第二十八話【HERMES DRIVE】
カヲスがゴーストの推進炎を引いてシャインを追ったのとほぼ同時刻、地上では別の熱波が弾けようとしていた。
ジーヴァス: 「シャインは追わせないゼ!」
マイル: 「これで神様も復活できるからなぁ」
行く手を阻むのは、略奪者たちの尖兵。ワンダ、ディスト、ローラの三機は焦燥に駆られていた。N・G・ライト復活の鍵――『白メダリア』と『コスモスのメダル』。そのすべてがシャインの手にある。一分一秒の遅れが、世界の終焉へと直結しかねない。
特に彼女たちは、上空でカヲスが既に追跡を開始していることを知らない。今ここで敵を討てるのは自分たちだけであるという強い責任感が、
ディスト: 「クソッ……どうする?」
ローラとワンダを背に乗せ、発進の準備は整っている。だが、マイルたちの射線がディストのタイヤを狙っており、迂闊な急加速は致命的な損傷を招きかねない。
その沈黙を、青い天使の決断が撃ち抜いた。
ワンダが左腕の『ソウス』を真正面へ固定した。黄金の環が限界まで回転し、癒しのエネルギーが破壊的な光子流へと変換されていく。
ワンダ: 「どいてなさい!!」
放たれたのは、直径がメダロットの機体ほどもある極太のレーザー。大気を焦がし、視界を焼き切る閃光がマイルとジーヴァスの間を貫いた。
ジーヴァス: 「うおっ!?」
凄まじい熱量。二機は反射的に左右へと跳び、その射線から逃れた。
ワンダ: 「ディスト、出て!!」
ディスト: 「了解~!!」
ディストはアクセルを全開に叩き込んだ。
―――ギュルルルルッ!!
アスファルトを削り、猛烈な煙を上げて急発進。3PMCシステムが唸りを上げ、瞬時に最高速へと達する。
背後でジーヴァスが苦い顔を浮かべたが、マイルは冷淡な手つきで近くの茂みに隠してあった二台のバイクを引き寄せた。
マイル: 「ほら、行くぞぉ」
それは以前、ビッグブロックから撤退した際にも使用していた高出力の軍用二輪機。
二機はほぼ同時にエンジンを蹴り上げた。
―――ブルルンッ!
野獣の如き咆哮が荒野に響き、二つの鉄塊がディストの残像を追って爆走を開始した。
ディストたちはメダロポリスを西へと抜け、荒野を切り裂く一本のハイウェイへと滑り込んだ。
ローラ: 「恐らく、シャインの向かった先はアジトであるフユーン……。ここから南西の砂漠に位置しているはずだ」
車体を激しく震わせながら疾走するディストの背で、ローラが地形データを照合する。まずはこの高速道路を通り、おみくじ町へと向かう。そこまで辿り着けば、フユーンは目と鼻の先だ。
ハイウェイの入り口を通過した辺りで、不意にワンダがセンサーを鋭く反応させた。
ワンダ: 「……ん? なんか……聞こえない?」
ディスト: 「何か?」
―――ブルルルルルルル…………!!
風を切り裂く音の向こう側から、空気を物理的に叩くような重低音が近づいてくる。ワンダが背後を振り返ると、そこには白煙を上げて猛追してくる二台のバイクがあった。
ワンダ: 「ほら! やっぱ何か聞こえてるって!」
マイルとジーヴァスの追撃。その距離は、凄まじい勢いで詰まっていく。
ディスト: 「げッ!」
ジーヴァス: 「行かせないゼェェッ!!!」
絶叫と共に、ジーヴァスがバイクの片手を離して銃を乱射した。高速走行中の不安定な射撃。だが、その弾丸の雨は確実にディストの車体を狙っていた。
ローラ: 「いや、行かせてもらおう!」
ローラが右腕の『ダブレスト』を掲げた。半透明の障壁が展開され、降り注ぐ鉛弾を火花と共に無機質に弾き飛ばす。さらに、盾に蓄積した熱量や衝撃の負荷は、背後に控えるワンダが即座に回復行動を上書きすることで相殺した。
前方を向いて走り続けるディストも、ただ逃げているだけではない。後方の熱源を感知し、ビームを数発、
激しい戦火の只中。だが、三機の目には、不思議と清々しい笑みが宿っていた。
ローラ: 「久しぶりだな……。この三機で戦うのは」
ワンダ: 「あ、それ私も思ってた!」
ディスト: 「僕も僕も!」
二年ぶりに再結成されたL班。月日は流れ、それぞれの立場は変わった。だが、言葉を交わさずとも成立する「盾・癒・攻」の完璧なサイクルは、一度として衰えてはいなかった。
ジーヴァスの放つ弾丸をローラが防ぎきり、ワンダが癒し、ディストが反撃を織り交ぜながら道を切り開く。その揺るぎないチームプレイに、マイルとジーヴァスは、本人たちが予想していた以上の苦戦を強いられていた。
ジーヴァス: 「おいマイル! あいつら、強いゼ!」
マイル: 「フゥ……。どうしたものかなぁ」
マイルがハンドルを握り直し、淡白な声で呟いた。その瞳には、冷静に獲物の弱点を探る冷徹な光が宿っていた。
マイルは加速スロットルを一気に捻り、機体全身のバネを使ってハンドルの軸を強引に引き上げた。
―――ギュンッ!
