REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第二十六話【Medarot Rise】

第二十六話【Medarot Rise】

 

 

竜: 「何か策があるのですか……?」

 

 天を仰ぎ、不敵な高笑いを響かせるメッシュに対し、竜が冷静な声を投げかけた。

 メッシュは親指をグイと立て、自信に満ちた目の輝きを巨像へと向けた。

 

メッシュ: 「その通り! これならばきっとヤツを破壊できる! だが……」

 

竜: 「……だが……?」

 

 メッシュの表情が、僅かに困惑の色に曇る。

 

メッシュ: 「ヤツの所まで飛んでいくのに時間がかかりすぎるんだよなぁ……」

 

 メッシュのメダチェンジ形態は「浮遊」だ。重力に抗い宙を舞うことは可能だが、それはあくまで戦闘機動のためのものであり、空高くまで逃れた巨像を追撃するための高速上昇能力は備わっていない。このままでは、辿り着く前に街が灰になる。

 竜はしばし沈黙し、演算回路をフル稼働させた。やがて、フゥ……と重いため息を吐き出すと、即断した。

 

竜: 「仕方が無いですね……ここはシンプルにいきますか……」

 

 ――数十秒後。

 

竜: 「では皆さん……いきますよ……」

 

 広場の中央。そこには、赤いマントを翻すメッシュを円陣で囲み、神輿のように担ぎ上げる十二使徒たちの光景があった。

 竜が下した判断は、驚くほど原始的で、驚くほど暴力的な解決策。

 ――全員の出力を一点に集中させ、メッシュを弾丸として天空へ射出する。

 

 思考する時間さえ惜しい極限状態。即断即決こそが、かつて戦場を渡り歩いた探偵に求められる資質であった。

 タインが右腕を、リーブが左腕を。ナギサが右脚、レッドが左脚をそれぞれ掴み、土台として大地に踏ん張る。竜はメッシュの背後へ回り込み、その背中を蹴り上げるための推進軌道をミリ単位で調整していた。

 メッシュに装備されたカリパー、キドゥ、ゲンジは、上昇負荷を軽減すべく自律制御で浮力を最大化。準備は整った。

 

リーブ: 「ほな、いきまっせ~」

 

レッド: 「……………………」

 

ナギサ: 「上昇……ライズだねぇ」

 

竜: 「では……メッシュさん……」

 

タイン: 「さり気に……飛べぇぇぇーーーーーーーー!!」

 

 ―――ド、ヒュンッッ!!

 

 爆音。

 九機のメダルが一斉に咆哮を上げた。十二使徒たちの合算された機体出力がメッシュのフレームへと伝わり、彼は文字通りロケットの如き勢いで打ち上げられた。

 重力定数を置き去りにした超加速。マントが烈風に引きちぎれんばかりにたなびき、メッシュの視界からは地上の景色が瞬く間に遠ざかっていく。

 高層ビルの屋上を越え、雲を突き抜け、彼はひたすら巨像の待つ天頂へと昇り詰めていった。

 

メッシュ: 「ファッファッファッファッファ!! 十二使徒の力を集結させた攻撃を喰らえ怪物!!」

 

 幸先の良いスタート。

 勝利を確信した叫びが夜空に木霊した――その時だった。

 

 

三: 「ガアアアァアァァァァァァーーーーー!!!」

 

 天頂で待ち構えていた三頭神像が、空気を震わせる絶叫を上げた。

 擬態によってカヲスの面影を宿したその両腕の間には、既に直径数十メートルにも及ぶ巨大な『ゴースト弾』が完成していた。周囲の光を飲み込み、不気味な紫の燐光を放つその球体は、まさに墜ちてくる「禍つ星」そのもの。

 

三: 「ヴァアアアアアアアアァァァァァーーー!!!!!」

 

 巨像が咆哮と共に、その怨念の塊を地上へと解き放った。

 急上昇を続けるメッシュと、超質量をもって降り注ぐゴースト弾。二つの火線は、逃れようのない運命に導かれるようにして空中で激突した。

 

メッシュ: 「うお!? ちょ……で、でかいのが来たぞ!?」

 

 逃げ場はない。メッシュは打ち上げられた慣性のまま進んでおり、自らの意志で急制動をかけることは不可能。ゴースト弾もまた、地上のすべてを粉砕すべく加速を続けている。

 

メッシュ: 「だぁーー!! これくらい、ぶった斬ってやらぁーーー!!!!」

 

 メッシュは右腕のカリパーを握りしめ、眼前に迫る巨大な壁へと全力で振り下ろした。

 ―――ヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!

