REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第十六話【ローラ、再会】

第十六話【ローラ、再会】

 

 

 脳を直接抉るような凄まじい雑音。その音の防壁を切り裂いて現れたのは、ディストがこの二年間、片時も忘れることのなかった凛々しき背中だった。

 

 雪の女王をモチーフとしながら、その右腕には情熱の如き「赤」を宿したフォーパーツ『ダブレスト』を掲げる女武士。二年前、ラヴドの最前線で共に戦い、終戦と共に風のように去っていったかつての戦友。

 

ディスト: 「ロ、ローラ!!」

 

 ディストの声は、驚きと安堵で裏返っていた。ボロボロになった機体を震わせ、自分を庇うように立つ彼女を仰ぎ見る。ローラは振り返ることもなく、静かに、けれど逃れようのない重圧を湛えて前方の三機を睨み据えた。

 

ローラ: 「つもる話もあるだろうが、まずはこいつらの対処が先決……行くぞディスト」

 

 その涼やかな声が耳に届いた瞬間、ディストの内部フレームに活力が漲った。再会の抱擁よりも先に、彼女は戦士としての矜持を促した。それは、ディストを一人の対等な「大人」として扱っていることの証でもあった。

 

 ローラが地を蹴った。

 オーロラクイーンという機体特性を真っ向から否定するかのように、彼女の突き出した拳からは紅蓮の業火が噴き出した。二年前、死の淵で親友への想いから発現させた、奇跡の残り火。

 シャインは、この異常な雑音――ベビーの放つ『混乱行動』の只中にありながら、冷静に『オクトバーン』を起動させ、同等の炎でローラの火線を相殺した。

 

 ―――ッ、ゴオォォォォォォン!!

 

 熱波と熱波が衝突し、フユーンの広間に陽炎が立ち昇る。ローラは火花を散らす装甲を構え直し、鋭い眼差しを向けた。

 

ローラ: 「F・G・シャイン…なかなかやるな、小手先の技は通じぬか……。ベビー!混乱はやめて妾とディストに補助チャージだ」

 

ベビー: 「了解~!」

 

 ローラの呼びかけに応じ、影から一機の小柄な機体が躍り出た。赤ん坊のような愛らしいフォルム。かつてローラと共にラヴドを歩んだ、プリミティベビーだ。

 ベビーが姿を現すと同時に、要塞を震わせていた不快な雑音がピタリと止んだ。

 

 彼は間を置かず、左腕の『パストフィール』をディストとローラへと向けた。

 

 ―――キィィィィン……キィィィン、キィンキンキンキンキキキ!

 

 瞬間、ディストの感覚が変質した。

 周囲の景色が、まるで水中に沈んだかのように緩慢に、引き延ばされたように動き出す。いや、違う。自分たちの思考と駆動速度が、ベビーの「補助チャージ」によって強制的に加速させられているのだ。

 自身の体感時間と、世界の時間の間に生じる決定的な剥離。

 

 絶対的な速度の優位を手に入れ、ディストのアイセンサーに鋭い光が宿る。

 再会の儀式は整った。若き英雄と伝説の盾、そして異形の赤ん坊。

 ラヴドの魂を継ぐ三機の逆襲が、今ここから始まった。

 

 加速した世界。

 ディストとローラの機動は、もはや光学センサーが捉える限界を超えていた。まず最初に沈黙を破ったのは、アンビギュアス2のジーヴァスだった。

 

ジーヴァス: 「チッ、チョコマカと……! まとめて蜂の巣だゼ!!」

 

 吠えると同時に、左腕のガトリング『リンクス』が火を噴く。猛烈な弾幕が二人を襲うが、ベビーの補助を受けた二機は、弾丸の軌道をなぞるような最小限のステップでそれを回避。間髪入れずにローラが地を滑った。

 彼女は雪女型メダロットとしての本来の力を解放し、鋭い踏み込みと共にジーヴァスの足元を突いた。

 

ローラ: 「……凍りつけ」

 

 冷気の波動がジーヴァスの脚部を包み込み、駆動系を一瞬で氷塊へと変える。動きを止めたジーヴァスへ、ディストが右腕の狙撃パーツを向けた。

 

ディスト: 「当てるッ!!」

 

 至近距離からのビーム。だが、その直撃を遮るようにマイルのエイシイスト2が割って入った。マイルは右腕のソードを一閃させ、ジーヴァスの脚部を拘束していた氷を強引に切り刻むと、凍りついた相棒の胴体を抱えてその場を大きく跳んだ。

 

ジーヴァス: 「サンキュー! マイル! 危なかったゼ!!」

 

マイル: 「まったく……しっかりしてくれよぉ?」

 

 危機を脱したかに見えた二人。だが、彼らの着地を待つほど、今のディストは甘くはなかった。

 空中。マイルが着地する瞬間の硬直を狙い、車両形態のまま加速を続けていたディストが、左腕のフォーパーツ『エアスト』を剥き出しにして突っ込んできた。

 

ディスト: 「逃がさない……ッ!!」

 

 回避不能。二機を抱えたままではその機動を殺しきれず、マイルは真正面からディストの突進を浴びた。

 

 ―――ズ、ガァァァァァァァンッ!!

