隣村へ続く街道は、森よりも開けていて、
陽の光がやわらかく降り注いでいる。
鳥が鳴き、荷馬車が通る。
“普通の平和”がそこにあるようだった。
「僕ね、赤ちゃんを冒険者のみんなと一緒に助け出したんだ! 力を合わせてゴブリンのアジトから。 おっきなゴブリンや魔法を使うゴブリンもいたけど一生懸命戦ったんだ」
「ちいかわはどんな冒険をしたの?」
「……ぼくもね、ちょっとだけ……がんばったよ」
「こわかったけど……でも、皆がいて一人じゃなかったから……」
ちいかわは、少しだけ笑ってそう言った。
「そっか、仲間のみんなの為に大活躍だったんだね! さすが僕のちいかわ」
「どうしてそう思うの?」
「だってちいかわはとっても沢山頑張っても、いつも『ちょっと頑張った』って言うんだもん。 だからきっと、皆の為に一生懸命頑張ったんだろうなぁって知ってるんだ」
ちいかわは目をまんまるにして、うれしそうに笑う。 顔が真っ赤だ
「そうかな」
「そうだよ」
一生懸命頑張ったことを誰かに知ってもらうのはちょっぴりくすぐったい。
何でだろうとちいかわは思った。
「じゃあ、今日もいっしょにがんばろ〜!」
刺股を掲げるハチワレにちいかわもまたお揃いの刺股を掲げるのだった。
「僕、ちいかわと一緒に冒険できてうれしいなぁ」
ハチワレは手紙を大事に抱えてうきうきしている。
「ちいかわ〜!
手紙、おばあさんにちゃんと届くといいね〜!」
ちいかわはうなずきつつ、
空の端でひゅう…と揺れる“黒い流れ星”をちらりと見た。
胸の奥が冷える。
**——気をつけて。
この道には、この道の“危険”があるよ。**
黒い囁きが風のようにかすめる。
そして、その異変は突然起きた
荷馬車が一台、道の中央で止まっていた。
馬は怯え、地面を掻いている。
御者は震える声で叫んだ。
「ち、近づくな! あいつが……森の外に……!」
その時だった。
ガァァァァァァァァァァアッ!!
空気を裂くような咆哮が響く。
木々の向こうで大地がぶるりと震えた。
「……えっ?」
ちいかわは反射的に――呆然とした――ハチワレの手を引き、街道脇の茂みに飛び込んだ。
風が逆巻き、土埃が舞う。
そこにいたのは——
ライオンの胴体。
コウモリのような巨大な翼。
蠍の尾に似た長い影。
そして、黄色い眼が月のように光る。
この世界でも滅多に見ない“怪獣”級の魔物。
御者の叫びが震える。
「ば、化け物が……村の方へ……!」
ハチワレは小刻みに震えながら、ちいかわの腕を掴んだ。
草むらからちいかわとハチワレは街道の怪物を窺う
「ちいかわ……あれ……?」
ちいかわは分かっていた。
ゴブリンよりずっと強い。
自分たちのような駆けだし冒険者ではかないっこないかもしれない相手。
だけど——
逃げたら、隣村にいる“病気のおばあさん”も、
街道の人たちも、
そしてハチワレ自身も、
危ない。
胸に黒い痛みが走る。
# ■ ■ ループで得た勇気と、削れた心
「……に、げよう……
でも……ただにげるんじゃなくて……!」
ちいかわは震えながら
ハチワレを後ろにかばった。
体が震える。
喉がつまる。
でも、ループで何度も死線を越えた“記憶”が
勝手に体を動かす。
マンティコアはゆっくり顔を向け、
尾をしならせて構える。
その仕草だけで、喉を掴まれたような恐怖が湧き上がった。
ハチワレの声が震える。
「ちいかわ……どうするの……?」
ちいかわの目の奥で、
ふわりと黒い光が瞬いた。
**——選べばいいよ。
逃げる未来も、戦う未来も。
キミが“望む未来”は、ここにある。**
黒い流れ星の囁き。
胸が痛い。
心が削れる音がする。
それでも——
ちいかわは小さな足をふんばった。
「……ハチワレは……ぼくが……まもる……!!」
声は震えたまま。
でも、その奥には
“どのループより強い覚悟”があった。
マンティコアの尾が鋭く振り上がる。
街道が揺れる。
空気が裂ける。
そして——
マンティコアの影は、
昼なのに夜みたいな暗さを落としながら街道を覆った。
ハチワレは後ろで震え、
ちいかわの袖を握ったまま離れない。
「ちいかわ……あれ……むりだよ……」
むり。
それは分かってる。
でも——
「……やだ……。
ハチワレだけは……まもる……!」
