多分なんだけど、俺が天才パイロットすぎる。   作:泥人形

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女の子は秘密を着飾るもの。

 

 

 天才、廿楽木(つづらぎ)(のどか)

 星間連盟に所属していて、その名を知らないやつは、よっぽどの無知かモグリだ。

 第十コロニー:ラスト・アイリスの悲劇を、半壊していたアイギス一つで救ってみせた英雄。

 十歳という幼さで、数多の戦場を渡り歩き──ただの一度も敗走しなかった、星間連盟の最終兵器。

 

 だから、フィオラ・アルテマリアは廿楽木閑のことを、ずっと前から知っていた。

 あるいは──いっそのこと、ファンであったと言っても差支えはない。

 ついぞこの学園に来るまで、顔を合わせることはなかったけれど、その戦闘ログや映像記録を、フィオラは何度も見返していた。

 それこそ、擦り切れるほどに──何せ、廿楽木閑という少年が手繰るアイギスは、全てが別物だったから。

 

 機体スペックの話ではない。

 積んでいる武装の差異ではない。

 常軌を逸した操作練度と──何より、その判断力だ。

 

 星間連盟のパイロットは、誰もが一級品の腕を持っている。

 最新鋭のアイギスと、最新鋭の設備。

 長年培ってきた経験と、突き詰められた理論を元に構成された、厳しい訓練。

 それらを乗り越えた者のみが、正規のパイロットとして登用される──それ故に、星間連盟のパイロットは、全員がエース級とさえ言われていた。

 

 それでも。

 そんな彼らでも──レーザービームの雨を、すり抜けるように飛ぶなんて真似はできない。

 音速で飛行する星骸のコアを、一撃で撃ち抜くなど狙ってできはしない。

 メインカメラを潰されて尚、百以上の星骸や敵機を撃墜し、単独で帰還するなんて、誰ができようか?

 

「理論上は可能なんだから、やろうと思えばできるだろ」

 

 そんな、戦闘ログに残されていた、オペレーターとの短いやり取りは有名だ。

 机上の空論を現実にしてしまう──故に《全能》。

 

 だから、フィオラ・アルテマリアは会いたかったのだ。

 同じ特務士官として、同じ境遇として。

 一度で良いから顔を合わせて、じっくりと話したかった。

 共に出撃し──あわよくば、戦いたいとさえ。

 

 彼女がこの学園にやってきた理由の、大部分はそれだ。

 フィオラ・アルテマリアは、廿楽木閑に会うためだけに、らしくなく権力を振りかざし、やや強引な入学を決めたのである。

 

 ……とはいえ、実際に顔を合わせた印象は、抱いていたイメージとは全く違ったようではあるが。

 フィオラにとって、廿楽木閑は実に普通の男の子に映った。

 年相応に語り、年相応にノリが良く、年相応に笑う。

 どこを切り取っても、ふつうすぎるくらい、普通の男子だった。

 そのことに、彼女は少しだけ失望をして、

 

「……嘘」

 

 浅はかな自分を、すぐに恥じ、悔いた。

 イレギュラー星骸、仮称:ヘカントクラウケン。

 巡回中だった一個小隊が遭遇後、ものの数分で全滅させられたことにより、イレギュラーと認定されたそれの風貌は、巨大なタコに近い。

 その能力は、被害状況から重力であると推測されており、苦戦を強いられることは予想に難くなかった──のだが。

 

 ヘカントクラウケンは、既に八本あった足の内()()()()()()()()()

 戦闘開始から、たったの数秒。

 着弾直前に、不自然に折れ曲がり逸れていったビームを視認した廿楽木閑が、

 

『足先に重力を発生させる球を生成してるな。範囲は限られてそうだけど、八本もあれば全身を覆えるから、それで鎧作ってる感じか。これ、近づいたらぺっちゃんこだろうなあ……。まぁでも、足それぞれに小さい流動するコアがあるっぽいから、撃ち抜けば捥げそう──ちょっとやってみる、援護射撃よろしく』

 

 そう言ってからの、七連射。ビームマガジンを取り換えて、更に七連射。

 一発目が球を撃ち抜き、次にコアを撃ちぬく。それが七回。

 それだけで、イレギュラー認定された星骸が、タコからまるで風船のようなビジュアルに!

