毎回エンディングに、“あの合唱曲が流れるような感覚”が胸に残り続ける。
ちいかわは小さく拳をにぎる。
「……やる……またみんなを……ハチワレを……守る……!」
声は震え、けれど決意は消えない。
黒い流れ星が、その誓いを待つように、空で静かにゆらめいた。
刺股使いのちいかわ
青年剣士たちとの冒険から、数日が経った。
ちいかわは、ギルドの掲示板の前で立ち尽くしていた。
依頼書の文字を、ひとつひとつ、ゆっくりと読み解く。
けれど、どれも難しそうで、手が出せなかった。
「……うぅ……どれが、いいのか……わかんない……」
その時、背後から声がかかった。
「ちいかわさん、少しお時間よろしいですか?」
振り返ると、あの受付嬢が立っていた。
あの時と同じ、優しい笑顔。
けれど、どこか、真剣な色が混じっていた。
「実は、あなたにお願いしたいことがあるんです」
「……ぼくに……?」
「はい。今日、初めて依頼に出る新人の子たちがいて……」
受付嬢が手元の書類をめくる。
「少年剣士、魔術師、それに女狩人の三人組です。
みんな、訓練は受けていますが……実戦は初めてでして」
「……!」
「あなたが一緒に行ってくれたら、きっと心強いと思うんです」
ちいかわは、胸の奥がざわめくのを感じた。
あの時、自分を導いてくれた青年剣士たちの姿がよみがえる。
あの人たちが、自分にしてくれたように——
「……わかった。ぼく、いく」
「ありがとうございます。きっと、あの子たちも喜びます」
受付嬢は、ほっとしたように微笑んだ。
「では、すぐに紹介しますね」
ギルドの奥から現れたのは、まだあどけなさの残る少年剣士、
大きな帽子をかぶった内気そうな魔術師、
そして、鋭い目をした女狩人だった。
「君が……ちいかわさん?」
少年剣士が目を丸くする。
「ちっちゃいけど……すごい冒険者なんだって!」
「う、うん……よろしく……」
ちいかわは、少し照れながら頭を下げた。
「私は狩人よ。……あんた、刺股使いなんだってね。面白いじゃない」
「ぼ、ぼくは……少年魔術師です……よ、よろしく……」
魔術師の少年は、帽子の影からそっと目を合わせた。
「じゃあ、行こうか。ゴブリン退治、だよね……?」
ちいかわの声に、三人はうなずいた。
こうして、ちいかわは“助っ人”としての冒険に出ることになる。
けれど、この冒険の果てに、
ちいかわは“もう一つの喪失”と向き合うことになるのだった——
依頼の内容は、郊外の農村近くに現れたゴブリンの討伐だった。
数は少ない。巣も浅く、危険度は低いとされていた。
だが、受付嬢は言った。
「簡単な依頼ほど、油断が命取りになります。どうか、気をつけて」
ちいかわは、うなずいた。
「……うん。ぼく、ちゃんと見てるから……」
三人の新人たちは、まだ緊張の色を隠せない様子だった。
けれど、ちいかわがそばにいることで、少しだけ安心したようだった。
「ねえ、ちいかわさんって、本当にゴブリンと戦ったの?」
少年魔術師が、歩きながら尋ねてきた。
「うん……たくさん……」
少年剣士も会話に加わる。
「すごいなあ……僕、毎日素振り300回やって、剣は得意だけど、実戦は初めてで……」
「だいじょうぶ。こわくても、みんなでいれば……きっと、だいじょうぶ」
その言葉に、少年剣士は小さく笑った。
「うん、がんばるよ!」
女狩人は、弓を背負いながらも、周囲に目を光らせていた。
「……気を抜かないで。ゴブリンは、音もなく近づいてくる」
「う、うん……」と魔術師が小さく返事をする。
ちいかわは、彼らの姿を見て、かつての自分を思い出していた。
震える手、ぎこちない足取り、そして、仲間を信じる気持ち。
「……ぼくが、守らなきゃ……」
目的地の森は、前回の洞窟とは違い、明るく開けていた。
けれど、どこか空気が重い。
風が止まり、鳥の声も聞こえない。
「ここが……ゴブリンが出たっていう場所か」
少年剣士が剣の柄を握りしめる。
「足跡があるわ。三体……いや、それ以上かも」
女狩人が地面を指さす。
「……こわい……でも、がんばらなきゃ……」
少年魔術師が震える手で杖を握る。
ちいかわは、刺股を構えた。
「みんな、落ち着いて。 ぼくが前に出るから……」
「えっ、でも……」
「だいじょうぶ。ぼく、こういうの……ちょっと、慣れてるから」
ちいかわの言葉に、三人は目を見張った。
その背中が、思ったよりも大きく見えた。
■ 初戦闘:導く者として
ゴブリンたちは、木陰に潜んでいた。
女狩人の矢が先制し、一体を仕留める。
「一匹、やったわ!」
「よし、いくぞ!」
少年剣士が叫び、剣を振るう。
だが、動きはまだ甘く、ゴブリンの反撃を受けそうになる。
