第十二話【型破り少女、アイリス】
異世界での記念すべき初ロボトル。
メッシュは戦利品のパーツこそ手に入れ損ねたものの、かつての戦友たちと共に勝利を掴んだ満足感に浸っていた。機体にこもった熱も、少しずつ引いていく。
アイリス:「すごい! あなたのメダロット、すっごく強いのね」
メッシュ:「そこは『あなた、すっごく強いのね』って言ってほしかった」
アイリスは興奮気味に声を弾ませていたが、その称賛はメッシュ本人ではなく、カリパー、キドゥ、ゲンジへ向けられていた。
メッシュが少し落胆する一方、三機はそれぞれ誇らしげなドヤ顔を浮かべている。
アイリス:「あ、ごめんごめん。でも見たことないメダロットなんだよね。何型なの?」
何型なのか。
当然の質問だったが、メッシュは答えに詰まった。正体を隠すため、何とか誤魔化そうとする。
メッシュ:「え~っと、マァ、チョット諸事情ガアッテ型式不明ナンダ」
見事なまでの棒読みだった。
隣のカリパーたちは、思わず天を仰いだ。もう少し自然に嘘をつけないものだろうか。
アイリス:「え、どういう事?」
メッシュ:「……ン、マ、マァ、チョット諸事情ガアッテ非売品を持ッテイテナ。諸事情デ事情ヲ話セナインダ。諸事情デ」
諸事情、諸事情、諸事情。
便利な言葉ではあるが、これだけ繰り返せば怪しさが増すばかりである。三機は内心で頭を抱えていた。
しかし、アイリスはそれ以上深く追及しなかった。
アイリス:「……何から何まで、不明ね。まぁいいわ! ねぇあなたちょっと付き合ってくれない?」
メッシュ:「……ん?」
唐突な誘いに、メッシュはマントの隙間から目を丸くした。
アイリスの話によると、近々この地区でロボトルの大会が開催されるらしい。彼女も出場するつもりだが、最近、自分より後にロボトルを始めた幼馴染のガンマが、急速に実力を伸ばしているのだという。
負けず嫌いのアイリスにとって、後から始めた相手に追い抜かれることは、何としても避けたかった。
練習相手を探して街を歩いていたところ、先ほどのマスキーたちに絡まれてしまったというわけだった。
アイリス:「あなただったら実力的にも、ちょうどいいし、何かいい人っぽいし。練習に付き合ってくれると嬉しいんだけど」
アイリスは少し首を傾げ、上目遣いにメッシュを見つめた。
真剣に頼まれたうえ、「いい人っぽい」とまで言われては、メッシュも悪い気はしなかった。
メッシュ:「ファッファッファ! いかにも俺はいいメダ……人だッ! その練習とやら、付き合ってやろうじゃないか」
危うく「メダロット」と言いかけたのを誤魔化し、メッシュは豪快に笑った。
こうして、次元の旅人メッシュは、メダロッターとしてアイリスの特訓に付き合うことになった。
特訓は、座学と模擬戦を交えながら、丸一日かけて行われた。
メッシュはメダロッターのふりをしていたが、戦闘に関する助言は的確だった。攻撃の予備動作を小さくするタイミング、関節の可動範囲を考えた回避の角度、防御で受けた衝撃を反撃へつなげる重心移動。
いずれも、かつて十二使徒として数々の戦場を経験してきたメッシュだからこそ、実感を込めて教えられることだった。
ただし、指導の仕方には少し変わったところがあった。
メッシュはアイリスに「こう指示を出せ」と教えるよりも、彼女のメダロットたちへ「お前はこう動け」と直接語りかけることが多かったのである。
アイリスは最初こそ戸惑っていたが、メッシュの話を聞くうちに、自分の愛機の強みや弱みを、これまで以上に理解できるようになっていった。
メダロットがその動きをするためには、マスターとしてどのような言葉を、どのタイミングで伝えればよいのか。メッシュの指導を通じて、アイリスは相棒の立場から考えることを学んでいった。
―
特訓を終える頃には、ベント・デル・マーレの空は橙色に染まっていた。
公園の芝生には長い影が伸び、遠くの電柱からはカラスの鳴き声が聞こえてくる。
カァ、カァ。
あまりにもベタな、一日の終わりを告げる声だった。
アイリス:「……ふぅ。なんだかすっごい勉強になったわ。メッシュってメダロットの事すごい分かってるのね」
メッシュ:「ファッファッファ。そうだろうそうだろう」
メッシュは腕を組み、満足げに笑った。
その様子を、アイリスがじっと見つめている。
まさか、メダロットだとバレそうなのだろうか。
メッシュが内心で焦り始めた、そのときだった。
アイリス:「その布を巻くのかっこいいわね……」
アイリスが見ていたのは、メッシュの身体に巻かれた赤いマントだった。
正体を隠すための苦肉の策が、彼女には格好いいファッションに見えたらしい。
メッシュは安堵した。
メッシュ:「ファッファッファ。そうだろうそうだろう」
アイリス:「顔を隠した正体不明の謎の美少女メダロッター……いいわね。ちょっと貸して!」
メッシュ:「……ん?」
メッシュが問い返すより早く、アイリスはマントの端を掴み、自分の方へ引っ張った。
――グイッ!
