第三十一話【カヲスと対峙し終末が近づく】
―――メダロポリス。
三頭神像を撃破し、未曾有の崩壊から街を救った五機の戦士たち。
メッシュたちが次元の彼方へと消え去り、静寂が戻った広場で彼らが目にしたのは、燃えるような夕焼けを背に、遥か高空で不気味に輝く空中要塞『フユーン』の姿だった。
竜は即座にそれがシャインの仕業であることを悟ったが、同時に自身の論理回路が「不可能」という解答を叩き出す。フユーンの高度と距離を考慮すれば、今から地上を駆けて出発したところで、辿り着く頃にはすべてが終わっているだろう。
その時だった。天蓋を埋め尽くしていた暗雲を割って、待望の「影」が姿を現したのは。
タイン: 「お、おい! さり気にアレを見ろよ!!」
タインが指差す先。黄金の残光を切り裂き、巨大な鉄の山が降臨した。
竜: 「あれは……」
レッド: 「………………」
ナギサ: 「大戦艦ノアの箱舟……。迷える子羊たちを戦場へと誘う、巨大なる翼」
リーブ: 「いや~、エライ懐かしいですな~」
ノアの箱舟が街の直上でその巨大な推進器を停止させた。ハッチが次々と開放され、無数の戦闘機が羽虫のように飛び立ち、被害状況の確認のために街中へと散っていく。
その中でも、指揮官機と思われる一機が広場へと着地した。中から降り立ったのは、漆黒の装甲を纏った副王ブラックメイルと、武装した精鋭兵たちだった。
『こちら4号機。エリア4にて三頭神像の残骸を発見』
『こちら22号機。シェルター内の生存者を確認。負傷者の手当を開始します』
『こちら15号機。シャイン一味はフユーンにて北西へ離脱した模様』
ブラックメイルが手にした端末から、絶え間なく報告が鳴り響く。彼はそれらを耳に入れながら、自身の目で地獄の如き惨状――沈黙した『心ない天使』の山、崩壊したビル群、そして台座だけになったジョーカード像を苦々しく見つめた。
ブラックメイル: 「おいおい。随分と派手にやってくれたじゃねぇかぁ~……よッ」
ブラックメイルは足元に転がっていたジョーカード像の破片を拾い上げた。その視線は、遥か彼方、雲間に消えゆくフユーンへと向けられている。
野生の勘が叫んでいる。シャインはあそこにいる。今すぐにでも戦艦で追いすがり、その装甲を拳で砕いてやりたい。だが、今の彼の立場が、その衝動を力技で抑え込んでいた。
『ラヴドの副王が、蹂躙された民を見捨てて戦地へ走った』――その汚名は、ブラックメイル個人の誇りだけでなく、建国間もないラヴドという国家の信用を根底から失墜させかねない。
ブラックメイル: 「チッ……。どうすりゃいいん~……だッ?」
苛立ちを隠さず唸るブラックメイルの背後から、静かな声がした。
竜: 「お困りのようですね……」
振り返れば、そこにはかつて敵として、そして今は共通の友を救う「同志」として立ち並ぶ、元・十二使徒の面々。
竜: 「もしよろしければ、我々にノアの箱舟を貸して頂けませんか……? フユーンへ向かいたいのですが……」
ブラックメイルは一秒の躊躇もなかった。相手がかつての敵であることも、戦艦の所有権がどうであるかも関係ない。ただ、目の前の五機の眼差しに宿る意志だけを、彼は信じた。
ブラックメイル: 「おう! 使え使え! そんでもって、シャインのヤツをどうにかしてくぅ~……れッ!」
かつてビーストマスターが彼らを信じたように。言葉では言い表せない強者同士の共鳴が、再び世界を救うためのバトンを繋いだ。
タイン: 「よっしゃー! じゃあさり気に行って来る!」
レッド: 「………………」
ナギサ: 「フフフ……まさか再びあれに乗ることになるとはね。運命……デスティニーを感じるよ」