 剣先とエネルギー体が接触し、鼓膜を抉るような耳障りな摩擦音が響き渡る。飛び散る激しい火花が、メッシュの視界を赤く染め上げた。

 

 だが、この衝突においてメッシュは圧倒的な不利を強いられていた。

 上へ昇ろうとするメッシュには、物理法則としての「重力」が足枷となってのしかかる。

 対して、下へと突き進むゴースト弾は、逆に「重力」がその破壊力を倍増させていた。

 

 徐々に、メッシュの機体が押し戻され始める。

 ロケットのような勢いで上昇していたはずの彼は、今や風船が空へ昇るよりも緩慢な速度まで減速し、ついには平衡を保つことすらできなくなった。

 

メッシュ: 「や、やばい……」

 

 メッシュの機体が、ゴースト弾の重圧に完全に負け、地上へ向かって落下し始めた。

 暗転する視界。だが、機能停止の淵に立たされた彼の意識の中に、不意に『声』が届いた。

 

 それは耳を伝う音ではない。

 メダルの深淵に直接語りかけてくるような、力強く、そして懐かしい二つの「闘志」の響き。

 

『キッシャッシャッシャ!! 「十二使徒の力を集結させた攻撃」って言ったよな?』

 

『フン……ならば我らを忘れてもらっては困る』

 

『『 行 っ て 来 い ! ! 』』

 

 ―――フワッ……。

 

 その瞬間、メッシュの全身を包んでいた絶望的な重圧が、嘘のように消え去った。

 重力そのものが消失したかのような、絶対的な自由。機体は再び、猛烈な勢いで上昇へと転じた。

 それだけではない。メッシュを押し潰そうとしていた巨大なゴースト弾が、内側から弾けるように爆散した。

 

 ―――バンッ!!

 

 音を立てて霧散する紫の闇。

 メッシュは戦場の中で一瞬だけ目を瞑り、声の主たちへ向けて、静かに、けれど熱い感謝を捧げた。

 

メッシュ: (ゴッドエンペラー……ベルゼルガ……。サンキューな……!)

 

 死者の魂の名を冠するゴースト攻撃。この奇跡の共鳴はそのエネルギーの渦中にいたからこそ起きたのかもしれない。

 二年前に散った「同志」たちの想いを背負い、旅人は再び目を見開いた。

 

 そこには、もはや逃げ場を失った三頭神像が、目と鼻の先にまで迫っていた。

 

メッシュ: 「行くぞ……今思いついたばかりの最新・次元剣技」

 

 メッシュの目に、これまでにない鋭い光が宿る。彼は両手で握っていた『カリパー』を右手のみに持ち替えると、空いた左腕を背後へと伸ばした。

 指先が捉えたのは、無機質な殺意を湛えた大刀『斬鉄剣』。

 二刀流。それは次元を渡り歩く彼にとっても初めての試みであり、未知の戦闘スタイルであった。だが、不思議と迷いはない。仲間たちから投げられた力、そして戦友たちの魂が、今のメッシュに「不可能はない」という確信を与えていた。

 

 メッシュは二つの剣を、天へ向けてゆっくりと持ち上げる。

 カリパーの柄から、斬鉄剣の切っ先から、溢れんばかりの膨大なエネルギーが機体フレームを激しく震わせるのを、彼は肌で感じていた。

 

メッシュ: 「かつては2つの大組織ラヴドとエデンが戦争を行っていた……そんな我が故郷の世界にて身につけし次元剣技。名付けたるは……」

 

 メッシュは三頭神像へ向けて、全身全霊の力を双剣へと注ぎ込み、一気に振り下ろした。

 

 右手のカリパーは、神秘的かつ力強い、神々しき威厳を纏った「白き光」を。

 左手の斬鉄剣は、悲劇的な終末を思わせる、呪わしき「黒き波動」を。

 光と闇、秩序と混沌――決して相容れぬはずの二つの力が、巨像の眉間にて一点に重なり、激突した。

 

 

 

『 消 滅 大 戦(しょうめつたいせん) 』

 

 

 

三: 「ヴァァアァアアァガァァーーーーーー!!!!!!」

 

メッシュ: 「うりゃあぁぁぁあぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 ―――ッ!!

