多分なんだけど、俺が天才パイロットすぎる。   作:泥人形

3 / 13
女主人公とは早めにコミュっておくのがまるい。

 

 フィオラ・アルテマリアがアイギスに乗る理由として、大それたものは一つとしてない。 

 それは、作品上でしっかり明言されていることで、いわゆる「誰かを守るため」だとか「俺にしかできないことだから」だとか、そういう熱い理由があったりはしない。

 やれるからやる、仕事だからやる──そういうタイプの主人公なのである。少なくとも、初めのうちは。

 奇しくも俺も同じ道を辿ったのだけれども、彼もまた、乗り捨てられたアイギスに搭乗し、その場で戦果を立てて、連盟に拾われた人間だ。

 それから数年、夥しい程の戦場を渡り、数々のミッションをこなしてきてる……というのが、彼に用意されたバックボーンである。

 

 というか、それがあるからこそ俺は、少なくとも「フィオラ・アルテマリア」という人間が、この世に存在するのだと確信していたと言って良い。

 何せ、俺が《全能》だなんだと、分不相応にも囃し立てられているように、連盟内では彼──彼女も有名だったのだから。

 格上の敵機を、不条理な星骸を、何度も打ち倒してきた──故に、《 革命(ジャイアント・キリング) 》。

 

 だから、直接顔を合わせる機会はなかっただけで、彼女のことは意識せざるを得ない環境だった。

 何なら俺がちょっと無理をしてでも、この学園に通わせてもらった大きな理由の一つは、彼女であると言って良い。

 

 ……いや、だってさ。

 主人公は……生で拝みたいだろ!

 俺は基本的に、どのゲームでも主人公が一番好きになるタイプのオタクである。

 本でもゲームでも、結構がっつり感情移入しまくる人間であり、堪能した後はしっかり二次創作を全身に浴びていた。

 かつてはフィオあか(フィオラ×暁音(あかね))イラストや、フィオひよ(フィオラ×ひより)イラストを鬼のように漁っていたものである。

 そういう──典型的なオタク君だったから、なおさら混乱がデカかった。

 

 が、落ち着いて考えてもみれば、女性になったからと言って、別に弊害はないな。

 懸念点があるとすれば、彼女がひよりと結ばれてくれなければ、トゥルーエンドにたどり着けない、ということくらいである。

 一瞬、「いやじゃあ結構まずいんじゃない!?」となるのだが、これも冷静になってみれば、そこまで問題じゃない。

 前世じゃまだメジャーではなかったが、この世界だと同性愛って滅茶苦茶普通のことだしな。

 

 それに、何も結婚して子供を作るまでやってくれ──という話ではない。

 イチャイチャしまくった熱量を、そのままやる気や気合いに変換し、作戦にぶつけてくれという話である。

 そう考えれば、そこまでハードルの高い要求ではないだろう。

 

「それでも、俺は。今の俺には、守りたいものがたくさん増えた。戦いたいと思える理由を貰った! だから、ここから先は、何一つとして通さない!」

 

 という、最終戦時の名台詞が聞ける日もそう遠くないことが分かって、俺としてもほっと一安心といったところだ。

 その頃まで俺が生きてる確証はどこにもないが、まあ、ダメだった時はダメだった時で仕方ない。

 人って死ぬ時は死ぬからな。

 

 でも、生きる希望があるというのは良いことだ。

 感情論ではなく、実体験として、そう思う。

 そういったものがある人は、憂いなく死力を尽くすことが出来ると、個人的に思うから。

 それが、望み通りの結果に導いてくれるかは別問題として、あった方が良いものではあるだろう。

 

 そんな訳で、俺に課せられた使命が一つ増えていた。

 そう──それはつまり!

 

 ラブラブ♡フィオひよ成立大作戦──である!!

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 緊急任務が発生したので、深夜二時に叩き起こされて出撃となった。

 学生なのに? と思われたかもしれないが、俺の場合は特別待遇として通っているだけで、普通に軍人でもあるからな。

 日々、星骸と戦っている星間連盟の一員なのである──だから、実は仕事をしていたりする。皆には内緒だぞ。

 

 ただ、まあ、そうは言っても、流石に配慮されているのか、出撃はそう多くないのだが。

 だから、正確に言えば今回の出撃も、俺宛ての任務ではなかった。

 

 では、どういうことなのかと言えば。

 突然、俺の部屋を襲撃してきたフィオラ・アルテマリアが、

 

廿楽木(つづらぎ)特務士官様。協力を要請いたします──大丈夫ですよね?」

 

