REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第二十四話【限界】

第二十四話【限界】

 

 

 

 ロケットランチ。

 二年前の戦争において、偶然にもエデン国諜報部『トゥルース』のセルヴォとビートに出会ってしまったことが、彼の運命を劇的に変えた。以来、彼はことあるごとに二機に「パシリ」として酷使され、旧ラヴド本部の爆破任務では命懸けの脱出支援に駆り出されるなど、数々の修羅場を無理やり潜り抜ける羽目になった。

 

 だが、その過酷すぎる経験は、皮肉にも彼の才能を覚醒させた。

 本職である運搬業務において、彼は驚異的な飛躍を遂げたのだ。どれほど危険な紛争地帯であっても、どれほど辺境の地であっても、最短時間で確実に物資を届けるその手腕。その功績は組織内で高く評価され、出世街道を爆走した彼は、今やエデン国の運搬関連を総括する「運搬部部長」の座に君臨していた。

 

 地位としてはしばしば重役会議に顔を出すほどの高官となった彼だが、不思議なことに、未だにセルヴォとビートの前に出ると、当時の習慣で頭が上がらなくなってしまうらしい。

 

『燃料供給完了』

『メインエンジン異常なし』

『兵士の点呼完了。総員、搭乗完了です』

 

 けたたましく飛び交うアナウンスの中、巨大戦艦『ノアの箱舟』は、永い眠りから目覚めるようにその巨体を震わせ、抜錨の時を待っていた。

 戦艦の中枢、艦橋の操縦席では、無数のモニターとレバーに囲まれたロケットランチが、多忙を極めるオペレーターたちに指示を飛ばしていた。

 

ロケットランチ:「そこのレバーを倒してくだ……あぁ、そこじゃなくて右の! そう、それです。あぁ、そっちのボタンは発進直後まで触らないでください……!」

 

 かつてセルヴォにパシられ、泣きながら叩き込まれた戦艦運用の知識が、今やエデン最強の盾を動かす力となっている。その多忙な操縦席へ、そわそわとした足取りで一機の漆黒の巨躯が入り込んできた。副王ブラックメイルである。

 

ブラックメイル:「おぉ~~。操縦席ってのは、こうなってるんだぁ~…なッ」

 

 ブラックメイルは珍しそうに、壁一面に並ぶ計器やスイッチを眺め回した。

 

ロケットランチ:「ブラックメイル様、お疲れ様です! まもなく発進いたします!」

 

 ロケットランチが姿勢を正して敬礼すると、ブラックメイルは腹の底から響くような声で笑い飛ばした。

 

ブラックメイル:「ハッハッハッハッ! そう硬くなるなぁ~…てッ! さっさと発進しようぅ~…ぜッ」

 

 ロケットランチは再び操縦席へ向き直り、中央に鎮座する、この部屋で最も巨大な出力レバーを握りしめた。

 

ロケットランチ:「それでは……カウントダウンを開始します。十秒前!……九……八……七……六……五……四……三……二……一……ノアの箱舟、発進!!」

 

ブラックメイル:「ヒャホーーーーーーーーーーゥ!!!」

 

 ブラックメイルの雄叫びと共に、エンジンの轟音が大気を震わせた。

 大戦艦『ノアの箱舟』は、燦々と降り注ぐ日の光をその装甲に浴びながら、エデン軍基地を後にして大空へと舞い上がった。

 

 

―――メダロポリス。

 

 

ローラ: 「なるほど……。ならば三頭神像は竜たちに任せ、妾たちでF・G・シャインを探すとしようか」

 

 大通りにて再会を果たしたL班の面々は、ワンダから広場の惨状と竜たち十二使徒の合流を聞き、即座に次なる方針を固めていた。

 元凶であるシャインを討たぬ限り、この地獄に終わりはない。方針が決まり、移動を開始しようとしたその時、ローラが僅かに足を止め、隣に浮遊する小さな影へと視線を落とした。

 

ローラ: 「ベビー。F・G・シャインは、妾が予想していた以上に強大な力を持っていた。だからな……」

 

ベビー: 「わかってまちゅよ。僕を危険な目にあわせたくないから、戦線を離脱しろって言うんでしゅね?」

 

 ローラが言葉を紡ぎ終わるより早く、ベビーが悟ったような顔で先を越した。

 二年前、メダロッ島の秘密施設でローラに救い出された頃の、ただ怯えて泣き叫ぶだけだった迷子の面影はそこにはない。ベビーはローラに心配をかけまいと、努めて明るい声で続けた。

 

ベビー: 「ローラが僕を心配してくれてるのは分かったでちゅ。だからシャインの所には行かないでしゅ。でも、戦線は離脱しないでちゅよ? 民間人の避難を手伝ったりと、戦闘以外でも僕は役に立ちましゅからね。……じゃあローラ、頑張ってね!!」

 

 ベビーはそう言って、戦士のような凛々しい顔でローラにウィンクを送ると、その小柄な機体を翻した。近くで誘導に当たっていたラヴド兵士の元へと軽やかに飛び去り、即座に民間人の救護活動に加わる。

 

 自立し、自分の役割を見つけた小さな背中。それを見送ったワンダ、ディスト、ローラの三機は、再びディストの車体へと身を預け、移動を開始した。

 

ディスト: 「なんだか……ベビーって成長したね」

 

 ディストの率直な感嘆に、ローラは視線を遠くの夕日へと向け、慈しむような声音で応じた。

 

ローラ: 「あぁ……。初めて出会った頃のベビーは、まさしく赤ん坊のようだった。しかし今では、下手をすれば妾よりも高い目線で物事を見られるようになっている。……あいつの成長を見るのが、最近の楽しみでな」

 

ワンダ: (……オヤジ臭ッ!!)

