仲介人の野郎は貼り付けたような笑顔のまま、俺の横の女を見つめて的外れな台詞を嫌らしく吐いた。
「命の恩人になったのか。アンタに…そんな……お優しい心があったとは驚愕にして感心だ。そんな何の得にもならぬ事を」
馬鹿だな、アンタ。
言いはしないが、そう思っている事は簡単に読める。
そして、その意見には何の異存もありはしなかった。
「オマエとは世間話をしに来てるんじゃあない。一秒でも速く金を寄越せ」
俺が、そう言い終わらない内にレジの台に封筒を置く仲介人。
自らの気に食わなさを野郎に伝える為に可能な限り無造作に封筒を取ってスーツの内ポケットに捻り込む。
「確認は?」
興味もない癖に。
「そのくらい手に取りゃ判る」
案内人に背を向けて、ゴチャゴチャした一欠片も節操の無いドラッグストアの商品に目を細めながら店外へ脱出した。
「………………」
「………………」
繁華街の空気は空から降る雫によって平時以上に肌に纏わりつく。
纏わりつかれるのは背後の女だけで十分だと言うのに。
「…………………くそが……」
苛つきの所為か気圧の所為かは解らないが、左手首、額、顎、両肩、背中、両脛、右足首の傷が疼いた。
背後の女に八つ当たりするのは簡単だったが、俺以上に傷だらけの歳下の女にそれをやってしまっては惨めになるだけなので我慢した。
「………………」
女は何時迄も黙ったままだ。
「……………なぁ」
自室のある古いビルまで残り数分の地点で振り返って女に声を掛ける。
「…」
返事は無い。
「…………もう良いだろう。あんな糞ったれな所にいた事は同情するさ。
あんな糞ったれな扱いも同情するさ。だが、もう自由だ。だったら、
喋り過ぎているのを自らで非難しながら言い終えた。
「……………」
返事は無い。
俺は回れ右して半ば走る様な早足で帰路につく。
「………」
「………………………」
もう聴き慣れてしまった引き摺って歩く足音は今も俺を追跡していた。
「…………………………………」
どうしたものか。
いっそ顔面でもぶん殴って全力疾走で逃げてしまおうか。
女を無視してタクシーを拾ってそれなりのホテルにでも篭ろうか。
それとも女の手を取って、引き返し、電車に揺られ、バスに揺られ、悪徳の煮凝りの様な町の残骸にほっぽりだしてやろうか。
微塵も実行する気の無い行動を何個か思い浮かべては消した。
煙草を何箱も続けて吸いたい気分だったが、安物のライターの火では細やかな雨粒の中ですら存在する事は叶いそうになかった。
提案を無言で断られた屈辱から、もう一度、女に話しかける事もせずに自室に辿り着いてしまった。
殆ど諦めの境地で、ズボンのポケットから部屋の鍵を取り出して開錠し、建て付けの怪しい重いドアを引っ張り出す。
錆に辛うじて抗っているドアは、悲痛な叫び声を上げて開く。
「………」
「………」
勢いよく重い扉を閉める気でいたのだが、先読みしたのか…女は俺の背中に鼻頭が当たるまで接近していて狭い玄関に押し入ってきていた。
「…………かなり図々しいとは思わんのか」
「………」
首でも振れば良いのに女は無反応で背後に突っ立ったままだ。
「…………鍵、閉めてくれよ」
そう言い残して俺は靴を脱ぎ捨てて部屋の奥に進んだ。
「……」
サムターンの回る音と靴を脱いで揃える音が追って聞こえた。
「おかえんなさい」
電気の消えた居間を騒がす何十年前かのドラマを映すテレビの目に悪そうな光と、触れば粉になって落ちるカーテンを透かす外の光が居間を惰性で照らしていた。
「ん」
居間の机に座る
「あんがとよ」
「…あんまり吸うと身が削れるぞ」
「んなの何年かかるか分かったモンじゃないよ」
炬燵の布団の上に転がっているテレビのリモコンから骨だけの右手が離れて髑髏の喫煙の世話をする。
それを横目に俺は濡れた上着を着たままに、炬燵に身体を入れ込んで座った。温い炬燵の熱で、緩やかに身体の強張りが解けていく。
「……はぁ…」
仕事の疲れと目の前の廊下を進んでくる女の姿に溜息を一息吐いた。
「………………」
気配は消さずに、音も無く居間に上がり込んだ女は髑髏を見て立ち止まって、立ち尽くした。
女は、顔を愉快な程に顔色をパチンコの画面みたく点滅させている。
