獄中戦隊! アルカトランジャー!(※服役中 作:放てリビドー丸
恒久的平和を体現するかのような穏やかな昼下がり。街中には男子児童が溢れていた。半袖短パンから見える素肌が煌めく、彼らは無邪気に周囲の大人に抱き着いたり、懐いたりしていた。
「ねぇー。カード買って―!」
「一緒に映画見に行こ―!」
この世に子供に勝てる大人はいない。
どいつもコイツもあっと言う間に骨抜きにされて『しょうがないにゃあ』という言葉と共に財布から金が飛び出し、瞬く間に夢中になって行く。こんな同時多発的にショタセールスが起きるだろうか?
もちろんコレは性的嗜好による侵略行為である。この光景を俯瞰しながら、半袖短パンのおっさんと言う世にも見苦しい中年が高笑いをしていた。
「ショーッタッタッタ! 世はもっと男児に興奮するべきだショタ!」
彼が覗いているスコープ越しには、地上に跋扈している男子児童達が実態を持たないエネルギー体の存在であることが分かるだろう。
だが、いかなる現象か。愛でられ、愛されるごとに彼らから大量のエネルギーが生まれ、上空へと集中していく。集まり切らず、漏れた分が周囲の民家や家屋に降り注ぐと、中にいた住民達に変化が起きた。
「アンタ! 今すぐ陰謀動画の視聴を止めて、教育テレビを見なさい!」
「そうだ! こんなクソみたいな動画よりも有益だ!」
例えば、老後にやることも無くなって刺激しかない陰謀論動画を見ていた老夫婦が唐突に教育テレビにチャンネルを変え、画面内の児童にうっとりし始めたかと思えば、別所では。
「時代は男の子なんだよね。メスガキに興奮する時代は終わったよ」
「だよな」
大量のR-18同人を持ち寄って読み合っていた2人のギークは、唐突に読書を止めてイラスト投稿サイトに『ショタ』と打ち込んで検索をしていた。
漏れ出た余波だけで周囲の性的嗜好にコレだけの影響を及ぼすのだ。もしも、コレが更に肥大化して、この国を覆ったらどうなるのか? という懸念が浮かび上がる程に、エネルギーが集まって来たころ。地上に変化が起きた。
「どけぇぇええええい」
野太く、間延びした声を響かせながら現れたモノを見て、周囲は膠着していた。
彼の全身を覆っているのは、人工筋肉によるアシスト性能を加えた全身フィット型の強化外骨格であったが、問題なのは質量である。
ズシズシと形容するしかない足音を響かせていることから分かる通り、体重は軽く100kgを超えている。黄色の強化外骨格を持ってしても覆い切れず、はみ出た下腹部に浮かんだ汗が、太陽の光を反射して汚らしかった。
「兄ちゃんおっきー!」
しかし、こんな醜悪としか形容する外ないコスプレ中年にも駆け寄るのが、この男児達だった。いつの間にか追加で出現しているのだが、気付いた人間はいない。
普通ならば。デブ、きっしょ、死ね。誹謗中傷セットが送られる様な存在にも無邪気に抱き着きに行く。というのは、彼らが真っ当な危機感を持っていないことの証左であり、愛される為だけの存在。という歪さを表していた。……が。
「BMI35以上になって出直してこい!」
なんと。このデブ、抱き着いて来た男児を吹っ飛ばした。すると、攻撃に耐えかねたのか。彼らの存在が雲散霧消した。
「そうだワン! この、ハダカザル共め! もっと、モフモフになって出直して来るワン!!」
全身に青色の強化外骨格を身に纏ったやせぎすの男は四足歩行で高速移動しながら、件の存在を次々と嚙み砕いていた。
すると、先程まで操られていた大人達は困惑こそするが、次々と正気を取り戻しては、目の前の変態共を見て悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。この光景を俯瞰しながら、半袖短パンの中年は歯ぎしりをしていた。
「アルカトランジャー。どうして、貴様らが……! 我々、フェティシマーと同じ存在だというのに!」
「違ぇよ」
声のした方を見れば、赤色の強化外骨格を纏った男がいた。デブでも無ければ、四足歩行でもない。筋骨隆々としており、拳を固めていた。半袖短パンの男もニヤリとした。
「喧嘩は男児の華じゃあ!」
見た目はキモイが動きは非常に俊敏だった。強化外骨格をぶち抜かんばかりの蹴りを放ったが、それよりも先に顔面に鉄槌の様な一撃を入れられていた。
ただの一撃。全てが決まり、上空に集中していたエネルギーが霧散すると同時に、地上部に出現していた男児達も消え去った。