声はかすれているのに、
胸の奥は熱く震えていた。
## ■ ■ ちいかわ、立ち向かう
マンティコアの尾が振り上がる。
空気が裂けるような音が響いた。
ちいかわは、
ループの中で何度も覚えた動きで、さす股を構えながら、横に跳ぶ。
鋭い尾をぎりぎりですり抜け、
地面に転がりながら体勢を整える。
あの戦いの記憶が脳裏に蘇る。
何度犠牲を見たか。
何度叫んだか。
何度心が折れたか。
全部、全部覚えてる。
だから、足は震えても動いてくれた。
「やあっ……!!」
小さな叫びとともに、
さす股がマンティコアの脚に向かう。
しかし——
金属のような甲皮に弾かれた。
カンッ、と乾いた音。
マンティコアは微動だにしない。
そこには圧倒的な“力の壁”が存在していた。
ちいかわは獣人である。
獣人とは「獣の様相を持った人々」という意味である。
直立した獣そのものの姿の者もまた獣人である
獣人には犬人、狼人、虎人、猫人、兎人、牛人、鼠人、馬人、蟲人、鳥人、鰓人、亀人、蛙人といったように非常に多種多様な種が存在する。
獣人にはおのおの得意とする分野が各人で異なる。
血の気の多い力自慢、忍耐強い体力自慢、機敏で俊敏な足自慢、機知と注意力に優れた知覚自慢。
ちいかわは力自慢とは正反対の獣人である。
機知と注意力、集中力と反射神経を頼りに今までの修羅場を潜り抜けてきた。
武道家としての鍛錬を実践で積んできたちいかわと言えどマンティコアと戦うには非力すぎたのだ。
ハチワレが息を呑む。
「ちいかわ……あぶないっ!!」
マンティコアの影が、
空を覆い尽くすように広がった。
巨大すぎる。
速すぎる。
恐ろしすぎる。
ちいかわはそれでも後ろを向かず、
ハチワレへ叫んだ。
「……にげて!!
にげてハチワレ!!」
マンティコアの尾が振り下ろされる影が落ちた。
大地が震える。
恐怖で視界がかすむ。
でも、ちいかわは目を閉じない。
最後まで、守ろうとした。
## ■ ■ 世界が“割れる”音
尾が落ちてくる瞬間——
ひゅう……
ひゅうううう……
黒い流れ星が、空に線を刻んだ。
ちいかわの胸が凍る。
**——キミは本当に頑張ったよ。
じゃあ、“もう一度”ね。**
囁きが甘いのに冷たい。
景色がにじむ。
音が折れ曲がる。
地面が遠ざかる。
そして——
ぱん、と静かに何かがはじけた。
再び、冒険者ギルドである。
暖炉の音。
紙のめくれる音。
人の声。
ちいかわは、またギルドの扉の前にいた。
震える手で胸を押さえる。
「……また……っ
また……だ……」
ハチワレの姿はどこにもない。
でも、さっき
「ちいかわ……あぶないっ!」
と叫んだ声が耳に残ったままだ。
ちいかわは歯を食いしばる。
「……こんどこそ……。
マンティコアに……負けない! ハチワレも……
死なせない……!」
小さな体が、
鳥肌が立つほど強く震えていた。
空の端で、黒い流れ星が一瞬だけ光った。
**——さあ、選んで。
また、やりなおせるよ。**
逃れられない声だった。
**未来を知る者と、書物の影に潜む怪獣**
マンティコアに敗れた痛みを残したまま、
ちいかわはまたギルドの扉の前に立っていた。
けれど今回は——
胸の奥の“傷”が、たった今ついたばかりのように疼いていた。
「……まけた……。
でも……つぎは……まもる……!」
震える決意を握りしめ、
ちいかわはいつもの受付ではなく、
ギルド奥の“資料室”へ向かった。
***
# ■ ■ ギルド資料室で、怪獣の正体を知る
資料室には、古い羊皮紙と地図が積まれている。
大きな魔物や災厄についての記録も多い。
ちいかわは背伸びして本棚に手をかけ、
何度も何度も読みあさる。
ページをめくるたび、
あの巨大な影が思い出されて手が震えた。
そして——
ついにその名を見つけた。
**魔獣
――牙も爪も異常に硬質――前方の防御が堅い事は既に経験済みだ。
――後方からの攻撃が比較的通る――背後からの攻撃はまだ行ってない。どうやって行うかはさておきしっかりと狙っておきたい。
――尾は毒針ではなく“衝撃”を与える武器――マンティコアの尻尾に猛毒がないのは朗報だった。最悪直撃しても何とかなるかもしれない。
――耳が鋭く、音に反応して動きが止まる瞬間がある――隠れて注意を引いている間に背後から攻撃する……。