マントに包まれていたメッシュの身体が、独楽のように回転する。
メッシュ:「あーれー」
マントを剥ぎ取ったアイリスは、それを自分へ巻きつけた。
そして、夕暮れを背に、バシッと決めポーズを取る。
アイリス:「……名付けて、ラ・マスカーラ! ……これでガンマもわたしに釘付けよ」
得意げにメッシュへ振り返ったアイリスだったが、その表情が一瞬で固まった。
マントを失ったメッシュの姿が、目の前に現れていたのである。
金属の装甲、鋭い機体の輪郭、そしてピンク色の瞳。
アイリス:「う、宇宙人!?」
静かな公園に、アイリスの悲鳴が響き渡った。
―
宇宙人と叫ばれ、メッシュは慌てて両手を振った。
腰を抜かしているアイリスを宥めながら、自分は何者なのかを、かくかくしかじかと説明する。
メッシュ:「……というわけだ。俺は決して、地球を侵略しに来た宇宙人なんかじゃない。れっきとしたメダロットだ」
メッシュは証拠として、背中のメダルをアイリスに見せた。
装甲の隙間に組み込まれた六角形のメダルを確認し、アイリスはようやく落ち着きを取り戻した。
また、マントは自分にとって大切なものだから返してほしいと頼むと、アイリスは顔を赤らめて「ごめんなさい」と謝り、丁寧に返してくれた。
その素直な様子に、メッシュは思った。
(この子は根は本当にいい子だな!)
アイリス:「……で、だとするなら何型メダロットなの? その特殊なフォルムは『新型』超えて『
メッシュ:「俺はトランプ『エース』型メダロットだ。『変型』は普通にやめてくれ」
アイリス:「『変型』についてはマジでごめん。でも、そんな型のメダロット聞いたことないけど」
アイリスは、しばらくメッシュの姿を不思議そうに眺めていた。
しかし、やがて気持ちを切り替えたように、明るい声で言った。
アイリス:「まぁ、何はともあれ、今日はメッシュのおかげでロボトルの特訓できたし! メッシュがいい人……いいメダロットって事は分かったから今は気にしないでおくね」
その言葉に、メッシュは心から安堵した。
アイリスが去っていくのを見送りながら、彼女の大会が特訓の成果を発揮できるものになるよう願った。
――後日。
しかし、アイリスは幼馴染のガンマと激闘の末、惜しくも負けてしまったらしい。
それでも、メッシュのアドバイスを受けて黄色い布で自作した『ラ・マスカーラ』の衣装は、観客の目を惹いたという。
本人も「コスプレがバッチリ決まった」と、満足げだった。
アイリスはメッシュへ丁寧に結果を報告し、メッシュはその努力を認め、まだ見ぬガンマ少年の健闘を称えた。
メッシュ:「素晴らしいぞ、今後も何度も戦うといい! そして二人は永遠の
アイリス:「うん。よく分かんないけどありがとう」
異世界の少女には、名作ゲームの例えは伝わらなかった。
メッシュは少しだけ寂しくなったが、アイリスは気にすることなく、本大会へ出場するガンマの応援に向かっていった。
なぜか、ラ・マスカーラの衣装を着たままである。
(あの子、コスプレに完全にハマったな……)
メッシュは、そう確信した。
そんな、どこか長閑な日常が、一変したのはその数日後だった。
―
ロボトルの本大会が閉幕して間もなくのこと。
空気が凍りつき、世界の電圧が狂ったように乱れ始めた。
メッシュは、目の前で起きている異変を見つめていた。
それは、かつて故郷の歴史に深い傷跡を残した、ある事件とあまりにもよく似ていた。
メッシュの故郷の世界では、その悪夢はこう呼ばれていた。
―――『 魔 の 十 日 間 』、と。
第十二話【型破り少女、アイリス】終わり