 とか言って、俺をベッドから引きずり出したから……というのが、簡素な回答になる。

 どうだ、意味が全然分かんねぇだろ。

 安心してくれ、俺もまだ現状が良く分かっていない。

 

 少なくとも分かっていることは、これが多分、原作上では2回目のボス戦である──ということだけだ。

 思い返してみれば、確かに深夜の出撃だった。

 

 なんていうか、普通にクソボスなんだよな。

 いや、アルマ・ステラにクソじゃないボスってあんまりいないんだけど……、

 

 初手にギミックなしの超スペックボスをぶつけてきたくせに、次は鬼のようにギミックを搭載したボスをぶつけてくるもんだから、実質ここまでがチュートリアルであると、良く言われていたことを思い出す。

 シナリオが神じゃなかったら、原型なくなるまで叩いていた──とは、全プレイヤーの共通意見だ。

 

「ふあぁ……」

 

 場所は学園の格納庫(ハンガー)

 学園に通うにあたり、俺のアイギスはここに収められている。

 これから乗る、真っ黒なアイギスを前に、嚙み殺し損ねたあくびが漏れ出た。

 出撃前にしては気が緩みすぎていると、我ながら思うのだけれども、時間が時間なのだから仕方ない。

 眠くて頭とか回んねーよ。

 頭の中では細身の黒人が「やあ! 夜二時に何をしているんだい?」と、元気良く俺に問いかけてるからね。

 何してるんだい? は俺の台詞なんだよな。寝させてくれ。

 

「……緊張とかは、されないのですか?」

「そっちこそ、リラックスしてるように見えるけど?」

「無意味なことはしない主義ですので」

「緊張って、主義主張でどうにかできるもんなのか……?」

 

 生理現象なんじゃないの? と思ったが、まあ主人公だからか……と納得しておくことにした。

 ていうか、敬語なんだな。しかも儚い系の声音だ。

 見た目も相まってか、何だか修道女とか、そういった人と話してる気分になる。

 気を抜いたら懺悔とか始めちゃいそうだ。

 

「それより、何で俺まで出撃なんだ? そっちへの任務だろ」

「そう、ですね──申し訳ないのですが、端的に言うと、私のわがままです」

「わがまま」

 

 ほう、と腕を組む。

 豊かな妄想能力を持つ男子高校生に、美少女が良くもまあ、妄想が膨らみそうな単語を投げてくれたな。

 俺じゃなかったら、「え、もしかして俺のこと好きなん?」とか思ってたところだぞ。

 さっきから距離も近いし、もう少し配慮していただきたい。

 すっごい良い匂いとかしてるからね。ある意味緊張してしまう。

 

「廿楽木特務士官様のことは、予てより聞いておりましたので」

「おっ、そりゃ光栄。俺も、《 革命(ジャイアント・キリング) 》アルテマリア特務士官殿の噂は、良く聞こえていましたよ」

「な、ぁ──」

 

 不安になるくらい白い肌を、急速に赤らめたアルテマリアが、ムッとしたように俺を睨む。

 

「ぜ、《全能》廿楽木特務士官様ほどではございません。ああ、それとも《救世主》様と言った方が、よろしかったでしょうか?」

「──ッ!」

 

 かぁっと顔に熱が集まってくるのが良く分かった。

 未だに面と向かって、誰が付けたかも不明な二つ名で呼ばれると、羞恥が大きく勝る。

 思わず眉をひそめて、睨み合うように、虹色の瞳を見た。

 

「…………!」

「…………!」

 

 数秒間の硬直。

 互いの視線を鍔迫り合わせるように、重ね合わせて──

 

「……ふっ、ふふっ。あはは!」

「……わはっ、わはははは!」

 

 ──思わず噴き出した。

 これもまた、お互いにだ。

 

「やっぱりさ、この二つ名とかいうシステム、恥ずかしすぎるよな!?」

「ええ──本当に! 廿楽木特務士官様も、同じ考えで良かったです!」

 

 ピリついていた空気が一気に弛緩する。

 きゃーっと嬉しそうに、アルテマリアが両手を出してきたので、いぇーいとハイタッチした。

 ふわりと香った甘い、バニラの匂いに少しだけ、頬が緩む。

 

「ふふ、やはり私の目に狂いはありませんでした──きっと、私たちは似た者同士です」

「うお、急に人誑しみたいなこと言い始めたな……そう断言するには早計すぎるんじゃないか?」

「そうかもしれません。でも、観察眼には自信があるんです、私」

「あ、そう……」

「なのでもちろん、廿楽木特務士官様が、今照れたのもお見通しです」

「さー! 任務張り切ってこうか! しゃー、いくぞ!!」

 

 看破しすぎだろ! そういうのは分かっても口にするもんじゃありません!