後に残されたのは、黄色のデブと青色の変態の出現に逃げ惑う人々と彼らを落ち着かせようとする特殊スタッフ達だった。
――
「この度、諸君らのおかげで『男児スキー』を捕まえることができた。奴は、この変態アルカトラズに収監され、組織の情報を得るために尋問されている」
政府高官の男。高野が示したモニタには、高度な尋問テクニックを施された男児の質問攻めによって、ボロボロと情報をこぼしまくるカスが映し出されていた。
だが、これらの光景に興味が無いのか。部屋に集められた3人は鼻をほじったり、耳クソをほじり出そうとしたり、ヘソの垢を取り出そうとしていた。もちろん、高官はブチギレていた。
「人の話を聞け! お前らには、この国を守る秘密編隊『アルカトランジャー』である自覚が足りん! 恩赦が欲しくないのか!」
「ヒーローみたいな部隊名なのに。恩赦って言葉とセットになっているのが実にアンビバレントだワン」
痩せぎすの男『犬飼 毛布茂(モフモ)』が挑発する様にして言った。
彼の容姿は異様で。顔にまでもっふりと毛が生えており、夜道で遭遇した暁には人狼の存在を信じ得ない様な物になっている。
そんな彼を制動したのは、この狭い部屋の人口密度と湿度を上げまくっている男。『百貫 大吉』だった。
「ワシらは、この変態アルカトラズの囚人で。お前達から持ち掛けられた司法取引によって、謎の組織『フェティシマー』と戦わされている訳だが」
「そうだ。連中はお前らと同じ、性癖を極(キ)めた『異能変態』共を集めた性癖倒錯集団だ。お前達が性的嗜好(フェティッシュ)をファッションみたいに擦り合おうが、センズリこいてようがどうでもいい。だが!」
あらかた情報を抜かれた男児ズキーが収監されて行く様子をプロ男児が手を振って見送っている映像から切り替わり、全く別所が映し出された。
そこでは男は男同士で。女は女同士でチュッチュしている様子が映し出されていた。赤と白のドレスを纏った女性は恍惚とした表情を浮かべていた。
『男は男同士で。女は女同士で恋するべきだと思う!』
笑いごとの様に見えるが、事態はそう簡単ではない。何故なら、左手の薬指にリングを付けた男女も騒ぎに巻き込まれていたのだから。
「ギャグでも笑い話でもないんだ。お前達のせいで数多くの家庭やカップルが崩壊している。これは国の労働人口の減少にも繋がるんだ」
傍目には喜劇の様に見えても。長期的に見れば、人口不足にも繋がりかねない重篤な問題でもあった。百貫が加えた。
「警察も。軍隊も。ンハ。役に立たない」
国の有事に立ち上がる警察や軍隊も異能変態達の前には無力だった。
彼らの性的嗜好(フェティッシュ)を媒介とした異能は常識では太刀打ちできずに、瞬く間に飲み込まれてしまうのだ。耳を防ぎ、視界情報を防ごうとも無駄に終わり、この国に変態が増えるだけで終わってしまう。
「そんな連中に立ち向かえるのが、同じ異能変態共であるお前らだ。何故だか、分かるか?」
「ボク達は自分の性的嗜好以外に興味が無いワン。ただし、同じ変態同士。一定の尊重はするワン」
基本的にシニカルな犬飼ではあるが尊重の部分。に関しては、真面目なトーンで話していた。
「だから、我々は苦渋の決断をした。お前達みたいな輩を閉じ込める『変態アルカトラズ』の中でも、有数の実力者達を起用することにした! ここまでは良いか! 武藤!」
「はいはい。聞いていますよ」
今まで、一言も発していなかった筋骨隆々の男。『武藤 涼和(りょうな)』は怠そうに相槌を打っていた。
「我々が目指すべきは、この国の浄化! 貴様らの様な変態共が日陰を歩き、我々の様なマジョリティが普通に生活する世界を取り戻すんだ! その為には、貴様らにも使命を持って動いて貰わねばならない!」
1人、熱を上げる高野であったが3人はどうでも良さそうだった。彼らは頭上の短針が6を指した頃、スッと立ち上がった。高野が身を竦めた。
「な、なんだ!」
「今から、余暇時間だから。ボク達、部屋に戻るワン」
「早く。相撲が見たいんでな」
「じゃあ、また呼んでくれよ」
3人は有無を言わさず、部屋から出て行った。残された高野はぶるぶると震えていた。
「なんでコイツらに頼らなきゃならないんだ!!」
毒を持って毒を制する。実際に運用するには、飲み込めない程の汚濁。政府に使える高潔に男は怒りの声を上げていた。