ちいかわ:「……う、しろ……。
うしろから……なら……!」
光が差したような感覚と同時に、
胸が苦しく締めつけられる。
「これ……なんで……しって……る……?」
まるで最初から知っていたような“既視感”。
ループを重ねたせいで、
境界が曖昧になってきていた。
悶々と悩みながらもさらに情報を追うちいかわ
青年剣士が近づいてきた。
「何か調べ物かい? 手伝おうか?」
ちいかわは首を小さく振る。
もう彼らを巻き込みたくない。
代わりに、
懐からこっそり**事前に準備してきた解毒薬**と、
文字でぎっしり埋めた“注意メモ”を渡した。
「……これ……つかって……。 ゴブリン退治は……ほんとに……気をつけて……」
青年剣士は困ったように笑いながらも、
真剣に受け取ってくれた。
「ありがとう。 君がそんなに心配するなら、警戒を強めるよ」
胸が苦しくなった。
彼は何度も死んだ。
その記憶がちいかわにだけ残っている。
ハチワレがやってきた
「ちいかわ〜! 手紙のお仕事、一緒に行くんでしょ?」
ちいかわ:「……うん。
でも……きょうは……じゅんび……ちゃんとする……」
いつもより慎重なちいかわに、
ハチワレは目を丸くする。
だが、何も聞かずにニコッと笑って言う。
「じゃあ、がんばろうね。へんなのいたら逃げよ!」
その笑顔だけで、
少しだけ心の色が戻る。
街道——“怪獣の影”の接近に備える
資料室で得た情報を思い出しながら、
ちいかわは慎重に歩を進める。
やがて、遠くから
**地響き**が伝わってきた。
土がわずかに跳ね、
空気が重く沈む。
まただ。
マンティコア。
だが今回は——
ちいかわは知識を持っている。
胸は苦しい。
手は震える。
でも、逃げるだけじゃない。
# ■ ■ 戦術的な一歩
ちいかわ:「ハチワレ……!
しずかにして……。
あいつ……“おと”に反応する……!」
ハチワレは息を止めて頷いた。
マンティコアが現れた時、
ちいかわは叫ばず、走らず、
“静かに後ろへ回る経路”を探し始めた。
さす股を握り、
地面に影を写しながら考える。
**真正面からは勝てない。
でも、後ろに回り込めるなら——**
黒い流れ星が、すっと空に線をひく。
**——いいね。
今回は“正しい未来”を選べそうじゃない?**
ちいかわは歯をくいしばる。
「……まけない……!
ぜったい……まけない……!!」
マンティコアが地鳴りとともに姿を現す。
ちいかわは、
初めて“勝つための一歩”を踏み出した。
# **ゴブスレ × ちいかわ**
## **第13話:共鳴する戦線──交差する四人の冒険者**
マンティコアの咆哮が街道を揺らし、
ちいかわの耳の奥がビリビリと痺れた。
その背後では、
ハチワレが震えた声で叫ぶ。
「ちいかわ……っ、来るよ……!!」
マンティコアは、
蠍の尾をゆっくり引き絞り、
獲物を見るように二匹を見下ろしていた。
だがその瞬間——
## ■ ■ 大地に走る“別の震え”
ズシンッ。
マンティコアの咆哮とは違う震え。
リズムのある、重い足音。
続いて——
**矢が一本、空を裂いて飛び、
マンティコアの頬の甲皮で火花を散らした。**
ハチワレ:「えっ……!?」
ちいかわは息を詰める。
姿を現したのは、
別依頼の帰りと思しき四人の冒険者パーティだった。
***
# ■ ■ 四人の冒険者、参戦
先頭に立つのは——
まだ若いが鍛えられた体格の **若い戦士**。
彼は剣を抜き、叫んだ。
「下がれ! あれは村ひとつ滅ぶ怪物だ!」
隣には、耳の尖った浮遊感ある動きの **半森人(ハーフエルフ)の野伏**。
軽やかに次の矢を番えている。
その後ろで、
頑丈な鎧に身を包んだ **鉱人(ドワーフ)の戦士**が斧を構えた。
そして最後に、
杖を持つ **知識神の僧侶**が落ち着いた声で詠唱を始める。
「これは……悪しき時代の象徴。
気を抜くな……!」
ハチワレは震えながら
「すごい……すごい人たちが……!」
と声を震わせる。
***
# ■ ■ ちいかわ、未来を知る者として動く
普通のループなら、
ちいかわは単独でマンティコアに挑み、敗れて戻ってきた。
でも今回は違う。
「……みんな……うしろ……!