 もしかして、星骸が弱かったのか──なんて、甘い思考をせき止める。

 そんな訳がない。有り得ない。

 潰された小隊は、ベテランのアイギス乗りが複数人いたと聞いている──だからこそ、すぐにイレギュラーに認定されたのだとも。

 

「これが、《全能》……」

『おい! ハズいからそれで呼ぶなって! てか援護くれ、援護! 死んだらどーすんだ!?』

「私の目には、どう見ても不要に見えるのですが?」

『……い、いやほら、まだ一本残ってるし……』

 

 言われてすぐに、フィオラはライフルを構えた。

 モニターに現れたターゲットポイントを、最後の足を司るコアへと当てて。

 思いっきりしかめっ面を作った。

 

「(──りゅ、流動してるとかいうレベルじゃなくないですか!? 小さいのに、速すぎる!)」

 

 フィオラ・アルテマリアの肌を、焦燥感が焼き焦がす。

 ここまで──これほどまでに、差があるというのか。

 フィオラはこれでも特務士官だ。

 廿()()()()()()、独立遊撃特務士官──たった一人でありながら、一個大隊ほどの戦力であると、連盟に認められたイレギュラー。

 近年増えてきた、イレギュラーな星骸に対するカウンター。

 それが、連盟にたった二人しかいない、独立遊撃特務士官だ。

 

「──情けないですね」

『え、悪口?』

「わっ、わわっ、通信切り忘れてました! 誤解です! ただ、自分が情けなくって」

『なにが……?』

「廿楽木特務士官様とは、同じ立場なのに──小細工がないと、並べないことが」

 

 小細工? という、どこかわざとらしい疑問符を聞き流し、フィオラは少しだけ目を瞑り、ゆっくりと開く。

 再び開かれた虹色の両眼には、幾何学模様が現れていて、薄く光輝いていた。

 

「目標視認。ターゲッティング完了。構成解析スキップ。未来演算開始……クリア。ルート確立。弾道描写、完了──撃ちます!」

 

 直後、ライフルはビームを吐き出した。

 一条の、虹色の閃光──それは、足先の重力球を撃ち抜いた後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 高速で流動する小さなコアを、綺麗に穿ち抜く。

 ヘカントクラウケンの最後の足が、爆裂するように千切れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──一筋の閃光が、有りえない軌道を描き、ヘカントクラウケンの足を穿つ。

 物理法則を完全に無視した、インチキビームを前に俺は、

 

「うおおおおおおおおお来た来た来た来た!! かっけ~~!!」

 

 クッッッッソ興奮していた!!

 これこそ、アルマ・ステラの主人公、フィオラ・アルテマリアに与えられた、SFらしくない、ファンタジーじみた特殊能力!

 ()()()()()()──つまり、()()()()()宿()()()瞳を用いて行われる、権能の一つ!

 ターゲッティングした二つの物体に、必ず当てる射撃スキル──ゲイボルグ!

 

 いやあ、良かった良かった。

 第二面のボス──つまりはこいつ、ヘカントクラウケン戦で覚醒する能力なんだよなー、これ。

 足を最後の一本まで落とすと、イベントが発生して使えるようになるのだ。

 上手くいくだろうかと、ずっとドキドキしていたのだが、これでほっと一安心である。

 

「ま、一戦闘に一回しか使えないから、万能って訳じゃないんだが」

 

 連続で多用すると代償として、記憶喪失になるんだったかな。

 まあ、普通に考えて、無条件に使えたらヌルゲー過ぎるのだから、当たり前ではある。

 とはいえ、ゲイボルグはゲーム内じゃ、そう使われなかったスキルでもあるのだが。

 ──しかし、それは馬鹿げた耐久力を誇る、ゲームの話だからであって、現実だと話が変わる……と、俺は思っていた。

 何故ならこの前、俺が星骸を一撃で殺してしまったように──コアを破壊すれば、星骸は例外なく死ぬのだから。

 ゲームのように、何度も何度も叩く必要はない。穿てば死ぬ。

 そう考えれば、どうだろうか?  

