REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第二十九話【卑怯者に栄光あれ】

第二十九話【卑怯者に栄光あれ】

 

 

 

 F・G・シャインの身のこなしは、勝利を確信し軽やかだった。

 超高速の飛行を経て、彼女は既に空中要塞『フユーン』へと帰還を果たしていた。砂塵の舞う通路を抜け、迷いなく要塞の心臓部――動力室へと足を踏み入れる。

 

 そこには、かつて浮力の源であった『フユーンストーン』が鎮座していた巨大な台座がある。今はその中心に、強奪した青いV字アンテナの頭部パーツ――フォーパーツ『ノルス』が据えられていた。

 

シャイン: 「クククク……。ようやく君の出番だね」

 

 シャインは、恋人の肌に触れるような手つきで、うっとりとノルスの装甲を撫でた。直後、彼女の手が傍らの制御パネルを叩く。

 

 ―――ギラリ、ッ!!

 

 ノルスのメインセンサーが、獲物を睨む獣のような鋭い光を放った。接続された導管を通じて、機体全域に膨大なエネルギーが奔流となって駆け巡る。金属の軋みが要塞全体を震わせ、沈黙していた巨大な歯車が再び噛み合い始めた。

 

シャイン: 「クククク……。今宵、空中要塞フユーンは再び大空へ舞い戻る」

 

 ―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 大地を掴んでいた根が断ち切られるような轟音。

 砂漠の静寂を置き去りにして、鉄と岩の巨大な山が、ゆっくりと重力を振り切り始めた。

 

 

 

 

ワンダ: 「な、なによアレ……!?」

 

 おみくじ町へと続く直線の道を爆走していたワンダが、進行方向の遥か彼方を指差して叫んだ。ディストの車体に乗っていたローラも、その視線の先を追ってアイセンサーを細める。

 

 地平線の果て、沈みゆく太陽の残光を浴びてキラキラと不気味に輝きながら、巨大な鉄の山が雲を裂いて上昇していた。空中要塞フユーン。かつての残骸が再び命を吹き込まれ、空を統べる王として返り咲く姿を、三機は初めて目の当たりにした。

 

マイル: 「フッ……。シャインがフユーンに戻ったんだぁ」

 

ジーヴァス: 「もうじき、神様が復活なさるゼ!!」

 

 背後からバイクで追撃を続けていたマイルとジーヴァスが、有頂天になった声を張り上げる。その歓喜の声が風に乗って届いた瞬間、ローラの機体全域から青白い光が溢れ出した。

 

ローラ: 「フム……。見ての通り、妾たちには時間が無い。すまぬが、貴様らの相手はここまでだ」

 

ジーヴァス: 「あん?」

 

 ローラが自身のメダルへ全神経を集中させる。彼女の機体を包む燐光が激しさを増し、周囲の大気が急激な熱収縮を起こしてキィィィィィンと高周波の異音を立てた。

 

ローラ: 「メダフォース――『 全 体 停 止 』!!」

 

 解き放たれた極低温の波動が、目に見えぬ奔流となって後方の二機を飲み込んだ。

 

マイル: 「……!?」

 

ジーヴァス: 「ちょ……! ま、待てって……や、やばい……z」

 

 ジーヴァスが言葉を言い切るより早く、冷気の呪縛は完了した。

 ハイウェイの真ん中、猛スピードで走行していたはずの二台のバイクと二機のメダロットは、その場で完全に凝固した。夕日を浴びて橙色に照り輝く、美しくも残酷な二つの氷の彫像。

 

ローラ: 「ふぅ……。なんとかなったな」

 

 背後を振り返ることなく、ローラは安堵の排熱を吐き出した。

 二機の追跡者は、おみくじ町の影に沈む夕景の中に、音もなく置き去りにされていった。

 

 

 氷の彫像と化した追跡者を引き離し、ディストの車体は軽快に路面を蹴り続けていた。

 先ほどまでの死闘が嘘のような静寂。排熱ファンの唸りだけが響く中、ディストの思考回路に、戦闘とは無関係な「迷い」が走り始めた。

 

ディスト: 「ロ、ローラ……。相変わらず強いね」

 

ローラ: 「そうか? ディストやワンダとさして変わらぬぞ」

 

 淡々と答えるローラに対し、ディストはさらに歯切れ悪く言葉を継いだ。冷却効率が僅かに低下し、装甲の内側に微かな熱が籠もる。

 

ディスト: 「え、え~っと……。こんな時にアレだけどさ……ローラ。……ラヴドに戻らない?」

 

 かつての親友、そして今は頼もしき戦友。そんな彼女に対し、ディストは何故か初陣の時のような緊張を覚えながら、その一言を絞り出した。

 

ローラ: 「……ラヴドに? ……何故だ?」

 

ディスト: 「何故って……なんとなくっていうか、なんというか……」

 

ローラ: 「……?」

 

 あたふたと狼狽(うろた)え、言葉を濁すディスト。ローラは不思議そうに首を傾げた。

 だが、その不自然すぎる光景を、背後でワンダの目がギラリと不気味に捉えていた。

 

ワンダ: (あれ? もしかしてディストってば……ローラにムフフみたいな!? 禁断の恋の季節、到来しちゃった感じぃぃ~!?)

 

 こうした場面において、当事者以上に第三者が盛り上がるのは、メダロットの世界でもよくある話である。シスターとしての包容力はどこへやら、ワンダのテンションは一気に沸点へと達した。

 

ワンダ: 「も~~! ディストったら、意外と可愛いとこあるじゃん!!」

 

 ―――バシッ、バシッ!!