「…………………………ぃ…」
潰れた虫の様な声が聞こえた。が、それが女のモノかは判断がつかなかった。
「う〜ん?誰ぞ連れ込んだのかい?」
髑髏が、ごとがた、と振り返る。
「………お前さん、元いた場所に帰してきんさい」
犬や猫を拾ってきた子供に対する台詞を俺に吐く頭蓋骨。
「拾った覚えは無いんだよ。勝手についてきた」
「本当かい?お前さんは、よくよく憑れてきたからね。小さな頃から」
「……まだ死んでねぇよ今回は」
死にかかってはいたがな。
「撒けば良かったじゃないか、それが出来ないお前さんじゃあないよ」
「だろうの話は止めてくれ。もう此処には今しかないのはアンタの教えだろ」
「ひひひ!よくよく覚えているんだね。で?ほんじゃあ?どうすんだい?これからあん子を?一体全体?」
「…………むしろ教えてくれ」
「
「………」
洒落頭め。
「…あん子、随分と傷だらけじゃないか。まさかと思うけれど「ああ、違う。俺じゃあない………大半は」
「お前さん」「仕掛けた工作に、ほんの僅かに掠った。そんで、転んだ。それしか俺の影響は無い筈だぜ」
その部分は俺が手当した。その部分だけ。
「ふぅん。それなら、まぁ………しかし、いつの間にか応急処置が上手くなったねぇ。まるでお医者の様だ」
女の身体の三分のニを包んでいる包帯と湿布を見て感心している髑髏の言葉を即座に訂正する。
「上手いと思っている部分は俺がやったんじゃない。本当に医者がやったんだよ」
実に医者らしい医者であった。
「そうかい……………だろう、をもう一度言うけどね。そん医者に預けりゃ良かったんじゃないのかい?」
「俺もそう思ったし、そうしたさ。だが、その医者は
「そいつはご愁傷様な事。へぇはぁ、まぁた大変な現場だったみたいだね。でもよ、そんな碌でもない場所から、あん子はどうしてお前さんを追ってきたのかねぇ?」
「………」
女は話さない…。
「………………命の恩人とでも思ったじゃないか」
「………おやまぁ、それは。それは…」
良い事、したねぇ。
言いはしないが、そう思っている事は簡単に読める。
そして、その意見には異議しかない。
むず痒さから逃れようと髑髏との話を切り上げて、百面相の女に話しかける。
「…………それで、こんな所まで来ちまってどうすんだ?」
無感情に努めて冷静に女に問う。
「…………」
返事は無い。しかし、震える視線は俺を捉えていた。
何をどう考えているのかは判別不能であったが、念の為の種明かしはしとこう、と思った。
「………何か勘違いがある様だ」
「なぁ、いまいち自信はねぇけどよ。本気で命の恩人だと思っているのか?俺を?………答えてくれ。喋るのが辛いんなら首でも手でも振ってくれよ」
遭遇してから初めて女と目を合わせて、問う。
「…」
女は控えめな頷きを返した。
「…まじかよ……」
女本人の意思が、当てずっぽうな推察通りであった事に面倒と驚愕と唖然を覚えた。
背筋と腿の裏側が
「なぁ、よく聞けよ。確かに、百歩譲ってだがな、お前さんの命を…間接的に…救ったかもしれん。だがな。恩と感じるのは違う。全く違う。一ミリも一グラムも正しくない。よう。よく聞けよ。俺はお前さんを
早口で捲し立てても、背筋と腿の冷えは一向に治らない。
そして、女の視線は何故か強いモノになっていた。
「もう一度言うぞ。よく聞けよ」
「俺はお前を救った覚えなんて、これぽっちも無い!」
あぁ、自分に酔ってるのか。言葉に熱が込もってしまう。
今度は、吐き気となった自己嫌悪が果敢に食道に襲いかかってきた。
「……………」
女は首を横に振った。何度も。何度も首を振りやがった。
癇癪でも起こした様に。
「おい、おいおいおい、おいおいおい!それを決めるのは私だとでも言うのか?ああ、そうかもしれん。そうなのかもしれん。だが、お前の中だけだ。お前だけだ。俺は違う。俺の中身はそうは思わん。思わんし、思いたくないね。大体よぉ、今回の仕事……
俺だ。俺だけで。だから、これを決めるのは俺だけの特権だ。俺だけの真実がただ一つの真実だ。お前が何を言おうが、意味不明の異議が有ろうが知った事かよ。
動かす度に電気でも流されているみたいに熱を帯びる顎の痛覚を捻り伏せて、喋り倒す。
