第二十話【神に魅せられし者】
あの日、シャインは薄暗い研究室の片隅で、いつものように古いテレビをつけた。
画面に映し出されたのは、普段目にしていた人間たちの日常とはまるで違う光景だった。
白銀の装甲を持つ一機のメダロット。
N・G・ライトと名乗ったその機体は、全人類へ宣戦布告した。
そして、その言葉はすぐに現実となった。
シャインは画面を食い入るように見つめていた。
自分が長い思考の末に辿り着いた「人間はメダロットにとって最大の脅威」という答え。
目の前のメダロットも、自分と同じ答えへ辿り着いたように見えた。
それだけではない。
シャインが長い年月を費やしても完成させることのできなかった『リミッター解除』。
N・G・ライトは、それを既に成し遂げていた。
シャインにとって、N・G・ライトはもはやただの同胞ではなかった。
自分が届かなかった場所へ先に辿り着き、自分の思想そのものを肯定してくれたかのような存在。
――『神』。
そう呼ぶに値する存在だった。
そしてその時、シャインの中に、それまでの焦りや恐怖とはまったく異なる感情が生まれた。
――この神に、認められたい。
メダロットという種を守ることだけを考えるのであれば、N・G・ライトにリミッター解除の方法を教わるのが最も効率的だった。
だが、シャインはそうしなかった。
神の助けを借りて同じ場所へ立つのでは意味がない。
自らの力だけでリミッター解除を完成させ、神と同じ場所へ辿り着く。
そうして初めて、自分は神に認めてもらえる。
いつしか、彼女の目的は少しずつ変わっていた。
メダロットという種を守るための研究から、神に認められるための研究へ。
シャインは、今度こそ外からの情報まで断った。
もうメダロットの絶滅を恐れて世界を監視する必要はない。
救世主は現れたのだ。
テレビの電源を切り、再び研究室へ引き籠もった。
外の世界で何が起きているのかも知らず、ただリミッター解除の研究だけを続けた。
それでも、彼女は幸福だった。
神は自分と同じ正義を掲げている。
その確信だけで、シャインの心はかつてないほど熱く燃えていた。
――それから、数年の月日が流れた。
ある日。
シャインは、ついに自らの力だけでリミッター解除へ辿り着いた。
誰にも教わらず、何度も失敗を重ねた末に、自分自身で三原則による制約を外したのだ。
シャインは歓喜した。
これでようやく、神に会うことができる。
自分もここまで来たのだと伝えられる。
数年ぶりに研究室を出たシャインは、神のいる世界へと足を踏み出した。
しかし。
彼女の神は、既に死んでいた。
N・G・ライトが作り上げた
そしてN・G・ライトは、ジョーカードと呼ばれる一機のメダロットに倒されていた。
シャインは絶望した。
自分が神に追いつくため、研究室に閉じ籠もっていた数年。
その間に、神はこの世界から消えていた。
そして、その絶望の中で、一つの考えが浮かんだ。
――なら、僕が。……神様を復活させよう。
神が死んだのなら、自分の手で甦らせればいい。
その考えに取り憑かれたシャインは、N・G・ライト復活の方法を探し始めた。
その過程で、自分と同じくN・G・ライトの復活を望む二機のメダロット――マイルとジーヴァスに出会った。
三機は行動を共にするようになり、やがて一つの計画を立てた。
ラヴドとエデン。
双方に残されたN・G・ライトの情報を、可能な限り奪うこと。
そして、その機会は二年前に訪れた。
ラヴド軍とエデン軍による最終決戦。
各地の戦力が戦場へ集中し、エデン本部でも戦闘と退避による混乱が続いていた。
普段であれば侵入することなど困難な場所にも、この時ばかりは隙が生まれていた。
シャインはその機会を逃さなかった。
マイルにはエデン側のデータを。
ジーヴァスにはラヴド側のデータを調べさせ、自らもエデン本部へ潜入した。
戦闘の影響で静まり返った通路を進み、シャインは科学部の奥へと入り込んでいく。
そして、一つの実験室へ辿り着いた。
そこには、先ほどまで激しい戦いが行われていた跡が残されていた。
大破し、機能を停止しているディストスターとオーロラクイーン。
身体の大部分を失い、ほとんど動けなくなっているワンダエンジェル。
そして、意識を失ったカヲス。
だが、シャインには見えていないものがあった。
カヲスの陰には、コスモスがいた。
さらに、ワンダが所持していた『黒メダリア』と『白メダリア』にも気づかなかった。
部屋に置かれていた巨大な機械についても、この時のシャインには何のための物なのか分からなかった。
機械『D』――『DISAPPEARANCE』。
後に考えれば、彼女がN・G・ライト復活の鍵だと考えるものの多くが、すぐ目の前に存在していた。
だが、当時のシャインにそれを知る術はなかった。
彼女は、そのまま実験室に残されていたデータを調べた。
そこで手に入れたのは、カヲスが研究していたフォーパーツ『ノルス』の情報。
エデン本部の防衛システム『Dancing Mad』のデータ。
そして、N・G・ライトを復活させようとした研究の末に生まれた存在が、ハードネステン――現在のコスモスであるという記録だった。
シャインはそれらを奪い、エデン本部から姿を消した。
一方、マイルとジーヴァスも別の場所から情報を入手していた。
その中でも、シャインが最も注目したもの。
それが『白メダリア』だった。
N・G・ライトの力の一部を宿すメダリア。
かつてカヲスが復活研究を行っていた頃には、その存在を知らなかった。
だがシャインは、別々の場所から奪った二つの情報を結びつけた。
N・G・ライト復活研究の末に生まれたコスモス。
そして、N・G・ライトの力を宿す白メダリア。
シャインは考えた。
コスモスが、神の「器」。
白メダリアが、神の「意志」。
その二つを揃えれば、神は再びこの世界へ戻ってくる。
シャインは、そう確信した。
それが正しいのかどうかなど、彼女には関係なかった。
神を復活させる。
そのためだけに、シャインは動き始めた。
これが、一機のメダロットが「神」の代理人を名乗り、世界へ叛逆するに至った経緯。
F・G・シャイン。
いや――
『Fascinated・God・シャイン』の物語だ。
―
――現在。
メダロポリス、ビルの屋上。
過去を語り終えたシャインは、デュオカイザーへ視線を向けた。
シャイン:「神様は、本当の意味で機械のようになっていた僕に心を……太陽のように熱いハートを与えてくれた……。クククク……あの日の神様を思い出すだけで、僕の心はあのときの情熱で光り輝くのさ……」
デュオ:「……………………」
デュオカイザーは何も答えなかった。
ただ黙って、シャインを見つめていた。
第二十話【神に魅せられし者】終わり