「危ないっ!」
ちいかわが飛び出し、刺股でゴブリンの動きを止める。
「やぁっ……!」
刺股の先がゴブリンの腹を突き、吹き飛ばす。
「す、すごい……!」
少年剣士が目を丸くする。
「魔術師、今よ!」
リリィの声に、魔術師の少年が震える声で詠唱を始める。
「……ファッ……
小さな火球が飛び、ゴブリン達の足元を焼いた。
その隙に、ちいかわがもう一度刺股を突き出す。
戦いは、短かった。
けれど、三人にとっては、長く、重い時間だった。
「……終わった……?」
「うん。みんな、無事……よかった……」
ちいかわは、刺股を下ろし、深く息をついた。
その顔には、安堵と、ほんの少しの誇らしさが浮かんでいた。
■ 帰還、そして——
ギルドに戻った四人は、無事に報酬を受け取った。
受付嬢が、ちいかわにそっと声をかける。
「おかえりなさい。……皆さん、無事で何よりです」
「うん……みんな、がんばった……」
「ちいかわさん、あなたがいてくれて、本当によかった」
受付嬢は、そっと微笑んだ。
その時だった。
ギルドの奥から、別の受付係が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「すみません、ちいかわさん……! あなたに、伝言が……」
「……ハチワレさんが……」
その名前を聞いた瞬間、
ちいかわの心臓が、ぎゅっと縮んだ。
「……ハチワレ……?」
「はい。彼が……先ほど、討伐依頼から戻られたのですが……」
受付嬢の声が、遠くなる。
ちいかわの視界が、にじんでいく。
「……どこ……ハチワレ……どこにいるの……?」
ちいかわは、駆け出した。
## ■ ■ 帰りを待っていたのは、違う「絶望」
「……ハチ……ワレ……?」
そこにいたハチワレは、
まるで長いあいだ深い闇の中をさまよっていた人のように、
壁にもたれ、呼吸が浅かった。
ハチワレはいつものように笑おうとした。
けれど、その目は焦点が合っていない。
「……あれ……?」
「なんか……へんだよ……」
手を伸ばし、空を触ろうとする。
まるで色を探しているみたいに。
「視界が……
モノクロになって……きて……」
言葉はそこで途切れ、
ハチワレの身体が静かに傾いた。
倒れ込むというより——
**色がひとつ抜け落ちるように、力が抜けた。**
ちいかわ:「ヤダァァァァ!!」
叫びはひび割れた。
胸が裂けるように痛い。
どうして。
どうして救ったはずなのに。
どうして別の場所で歪むの。
ハチワレの手はあたたかいままだった。
その温度だけが痛い。
***
## ■ ■ 落ちてくる黒い光
その時——
ギルドの天井の上、空のどこかから。
ひゅう……
と黒い流れ星が落ちてきた。
音のない、黒い光。
前よりもはっきりと見える。
そして、前よりも冷たい。
**——代償、払ったんだよ。
救いたかったんでしょう?**
「ちがう……ちがう!!
こんなの……いやだ……!!」
ハチワレの亡骸に縋り付いてちいかわは慟哭する
胸の奥が凍りつく。
視界の端がかすかに揺れる。
ハチワレの手を握る指が震えた。
***
## ■ ■ 世界が反転する瞬間
息を吸おうとした瞬間、
足元の床がぐにゃり、と歪んだ。
暖炉の赤い光。
人々のざわめき。
ギルドの木の匂い。
全部、褪せていくように引き伸ばされる。
「……やだ……っ……まだ……っ
ハチワレ……助けなきゃ……っ!」
それが最後の意識だった。
そして。
ちいかわは、またギルドに立っていた。
何も変わらない日。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ笑顔。
でも胸の奥には、
ついさっきハチワレの手を握っていた感覚だけがあった。
***
## ■ ■ ちいかわ、決意する
「……今度こそ……
ハチワレも……みんなも……救う……!」
声は震え、涙がにじんでいても、
決意だけは強く光っていた。
黒い流れ星が、
小さく揺れて降りてきた気がした。
**——なら、“もっと深く”来なよ。
救いたいんでしょう?
ぜんぶ。**
その声が何であれ、
ちいかわはもう引き返せなかった。
ハチワレを救うためなら、
どれだけでも繰り返す。
たとえそのたびに、
何かを削られようとも。
忘れかけていた日々
すべてのものが 友達だった頃
汗をぬぐってあるいた道 野原で見つけた小さな花
幼い日の 手のぬくもりが帰ってくる
汗をぬぐってあるいた道 野原で見つけた小さな花
幼い日の 手のぬくもりが帰ってくる
やさしい雨にうたれ 緑がよみがえるように
涙のあとにはいつも君が そばにいて
生きる喜び おしえてくれた おしえてくれた