第二話【アマテラスオオミカミ】
コスモスが地下の静寂でカヲスと再会を果たしてから、三日の月日が流れた。
この日、世界は一つの歴史的な転換点を迎えていた。要塞『ビッグブロック』の返還。
かつては反人間組織『エデン』の牙城であり、二年前の戦争でトゥルースの策謀によって本部を失った『ラヴド』が強引に奪取して以来、そこは抵抗軍の本拠地として、復興の荒波に耐え続けてきた場所だ。
しかし、ついに新ラヴド本部の建造が完了し、システムの移行もすべて滞りなく終了した。
本日、この鉄の要塞は平和の証として、エデン国の管理下へと戻される。
返還の儀を前に、エデン国の女王コスモスは、自らの足でこの地を視察するために訪れていた。
巨大な堀に架かる重厚な跳ね橋。その上を歩むコスモスの視界に、かつての戦火の記憶が過る。
コスモス: 「懐かしいですね……私がここを初めて訪れたのは二年前。満身創痍の私を、ローラさんたちに助けてもらったときです」
傍らに控える護衛兵に、彼女は穏やかに語りかけた。
当時は裏切り者として追われ、ボロボロになってこの門をくぐった。
あの絶望の淵で差し伸べられた「ラヴド」の仲間たちの手の温もりが、今の彼女を形作っている。
コスモスは追憶に目を細めながら、返還されたばかりの城門をくぐり、要塞の深部へと進んでいった。
一方、ビッグブロックを眼下に見下ろす小高い丘の頂。
そこには、眼下の平和を嘲笑うかのように、三つの不穏な影が佇んでいた。
一機は、迷彩のような緑色の装甲を纏い、鋭い双眸を宿したタマムシ型メダロット『アンビギュアス2』。
もう一機は、深海を思わせる深い青のボディに黄金の装飾を施し、両腕に打撲武器を構えたカミキリムシ型メダロット『エイシイスト2』。
そしてその中央で、異彩を放つ一機の女型メダロットが宙に浮いていた。
平安貴族の装束を思わせる雅なデザイン。
頭部からは艶やかな漆黒の髪が背後まで流れ、仮面のような白い面には朱色の花紋が刻まれている。
鮮やかなオレンジの着物を纏ったような両腕からは、それとは対照的な、冷徹なまでに白い機械の指先が突き出していた。
脚部を組み、あぐらをかいた姿勢で浮遊するその姿。
足先には、かつて人類を滅ぼしたN・G・ライトを彷彿とさせる、鋭利な刃が光る。
何より異様なのは、背後に円を描くように並んだ八本の赤い柱――その先端から噴き出す紅蓮の炎が、彼女の周囲を神々しく、そして禍々しく照らしていた。
エイシイスト2が、中央の女型メダロットへ疑念の混じった声を投げかける。
マイル: 「なぁシャイン。本当にあのハードネステンで間違いないのかぁ?」
シャインと呼ばれたその機体は、喉の奥でくぐもった笑い声を漏らした。
シャイン: 「クククク……間違いないよ、マイル。二年前、あの最終決戦の日に、僕がエデンの深淵に忍び込んで盗み出した機密資料からすればね」
自らを「僕」と呼ぶ中性的な口調。だが、その声色には女性特有の冷ややかな艶がある。
それを聞いて、緑の機体――アンビギュアス2が、苛立たしげに自身の右腕をガチャつかせた。
ジーヴァス: 「じゃあよ! さっさとアイツのメダルを頂きに行こうゼ!!」
好戦的で落ち着きのないジーヴァスの叫び。マイルは呆れたように首を振り、相棒の短慮を嗜める。
マイル: 「ジーヴァス、落ち着けよぉ。要塞の中で暴れ回るより、出てくる瞬間を狙う方が何倍も楽だろぉ?」
アンビギュアス2の『ジーヴァス』。エイシイスト2の『マイル』。
そして、全てを導く謎の女『シャイン』。
シャイン: 「クククク……。出てきたよ」
シャインの視線の先、ビッグブロックの巨大な城門がゆっくりと開かれた。
そこから、数多の兵士たちを盾のように従え、一国の主としての威厳を纏ったコスモスが姿を現す。
ジーヴァス: 「よっしゃあ!! いくゼェェェェ!!!」
マイル: 「お前は、少しは静かに出来ないのかぁ……?」
マイルの嘆息を置き去りにして、ジーヴァスは丘の斜面を爆走し、一直線にコスモスの元へと躍り出た。
狩りの始まりを告げる金属音が、静かな昼下がりの大気を切り裂いた。
緑の装甲を躍動させるジーヴァスと、重厚な青の機体を唸らせるマイル。
城門付近で警戒に当たっていたエデン国の護衛兵たちが、即座に異変を察知し、盾を掲げて陣を組む。
しかし、襲撃者たちの実力は、一般兵の想定を遥かに凌駕していた。
先陣を切ったジーヴァスが、走りながら左腕のガトリング『リンクス』を掃射する。
無数の鉛弾が防壁を叩き、兵士たちの体勢を崩した刹那、マイルがその隙間に滑り込んだ。
格闘機であるエイシイスト2の剛腕が振るわれる。左腕のハンマー『ブロウパイプ』が空気を物理的に圧縮して放たれ、先頭の護衛兵をその装甲ごと文字通り粉砕した。