前輪が宙を舞い、マイルの巨躯とバイクは放物線を描いて跳躍。疾走するディストの真上へと躍り出た。
空中でバイクを蹴り、マイルが弾丸となってディストへと急降下する。
奇策。だが、地上戦の猛者であるローラに動揺はなかった。彼女は空中のマイルの拳を、最短距離で突き出した右腕で真っ向から迎撃した。
―――ガギィィィィィンッ!!
衝突の衝撃で、マイルは再び空中へと跳ね返される。彼は猫のようなしなやかさで、同じく宙を舞っていた自らのバイクへと着地。何事もなかったかのように着地し、再び追走へと戻った。
マイルの派手な空中殺法に目を奪われた、その一瞬の隙。ジーヴァスがディストの左側面に、タイヤが接触せんばかりの距離で並びかけていた。
彼はバイクの質量をぶつけるように、ディストを道路の端へと強引に押しやっていく。
ディストの左側をジーヴァスの鉄塊が圧迫し、右側はコンクリートのガードレールに接触。―――ガガガガガガッ!!
激しい摩擦音と共に、真っ赤な塗装を削り取る火花が夕闇のハイウェイに帯を引いた。
ディスト: 「痛てててててて!!!……痛いな、もう!!」
悲鳴。だがその瞬間、ディストの意志とは無関係に、彼の機体構造が反射的に組み換わった。
―――ガシャンッ!!
車体の左側面、装甲の隙間から『エアスト』の腕が不意に飛び出した。それはディスト自身すら想定していなかった「副腕」の展開。鋼鉄の腕は、すぐ隣にいたジーヴァスのバイクを、全力で突き飛ばした。
ジーヴァス: 「うおっ!?」
―――ギュルルルルッ!!
タイヤと路面が激しく擦れる音。ジーヴァスのバイクは猛スピードのまま二、三回激しくスピンし、体勢を崩しかける。だがジーヴァスは咄嗟に回転方向とは逆にガトリングを斉射。その反動を利用して強引にバイクを安定させ、死地を脱した。
ローラ: 「ほう……。そんなこともできたのだな」
ディストの車体横から突き出した、武骨な腕を興味深そうに見つめながらローラが呟く。
ディスト: 「僕も今知ったんだけどね」
ワンダ: 「って今かよ!!」
ワンダのツッコミが風に流される。
己の機体のさらなる可能性に、ディスト本人が一番驚いていた。
―――その頃。
ここは高速道路の出口。このゲートを通り抜けた先には、おみくじ町の静かな街並みが続いている。シャインを追うディストたちが、いずれ必ず辿り着く場所。
付近の空き地には、一台の軍用ヘリがローターを低く唸らせて待機していた。その傍らには、二機のメダロットが彫像のように佇んでいる。一機は青、もう一機は黄。
ビート: 「一戦目:ビッグブロック。女王のメダルを奪われ逃げられる……実質、俺たちの敗北」
セルヴォ: 「…………」
ビート: 「二戦目:メダロポリス。劣勢を強いられ、カヲスの乱入もあったが……実質、俺たちの敗北」
セルヴォ: 「…………」
ビート: 「以上……俺たちとマイル&ジーヴァスの戦績だ」
ビートが淡々と、自分たちの不甲斐なさを噛みしめるように報告を終えた。冷徹な事実の羅列。
沈黙を守っていたセルヴォが、ようやく重い口を開いた。
セルヴォ: 「さて、途中経過なんて関係ねーよ」
セルヴォは、自身の右手に持った奇妙な装置を横目で一瞥し、ニヤリと不敵に笑った。
それは、青や赤の複雑なコードが絡みついた、いかにも物騒な機械仕掛けの代物。トゥルースがこの土壇場で用意した、不実な逆転の一手。
セルヴォ: 「最後に勝ったヤツが勝者だ……」
第二十八話【HERMES DRIVE】終わり