第十七話【トゥルース、ひねくれ者】
ワンダは、見慣れない部屋の中を困惑した様子で見回した。
聖・ヴァレン教会の天井でも、色鮮やかなステンドグラスでもない。窓の外からは、微かに都市の喧騒が聞こえてくる。
ワンダ:(……ここは……どこ? 何故、私は生きているの……?)
教会の主柱へ激突してから先の記憶がない。
混乱しながら顔を横へ向けると、そこには二機のメダロットがいた。
一機は青、もう一機は黄。
エデンの諜報組織『トゥルース』のセルヴォとビートだった。
何故、この二機がいるのか。
ジーヴァスとの戦いはどうなったのか。
疑問ばかりが浮かぶワンダを見て、セルヴォが面倒そうに口を開いた。
セルヴォ:「さて、何がなんだか分かってねー顔だな。しゃあねぇ、説明してやるか。……ビート頼んだ」
ビート:「……俺か」
ビートは僅かに間を置いた後、ワンダが倒れてからの出来事を淡々と説明し始めた。
ジーヴァスが逃げたこと。ディストたちが教会へ駆けつけたこと。そして、自分たちがワンダをここまで運んだことを。
―
一方、かつての空中要塞『フユーン』。
深夜の静かな遺構の片隅で、ローラ、ディスト、ベビーの三機は今後の行動について話し合っていた。
ローラ:「とりあえずは再度トゥルースと合流すべく、メダロポリスへ向かうのが良いと思うのだが」
ベビー:「同感でちゅね」
ディスト:「よし! そうと決まったら今すぐ行こう!!」
ディストがすぐに立ち上がった。
ローラ:「ま、待てディスト。先の戦いの傷がまだ完全に癒えておらぬだろう? 明朝まで待ち、その後出発する」
ディスト:「あ……そっか」
相変わらず一直線なディストに、ローラは呆れたように息をついた。
傍らでは、ベビーがすでに眠りに落ちている。
一行は明朝の出発を決め、そのままフユーンで夜を明かすことにした。
空を見上げれば、街ではなかなか見られないほど多くの星が夜空を埋めている。
ディストはしばらくその光を眺めていたが、ふと思い出したようにローラへ顔を向けた。
ディスト:「ねぇローラ……この二年間どうしてずっと音信不通だったの?」
ラヴドを去ってから二年。
ローラが各地で困っている者たちを助けているという噂は耳にしていたが、本人と連絡を取る機会は一度もなかった。
ローラは少し気まずそうに視線を逸らした。
ローラ:「すまぬな……だが、世界は妾が思っていた以上に貧しかったのだ。次から次へと現れる不幸な者達の相手をするのに忙しく、なかなか顔を出す暇がつくれなくて……」
ディスト:「でも……せめて電話とか、メールとかいろいろ手段はあるだろ?」
ローラ:「それは……その……妾はそういった類の物の使用法が分からんのだ……」
ディスト:「……は?」
予想外の答えに、ディストは思わず間の抜けた声を出した。
ローラ:「だから……手紙等の手段も考えたのだが、まだ戦後で郵便が完全に機能しておらぬだろう……?」
ディスト:「もしかして……携帯電話とかの通信機的なものは……?」
ローラ:「…………持ち合わせておらぬ」
ローラは恥ずかしそうに顔を逸らした。
かつてラヴド軍で活躍した彼女が、通信機器一つまともに扱えない。
その人間味溢れる――いや、メダロット味溢れる一面に、ディストは堪えきれずクスリと笑った。
ローラ:「わ、笑うでない!」
ローラが抗議する。
だが、久しぶりに昔と変わらないやり取りができたことが嬉しく、ディストの笑顔はなかなか消えなかった。
―
ビートから一通り説明を聞き終えたワンダは、思わず声を荒らげた。
ワンダ:「それでディストを放って来たの!?」
ディストが一人でシャインたちのいるフユーンへ向かった。
