REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第二十五話【The Twelve Apostles】

第二十五話【The Twelve Apostles】

 

 

 メダロポリスの中央広場に鳴り響く『DancingMad』。その狂乱の音響を切り裂き、元・十二使徒の精鋭たちが巨像へと肉薄していた。

 

タイン: 「さり気に~……ラァーーーーッシュ!!!!」

 

 タインの腕が、残像を引いて数倍に増えたかのように激しく振るわれた。

 パーツの特殊機能に依存しない、純粋なティンペットパンチによる連続拳。並のメダロットであれば装甲をひしゃげさせる重厚な連撃は、すべて三頭神像の頭部へと一点に集中した。

 タインは反撃の射程から逃れるべく、排熱ファンを唸らせて即座にバックステップを踏む。

 

三: 「ガアアアアーーーー!! ギョオオオオーーーー!!」

 

 しかし、巨像は微動だにしなかった。石の肌を震わせる咆哮こそ上げるものの、その表面に致命的な亀裂は見当たらない。

 

タイン: 「チッ……おい竜! アイツ、さり気に硬ぇぞ!!」

 

 タインの叫び。このチームの「脳」である竜に対し、彼は現場で得た情報を即座に共有する。彼女の演算能力を最大限に引き出すことが、この盤面を覆す最短の鍵であることを、タインも理解していた。

 

 竜は無言のまま、重心を低く保ちながらサササ……と摺り足でタインの傍らへと移動した。

 

竜: 「タイン……失礼します……」

 

タイン: 「へ……?」

 

 その直後、竜は全てのサッカー少年が模範とすべき美しいフォームで、その脚部を振り抜いた。標的は三頭神像ではない。隣に立つタインである。

 

 ―――ドゴッ!!

 

タイン: 「グピョォォォッ!!?」

 

 タインの身体が質量兵器として三頭神像の腹部へとシュートされた。

 激突。巨像の巨体が僅かに揺れるが、それでも怯む様子はない。

 

竜: 「確かに硬いですね……。タインの質量を乗せても、あまりダメージを与えられなかったようです……」

 

タイン: 「オレはさり気に大ダメージだけどな!!」

 

 地面を転がりながら叫ぶタインの横を、赤いマントが風を切って通り過ぎた。

 

メッシュ: 「行くぞ……。次元剣技!!」

 

王獣魔十(おうじゅうまじゅう)

 

 メッシュは右手に握った『斬鉄剣』を額に掲げ、機体全域の出力を集中させた。

 刀身が光を吸い込み、どす黒い霧のようなオーラを纏い始める。ドライブAの『ホームシック』が司る「負の感情」を、無機質な刃を触媒にして増幅・圧縮。メッシュはその怨嗟の塊を、三頭神像の胸部へと突き立てた。

 オーラは吸い込まれるように石の身体へと浸透していく。メッシュは確かな手応えを感じ、ピョンピョンと軽快な後ろ跳びで距離を取った。

 

リーブ: 「何をしはったんですか?」

 

 傍らで様子を伺っていたリーブが尋ねる。

 

メッシュ: 「『王獣魔十(おうじゅうまじゅう)』はオレの技では珍しい〝精神攻撃タイプ〟だ。ホームシックが持つ負の感情を流し込み、精神汚染を引き起こして内側から自壊させるのだが……」

 

三: 「グアアアアァアァァァ!!!!!!!!」

 

 だが、巨像の反応はメッシュの想定を嘲笑った。

 精神汚染の影響など微塵も見せず、巨像はその巨大な右腕を、メッシュとリーブの頭上へと振り下ろした。

 

 ―――ズ、ドォォォォォォンッ!!

 

 二機が跳躍して回避した直後、地表が派手に抉れ、衝撃波が瓦礫を吹き飛ばした。

 

メッシュ: 「チッ……効いてねぇ!」

 

カリパー: 「……多分、アイツ理性とか知性とか無さそうだし、精神攻撃は効果なしなんだと思う……」

 

 背後のカリパーが、冷静に分析する。

 ちなみにこの〝王獣魔十(おうじゅうまじゅう)〟という技。使用する際にカリパーの精神に負担がかかるので今まで封印していたが、感情を持たない斬鉄剣を入手したために解禁された。

 感情を持たない武器ゆえに放つことが可能となった『王獣魔十』。だが、相手はそれ以上に空虚な「偶像」であった。

 

 

 

 