「俺は命の恩人じゃねぇ。善人でもねぇ。ましてや、正義の味方でもねぇし、悪の敵でもねぇ。強いて言えば金の奴隷だ。そうでなきゃ俺は、あんな場所に行く訳なかったんだ。お前がどれだけ痛めつけられても。お前がどれだけ傷つけられても。お前がどれだけ穢されても。お前が何度も何度も殺されても、俺は知らんぷりで生きて行けるんだ。お前の姿形を見て聞いて知っても今までの人生と変わらない平々凡々の人生を歩めちまうんだよ。この俺は。だからよぉ、期待するな。希望するな。俺を高尚な存在と信じるな。俺はお前が死のうが生きようが実際どうでもいいんだからよぉ」
「……………………」
女の顔から怯えは消え、窺い知れない感情の削ぎ落とした表情になった。
無表情の女性には、言い知れない迫力がある事を久しぶりに実感する。
「…………はぁ…」
だらだらと流れたままなのも仕方ねぇし時間の無駄なので、はっきりと俺の意思を伝える事にした。
その言葉を告げる前に俺は居心地の良い温い炬燵から抜け出て、スーツの内ポケットの封筒を取り出しながらカカシみてえな女に近寄り、何重の包帯に包まれていても冷たいままの手を取り封筒を無理矢理持たせる。
そして、ずっと我慢していた言葉を告げる。
「もう、俺に纏わりつくな」
それだけを言って俺は炬燵に戻ろうとした。
しかし。
「………」
俺は女に背を向けてから動けなくなった。
……いや、動こうと思えば動けたのだが…つまりは動きたくないようにされて、動かなかったのだ。
誰に?女に。
どうして?後頭部の焦げた髪の毛を掴まれていたからだ。それも両手で。それに勢い良く掴みかかって来たので、女の割れた爪が食い込んで後頭部の表皮が薄く切れた。
頸の辺りにまで冷たい血が流れるのを感じながら俺は静止していた。
また、女も動かなかった。
髑髏は口をあんぐり、と開けて阿呆な表情で見上げている。
俺は髪の毛を掴まれる事よりも頭が傷ついた事よりも、そんな事をしでかしてくれた女の行動力に、びっくらこいた。
「…………………………どういうこった?これは?」
後ろから衣擦れの小さな音が聞こえる。
「また、首でも振ってるのか?」
また、小さな音。
「…………………これじゃあ埒が明かねぇだろうがよぉ」
足元に落ちた
「………一度離してくれ。このままじゃあ話し合いのしようも無い。ノートと鉛筆を持ってくるからよぉ…」
そう言いながら一歩踏み出そうとした。
「ぐぇ…っ…………………」
何処に残っていたのか分からない腕力で俺を引き止める女。
俺の髪はリールじゃねぇんだよ、と怒鳴りたかったが、なんだか面倒臭くなったので止めた。
「…………」
「…………………………」
「………………ずっとこうしている気かぁ?」
「…………」
三度、小さな音。
「………なら」
覚悟を決めて、渾身の力でダンスのターンを真似して身体を回転させた。
ブチルテープを遠慮無く剥がされたのかと思うほどの激痛と髪の毛が抜ける嫌な細かな音が後頭部に噛み付いてくる。
……ダンスなど踊った事も無いし金輪際踊る気も無かったが、上手く回る事には成功し、髪強奪女に相対した。
痣だらけで傷だらけの少し濡れた、怒ったような顔の女と視線を合わせる。
俺の顔と女の面の狭間には、焦げた俺の髪を握りしめた女の白い握り拳があった。
勿論、両手だ。
「……ふ」
想定したよりも女の手に収まっている毛量が多かったので、思わず鼻で笑ってしまった。
「……………っ………」
女は自分を笑われたと思ったのか眉間に皺を寄せて俺を睨みつけてきた。
「……は、はは…はぁ、言いたい事があるならよぉ、自分の口で言えよ……実力行使は嫌いな筈だろ」
女は更に深く皺を寄せた。
実に堂に入った表情であった。
「………………ゔるぜぇ、ぐぞだれ…」
女の声は消毒用のアルコールに焼けた喉を絞めたみたいな声だった。
「お前最高だよ」
勝手に口が女を称えた。
「ばがにじでンのがぁ…」
「尊敬してるンだよ。んでよぉ、
「ぁるよおおあり。
酷ぇ言いようだ。
「ぉまえがごなぐでもなぁ……あいづらばわだじじじんのででぶぢごわじでやっだんだ」
いまいち何を言っているのかは解らないが、どうやら俺は復讐の邪魔をしたようだ。
