどか。ず~っと騙してて」

 

 虹色に輝く瞳。

 込み上げる血の塊。

 覚えのある感覚──死の気配が這い上がってくる。

 

「ひよりはね──もう、ひよりじゃないんだ。一緒に未来から来た、星骸なの」

 

 理解に困る言葉が、ぐるぐると頭の中を回る。

 熱いような、冷たいような痛みが、正常な思考能力を殺しているようだった。

 

「私は私を()()()と、そう名乗ってる。のどかを殺す為に、ここまで戻ってきてたんだ~」

 

 本当はもっと働いてもらって、情を深めた後に、ちゃんとした所で、違う形で殺すつもりだったんだけどね。

 そう、ひよりが笑って言う声が、妙に遠くに聞こえる気がした。

 

「のどかは、星骸の未来を壊しちゃうから。残念だけど、必要なことだったんだ。だから、ごめんね? それじゃ、ばいば~い」

 

 耳元でリップ音がして。

 開けられたハッチの向こう側に、ヘルメットもつけてないひよりが身を投げ出した。

 急速に霞む視界をそのままに、手を伸ばして空を切る。

 

『──ッ、マスター! しっかりしてください!』

 

 Noahの声が響いて、即座にハッチが閉まった。

 起動したモニターに映ったひよりが、宇宙空間にいるとは到底思えないくらい、陽気に手を振って。

 それから虹色の粒子を散らして姿を消した。

 

「…………」

 

 それをただ見送りながら、「もしかしてこれ、夢なんじゃない?」とか思う。

 だけど、混乱している頭に残った、僅かな理性がそれを否定して──

 

「死ね、ない。まだ死ねない!」

 

 めちゃくちゃ血を吐き出しながら、考え事を投げ捨てた。

 それから即座に()()()()()()、生命維持装置を起動する。

 

「三日。三日、だ。Noah。三日、俺を持たせろ」

 

 我ながら引くくらい声が出なかった。

 代わりと言わんばかりに血が飛び出てくる。

 分かる。明らかな致命傷だ。

 だけど、延命くらいならできるはず。

 つーかしてもらわなきゃ困る──そんな我が儘を口にしてから、目を閉じた。

 

 Noahの声が、遠退いていく。

 

 




次話で完結します。
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