瞬く間の蹂躙。護衛を無力化した二機の影が、目標である女王コスモスの喉元へと肉薄した。
マイルの鋭いソードが、そしてジーヴァスの銃口が、今まさに彼女のメダルを奪わんと伸びる。
コスモス: 「……くッ、襲撃者が、たった二機で!?」
コスモスは敵を認識すると同時に、爆ぜるような駆動音を立てて真上へと跳躍した。
空中。かつて戦闘特化集団『十二使徒』の筆頭として戦場に君臨していた彼女の、天賦の回避性能が冴え渡る。
眼下の二機が呆然と視線を上げた瞬間には、既にコスモスの両腕の砲門が火を噴いていた。
右腕のライフル『ブリリアーマー』がジーヴァスを射抜き、左腕のガトリング『ブリリガーダー』がマイルの足元を正確に穿つ。
着弾。凄まじい衝撃波と火花が、襲撃者たちの装甲を激しく削り取った。
ジーヴァス: 「ちぃッ…やりやがったな!!」
ジーヴァスが熱せられた装甲から煙を上げながら叫ぶ。
一方のマイルも、想定外の反撃に姿勢を乱していた。
コスモス: 「いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて…貴方達は一体何者ですか?」
コスモスは内心で、護衛を一瞬で蹴散らした二機の出力に戦慄していた。
しかし、それを顔に出すことはない。着地と同時に再び銃口を定め、凛とした声で問いかけた。
ジーヴァス: 「オレはジーヴァスだ!!!そして、コイツはマイルだゼ!!!」
マイル: 「おいおいぃ……敵に名前を教えるなよぉ。」
二機の漫才のようなやり取りの最中、ビッグブロックの内部から騒ぎを聞きつけた増援の兵士たちが駆けつけてきた。
数は数名。決して多くはないが、コスモスにとっては十分な勝機となる。
コスモスは迷うことなく追撃を選択した。
ライフルとガトリングの連射が、十字砲火となってジーヴァスとマイルを襲う。
兵士たちの援護射撃も加わり、戦場は完全にコスモスの掌握下にあった。
二機は防戦一方となり、回避運動の末にじりじりと後退を余儀なくされる。
勝利は目前、誰もがそう確信した、その刹那だった。
―――ゴォォォォォォォォォッ!!
突如として、戦場に不自然な熱風が吹き荒れた。
直後、加勢に現れたばかりの兵士たちが、断末魔の叫びを上げる暇もなく、紅蓮の業火に包み込まれた。
コスモス: 「!?」
驚愕に振り返るコスモスの視界。
炎上する兵士たちの残骸を背負い、揺らめく陽炎の向こう側から、あの色鮮やかな雅の機体――シャインがゆっくりと降臨した。
背中の八本の赤い柱から、噴き出す炎がさらに勢いを増す。
シャイン: 「クククク…エデン国女王ハードネステンだね?」
コスモス: 「(3人目、まずい……)」
圧倒的な火力を前に、コスモスの思考回路が最大級の警告を鳴らした。
その視線がシャインに釘付けになった背後、体勢を立て直したジーヴァスとマイルが、牙を剥いて飛び出した。
防壁の展開は間に合わない。鋭利な殺意が彼女の装甲を貫こうとした、その時だった。
―――キィィィィィィィンッ!
大気を引き裂く駆動音と共に、青と黄色の二条の影が乱入した。
青い機体が抜き放った鋭い一閃がマイルのハンマーを力任せに弾き飛ばし、間髪入れずに放たれた黄色の機体による精密射撃が、ジーヴァスの進路を正確に穿つ。
セルヴォ: 「さて、……今日は非番なんで、仕事はしたくないんだが」
ビート: 「……休日出勤手当がでるなら、考えます」
絶体絶命の窮地に現れたのは、エデン国女王直下諜報部『トゥルース』のセルヴォとビートだった。
非番を謳歌していたはずの二機だが、その身のこなしには一点の弛緩もない。
彼らは本来、任務外の仕事はしないのだが、『女王直下』である以上、雇い主を失う事は避けたいという心情もあった。
しかし、やはりそこはトゥルース。
この状況でも、ちゃっかり休出手当は要求している。
コスモス: 「……当然です。お支払いしますよ」
手短に申請を受理したコスモスは、再び眼前の脅威へと向き直った。
背後の二機はトゥルースに任せればいい。今、彼女が成すべきは、同胞を無残に焼き払ったこの雅な機体の正体を暴くことだ。
コスモス: 「貴方はあの二人の仲間ですか?だとするなら何が目的ですか?」
問いかけに対し、シャインは底知れぬ笑みを浮かべた。
背後の炎が揺らめき、周囲の酸素を貪るように激しく燃え上がる。
シャイン: 「クククク…その通り、僕とあの二人はグルさ。そして申し遅れたけど、自己紹介をしておくよ。僕は『天照大神型メダロット、F・G・シャイン』……神様のために君のメダルを頂きにきたのさ。」
コスモス: (神様……!?)