 確かに、設定集にはフィオラ・アルテマリアの趣味は人間観察ってあったから、観察眼が鋭くてもおかしくはないが!

 それがこちらに振るわれるのは、話は別である。

 これ以上、内心を悟られてたまるかと、ハッチの開いたアイギスに、大声を出しながら飛び込んだ。

 

「あ、ちょ──」

 

 まだ何か言い足りなさそうなアルテマリアを、シャットアウトするように即閉める。

 カタカタと制御盤を操作して、全天周囲モニターが問題なく稼働したのを目で確認し、スラスター操作のペダルに足を置いた。

 

「搭乗完了、システムオールグリーン。いつでも出られます」

『了解──搭乗者のバイタル、オールグリーン。出撃を許可します』

 

 流れ作業のように、何十回としたオペレーターとのやり取りをする。

 一度も顔を合わせたことがないんだけど、もしかしてAIだったりするのかな。

 

『──と、その前に。廿楽木特務士官、ヘルメットは装着してください。宇宙、嘗めてるんですか?』

「いや嘗めてない嘗めてない。ちょっと忘れてただけなんで……」

『次忘れたら加速途中で機体固定解除しますからね』

「俺を殺す気すぎない!? ごめんなさいってば!」

 

 あ、AIじゃないですねこれ。

 割とがっつり叱られて、項垂れながらヘルメットを着ける。

 

「──よし。廿楽木閑、出まーす」

『了解──電磁加速射出機(リニア・カタパルト)起動します』

 

 ──アルマ・ステラにおける、アイギスの出撃方法は基本的に一種類だ。

 それがこの、電磁加速方式である。

 詳しい仕組みは良く分かってないのだが──簡素に例えると、レールガンであるらしい。

 コロニーに敷かれたレールを銃身とし、アイギスを弾に見立てた、超電磁砲。

 それにコロニー自体の回転速度を加えることで──アイギスは、マッハ3を超える。

 

「さて、と──ちょっとだけ整理しとくか」

 

 超々々高速で放り出された宇宙の中で、改めて考え直す。

 何についてかと問われれば、もちろん、フィオラ・アルテマリアについて。

 

「思っていたより、別人だったな」

 

 いや、まあ、そりゃゲームと現実は違うのだし、そもそも性別も違うのだから、性格が全く同一である──なんてことはないと思っていたが。

 やたらとフレンドリーだったな、と思う。あと距離が近い。近すぎると言っても良い。

 肩が触れちゃいそうなくらいの至近距離にいたんですけど?

 俺に鋼の理性と目的がなければ、もう好きになりかけていたことだろう。

 ラブコメ耐性ゼロの男子高校生嘗めんなよ。

 

 ド清楚である印象を見た目から受け取っていたけれど、アレは結構な悪女かもしれないな……。

 まあでも、この年頃の女子なんてちょっと悪い男の方が好きか。

 前世で俺が好きだった女子も、「私は真面目で誠実な人がタイプだなー」とか言っといて、バリバリのヤンキーと付き合ってたからね。

 

 そう考えると、むしろ都合は良いのかもしれない。

 ひよりも例外ということはないだろうし。

 原作からして、第一印象からフィオラに惹かれてたくらいだしな。

 それに──仮にそうでなかったとしても、これから好意的に思うよう、誘導すれば良いだけの話だ。

 

 恋のキューピッド:廿楽木閑、出ます!

 

「……と、センサーに対象確認。これより戦闘に入る──一先ず動きを見たい。アルテマリア特務士官殿は後方支援よろしく」

『え? ちょっ、廿楽木特務士官様!? 相手はイレギュラー個体ですよ!?』

「だから、様子見が必要になるんだろ──観察は得意なんだよな? 分析頼んだぞ」

 

 それじゃ。と通信を切って、ペダルを踏み込んだ。

 そうすれば、ずっとセンサーだけで捉えていた星骸(せいがい)の姿が直接目で確認できる──ゲームで嫌になるほど戦った、巨大星骸。

 タコのようなビジュアルをした、第二面ボス:ヘカントクラウケン。

 重力と引力、それから瞬間移動を使う、クソバカギミックボスだ。

 

 情報のない状態で、真正面からぶつかったらまず勝てない──だから。

 俺は、俺を試金石にすることにした。

 アルテマリアは敵を見て、俺を見て、そして最後に──倒してくれれば、それで良い。

 まあ、その為には俺も頑張らないといけないんですけどね?

 

 前回のように、うっかり一撃で殺してしまわないよう、俺は緊張に手汗をかきながら、ゆっくりとスラスターを点火させた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。