獄中戦隊! アルカトランジャー!(※服役中 作:放てリビドー丸
『The・Enjoy!』のプロデューサーである蜂二は優秀な男である。
竜星達が学校に行っている間、スタッフ達にも命令を飛ばし着々とライブの準備を進め、各方面への手配も怠らない。
「(見ていろ。変態共。貴様らなど、ただの犯罪者で何の力も持っていないことを示してやる)」
彼の手には1枚の写真が握られていた。
金髪オールバックの少年とファンキーな髪形をした茶髪の少年に加えて、ショッキングピンクの髪色をした女子の様な男子が肩を組んでいた。
「(これは復讐だ)」
スマホを開くと週刊誌の表紙が表示された。
表紙には『大人気デュオアイドル、テロにより突然のライブ中止!! 犯人は小児性愛者!?』という下劣なテロップが躍っていた。
「(私は負けんぞ)」
彼らは被害者だったこともあり世間は同情的だったが、蜂二の相棒はアイドルとしての活動はできなくなっていた。
『怖く、なったんだ』
幼いながらも。自分達が性愛の対象にされていることは薄々と分かっていたが、それでもファンというのは一線を引いていた。言葉にせず、行動に移さないからこそ。ギリギリ堪えることができていた。
だが、あの時の変態は違った。直接乗り込んで、隠しもしない変態性を見せつけて来た。十代の少年にどれほどのトラウマを刻み込んだか。
「(アイツとはもう連絡も取れていないが。もしも、今もコンビが続いていたら。どうなっていただろうか)」
プロデューサーでなかった未来を夢想した回数は数えきれない。だが、現実が覆ることはない。できるのは歩み続けることだけだ。故に復讐。自分達が乗り越えられなかった試練を乗り越え、その先に続く未来を見る為に。
「どうにもなっていないんだァ」
声をした方を振り向く。そこには筋骨隆々としたハゲマッチョがいた。正に、自分達に立ちはだかろうとしていた『試練』がいた。
「これはこれは御丁寧にどうも。改心したか、怖気づいて、取り止める気になりましたか?」
蜂二は不敵に言ってのけたが動揺は隠せない。先程まで手にしていた写真がマッチョイの前に落ちた。無言で拾い上げた。
「楽しかったよなぁ。あの時は」
「……何?」
「ズリネタになることの何が面白かったんだか。今では、まるで分からんがなァ。蜂二、お前はどうだった?」
「お前は誰だ!!」
当時のスタッフか。あるいはプロデューサーか。関係者か。いや、もっと予想したくない可能性が浮かんだ。
「コンビの続き。見せてやろうぜぇ」
「やめろぉおおおおおお!!!」
金髪オールバックの髪の毛が事務所の床に落ちて行き、蜂二の体つきが変わっていく。……数十分後、1枚の写真を残して2人の姿は消えていた。
――
アルカトランジャーが『The・Enjoy!』の護衛に就いてから数日。今となっては、多少の会話もできる位には親交を深めていた。
「犬飼さん。異能変態って、そもそも何なんですか?」
トリーツポーチから取り出した犬用のおやつを上げながら、柳本が尋ねた。
年下の美男子から差し出されたジャーキー(犬用)を受け取り頬張っている成人男性に大人としての威厳は皆目見当たらない
「読んで、字の如くだワン。性的嗜好が突き抜けて異能に目覚めた連中だワン」
「だが、おかしな話じゃないか。性的嗜好位なら誰でも持っているだろう?」
柳本と同じ様に疑問を抱いていたのか、阿藤も尋ねた。
例えばだが、髪が長い女性が良いだとか、身長が高い男性が良いだとか。それ位の好みは誰にでもある。
「誰でも持っとる言うことは、共有手段も解消手段も山ほどある言うことじゃ。ネットを見れば、ポルノなんてゴロゴロ転がっとるじゃろ」
「あの、俺達。未成年なんですけど」
デリカシーの欠いた百貫の物言いに、竜星も苦言を呈していた。
世界の事情はさておき、この日本と言う国は比較的ポルノに寛容である。ネットを開けば手軽に摂取ができてしまう。
「普通なら性的嗜好が異能に目覚めるまで高まらないんだ。解消されるからな」
解消手段に関しては述べないにしても。各々がキチンと解消手段を持っているので、性的嗜好に伴う性欲が高まり過ぎるパターンは少ない。稀に行き過ぎて、犯罪と言う形で噴き出すこともあるが。
武藤が結論付けた『普通』の定義。コレを逆張りすれば、異能変態となる訳で。改めて柳本達も整理した。