 

 隠居した父親のようなセリフ。ワンダはその強烈な違和感にツッコミを入れそうになったが、今はそれどころではないと思い直し、言葉を飲み込んで索敵に集中した。

 

 

―――その頃。

 

 

ジーヴァス: 「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!」

 

マイル: 「マズイなぁ……」

 

 カヲスの巨大な掌から逃れ、あるいは放り出されたマイルとジーヴァスは、ただ重力に身を任せて落下していた。

 位置エネルギーが運動エネルギーへと劇的に変換され、加速するほどに風切り音が悲鳴となって鼓膜を叩く。眼下に広がるメダロポリスの街並みが、恐ろしい速度で巨大な顎のように迫り来る。

 このまま地面に叩きつけられれば、メダルこそ無事であっても、機体の全機能が停止することは免れない。もし沈黙している間にラヴドやエデンの兵士に囲まれれば、文字通りの「最期」となる。

 

ジーヴァス: 「あああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!! 落ちるゼェェェェェェーーーー!!!」

 

マイル: 「うるさいなぁ……。静かにしろよぉ……」

 

 絶叫し、手足をバタつかせるジーヴァスに対し、マイルはどこまでも落ち着き払っているように見えた。もっとも、実際の彼の思考は焦燥で埋め尽くされている。ただ、元来の淡白な性格が、表面上の平静を維持させているに過ぎない。

 

ジーヴァス: 「っていうかお前の方がおかしいだろ!! なんでそんなに落ち着いてんだよ!!?」

 

マイル: 「慌てても、助かるわけじゃないだろぉ……」

 

ジーヴァス: 「そりゃそうだけど……ッ! って、地面が近づいてきたゼ!! ヤバイ……ゼェェェェーーーーー!!!」

 

 ―――ガ ッ シ ャ ー ー ー ー ー ン ! ! !

 

 凄まじい爆鳴と土煙。

 二機が叩きつけられたのは、偶然にも広場の中央にそびえ立つ『英雄ジョーカード像』の真上だった。落下の衝撃は像を台座ごと粉砕し、木っ端微塵の瓦礫へと変えていく。期せずして、彼らの本来の目的であった「英雄像の解体」が、自らの身体を弾丸とすることで達成された瞬間だった。

 

ジーヴァス: 「いつつ……。ん? え? む、無傷だゼ!?」

 

 ジーヴァスは瓦礫の中から這い出し、自分の身体を点検した。至近距離での衝撃だったにもかかわらず、不思議なことに、装甲に目立った損傷は一つもない。何が起きたのかと隣を振り返った彼は、絶句した。

 

ジーヴァス: 「マイル!?」

 

マイル: 「わ、悪いがぁ……。スラフシステム……が……き、起動するまでぇ……。た、頼んだぞぉ……」

 

 そこに横たわっていたのは、頭部パーツを無残に大破させたマイルの姿だった。

 マイルの頭部パーツ『ダーリング』が持つ能力は『未満防御』。味方への攻撃を肩代わりし、さらにその威力が一定以下であれば完全に無効化する特殊兵装だ。

 今回、彼は落下の寸前、その能力をジーヴァスを護るために展開した。ジーヴァスを無傷で守り抜くことには成功したが、高高度から落下した物理衝撃は、パーツが許容できる「未満」の限界を遥かに超えていた。その過負荷が、マイルの頭部を直接打ち砕いたのだ。

 

ジーヴァス: 「チッ……無理しやがって!! とにかく……」

 

 ジーヴァスは、意識を失い沈黙したマイルを背負い直し、粉々になった英雄ジョーカード像の残骸を苦々しく見下ろした。

 デュオカイザーの言葉が真実ならば、この像の台座の内側に「神様」――白メダリアが隠されているはずだった。だが、瓦礫の山をどれほど確認しても、そこにあるのは無機質な石の破片と、ひしゃげた鉄骨だけだった。

 

ジーヴァス: 「ケッ……やっぱりあのオカマ野郎、ウソついてやがったゼ!」

 

 ジーヴァスは忌々しげに吐き捨てると、マントの裏から花火のような球体を取り出した。導火線に指先の熱線で火をつけ、渾身の力で空へと放り投げる。

 

 ―――ヒュルルルルルル……ッ!!

 

 笛を鳴らすような高周波の音を立てて、光の玉は垂直に上昇。高度数百メートルに達した瞬間、パンッという乾いた破裂音と共に、紅蓮の火花が空に巨大な『×』の紋章を描き出した。

 それは、メダロポリスのどの路地にいても、どの建物の影にいても確認できるほどに鮮明で、不吉な合図だった。

 

 当然、街を見下ろす超高層ビルの屋上からも、その光は嫌でも目に飛び込んできた。

 

シャイン: 「クククク……マイルとジーヴァスからの合図だ。やはり、君の情報はデマだったようだね。悪いけどここで死んでもらうよ? クククク……」

 

 シャインは、背後の火柱を激しく燃え上がらせ、怒りと悦楽の入り混じった笑みを浮かべて目の前の女帝を睨みつけた。

 退路を断たれたデュオカイザー。だが、死の宣告を突きつけられてなお、彼女の瞳には微塵の揺らぎもなかった。おちゃらけた仮面をかなぐり捨てた彼女の顔には、冷徹なまでの静寂だけが宿っている。

 

 

デュオ: 「思ったよりやるわね。そろそろ……限界かしら」

 

 

第二十四話【限界】終わり

 

 

 

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