その事実を聞いただけで、嫌な想像が次々と浮かんでくる。
ビート:「すまん。ディストを止めることはできなかった」
ビートは淡々と答えた。
その隣で、セルヴォが壁にもたれたまま口を開く。
セルヴォ:「さて、放っておいて当然だろ。あんな無謀なヤツにかまってたら、任務の遂行に支障をきたす」
ワンダ:「あんた! 仲間を見捨てるなんて最低ね! ……私達とあんた達とはもっと仲が良いと思ってたのに……」
セルヴォ:「さて、一応言っておくが、俺はお前らの事を認めているぜ? ディストのヤツも良い奴だと思う。……だがそれは俺の〝プライベート〟での話だ」
ワンダは眉をひそめた。
ワンダ:「でもいくら任務が大切だからって……少しくらいは仲間のために無理をしたって……」
セルヴォ:「さて、俺たちトゥルースはプロフェッショナルだ……そしてプロフェッショナルには必ず義務がある。連載小説家には物語が完結するまで小説を書き続ける義務、ホステスには客を喜ばせる義務。ボディガードには……主を守る義務。……それらと同じように俺たちトゥルースにも絶対に任務を遂行する義務がある」
ワンダ:「………」
セルヴォ:「さて、知ってるか? 昔のトゥルースは今よりもっと人数が多かったんだ。だが今となっちゃたったの3人。何故だか分かるか? ………お前達みたいな甘い馬鹿が多かったからだ」
ワンダは何も言い返さなかった。
セルヴォがどれほど多くの仲間を失ってきたのか、ワンダには分からない。
だが、それでも彼の考え方に納得することはできなかった。
ワンダ:「もういい!!」
ワンダは拳で机を叩いた。
これ以上話しても平行線だと思い、そのまま出口へ向かう。
扉の前まで来たところで、ふと足を止めた。
考え方は気に入らない。
ディストを追わなかったことも、やはり納得できない。
だが、自分をここまで運んで助けてくれたのも、この二機だった。
ワンダ:「で、でも……あんた達が私を助けてくれたのは事実だし、一応お礼は言っとくわ。……ありがと」
ワンダは振り返らないまま、それだけを言った。
――ガチャン。
扉が閉じる。
部屋に残ったのは、セルヴォとビートだけだった。
しばらくの沈黙の後、セルヴォが窓の外を見ながら口を開いた。
セルヴォ:「さて、ビート。正直に答えてくれ……俺は間違ってたか?」
ビートは少しだけ考えた。
ビート:「……俺はお前は正しかったと思う」
セルヴォ:「へッ……お互いひねくれちまったもんだ」
ビート:「それがトゥルースだ。任務に支障をきたす時は仲間でも見捨てるしかない。たとえどんなに心配でもな」
セルヴォは何も答えなかった。
やがて、小さく息を吐く。
セルヴォ:「さて、あの馬鹿……なんとか生き残ってるといいが」
その後、セルヴォは立ち上がった。
セルヴォ:「さて、じゃあ行きますか♪……相棒」
ビート:「あぁ……そうだな。相棒」
窓の外には、すでに朝の光が差し始めていた。
―
――同じ頃。
街の喧騒から離れた、人目につかない建物の一角。
女王襲撃事件以来、デュオカイザーは人目を避けて潜伏を続けていた。
だが、その静かな時間は突然終わりを告げる。
シャイン:「クククク……トゥルース主任デュオカイザーだね? 探したよ」
三機のメダロットが、デュオカイザーを取り囲んでいた。
シャイン。
ジーヴァス。
マイル。
逃げ道を塞がれながらも、デュオカイザーは少しも慌てた様子を見せなかった。
デュオ:「ぁら~。見っかっちゃったゎねぃ♪」
白メダリアを巡り、シャインたちはついにデュオカイザーへ辿り着いた。
第十七話【トゥルース、ひねくれ者】終わり