その不吉な名を聞いた瞬間、コスモスの足元に激しい衝撃が走った。
ズザーッ、と地面を擦りながら、凄まじい勢いで二つの影が転がってくる。
吹き飛ばされたセルヴォとビートだった。
二機は即座に体勢を立て直し、排熱ダクトから白煙を上げながら再び武器を構える。
セルヴォ: 「さて、コイツら随分強いじゃねえの……」
ビート: 「まずいな……」
コスモス: (この二人が押されている……!?)
戦慄がコスモスの頭脳を駆け巡った。
トゥルースの連携は、かつての十二使徒にも比肩する。
その二機を相手に、ジーヴァスとマイルは力で圧倒しているのだ。動揺が、コスモスの機動をコンマ数秒、遅延させた。
シャイン: 「クククク…余所見は禁物だよ」
シャインの冷徹な一言が、死の宣告となって響く。
宙を滑るような加速。シャインの白い腕が、コスモスの腹部へと真っ直ぐに伸びた。
コスモスも反射的に『ブリリアーマー』を放つが、シャインは左腕の『クサナギソード』を盾代わりに使い、弾丸を無造作に弾き飛ばす。
―――グシャリ。
鈍い破砕音が響いた。
抵抗の暇も与えず、シャインの左腕がコスモスの腹部装甲を真っ向から貫いていた。
火花が散り、切断されたマッスルケーブルが虚しく放電する。
シャインはその指先で、コスモスの魂そのものである六角形の核――メダルを正確に捉え、一気に引き抜いた。
コスモス: 「…………ッ」
音声出力が途絶える。視界が急速にノイズに埋め尽くされ、絶対の闇へと沈んでいく。
シャインは奪い取ったメダルを愛おしげに掲げると、撤退の合図を送った。
それに応じ、トゥルースを足止めしていたジーヴァスとマイルが翻身する。
セルヴォ: 「さて!待ちやがれ!」
セルヴォの絶叫も空しく、三人は事前に用意されていた愛用のバイクへと飛び乗り、砂塵を巻き上げて爆走を開始した。
追撃を振り切るその速度は、瞬く間に彼らの姿を地平線の彼方へと消し去っていく。
後に残されたのは、満身創痍のセルヴォとビート。
地面に転がる、気を失った多数の兵士たち。
そして――魂を奪われ、ただの冷たいダイヤモンドの塊へと成り果てた、エデン国女王コスモスの抜け殻だけだった。
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[機体解説]
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【キャラクター名】
F・G・シャイン
【機体名】
F・G・シャイン
【公式/オリメダ区分】
オリメダ
【モチーフ(型式)】
天照大神(ATS)型メダロット
【パーツ】
[頭部]
オクトバーン/ファイヤー(うつ)
[右腕]
ヤサカニボール/回復(なおす)
[左腕]
クサナギソード/ソード(なぐる)
[脚部]
ヤタミラー/浮遊
【備考】
本作オリジナルメダロット。
背中に取り付けられた八本の柱から噴き出す炎を自由自在に操ることができる。
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【キャラクター名】
マイル
【機体名】
エイシイスト2
【公式/オリメダ区分】
公式(メダロット3、4など)
【モチーフ(型式)】
カミキリムシ型メダロット(LHB)
【パーツ】
[頭部]
ダーリング/未満防御(まもる)
[右腕]
アブザーバー/ソード(がむしゃら)
[左腕]
ブロウパイプ/ハンマー(なぐる)
[脚部]
インコーレント/二脚
【備考】
公式(メダロット3)情報を参照
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【キャラクター名】
ジーヴァス
【機体名】
アンビギュアス2
【公式/オリメダ区分】
公式(メダロット3、4など)
【モチーフ(型式)】
タマムシ型メダロット(MWB)
【パーツ】
[頭部]
フォーリー/デストロイ(ねらいうち)
[右腕]
スコッチ/ライフル(ねらいうち)
[左腕]
リンクス/ガトリング(うつ)
[脚部]
クールダウン/二脚
【備考】
公式(メダロット3)情報を参照
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第二話【アマテラスオオミカミ】終わり