 ゲイボルグが、超有能神スキルに見えてきたんじゃないだろうか?

 

 ……まあ、今後は複数コア持ちが前提となってくるので、即殺入れるのは難しいというか、不可能であるのだが。

 星骸の基本設定は、コアが一つであることなので、マジで何言ってんだ? って感じである。

 とはいえ、全く無意味という訳ではないし、アイギス相手なら特攻と言っても良い。

 

「……っと、気を抜くのは早いか」

 

 軽くアイギスを旋回させて、飛んできた真っ黒な槍を回避する。

 俺とフィオラが潰したコアは、飽くまで足のコアであって、本体のものではない。

 言ってしまえば、ここからが本番なのだ──つまり、第二形態って訳だな。

 

「今の、重力を固めた槍だな。当たれば即死な気がする、気をつけろよ」

 

 正確なことを言えば、着弾した瞬間重力場が発生し、アイギスがぐちゃっとなって死ぬのだが。

 こいつがクソボスたる所以と言っても良い。ここまできて即死技持ってくんじゃねーよ。

 

『り、了解です──そちらも、お気をつけて』

「ありがと──それじゃ、陣形は変わらず行こう。サポート頼む!」

 

 言って、スラスターペダルを踏み込んだ。

 アイギスが唸りを上げて、急加速する──流石に、フィオラに前衛を任せるのはちょっと怖い。

 アルマ・ステラ自体がそうなのだが、初見殺しが多すぎるんだよな。

 こいつ相手に接近戦とか仕掛けたら、とんでも引力で磔にされるし。

 だから、まずは手の内を暴きつつ、適度に弱らしてからバトンタッチ。トドメを入れてもらう。これが理想のムーブだろう。

 

「まあ、俺が死ななければっていう前提になるんだけど……」

 

 そこはまあ、問題ない。

 ヘカントクラウケン第二形態──完全な球体になったそれは、間髪入れない攻めが特徴だ。

 分かりやすく例えるならば、第一形態が防御モードで、第二形態が攻撃モードって感じだな。

 だから、その分守りが手薄になる。

 

「こんな風に」

 

 ハリセンボンのように飛んでくる、重力槍を躱しながら射撃する。

 真っ直ぐに飛ぶビームライフルは、ヘカントクラウケンの肉体を着実に削いでいた──まあ、星骸の身体なんて削っても、その内元通りになるのだが。

 星骸の心臓である真っ赤なコアは、同時に脳であり、本体である。らしい。設定だとそうなってる。

 

 それを覆っている──というか、俺たちが星骸の『身体』と呼称している、半透明の青い部分は、言ってしまえば殻なのである。

 だから、形が自由自在なのだとか。

 人型だったり、タコ型だったり、犬型だったりな。

 

「んー、あと三……いや、二発かな。アルテマリア、今日の武装は何持ってきた?」

『通常装備に加えて、新兵装のビームマグナムを。威力は高いですが、銃身が耐えられないので3発までと伺っています』

「了解、ミサイルでの援護はそのままで、ビームマグナムはいつでも撃てるように、頼む」

『──っ、了解です。お気をつけて』

 

 とはいえ、殻なだけあって相応に固い。

 コアに攻撃を通すには、まずこれに穴を空ける必要があった。

 チュートリアルの一面ボスみたいに、速度特化な星骸だとやわいから、気にする必要がないんだけどな。

 コンセプトが真逆なヘカントクラウケンは固い方だ。

 だから、こうやって削ぐ必要がある。

 

「いやまあ、削ぐって言うか、砕くって感じなんだけど……」

 

