REAPPEARANCE   作:土地_0000

14 / 22
第十四話【ワンダ、死闘】

第十四話【ワンダ、死闘】

 

 

 タインたちが探偵事務所でシャインの猛攻を退け、メッシュがビッグブロック近郊でマイルを退けた、まさにその頃のことだ。

 

 国境付近、聖・ヴァレン教会。

 午後の柔らかな陽光が色鮮やかなステンドグラスを透過し、礼拝堂の床に極彩色の幾何学模様を描き出していた。シスターのワンダは、静寂の中にいつものようにモップを動かしていた。古い木材と僅かなオイルの匂いが混ざり合う、穏やかな日常のルーチン。

 お昼時ということもあり、礼拝に訪れるメダロットの姿もなく、教会は深い安らぎに満ちていた。

 

 そのはずだった。

 

 ―――ガチャンッ!

 

 静寂を無遠慮に踏みにじり、教会の重厚な扉が乱暴に開け放たれた。逆光の中に浮かび上がったのは、緑色の迷彩装甲を纏ったタマムシ型のメダロット。その左右対称の腕部に、ワンダは覚えがあった。

 

ワンダ: 「あ、すいません。神父のナギサは今出かけているので、本日は礼拝のみしかできませんが……」

 

ジーヴァス: 「おっと、オレは迷える子羊じゃないゼ!」

 

 ワンダの脳裏に、瞬時に世界指名手配犯の名が浮かんだ。アンビギュアス2の『ジーヴァス』。女王襲撃事件の実行犯。ワンダは手にしていたモップを捨て、反射的に後方へと跳んで距離を取ると、戦闘体勢を整えた。

 ジーヴァスはそれを見ると、仮面の奥で不敵な笑みを浮かべた。

 

ジーヴァス: 「へへッ、その顔を見る限り、俺が誰か分かったらしいな。それなら話は早えぇ、白メダリア……神様を隠していないか?」

 

 「神様」という歪な呼称。ワンダはその言葉の裏にある不吉な執念を感じ取り、アイセンサーに強い拒絶の光を宿した。

 

ワンダ: 「ここには無いわよ」

 

 偽りのない真実。だが、略奪者にとってそれは何の意味も持たなかった。

 

ジーヴァス: 「まぁ仮に持っててもそう言うだろうな……悪いがねーちゃん、ひと暴れさせてもらうゼ!!」

 

 ―――ダダダダダダッ!!

 

 宣告と同時に、ジーヴァスの左腕『リンクス』が火を噴いた。掃射されるガトリング弾が礼拝堂の空気を引き裂き、ワンダの脇をすり抜けて背後の椅子を粉砕する。ワンダは翼を翻して弾幕を回避すると、間髪入れずに左腕のフォーパーツ『ソウス』を突き出した。

 

ワンダ: 「させないッ!!」

 

 黄金の環が唸りを上げ、蓄積された癒しのエネルギーが破壊の光へと変換される。放たれた高出力レーザーが直進し、空気を熱膨張で爆ぜさせた。しかし、ジーヴァスは驚異的な反応速度で上半身を逸らし、その熱線を紙一重でかわしてみせた。

 

ジーヴァス: 「これが伝説のフォーパーツか?…面白いゼ!」

 

 ジーヴァスの猛攻は止まらない。右腕のライフル、左腕のガトリング。二種の火器による波状攻撃が、逃げ場を奪うようにワンダを追い詰めていく。

 ワンダは飛行能力を活かして空間を縦横無尽に舞うが、反撃の機会が掴めない。レーザーは威力こそ絶大だが、ライフルやガトリングに比べて充填と放熱に時間を要し、この超高速の射撃戦においては連射性の低さが致命的な足かせとなっていた。

 

ワンダ: (このままじゃ、じり貧ね……。だったら!!)

 

 ワンダは咄嗟に戦法を切り替えた。弾幕の隙間を縫い、あえて回避ではなく前進を選択する。最短距離を突き進み、銃口の届かぬ懐へと飛び込もうとするワンダの挙動に、ジーヴァスは混乱を見せた。

 右腕は回復、左腕は単発のレーザー、頭部はフォースドレイン。接近戦における直接的な武装を持たぬ彼女が、なぜ肉薄してくるのか。その『不条理』に対する解答を導き出す前に、ワンダの駆動系が最大トルクで吠えた。

 

ワンダ: 「ナギサさんのツッコミ役を舐めるなーーー!!」

 

 全体重を乗せた、渾身の右ストレート。

 それは長年、喋りだすと止まらない大天使ナギサを力技で黙らせるために磨き上げられた、「制裁」の重み。格闘専門機にも引けを取らぬその一撃が、ジーヴァスの顔面を正面から捉えた。

 

 ―――ドガッ!!