「性的嗜好に根差した欲求が解消されなかった結果。……体現できる異能に目覚めたって訳ですか!?」
「その通りだワン。考えても見て欲しいワン。ケモナーっつっても、自分が本当にケモになりたいなんて思っている奴は少数だワン」
少数ながらも存在しているという事実に若干ゾッとした。
百貫はパッと見分かるにしても、武藤は見た目だけではわからない。何なら、顔立ちだけを見れば、かなり整っている。……問うのは止めた。
「だが、そう考えたら。マッチョイは変じゃないか? アイツは男らしい男が好きなのだろう? そんな物、幾らでもいるじゃないか」
今までの話を聞いて、阿藤には一つの疑問が浮かんでいた。
リアルケモになりだいとかの欲求や法に触れる性的嗜好は兎も角。男らしい男が好きならば、摂取方法は幾らでもある。のだが、百貫は首を横に振った。
「いや。ワシが思うに、マッチョイの真の性的嗜好はマッチョイズムではないと考えとる。――奴は状態変化好きじゃあ」
百貫がドン! と決めて見せたが、彼以外は全員ドン引きしていた。腑に落ちることも多かった為だ。
「奴は美男子、美青年がハゲマッチョに変貌してしまうのが好きで……」
「もういい! 言うな!」
阿藤、迫真のインターセプトである。とりあえず異能変態がロクでもない存在であることは分かった。
「でも、少し可哀想ですよね。誰にも理解されず、抱え続けるしかないって」
「今の何処に同情できる要素があったんだワン?」
柳本がしんみりしていたが、この場にいた者達全員が抱いた疑問を犬飼が言葉にしてくれた。
「それでも捨てられないから、手放せないから、抱え続けているんだ。苦しくても、理解されなくても」
「リョナラーの分際で格好つけないでほしいワン」
武藤が格好つけていたので、青少年達に悪影響を与えない様に犬飼が警告をしていた。……3人が考え込んでいるのを見て、良くない兆候を感じたのか。百貫が別の話題にシフトさせた。
「阿藤よ。お前さん、アイドルのキャリアを経てやりたいことがあると言っていたな。鍛え込んどるようだし、アスリートを目指しとるのか?」
「いや。俺は格闘技の世界への転身を目指している」
格闘技。アイドルにも負けない熱気に満ちた世界であるが、方向性があまりに違い過ぎることが気になった。
「普通。こういうのって俳優とかを目指すものだと思っていたワン」
「そう言った人間も多い。だが、俺は違う。男ならば誰でも『キング』を目指したいと思うだろう。アイドルとして女性にとってのキングを。格闘技界で男性にとってのキングを目指している!」
若く、熱意と欲望に満ちた夢だった。自分達が抱いている物よりも健全で応援されるべき類だった。
「僕は某大物俳優みたいに犬猫の保護ハウスを作りたいと思っているんです。阿藤君と比べたら、ささやかな物ですけれど」
「そんなこと無いワン。その年で、必要な資金を集める為にアイドルを頑張っている柳本君は立派だワン」
誠に珍しいことだが。皮肉屋で揶揄も多い犬飼が、素直に柳本のことを褒めていた。武藤も百貫も目を丸くしていることから、どれだけ珍しい光景だったことか。最後に竜星が伏し目がちに言った。
「俺にはまだ夢とか。目標とかは分からないけれど。……皆に胸を張って話せる物を見つけたいとは思っている」
「あれば偉いという訳ではないからな」
阿藤がフォローを入れた所で、ドアがキィっと開いた。――入って来たのは、スキンヘッドで筋骨隆々の男。マッチョイだった。武藤達が構えた。
「こんばんわ。『The・Enjoy!』の皆ァ」
「気が早いな。今日中に決着付けるってつもりなら大歓迎だぜ」
「いいや。今日は挨拶と紹介だァ」」
よろよろとした足取りで入って来たのは、マッチョイと同じくハゲマッチョだった。
ただし、蜂二が来ていたスーツやネクタイ。彼が掛けていた眼鏡を着用した。という、元が分かる演出を施されたグロテスクな物だったが。
「蜂二さん!?」
「ウゥ。やめろ……イチ」
「お前達がいるから偽物が溢れるんだァ。当日は絶対に行ってやる。そして、目覚めさせてやるんだァ」
不吉な言葉と恐怖を残して、マッチョイは去って行った。いなくなったことを確認して、周囲に警戒模した後。蜂二に連絡を入れたが、応答することは無かった。