 

 遥か地上で仰ぎ見る仲間たちの視界の中で、異変は起きた。

 三頭神像が小指の先ほどにしか見えない距離。彼らに確認できたのは、ゴースト弾が破裂し、メッシュの光が巨像へと吸い込まれた瞬間――。

 

 世界が、消えた。

 

 いや、消えたのではない。世界から「色彩(いろ)」が消失したのだ。

 空の蒼も、看板の色彩も、噴水の煌めきも。目に映る万物が、残酷なまでに無機質な『白』と『黒』の二色に支配された。

 その白と黒は、永久に争い続ける神と死神の如く、激しく明滅して見る者を翻弄する。耳を打つのは、一度に数億もの雷鳴が轟いたかのような、大気を粉砕する暴力的かつ巨大な『音』。

 

 何が起きたのか。世界が終焉を迎えたのか。

 それとも、次元の旅人が敗れたのか。

 

 不安が脳内を過ったのは、ほんの一瞬のことだった。

 次の瞬間、空には突き抜けるような蒼が戻り、看板には鮮やかな極彩色が、噴水には透明な輝きが帰還していた。元の世界の姿。

 

 もう一度天を仰げば、白雲の向こう側から、無数の「雨」がバラバラと降り注いでくるのが見えた。

 それは鉄片であり、オイルであり、あるいは得体の知れない石の欠片。

 破壊の権化として産み落とされた巨像の、無残なる末路。

 

 汚く、醜い、鉄の雨。だがそれは、地上で見守る戦士たちに、この上なく輝かしい真実を告げていた。

 

 ――メッシュが、勝ったのだ。

 

 

 

 

 ―――ズ、シンッ!!

 

 大気を切り裂き、一筋の閃光となって舞い戻ったメッシュは、盾へと変じたゲンジを接地させてその衝撃を逃がし、鮮やかに地上へと着地した。

 三頭神像という中枢を失ったことで、街に鳴り響いていた狂気の音楽はプツリと断絶し、世界にようやく静寂が戻った。広場を埋め尽くしていた『心ない天使』たちも、糸の切れた操り人形のようにその場に力なく膝を突き、機能を停止させていく。

 

 瓦礫の山を越え、地上で待ちわびていた仲間たちがメッシュの元へと駆け寄ろうとした、その時だった。

 

 ――シュゴゴゴゴ……!!

 

 メッシュの背後の空間が、陽炎のように不気味に捩じれ始めた。

 

タイン: 「お、おい! メッシュ! そこに変なのがさり気にあるぞ!!」

 

 タインが驚愕の声を上げ、指を差す。

 メッシュはその時空の歪みを一瞥すると、すべてを悟ったように、静かに、けれど寂しげに笑った。

 

メッシュ: 「……別れの時だ」

 

リーブ&タイン: 「え?」

 

 時空の旅人の運命。それは、たとえ一度は故郷の土を踏んだとしても、決して留まることは許されない過酷な流転。彼らは永遠に、次元の狭間という名の海を巡り続けなければならない。

 だが、今回の「旅路」は、静かな別れだけでは終わらなかった。

 

 ――ボオオオォォォォォッ!!

 

 突如として、時空の歪みの中心から猛烈な火柱が噴き出してきた。

 メッシュは反射的に、手にしたゲンジを構えてその熱波を完璧に遮断する。

 

???: 「ヒャホーゥ!!! 見つけたぜメッシュ! 俺ッ様と勝負しな!」

 

 炎のカーテンを突き破って現れたのは、異世界の住人と思われる、六本の腕を持つ異形のメダロット。

 その姿は、人類最後のメダリンピックで優勝した女性が使用したメダロットに酷似しているが、彼がどのような理由で現れたのかは不明である。

 そして、彼がどのような経緯でメッシュと知り合ったのかも不明である。

 不明なのである!

 

メッシュ: 「な!? お前、こんなところまで追ってきたか!? まぁいい、勝負の続きだ!! ……ただし、ここでは駄目だ!」

 

 メッシュは闖入(ちんにゅう)者へ向けて、巨大な盾ゲンジをフルスイングで叩きつけた。

 

???: 「グヘッ!!?」

 

 六本腕の男は、反論の暇もなく物理的な質量によって弾き飛ばされ、そのまま時空の歪みへと逆戻りしていった。

 メッシュは次元の狭間への入り口の前まで歩み寄ると、あまりにも怒涛の展開に唖然とする仲間たちの方へ、最後にもう一度だけ向き直った。

 

メッシュ: 「ファッファッファッファッファ!!! 短い間だったが、またお前たちと一緒に戦えて嬉しかったぜ。いつになるかは分からないけど、また……会おうな!!」

 

 誇り高き旅人の、再会の誓い。

 メッシュ、カリパー、キドゥ、ゲンジの四機は、吸い込まれるようにして次元の闇の向こう側へと消えていった。

 

 歪みが閉じ、メダロポリスの空には、ただ穏やかな風だけが吹き抜けていた。

 

 

第二十六話【Medarot Rise】終わり

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