 

 重厚な衝突音と共に、数トンの質量が物理的に叩き伏せられる。ジーヴァスの機体は十メートル以上も後方へと吹き飛び、床のタイルを砕きながら地面に激突した。

 

ジーヴァス: 「おいおい……接近戦もできるなんて聞いてないゼ」

 

 ジーヴァスは、瓦礫の山からどっこいしょと立ち上がった。玉虫を模した滑らかな緑の装甲には、ワンダの一撃による凹みが刻まれているが、駆動系に致命的な支障はないようだ。彼は両腕の砲身を軽く回し、まとわりつく土埃を叩き落とすと、不気味に突き出した頭部の赤いセンサーを鋭く発光させた。

 

ジーヴァス: 「うっし!!本気で行くゼ!!」

 

 ―――ドドドドドドドドッ!!

 

 先ほどまでの挑発的な射撃とは密度が違った。左腕のガトリング『リンクス』が唸りを上げ、さらに右腕のライフル『スコッチ』が寸分の狂いもなくワンダの退路を削り取る。回避の軌道を先読みされた、冷徹なまでの精密連射。

 空を舞うワンダだったが、ついに一発の弾丸が彼女の脚部装甲を掠めて火花を散らした。

 

ワンダ: (……っ! 避けきれない! だったら、相打ち覚悟で!!)

 

 ワンダは回避を捨て、空中で機体を固定した。左腕の『ソウス』が最大出力で充填を開始する。静止は死を意味するが、同時に必殺の照準を定める唯一の手段でもある。

 ジーヴァスの放った弾丸がワンダの肩を、脇腹を貫く。衝撃と痛みが脳内を駆け巡るが、彼女はトリガーを離さなかった。

 

 ―――シ、ィィィィィィィィンッ!!

 

 放たれた黄金の光軸。至近距離からのレーザーが、ガトリングを乱射し続けていたジーヴァスのもう一方の腕――右腕を真っ向から捉えた。熱線が装甲を融解させ、パーツの内部回路を焼き切る。

 

 ワンダは着地と同時に、右腕の回復パーツを起動させようとした。自身の損傷を修復し、戦列を立て直すための防衛本能。

 だが、その僅かな「癒し」の時間が、戦場においては決定的な隙となった。

 

ジーヴァス: 「待ってたゼ!この時を!」

 

 爆煙を突き破り、ジーヴァスの緑の影がワンダの背後へと回り込んでいた。損傷した右腕など歯牙にもかけぬ、略奪者としての瞬発力。彼はその鋭く突き出した頭部を、槍のようにワンダの無防備な背中へと向けた。

 

 頭部パーツ『フォーリー』。その本質は、いかなる強固な装甲をも一撃で瓦解させる直接攻撃――デストロイ。

 

ワンダ: 「!? 」

 

 ―――ドドォォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 重厚な礼拝堂を揺るがす、凄まじい衝撃波。

 背後から叩き込まれた圧力が、ワンダの機体を木の葉のように吹き飛ばした。頭部パーツが粉々に砕け散り、視界が激しいノイズで埋め尽くされる。彼女の機体は宙を数十メートルも吹き飛ばされ、教会を支える最も太い大理石の主柱へと、無残な音を立てて激突した。

 

 ……その、直後だった。

 

 ワンダの激突した衝撃が、古びた主柱に隠されていた未知の回路を強引に励起させた。

 バリバリと不規則な電流が石柱の表面を走り、火花が散る。それと同時に、教会の静寂を塗り潰すような、重々しくも規則的な駆動音が足元から響き始めた。

 

 ―――ウィ、ィィィィィン……。シャキーン……。

 

 まるで、永い眠りに就いていた怪物が、不意の衝撃に目覚めたかのような音。

 地下から響き渡る、巨大な歯車が噛み合い、幾重ものロックが解かれていく金属音。

 

ジーヴァス: 「あん?……地下から何かが聞こえるゼ?」

 