あいつ……おとで止まる……!
おしり……弱い……!!」
ループで得た“経験と記憶”を
必死に叫ぶ。
若い戦士は目を丸くしたが、
すぐに納得するように頷いた。
「後方に弱点がある……了解だ!」
野伏が後方へ回るよう合図を送り、
ドワーフが防壁のように前に立つ。
僧侶は、ちいかわの言葉を聞いた瞬間、
祈りの内容を変えた。
「……蝋燭の番人よ! 我らが行く手の無明にどうぞ一筋の灯明を!
光が仲間たちに宿る。
***
# ■ ■ マンティコア戦開幕
マンティコアが吠え、
尾が猛然と振り上がった。
その影は、まるで巨大な刃だ。
だが今回は——
ちいかわは一人じゃない。
若い戦士が正面で防御し、攻撃を受け止める
鉱人戦士が斜めに入り「こっちだ、この化け物!」
野伏が木陰から素早く回り込み視覚外から、矢を狙い撃ってマンティコアの注意を逸らす。
その瞬間
怪獣の動きが、確かに“止まった”。
### ● ちいかわ
「いま……!!」
### ● 野伏
「後ろを取るッ!」
矢が走り、
マンティコアの尻の甲皮の隙間へ突き刺さる。
マンティコアが苦痛の咆哮をあげ、
一瞬体勢を崩した。
***
# ■ ■ しかし、影は消えない
勝機が見えた——
そう思った瞬間。
ひゅう……
ひゅうぅう……
空に黒い流れ星が落ちてきた。
今までで一番近い。
一番濃い。
**——いいね。
今回は“全員で勝つ未来”を選んだんだ。**
でも続きがあった。
**——その代わり……
キミの“心”を、もう少しもらうよ。**
ちいかわの胸に、激しい痛みが走る。
息が止まる。
視界が揺れる。
ハチワレが叫ぶ。
「ちいかわっ!? だいじょうぶ!?!?」
だがちいかわは、倒れそうになりながらも
歯を食いしばった。
「……まけない……
こんどこそ……まもる……!!」
黒い光は、
それを楽しむように揺らめいた。
***
マンティコアの咆哮が街道を揺らし、
ちいかわの耳の奥がビリビリと痺れた。
その背後では、
ハチワレが震えた声で叫ぶ。
「ちいかわ……っ、来るよ……!!」
マンティコアは蠍の尾をゆっくり引き絞り、
獲物を見るように二匹を見下ろしていた。
だがその瞬間——
マンティコアの咆哮とは違う、
規則的で力強い足音。
続いて——
パンッ!!
銃声が空を裂き、
マンティコアの頬の甲皮で火花が散った。
ハチワレ:「えっ……!?」
ちいかわは息を呑む。
街道の向こうから現れたのは——
見知らぬ六人の冒険者パーティだった。
■ ■ ガストン隊、参戦
● 頭目・青年剣士ガストン
「下がれ! あれは駆け出しが相手にしていい魔獣じゃない!」
● 棒闘士キリク
「おいおい頭目、あんなデカブツ、俺の棒で十分だろ!」
● 獰猛魚人トッサ
「……肉は硬いけど、関節は柔いねぇ。狙えるよっ!」
● 鉱人坊主カールセン
「南無三! 悪しき怪獣よ、成仏してもらうぞい!」
● 蛸人術士ディモン
「我がサーガの一端となれ、俗物!」
● 圃人銃手スザンナ
「頭目! 次の一発、目ん玉狙うよ!」
六人が一斉に構えた姿は、
まるで“戦場の楽団”のように調和していた。
ガストンが叫ぶ。
「——行くぞ!