竜: 「(……攻撃、防御、共に完璧。さらに魔神像の特性を引き継いで、多種多様な属性攻撃や補助行動を使い分ける。まさに、最強、か……)」

 

 三頭神像の周囲を摺り足で移動しながら、竜はアイセンサーの焦点を細かく絞り、巨像の挙動をくまなく走査していた。彼女の頭脳は、刻一刻と変化する戦況を数式へと置き換え、勝機を探り続ける。

 

竜: (……ゴッドエンペラーとベルゼルガが生きていたら、もう少し楽に戦えたというのに……)

 

 ふと、思考の隅に二機の影が過った。

 かつて最強を誇った『十二使徒』の中でも、抜きん出た破壊力を有していた二機。しかし彼らは二年前のビッグブロック作戦において、ラヴドの精鋭たちに破れ、既にこの世にはいない。

 

竜: (……いや、失われた戦力を数えても意味はない。ともかく、今ここにいるメンバーで叩き出せる最大火力を一点に集中させなければ……。……この中で、あの巨躯に致命傷を与えられるのは、最大加速に達したレッドの『デストロイ』のみ……。ですが、問題は命中率。制御不能の速度で突っ込ませれば、敵ではなく街を破壊して終わるのが目に見えている。ならば、攪乱で隙を作るべきか?)

 

 竜は一旦観察を中断し、反射障壁を展開しようと試行錯誤しているナギサの元へと滑り寄った。

 

竜: 「ナギサさん、状況はどうですか……?」

 

ナギサ: 「残念ながら、容易ではないね。彼は魔神像と同様に、心の壁さえも貫いて直接魂に訴えかける悲哀の叫び……『ダイレクト攻撃』を持っているようだ。……だが、絶望の裏返しはすなわち希望――」

 

竜: 「そうですか。引き続きお願いします……」

 

 ナギサの詩的な独白が長くなる予兆を察知し、竜はコンマ一秒の猶予も与えず会話を遮って離脱した。

 

竜: (……やはり、レッドのデストロイを確実に当てるための盤面を作る他ない。……タインは強靭なフレームを活かした拘束。一人では心許ないため、メッシュたちも同様に押さえ役に。リーブは戦況に合わせて動ける万能型……私と共に攪乱を。……鍵となるのは、レッド、そしてナギサ…………よし)

 

 膨大なシミュレーションの果てに、竜の思考が唯一の「正解」を導き出した。

 彼女は機体各部の駆動音を短く鳴らして合図を送ると、激闘を繰り広げる仲間たちを一箇所へと招集した。

 

 竜の口から語られた作戦――それに対して元・十二使徒の面々に迷いはなかった。彼らはこの冷徹な軍師の策に従ってさえいれば、最後には勝利が待っていることを、その身に刻まれた経験で理解していた。

 

竜: 「……すべて、理解できましたね。それでは、始めますよ」

 

 短い作戦会議が終わり、九機の強者たちがそれぞれの位置へと散った。

 

 

 

 

 作戦開始の合図は、空気を切り裂く駆動音だった。

 

 まずは竜とリーブが地を蹴り、巨像の周囲を縦横無尽に駆け回った。石造りの右肩から左肩へ、あるいは死角となる背後へと跳躍を繰り返す。

 特にリーブは、正確なライフル射撃で関節の隙間を突き、三頭神像の意識を巧妙に自身らへと引きつけていた。変幻自在の攪乱。

 

 巨像の注意が二機に逸れた、その刹那。

 

タイン: 「オラァァァッ!!」

 

 咆哮と共にタインが正面から飛びかかり、鉄塊のような拳を神像の顔面へ叩きつけた。石の装甲が砕ける鈍い音。衝撃を殺しきれず、巨像が後方へと大きくよろめく。

 その隙を、トランプの四兄弟が逃さなかった。メッシュの号令一下、カリパー、キドゥ、ゲンジが瞬時に四肢へと食らいつき、強引に動きを封じる。

 

ゲンジ: 「ぬんッ! 我輩らが押さえているうちに……!!」

 

 さらにタイン、竜、リーブも加わり、総出で巨像を地面へと押さえつける。石の腕が軋む音が響く中、ナギサが静かに手を掲げた。

 

ナギサ: 「フフフ。希望へと続く道……ロード。心の道、光り輝く楽園への道しるべ……」

 

 ナギサの周囲に展開された反射障壁――「心の壁」が、重なり合い、筒状の光の回廊を形成した。その出口は三頭神像の胸部へと真っ直ぐに向けられ、入り口には一機の紅き悪魔が静止していた。

 

レッド: 「…………最大……………」

 

 レッドの機体全域から、制御を失った高熱が噴き出した。

 ナギサの作り出した反射の筒は、単なる道ではない。加速時に発生する衝撃波をも内側へ反射し、レッドをさらに前方へと押し出す「リニア・カタパルト」としての役割を果たしていた。

 

 ―――ッ、ド、オォォォォォォォン!!