「ほぅ。あんな状況でか?あんなにぐるぐるぐるぐる巻きに縛り上げられた状態で?あんな出来損ないの武装をして己より小さな者しか殴れない猿にも劣る人間未満のオス共に囲まれて?更にお嬢さんがなるべくして苦しんで終了する事を心底から希望する無責任な罪なき人々でいるつもりのマネキン人形の集団に囲まれていたのに?そいつは凄いな。黙って見てりゃアクション映画顔負けの活躍を目に焼き付けれたのか、それはそれは惜しい事をした。実にな。悪かったな。ジェーンお嬢さん」
「…………じぇぇぇんなんでばがみだいななまぇじゃねぇ」
「そこは、その通りだ…って言えなきゃ駄目だろ」
ハッタリの下手な奴だな。
「…ごぢゃごぢゃゔるぜぇ。どにがぐ、わだじば………うげぼっ」
女の口から血の塊が落ちて床に弾けて、潰れて広がった。
「ゔぅん、げほっ、うぇゔぇ、ううん………とにかく…わたしはたすけてくれなんて…いってない」
いくらか女の声がましになった。
床に溢れた血液を、ちら、と見れば…澄んだウイスキーの様な模様が、ぐねぐねと蠢いていた。
とんでもないモノを人ん家の床にぶち撒けてくれたものだ。
女へ視線を戻しながら、床を侵食しようとする血液を踏み潰した。
それきり侵食は止まった。
その代わりに踵に穴が空いたお気に入りの靴下が汚れてしまった。
あーあ。
「きけ」
女が鋭く命令してくる。
「聞いてないのはお嬢さんの方だろうが。助けたつもりはねぇと既に言ったぜ」
「………けっか、わたしはいきてるのだから、たすけただろうが。わたしがなにをするでもなく。わたしがなにをするまえに。わたしがもとめたわけでもないのに。かってに。わたしをおわらせるありとあらゆるそんざいを、ひとつのこらずぶちころしたのはおまえだ。おまえだけで」
「だから?」
「だから?だから、だからだ。たすけたなら
この女は何を言い出す気なのだろう?
「おまえがせいぎのみかたなんて、こっちはみじんもおもったしゅんかんはない。いいとこ、ばったのたいぐんだ。でも、それでいい」
「蝗害とは俺には身に余る光栄だ」「ちゃかすな。きけ」
おっかない女だこと。
「せいぎのみかたは、
「じゃあ」
女の首に手を掛ける。
「ぐおえ!!」
そのまま、ぐぃと力を込めて気道を抑える。
「ぐくぅ……」
女は目尻から涙を流しながら睨みもせずに、唯、俺を見据えていた。
「………
「…ぇ…ぅゔぅぇ…っ!!!」
女の喉に迫り上がるモノを感じたので、瞬時に手を離す。
「うげげえええええええ!!!」
猛烈な勢いで女の口から吐瀉物とドス黒い血液に、
人形は見た目に合わない重厚な音を出して床にめり込む。
その次の瞬間には部屋の温度が急激に下がり、湿気が加速度的に増大した。
「お前さん!!!」
髑髏がゲロに
顔面にかけられた女の中身を雑に拭い、ぼやける視界の中で床に落ちた人形を手探りで探し出して、手に取る。
鷲掴みにして、そのまま力任せに捻り折ってくれた。
人形は小枝よりも容易く折れた。
「………ふぅ…」
部屋の雰囲気が元通りになる。
後は床にぶち撒けられたゲロと血と
………まずは…新聞紙に雑巾を用意しなくては。
いい加減にぶっ倒れそうな鉛の様な身体を引き摺り回しながら、俺はあくせくと後片付けをこなした。
「ほかにやり方あった!!!!」
部屋にある中で一番大きなバスタオルで自身を包む湯気立つ女は震えながら叫んだ。
「あんまり興奮すると、また吐くぜ」
自分のスーツと女の着ていた…てるてる坊主みてぇな布の白い服と白いズボンを日に焼けた窓際に干しながら
掃除はもう懲り懲りだ。
「もう吐く物などない!!!」
「あ、そう。なんか食うか?食ったら出てってくれよぉ」
「食べませんし出ていきません!!!!」
「我儘だなぁ」
しかし、敬意は芽生えた様だ。今更だ。
「もう!!!!行く所もありません!!!人間も信用出来ません!!!!健全に生きて行けません!!!!!死ぬまで助けてください!!!!!」
かつて、ここまで上から目線の哀願があっただろうか。
「…………めんどくせ…………」
「?!!!?けけけけ結局それが本音かよ!!!?」
女は額の血管は浮き出させながら怒鳴る。
何だって、この満身創痍の女はここまで喋れるのだろうか?死ぬまで喋る気なのだろうか?死ぬ寸前だからハイになっているのだろうか?