ちいかわ、ハチワレ! 後ろに下がれ!」
ちいかわは震えながらも、
胸の奥が熱くなるのを感じた。
この人たちなら……
マンティコアに勝てる。
そして、ハチワレを守れる。
黒い流れ星が、空の端で揺れた。
■ ■ ガストン隊の連携
マンティコアが翼を広げ、
胸の奥で低く唸りながら魔力を溜め始めた。
空気が震え、
砂利がふるふると跳ねる。
術の予兆だ。
カールセンが目を見開き、鉄槌を構えた。
「奴さん、術を放ちよるわ!
はよ準備せんか! タコ!」
ディモンの触腕がビクッと跳ねる。
「貴様、敬称を付けろ!
“偉大なる蛸人術士様”とな!」
スザンナは銃を構えたまま、
冷めた目で言い放つ。
「御託はいいから、何とかしろ」
ディモンはフードを翻し、
杖を地面に突き立てた。
「……ふん。
ならば見せてやろう、我が魔術の真髄を!」
触腕が空気を切り裂き、
魔法陣が足元に広がる。
「我が魔術に慄くが良いわぁ!
カウンターマジック!!」
青白い衝撃波が前方へ走り、
マンティコアの術式と正面からぶつかる。
バチバチバチッ!!
魔力同士が噛み合い、
空気が焦げるような匂いが漂った。
ガストンが剣を構えながら叫ぶ。
「よし、術は止まった!
キリク、トッサ! 前へ!」
「おうよ、頭目!」
キリクが棒を回す。
「柔いとこ、見えたよっ!!」
トッサが角を構える。
■ ■ トッサの角槍突撃
「アタイの角……おみまいするよッ!!」
ドンッ!!
トッサが水中生物のようなしなりで跳び、
角がマンティコアの脇腹に突き刺さる。
怪獣の巨体が揺れた。
「オラオラ! まだまだ押し込むよっ!!」
ガストン隊が一斉に動く。
六人の攻撃が、ひとつの流れになった。
キリクの棒が肩を砕く。
カールセンの司教杖が脚を払う。
スザンナの銃弾が目を狙う。
ディモンの幻惑がマンティコアを支配する。
ガストンの剣が腱を断つ。
マンティコアが怒り狂って咆哮する。
だが、
その術はもう発動できない。
ディモンが鼻で笑った。
「ふん……この偉大なる蛸人術士様に敵うと思うなよ、怪獣風情が」
マンティコアが咆哮し、
その巨体がちいかわたちへ影を落とした瞬間。
トッサの鰭がバサッと開き、
口元が獰猛に吊り上がる。
「へへっ……ワクワクしてきたじゃないかい。
さあて、アタイの角……おみまいするよっ!」
地面を蹴る音が、
まるで水中から飛び出す巨大魚のように鋭く響く。
ドンッ!!
トッサの体がしなる。
筋肉が波打ち、
前に突き出た“角”が槍のように光を反射する。
「そぉれぇッ!! ぶっ刺さるよっ!!」
獣じみた突撃。
だがその軌道は正確で、
マンティコアの甲皮の隙間を狙いすました一撃だった。
角が深く突き刺さり、
怪獣の巨体がぐらりと揺れる。
「どうだい! 柔いとこ、見つけたよっ!!
まだまだ押し込むよっ!!」
トッサは角を引き抜かず、
そのまま全身で押し倒しにかかる。
マンティコアが怒り狂って暴れるが、
トッサは歯を食いしばりながら叫ぶ。
「こんなんで倒れるアタイじゃないよっ!!
さあさあ、立ってな! まだ終わりじゃないよっ!!」
ガストンが剣を構えながら叫ぶ。
「トッサ、ナイスだ! そのまま押さえてくれ!」
「任せなっ! リーダーの後ろはアタイにまかせなっ!!」
マンティコアが体勢を崩し、
後ろ足がズルッと滑る。
トッサは息を荒げながらも笑う。
「はぁ……はぁ……
まだまだこれからだよっ!
アンタら、気合い入れなっ!!」
マンティコアが咆哮し、
尾をしならせて毒針のように振り上げた。
ガストンが即座に叫ぶ。
「全員、散開ッ!! トッサ、右へ! キリク、左から回れ!」
「おうよ、頭目ッ!」
「任せなっ!」
六人が一斉に動く。
その動きは、まるで何度も死線を越えてきた者たちの“癖”のように自然だった。
■ ■ ① スザンナの牽制射撃
スザンナが素早く銃を構え、
マンティコアの顔面へ向けて一発撃ち込む。
パンッ!!
「ほらよ、デカブツ! こっち向きな!」
火花が散り、マンティコアの視線が逸れる。
■ ■ ② ディモンの幻惑術
その隙に、ディモンが触腕を広げて詠唱する。
「愚かなる怪獣よ……視界を奪われるがいい!