 

 臨界点。

 レッドの姿が視界から消えた。音速を突破した衝撃波がナギサの壁を震わせ、紅い閃光が一瞬にして回廊を駆け抜ける。

 

レッド: 「…………デストロイ…………」

 

 衝突。

 あれほど強固だった三頭神像の胴体が、紙細工のように貫かれた。

 紅い閃光が巨像を通り過ぎ、後方に着地したレッドの背後で、巨像の胸部には正確にレッドの機体サイズの「風穴」が穿たれていた。

 

タイン: 「やったか!?」

 

 拘束を解き、飛び退いたタインが勝利を確信して叫ぶ。

 

 しかし。

 

三: 「グアーーーアアアァァァ!!!! ギギギギギギゴオギョギョギョーーーーー!!!」

 

 巨像は、腹部に致命的な穴を抱えながらも、狂ったような駆動音を立てて再び立ち上がった。

 

竜: (……まだ動けるか。計算外のタフさだ。だが、確実に損傷は蓄積している。同じ一撃をあと数回叩き込めば、今度こそ崩壊する)

 

 竜は冷徹に戦況を分析し、次なる指示を下そうとした。だが、三頭神像はそれを許さなかった。

 

三: 「ヴォーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」

 

 巨像の背後に備わった黄金の翼が、爆発的なエネルギーを伴って羽ばたいた。巻き起こる猛烈なダウンバーストが周囲の瓦礫を弾き飛ばし、三頭神像の巨躯は重力を嘲笑うかのように天空へと舞い上がっていく。

 

 ―――シュ、ゥゥゥゥゥン……!!

 

 高度は瞬く間に上昇し、街で最も高いビルの屋上さえも遥か眼下へと追いやる。その過程で巨像の輪郭がドロリと不安定に揺らぎ始めた。

 石の肌が波打ち、脚部は形を失って白く不気味な雲のような形状へと変化していく。そして頭部からは、闇を凝縮したかのような漆黒の三本の角が突き出した。その異様な変貌を、地上から仰ぎ見ていたリーブが驚愕に声を震わせる。

 

リーブ: 「カ、カヲスさん……?」

 

竜: 「女神像の〝擬態能力〟……ですね。やはりこれも受け継いでいましたか……」

 

 竜が冷静にその正体を見抜く。かつて女神像が持っていた、対象の姿を写す能力。だが、その擬態は不完全だった。白き龍の意匠を備えつつも、全身は依然として苔むした石の質感を残しており、カヲスと三頭神像を無理やり繋ぎ合わせたかのような、中途半端で歪な姿を晒している。

 

 三頭神像は飛翔を止めると、空中で静止したまま地上へとその視線を向けた。

 四本の腕のうち、前方の二本を街へ向けて突き出す。

 

三: 「グゥゥ~~~~~~……!!」

 

 腹の底を揺さぶるような、重苦しい獣の唸り。

 突き出された両腕の間に、不吉な紫の燐光を放つ直径十センチほどの球体が現れた。怨念の質量――『ゴースト弾』。

 それは周囲の光を吸い込みながら、狂ったような速度で膨張を開始した。五十センチ、一メートル……。ついには三頭神像の巨躯そのものに匹敵するほどの巨大な闇の塊となり、大気を物理的に歪ませながら拍動を繰り返す。

 

竜: 「まずいですね……。あのサイズのゴースト弾を地上に向けて放たれれば……この街は間違いなく崩壊します……」

 

 竜の無機質な警告が、絶望的な事実を告げる。

 空を覆いつくさんとする巨大な「死の星」を見上げ、地上に集った戦士たちは為すすべもなく立ち尽くした。

 

 だが、その沈黙を切り裂いたのは、誰よりも不敵な、そして場違いなほどに陽気な笑い声だった。

 

メッシュ: 「ファーーーファッファッファ!! オレに任せろ!!!」

 

 赤いマントを翻し、メッシュが前へ出る。

 未曾有の敵を前にしてなお、旅人の瞳には勝利への確信が宿っていた。

 

第二十五話【The Twelve Apostles】終わり

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