 ジーヴァスが、勝利の歓喜を忘れたかのように、震える床を凝視する。

 不測の事態にジーヴァスが眉をひそめた刹那、礼拝堂の正面扉が凄まじい勢いで蹴り破られた。

 

ディスト: 「ワンダ!!?」

 

 砂煙を突き破り、室内へと雪崩れ込んできたのはディスト、セルヴォ、ビートの三機だった。彼らのアイセンサーが捉えたのは、崩壊した主柱の傍らで力なく横たわるワンダと、装甲から排熱の煙を上げる指名手配犯の姿。

 あまりにも惨烈な光景に、ディストの指先が怒りで激しく震える。

 

ジーヴァス: 「おっと。こりゃあ……分が悪いゼ!」

 

 ジーヴァスは瞬時に状況を理解した。死闘の直後で機体負荷は限界に近い。対するはラヴド最強格のディストと、エデン屈指の諜報員二機。真正面からやり合うのは、自殺行為に等しい。

 彼は迷うことなく左腕のガトリングを天へと向けた。

 

 ―――ドドドドドドッ!!

 

 乱射された弾丸が教会の屋根を強引に撃ち抜き、巨大な風穴を開ける。ジーヴァスは壁の装甲を足場に、鳥を思わせる跳躍力でピョンピョンと宙を舞うと、その穴から宵闇の空へと消え去った。

 

ディスト: 「ワンダ!」

 

 ディストは即座にワンダの元へ駆け寄り、その機体を抱き起こした。

 頭部パーツは粉砕されているが、核であるメダルに致命的な亀裂はない。スラフシステムが正常に稼働していることを確認し、ディストは安堵の溜息を漏らした。

 

 だが、その安堵はすぐに、鋭利な決意へと上書きされた。

 シャイン、ジーヴァス、マイル。あの三機が白メダリアを求め、この世界に死と混乱を撒き散らしている。ワンダの無残な姿が、ディストの内側に眠っていた「守るための力」という執念を呼び覚ましていた。

 

ディスト: 「セルヴォ、ビート……ワンダをお願い」

 

セルヴォ: 「さて?……お前はどうする気だ?」

 

ディスト: 「フユーンに行く!!」

 

 ディストは勢いよく立ち上がると、扉へ向かって一歩を踏み出した。だが、その進路をビートの無骨な腕が遮る。

 

ビート: 「待て。一人で行った所でやられるだけだぞ」

 

ディスト: 「それでも早く止めなきゃいけないんだ!!」

 

 叫びと同時に、ディストは強制的に3PMCシステムを起動させた。装甲が鳴り、一瞬にして流線型の車両形態へと変貌を遂げる。加速の衝撃でビートの手を振り切り、彼は弾丸のような速度で教会の外へと飛び出した。

 

セルヴォ: 「さて、しょうがねぇ。ワンダをホテルまで運ぶぜ」

 

 セルヴォは去りゆく赤き残像を追おうともせず、壊れた人形のようなワンダを器用に担ぎ上げた。

 

ビート: 「……ディストはいいのか?」

 

セルヴォ: 「さて、あんなクソガキほっとけ! 〝勇気〟と〝無謀〟、〝正義感〟と〝自己中心〟を勘違いしてやがる……」

 

 セルヴォの目には、若き英雄の危うさに対する冷ややかな軽蔑が宿っていた。

 

 ――数刻後。

 

 ジーヴァスが消え、ディストが去り、トゥルースの二機が負傷者を運び出した後の礼拝堂。

 深い夜の静寂が再び戻ったはずのその場所で、地鳴りのような咆哮が響いた。

 

 ―――バキバキバキッ、ドゴォォォン!!

 

 大理石の床板が内側から爆ぜ、巨大な陥没穴が口を開けた。

 その土煙の中から、滑るように現れた一機の巨大な影。

 

 三本の漆黒の角を持ち、雲を象った脚部で優雅に浮遊する、白き龍の姿。

 かつて世界を戦争の渦に巻き込み、この二年間、聖域の深淵で花を育て続けていた男――カヲス。

 ワンダが柱に激突した際に生じた偶発的な電気信号が、彼の「檻」を永遠に閉ざしていたはずの電子の錠を焼き切ったのだ。

 

 無人となった教会。カヲスは、月光に照らされた自身の白い手を見つめ、静かに、けれど逃れようのない執念を込めて呟いた。

 

カヲス: 「……待っていろ…………コスモス……」

 

 

 

第十四話【ワンダ、死闘】終わり

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。