 単純に同じところ当て続けて穴を空けるのも良いが、それでは芸がない。というか、それだとアルテマリアがコアを狙いづらい。

 だから、適当に着弾点をバラつかせていた。

 そうすれば、ほら、この通り。

 当たれば当たるほど、身体に広がった、たくさんのひび割れが繋がって──

 

「──全部砕ける。丸裸って訳──アルテマリア!」

 

 まるで巨大なガラス細工のように、ヘカントクラウケンの身体は砕け散った。

 星骸の肉体は再生すると言っても、全身ともなれば十秒以上は必要になる。

 それは、動画でも見てれば一瞬だけど、戦場では致命的な時間だ。

 

 50発積んでる多連装ミサイルを、全てマニュアルでロックオンし直して発射する。

 爆音と共に、肩から解き放たれたそれは、未だに飛び続ける重力槍の軌道を逸らし、道を開いた。

 

『──ロックオン』

 

 瞬間、声が聞こえた。

 スラスターペダルを軽く踏んで、開いた道から更に機体を退かす。

 後はもうお任せだ。ヘルメットを脱いで、脱力をする。

 そうすれば、一条の青色の閃光は抜き放たれた──待って、一発じゃね?

 

「……やべっ」

 

 コア周辺に重力バリア張ってるって言い忘れてた!!

 ビームマグナム一発じゃ、バリアを破壊するだけで終わる──

 

「──ッ!」

 

 言ってももう遅い。というか、多分チャージモードで撃ってるな、アレ。

 ビーム超太いもん。そして、その判断は正しい。コアが欠けたくらいじゃ、止まらない星骸もいるからな。

 でも重力バリアは超強い防御というより、一回限りの無敵技なのである。

 つまり、火力で突破することが、まずできない。

 だから、慌ててライフルを構えた。

 

 スコープを覗いてる暇はない。

 ちゃんとした射撃体勢に入る時間もない。

 ただ、宙を裂くビームマグナムの軌跡を追うように、コアの位置を思い出しながら、勘でビームライフルを発射した。

 

 そのすぐ後に、巨大なビームが着弾し、ド派手な爆発を起こす。

 そして、その爆風を貫くように、もう一筋の閃光がコアへとびこみ──コアを貫いた。

 突然電源を切られたように、重力槍の嵐が止み、穴の開いたコアがぼこぼこと膨れ上がって──爆散。

 半透明の肉体ごと、ヘカントクラウケンは活動を停止した。

 

『目標の討伐を確認……ミッション完了です』

「ん、お疲れ。ナイス狙撃」

『ふふ、何を言ってるんですか。廿楽木特務士官様があってのものですよ、あれは』

「わはは、それほどでも」

 

 過剰な謙遜はかえって印象が悪い。ここ数年で学んだ事実をもとに、称賛を受け入れる。

 そう、それが例えば、フィオラの必殺技が見たかったとかいう、邪な思いがあったとしても……だ。

 

『──本当に、私に配慮してくださって……花を持たせてくださって、感謝しています』

「や、そんな言い方──」

『でも、次は。今度、戦場を共にする時は、手加減抜きの、廿楽木特務士官様の全力を見せてください。約束ですよ?』

 

 それでは、先に帰還いたします。なんてアルテマリアが言って、戦場を離脱する。

 自動操作モードに切り替えた俺は、「あちゃ~」と腕を組んだ。

 

「流石にバレバレだったか……」

 

 我ながら、堂々と美味しいところを譲っていた自覚がある。

 今度からはもっと上手くやろう……と、心に誓う俺だった。

 

 

 

 

 で、まあ、深夜の3時に帰還して、さっさと寝ちゃおうとベッドに向かったのだが。

 

「あ、お帰り、のどか。どうだった? ヘカントクラウケン、強かったー?」

 

 そこではひよりが、座って待っていた──青色だったはずの瞳を、虹色に輝かせて。

 ……何で?

 

 

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