 

 重厚な衝突音が要塞に響く。二機は文字通り一つの塊となり、ディストの推進力に押し込まれる形で壁面へと激突した。

 ディストはトドメの一撃を放つべく、ビームの出力を最大まで励起させる。だが、その照準が定まる直前、これまで静観していたシャインが、不気味なほどの速度で下降してきた。

 

シャイン: 「クククク…君達はどうやら純粋に僕たちを討伐しに来た者達。神様を持っていないようだね」

 

 シャインは無機質な声で告げると、両の白い腕を広げた。右腕の『ヤサカニボール』が眩いばかりの慈愛の光を放ち、壁にめり込んでいたマイルとジーヴァスの損傷を、瞬時に無へと還していく。

 

 刹那。

 

シャイン: 「『オクトバーン』……!!」

 

 シャインの頭部から放たれたのは、これまでとは比較にならないほど広範囲を焼き尽くす、暴力的なまでの業火だった。

 視界のすべてが紅蓮に染まり、酸素が失われ、広間は一瞬にして焦熱の地獄と化した。

 

ローラ: 「ディスト!!」

 

 ローラが咄嗟にディストとベビーの前に割って入り、ダブレストの障壁とフリーズ攻撃を組み合わせて猛烈な熱波を相殺する。必死の消火活動によってようやく炎のカーテンが収まったとき、そこには焦げた床板と立ち昇る黒煙が残されているだけだった。

 シャインたちの反応は完全に消失していた。

 

ローラ: 「……逃げられたか。しかし、このまま戦っていれば妾達も危なかった……。ここは前向きに解釈しよう」

 

 ローラは悔しげに拳を握りしめたが、すぐに戦士としての冷静さを取り戻し、背後の仲間たちを案じるように視線を向けた。

 

 炎の残響が消え、静まり返った広間に焦げたオイルの臭いだけが停滞していた。

 戦いの緊張が解かれたその瞬間、ディストは今まで堰き止めていた想いを、濁流のようにローラへとぶつけた。

 

ディスト: 「ローラ! それにベビーも! 久しぶり! 元気にしていた? 僕のこと覚えている? なんでここに来たの?」

 

 子供のように目を輝かせ、矢継ぎ早に問いかけるディスト。かつての戦友の変わらぬ無邪気さに、ローラは武人らしい硬い面持ちを僅かに崩し、クスリと喉を鳴らした。

 

ローラ: 「フッ……相変わらずだなディスト。妾もベビーも元気であり、お前のことを忘れたことなど一度としてない。コスモスの事件以来、妾は独自に奴らのことを調べておってな。ベビーと作戦を練ってここへ攻め入った所、偶然にもお前に出くわしたというわけだ」

 

 ローラの言葉は、かつて共に戦線を潜り抜けた者だけが持つ深い信頼を湛えていた。だが、彼女はすぐに、諭すような鋭い眼差しをディストに向けた。

 

ローラ: 「……ところでディストよ、まさかお前、一人でここに乗り込んだのか?」

 

 その問いに、ディストは言葉を詰まらせ、口元をもごもごさせた。

 傷ついたワンダの姿を見たときの、燃えるような憤りに突き動かされてここまで来てしまったが、冷静になって周囲を見渡せば、それがどれほど無謀な蛮勇であったか、今さらながらに理解できてしまう。恥ずかしさと申し訳なさが入り混じり、ディストは視線を落とした。

 

ディスト: 「ま、まあ、その……実はね……」

 

 ディストは消え入るような声で、これまでの経緯を語った。エデンの諜報員であるトゥルースと一時的に手を組んだこと、ワンダへの襲撃、そして自分が何を感じて飛び出したのか。

 

 ローラの表情は、その無鉄砲さに呆れたように溜息を吐き出したが、すぐにまた、柔らかな笑みを浮かべた。

 

ローラ: 「フッ……まあよい。お前のその純粋で一直線な所は、妾の好いておる部分だ。それに……少し、よい男になったようだ」

 

 自分を犠牲にしても、他者が傷つくことを防ごうとしたディストの精神的な自立。ローラはそれを、一人の戦士としての――あるいは、一人の対等な異性としての称賛を込めて「よい男」と評した。

 

 その一言は、ローラの意図を遥かに越える重みを持ってディストのメダルへと突き刺さった。

 

ディスト: 「…………あ」

 

 ディストは、魂が抜けたかのように呆然と、ローラの端正な顔立ちを見つめ返した。

 今まで「仲間」として、「姉のような存在」として見ていた彼女。だが今、彼女の瞳の中に映る自分は、守られるべき子供ではなくなっている。内側から湧き上がる説明のつかない熱が、冷却ファンでも抑えきれないほどに機体を震わせた。

 

ローラ: 「……どうした? 妾の顔に何かついているか?」

 

 不思議そうに覗き込むローラ。その距離が、今のディストにはあまりに近すぎた。彼は我に返ったように弾かれた。

 

ディスト: 「ううん! な、なんでもないよ!」

 

 ディストは慌てて視線を逸らした。装甲の表面に熱が帯び、彼の顔は赤らめているように見えた。

 といっても、彼のボディは元々鮮やかな紅に染まっている。それが機能上のオーバーヒートなのか、それとも、たった今産声を上げたばかりの「正体不明の感情」によるものなのか、それを知る者は誰もいなかった。

 

 

 その頃。巨大都市メダロポリスの一角。

 喧騒から切り離されたホテルの室内で、一機の少女がゆっくりとまぶたを押し上げた。

 

ワンダ: 「……ん……う~ん……」

 

ビート: 「……! ……起きたか」

 

セルヴォ: 「さて、ここまで運んでくるのには結構苦労したんだぜ。感謝しな」

 

 視界を埋める、聞き慣れた諜報員たちの無愛想な貌。

 ワンダは、教会の床で意識を失って以来の目覚めを迎えていた。かつての戦友たちが合流し、世界の趨勢が再び一つのうねりへと集約されようとしていた。

 

 

第十六話【ローラ、再会】終わり

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