「いひひ!!!元気な子だよぉ!!アタシは気に入ったよぉ!!このゲロ子ちゃん!!!」
死んでも喋る骨が笑いながら、そう言った。
「お世話になります!!!お化けさん!!!!」
傷と打撲で、ぎこちない動きで女は頭蓋骨に頭を下げる。
「家主は俺だ。勝手に言うなよ。勝手に聞くなよ」
「あぁ、そうだねぇ。残念、無念」
「もっと粘って下さいぃ!!!お化けぇぇえ!!!」
「粘り気が無いものでねぇ……よよよ」
「よよよよよよ!!!」
…………阿呆か。
嘘泣きを口で表現してから、俺を見つめる髑髏。
「……お前さん……助言をこの子に与えても良いかねぇ?」
…。
「……………………………内容は俺の想像通りか?」
「いんや、記憶通りさ」
「……………………………………………………」
「………駄目かい?」
そんな顔しないでほしいのだが。
「けちんぼ!!!!」もう一回何か言ったら叩き出そう、この女は。
「………………………はぁ…………いいよ」
婆さん。
「ありがとう」
お前は、良い子だよ。
言いはしなかったが、そう読まされた。
「いいかい、ゲロ子ちゃん。あの人にこう言えばいいんだよ……ごにょごにょ」
「……………ごにょごにょ?」
「あ、間違えた。いひひひひ!!!ほら、もっと耳を近づけな。アタシは突き出す首が無いんだからさ」
「あ、ああ、すみません!!」
髑髏は女の…唯一無傷の耳に囁く。
「そう言えばいいのですか……?」
「それしかないねぇ。それしか」
「死ねと言ってるのですか?」
「例え、死んだって楽しく過ごせるさね。アタシが言うんだから間違いないだろぅ?」
「………それも良いですね」
良くはねぇだろ。
「あのぅ、すみません…」
女が俺に話しかけてくる。
「なんだ」
「えぇと、私を?弟子に?して下さい?」
………疑問系なのは気に入らないが。
「ああ」「この人でなし!!」
?…??………???
「承諾したんだが???」
「見捨てる気ならハナから見捨てれば良かったのに……????」
「…………?」
「…………?」
「いや、お前がおかしいだろ」
「え?あ、すみません?……し、師匠?」
「その呼び方は止めろ」
「先生?」
「その呼び方も止めろ」
「主人?」
「もう呼ぶな」
「名前を教えれば良いでしょう!!?」
「名無しだ。それが仕事に丁度良いんだよ。アホンダラ」
「えぇ……お揃いですか…」
…………この女の精神強度はダイヤモンドか。
「え?これで?ここにいても良いですか?」
「ああ」
「はぁ」
「宜しくな」
「あ……よろしくお願いいたします…………」
首だけのお辞儀をした。
何で元気が無くなるんだ?この弟子は?
「………なぁ、お嬢さん。まだ歩けるか?」
「……遠くでなければ」
「なら、良いか。さっきのドラックストアに行くだけだ」
「え…」
「……仕事が
柄にも無い事は誰よりも俺が分かる台詞を吐く。
「…………………ぅぅ…う」
今、女の涙腺は故障した様子であった。
「泣ける台詞なのか、今のがよぉ」
俺は、煙草が吸いたかった事を思い出した。