 

ディスト: 「痛ッ……! い、痛いよワンダ!」

 

 喜び勇んでディストのボディを勢いよく叩きながら、ワンダは「キャッキャ」と高い駆動音を響かせて大はしゃぎする。

 

ローラ: 「………………」

 

ディスト&ローラ: (ワンダ……この二年間で、随分と変な方向に変わってしまったな……)

 

 二機は同時に呆れを含んだ思念を交わし、深いため息を吐き出した。

 

ローラ: (……二年前の黒メダリアによる治療の副作用だろうか?)

 

ディスト: (……ナギサさんの電波にやられちゃったのかな……?)

 

 そんなおバカな、けれど穏やかな時間が流れ……そして、終わりを告げた。

 

ジーヴァス: 「うらぁーーー!! テメーら、待ちやがれぇぇぇ!!!」

 

 遥か後方。地平線の向こうから、鼓膜を劈くようなジーヴァスの怒号が響き渡る。

 

ローラ: 「もう氷の束縛を脱したのか……!? ぬぅ……出口まであと僅かだというのに!」

 

ディスト: 「どうする? また迎撃する?」

 

 身構える三機。だがその時、ワンダの目が、待ち構えていた「別の影」を捉えた。

 

ワンダ: 「ん……? あ、アレ見て!!」

 

 

――ワンダたちの前方では。

 

 

 セルヴォとビートが、ハイウェイの出口に仁王立ちで待ち構えていた。おみくじ町へと続く唯一のゲート。そこへ猛スピードで迫りくる二つの熱源を、彼らは逃さぬ獲物として凝視している。

 

セルヴォ: 「さて、ビート。この爆弾……どれくらいヤバイ?」

 

 セルヴォが、右手に持った不気味な装置をビートへと見せた。幾重にも絡み合う配線が、脈動するように明滅している。

 

ビート: 「ラヴド本部爆破時以上だ」

 

セルヴォ: 「うひゃッ♪」

 

ビート: 「派手な方が好きだろう? ……相棒」

 

セルヴォ: 「さっ……てぇ~、じゃあ準備といきましょうかねぇ? ……相棒」

 

 ―――シュンッ、……!!

 

 その時、二機の真横を猛烈な風が通り過ぎていった。L班の三機だ。一瞬、ディストの「よろしく!」という無邪気な声が風に乗って聞こえた気がした。

 

セルヴォ: 「ケッ……あのクソガキ、しぶとく生きてやがったか」

 

 セルヴォは毒づきながらも、その目を僅かに満足げに揺らした。ビートはそれを指摘すれば相棒が照れ隠しに不機嫌になることを察し、何も言わずにヘリのエンジンを始動させた。

 

 L班が去った後、地平線の向こうからマイルとジーヴァスのバイクが猛烈な土煙を上げて現れる。

 二機は手際よく「罠」をセットし終えると、起爆スイッチを握って軍用ヘリへと飛び乗った。ビートの的確な操縦により、ヘリは瞬時に爆破予想範囲の外――上空へと舞い上がる。

 

 セルヴォはヘリの開口部から地上を見下ろし、獲物たちが爆心地へと差し掛かるタイミングを冷静に測った。

 

 そして。絶妙のタイミングで。

 

セルヴォ: 「さて、削除♪」

 

マイル&ジーヴァス: 「!? 」

 

 ―――バ ー ー ー ー ー ー ン ! ! ! ! !

 

 意識さえも消し飛ばすほどの爆音と、視界を焼き切る紅蓮の爆炎が世界を支配した。

 次の瞬間、辺りは無限に広がるかのような黒煙に覆われる。数秒前までそこにあったはずのハイウェイの景色は霧散し、ただの焼け野原へと変貌を遂げていた。

 

ジーヴァス: 「……グ……。なんなんだ……ゼ……」

 

マイル: 「うぅ……」

 

 黒焦げになり、力なく地面に横たわるマイルとジーヴァス。

 そんな二機へ、空中から容赦のない「雨」が降り注いだ。セルヴォである。

 

 ヘリからダイブしたセルヴォは、重力を乗せた着地と共に右足でマイルを、左足でジーヴァスを力任せに踏みつけた。抵抗の隙など、一分も与えない。彼は即座に右腕のソードと左腕のハンマーを振り下ろした。

 

 ―――パリンッ、……!!

 

 二つの心臓(メダル)が、鋼鉄の衝撃に耐えかねて粉々に砕け散った。

 マイルとジーヴァス。そのアイセンサーから光が失われ、狂信者たちの時間は永遠に停止した。

 

 上空。ビートはヘリを安定させながら、冷徹な報告を無線に吹き込んだ。

 

ビート: 「抹殺完了『ぅ』」

 

 この攻撃に、戦士としての名誉など欠片も存在しない。

 周到な待ち伏せ、圧倒的な火器、そして無防備な負傷者へのトドメ。それは世辞にも正々堂々とは呼べぬ、卑怯極まりない「処刑」であった。

 

 しかし、それで良い。

 何故ならば、彼らはトゥルース――『真実』を葬る影のプロフェッショナルなのだから。

 

 如何なる手段を以てしても任務を完遂する。それが彼らの流儀であり、誇り。

 清潔なフェアプレイも、極悪非道な不意打ちも、彼らにとっては任務達成のための「選択肢」に過ぎない。

 

 崩壊しきった地上を背景に、セルヴォは不敵な、完璧なる悪役の笑みを浮かべて言い放った。

 

セルヴォ: 「さて、戦闘は専門外だが〝抹殺〟に関してはプロフェッショナルなんだ『ゼ』」

 

 マイル、ジーヴァス。完全死亡。

 新しき世界の影で、二つの命が音もなく消え去った。

 

 

第二十九話【卑怯者に栄光あれ】終わり

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