白い霧がマンティコアの顔面にまとわりつき、
怪獣が苛立ったように唸る。
「ギャアアアッ!!」
スザンナが鼻で笑う。
「いいねぇタコ、たまには役に立つじゃない」
「“偉大なる蛸人術士様”と呼べと言っておるだろうが!」
■ ■ ③ キリクの棒術が脚を払う
霧で視界が鈍った瞬間、
キリクが地面を滑るように接近する。
「へへっ、今だろ頭目!」
長い棒がしなり、
マンティコアの前脚を横から叩きつける。
バシィッ!!
巨体がわずかに浮き、
バランスが崩れる。
■ ■ ④ カールセンの鉄槌が叩き込まれる
「南無三ッ!!」
カールセンが祈りと共に鉄槌を振り下ろす。
ゴンッ!!
マンティコアの肩に直撃し、
怪獣が大きくよろめいた。
「効いとる効いとる! もっと暴れんかい!」
■ ■ ⑤ トッサの角槍突撃
「柔いとこ……見えたよっ!!
アタイの角、おみまいするよッ!!」
トッサが地面を蹴り、
水中生物のようなしなりで跳ぶ。
ドンッ!!
角がマンティコアの脇腹の隙間に突き刺さり、
怪獣の巨体が大きく傾く。
「どぉだい! まだまだ押し込むよっ!!」
■ ■ ⑥ ガストンの号令と斬撃
ガストンが全員の動きを見て、
一瞬で“勝ち筋”を掴む。
「全員、今だッ!!
トッサが作った隙を叩き込め!!」
ガストンが前へ飛び込み、
剣を振り抜く。
ザシュッ!!
マンティコアの後脚の腱が切れ、
巨体が崩れ落ちる。
■ ■ ⑦ 六人の総攻撃
キリクの棒が、
スザンナの銃弾が、
カールセンの鉄槌が、
ディモンの術が、
トッサの角が、
そしてガストンの剣が——
一斉に、倒れかけたマンティコアへ叩き込まれた。
怪獣が地面に沈み、
大地が震える。
「……終わりだッ!!」
ガストンの最後の一撃が、
マンティコアの咆哮を断ち切った。
マンティコアが崩れ落ちる。
■ ■ ちいかわ、震えるほどの感動
その光景を見て、
ちいかわの胸が震えた。
「……すご……い……
みんな……すごい……」
涙がぽたりと落ちる。
トッサが笑いながら近づく。
「おやおや、泣いてんのかい?
ちっこいの」
「……う、うん……
すごくて……」
「へへっ、アンタよく頑張ったじゃないか。
ハチワレ守るために立ったんだろ?
そりゃあもう、立派な冒険者だよっ!」
ちいかわの胸が熱くなる。
「……ぼく……もっと……つよくなる……!」
「その意気だよっ!」
トッサが頭をくしゃっと撫でた。
■ ■ しかし、影は消えない
勝利の直後——
空に黒い流れ星が落ちてきた。
ひゅう……
ひゅうぅ……
——選んだね、“勝つ未来”。
じゃあ、代わりに……少しだけもらうよ。
胸の奥がズキリと痛む。
ハチワレが心配そうに抱きつく。
「ちいかわ……? だいじょうぶ……?」
ちいかわは小さく頷くしかなかった。
■ ■ ガストン隊の反応
ガストンが剣を収め、
ちいかわへ優しく声をかける。
「よく耐えたな。
お前の勇気が、勝利を呼んだんだ」
キリクが笑う。
「ちっこいのに、やるじゃねぇか!」
スザンナが肩をすくめる。
「アンタ、見た目より根性あるね」
カールセンが頷く。
「南無三……大した胆力じゃ」
ディモンだけは、
じっとちいかわを見つめて呟いた。
「……妙だな。
お前、“時間の重さ”を背負っている……」
ちいかわは返事ができなかった。
■ ■ そして、終わりの“音楽”が流れる
勝利した。
ハチワレも無事。
マンティコアも倒した。
でも——
帰り道。
風の音に混じって、
なつかしい合唱のような旋律が聞こえてくる。
「時の旅人」のような、
胸の奥をそっと撫でるような音楽。
ハチワレ:「ちいかわ……? 聞こえる……?」
ちいかわは首を振る。
「……わかんない……
でも……なんか……かなしい……」
黒い流れ星が、
曲に合わせるように
ゆっくりと落ちていった。
***