第十六話【ローラ、再会】
異様な雑音を遮る青い障壁。その向こうに立っていたのは、ディストにとって二年ぶりとなる懐かしい背中だった。
雪の女王を思わせる白い機体。その右腕だけが、燃える炎のような鮮やかな赤に染まっている。
フォーパーツ『ダブレスト』を備えた、かつての戦友。
ディスト:「ロ、ローラ!!」
ディストは驚きに目を見開いた。
傷ついた自分を庇うように立つローラは振り返ることなく、前方の三機を睨み据える。
ローラ:「つもる話もあるだろうが、まずはこいつらの対処が先決……行くぞディスト」
聞き慣れた声に、ディストは力強く頷いた。
ローラが地面を蹴る。
赤い右腕から炎を噴き出し、シャインへ向かって放った。
だが、ベビーの混乱に動きを乱されながらも、シャインはすぐに反応した。
背後の八本の柱から炎を放ち、ローラの攻撃を迎え撃つ。
――ッ、ゴオォォォォォォン!!
二つの炎が正面からぶつかり合い、広間に熱気が広がった。
ローラはすぐに構え直し、シャインへ鋭い視線を向ける。
ローラ:「F・G・シャイン……なかなかやるな、小手先の技は通じぬか……。ベビー! 混乱はやめて妾とディストに補助チャージだ」
ベビー:「了解~!」
その声に応じ、物陰から小柄なメダロットが姿を現した。
赤ん坊を思わせる姿をした、プリミティベビー。
ベビーが混乱を止めると、それまで広間を満たしていた異様なノイズが消えた。
続けて左腕の『パストフィール』を、ローラとディストへ向ける。
――キィィィィン……キィィィン、キィンキンキンキキキ!
補助チャージを受けた瞬間、ディストの機体の反応が一気に軽くなった。
隣ではローラもすでに次の攻撃へ移っている。
ジーヴァス:「チッ、チョコマカと……! まとめて蜂の巣だゼ!!」
ジーヴァスの左腕『リンクス』が火を噴いた。
猛烈な弾幕が二機へ襲いかかる。
ディストとローラはすぐに左右へ散り、弾丸をかわした。
そのままローラが一気に距離を詰め、ジーヴァスの脚部へ左腕を突き出す。
ローラ:「……凍りつけ」
冷気がジーヴァスの脚部を包み込み、その動きを止めた。
ディスト:「当てるッ!!」
ディストが右腕の『アウェイビーム』を向ける。
至近距離から放たれたビームがジーヴァスへ迫った。
だが、その直前。
マイルが二機の間へ割って入った。
右腕のソードを振るい、ジーヴァスの脚部を覆っていた氷を一気に砕く。
そのままジーヴァスを抱え、ビームを避けるように大きく跳んだ。
ジーヴァス:「サンキュー! マイル! 危なかったゼ!!」
マイル:「まったく……しっかりしてくれよぉ?」
だが、ディストは二機を逃がさなかった。
マイルが着地しようとした瞬間、ディストは地面を強く蹴った。
一気に加速し、左腕のフォーパーツ『エアスト』を構えて二機へ突っ込む。
ディスト:「逃がさない……ッ!!」
ジーヴァスを抱えた状態では、マイルもすぐにはかわしきれない。
――ズ、ガァァァァァァァンッ!!
エアストを叩き込まれたマイルとジーヴァスが、その勢いのまま壁へ激突した。
ディストはすぐに追撃へ移る。
右腕のビームを二機へ向けた。
だが、その照準を合わせるより早く、上空からシャインが降りてくる。
シャイン:「クククク……君達はどうやら純粋に僕たちを討伐しに来た者達。神様を持っていないようだね」
シャインが白い両腕を広げる。
右腕の『ヤサカニボール』から光が放たれ、壁際に倒れていたマイルとジーヴァスの損傷が急速に修復されていった。
そして。
シャイン:「『オクトバーン』……!!」
背後の八本の柱から、先ほどまでを上回る炎が一斉に噴き出した。
――ゴォォォォォォォォォッ!!
広間の視界が炎に覆われる。
ローラ:「ディスト!!」
ローラがディストとベビーの前へ飛び込んだ。
赤い右腕から半透明の青い障壁を展開し、さらに左腕から冷気を放つ。
押し寄せる炎を障壁で受け止め、冷気で熱を押し返していく。
やがて炎が弱まった。
焼け焦げた床から煙が上がる。
だが、その向こうにシャインたちの姿はなかった。
ローラ:「……逃げられたか。しかし、このまま戦っていれば妾達も危なかった……。ここは前向きに解釈しよう」
ローラは悔しそうに拳を握ったが、すぐにディストたちへ振り返った。
戦いが終わったと分かった途端、ディストの表情が一変する。
ディスト:「ローラ! それにベビーも! 久しぶり! 元気にしていた? 僕のこと覚えている? なんでここに来たの?」
矢継ぎ早に質問するディストを見て、ローラは僅かに笑った。
ローラ:「フッ……相変わらずだなディスト。妾もベビーも元気であり、お前のことを忘れたことなど一度としてない。コスモスの事件以来、妾は独自に奴らのことを調べておってな。ベビーと作戦を練ってここへ攻め入った所、偶然にもお前に出くわしたというわけだ」
再会を喜んでいたローラだったが、ふと表情を変えた。
ローラ:「……ところでディストよ、まさかお前、一人でここに乗り込んだのか?」
ディスト:「…………」
ディストは言葉に詰まり、視線を逸らした。
ワンダが傷つけられたことで頭に血が上がり、ビートの制止も振り切ってここまで来た。
こうして改めて指摘されると、自分がどれほど危険なことをしたのかはディストにも分かった。
ディスト:「ま、まあ、その……実はね……」
ディストは、これまでの経緯をローラへ説明した。
エデンの諜報組織トゥルースと一時的に手を組んだこと。ワンダがジーヴァスに襲われたこと。そして、その姿を見て一人で飛び出してきたこと。
話を聞き終えたローラは、呆れたように溜息をついた。
だが、すぐに表情を和らげる。
ローラ:「フッ……まあよい。お前のその純粋で一直線な所は、妾の好いておる部分だ。それに……少し、よい男になったようだ」
ローラにとって、それは二年前より成長したディストへの素直な称賛だった。
ディスト:「…………あ」
しかし、ディストは固まった。
ローラの顔を、呆然と見つめる。
これまで彼女は、共に戦った仲間であり、自分より経験豊富な頼れる存在だった。
それなのに「よい男」と言われた瞬間、今までとは違う何かがディストの中に生まれていた。
自分でも、それが何なのか分からない。
ローラ:「……どうした? 妾の顔に何かついているか?」
ローラが不思議そうに顔を覗き込んだ。
ディスト:「ううん! な、なんでもないよ!」
ディストは慌てて視線を逸らした。
なんとなく、顔が熱い気がする。
もっとも、彼のボディは元々鮮やかな赤色である。
本当に赤くなっていたとしても、たぶん誰にも分からない。
そしてディスト自身にも、この正体不明の感情が何なのか、まだ分かってはいなかった。
―
その頃、巨大都市メダロポリスの一角。
ホテルの一室で、一機の少女がゆっくりと目を覚ました。
ワンダ:「……ん……う~ん……」
ビート:「……! ……起きたか」
セルヴォ:「さて、ここまで運んでくるのには結構苦労したんだぜ。感謝しな」
目の前にいたのは、セルヴォとビートだった。
第十六話【ローラ、再会】終わり