リーブ: 「せやけど、言うときますよ? 僕らはF・G・シャインを倒しに行くんちゃいます……コスモスさんを助けに行くんです」
不敵な笑みを残し、五機の同志たちはブラックメイルが乗ってきた指揮官機へと乗り込んだ。
垂直離着陸エンジンの轟音が響き、機体は夕闇の空へと急上昇。遥か上空で待機する大戦艦『ノアの箱舟』の収容ハッチへと吸い込まれていく。
それを見送ると、ブラックメイルは手元の通信機を口元へ寄せた。戦士の顔から、街を守る「王」の貌へと表情を引き締める。
ブラックメイル: 「よし! テメーら、今から街の復興作業を始めるぅ~……ぞッ!」
全方位放送。瓦礫の中に散らばっていた全兵士のレシーバーに、副王の怒号のような号令が響き渡った。
ブラックメイル: 「A班からG班は、負傷者の手当てと医療班の手配、それから諸々の救護活動を優先しろ! 残ったヤツとオレで、道路と街の修復だぁ~……ぞッ! ――いいか、足りない物があったらロケットランチに言え! アイツなら、な~んでも揃えてくれるぅ~……ぞッ!!」
漆黒の副王はそう言い放つと、自らも巨大な瓦礫を持ち上げ、復興の先陣を切った。
かつてはトゥルースに「パシられ」、修羅場を無理やり潜り抜けてきたロケットランチ。今やエデン国の運搬部部長となった彼への全幅の信頼。
大混乱に陥ったメダロポリスだったが、ラヴドとエデンの垣根を越えた、迅速かつ強引な復興の槌音が響き始めていた。
―――フユーンの真下にて。
ワンダ、ローラ、ディストの三機は、砂塵を巻き上げながらようやく空中要塞の直下へと辿り着いた。だが、そこから仰ぎ見た景色に、三機は言葉を失った。
既に空中要塞『フユーン』は、地上との物理的な繋がりを完全に断ち、遥か上空へと浮上していた。夕闇の空を焦がすジェットの余韻が、彼女たちの装甲を空しく撫でていく。
ワンダ: 「で……どうするのよ」
途方に暮れたワンダが、首が痛くなるほど高くそびえる鉄の山を見上げて呟いた。高度、数千メートル。重力に縛られた地上機にとって、それはあまりにも遠い垂直の壁。
だが、途方に暮れていたのはワンダ一人だけだった。
ディストとローラは、互いに無言で視線を交わすと、一級兵士らしい極めて合理的かつ残酷な結論を導き出していた。
ディスト: 「あのさ。僕が車両型で、ローラが二脚型……。そして、ワンダが飛行型っていう条件を考えるとさ。……もう、答えは一つしかないと思うんだけど」
ワンダ: 「え……」
何か、人生最悪級の嫌な予感がワンダの回路を過った。彼女は後ずさるように、自分を見つめる二機の「理知的な瞳」から視線を逸らした。
ローラ: 「うむ……。メダロット二機分の質量は、重いかもしれぬ。だが、頼んだぞ、ワンダ」
逃げ場のない正論。そして見事に的中した予感。
ワンダは、自らの華奢な両腕と、背負うべき「重戦車」と「雪の女王」のシルエットを交互に見比べ、震える声で絞り出した。
ワンダ: 「……マジすか?」
――――空中要塞フユーン・天蓋。
F・G・シャインは、雲を切り裂き浮上を続ける要塞の屋根の上に立っていた。
地上数千メートルの高さから見下ろす世界は、まさしく絶景。北には連なる峻険な山脈、西には残光を撥ねる銀の海、東には三頭神像の暴れまわった傷の残る街、そして南には赤々と夕日に照らされた広大な砂漠が広がっている。
シャインは、薄く冷たい大気を吸い込み、独り言を漏らした。
シャイン: 「クククク…。今夜は満月なんだ。満月……欠けたところの無い、完全なる円。僕の神、N・G・ライト様が再び地上へ降り立つに相応しい日だ」
シャインは恍惚とした表情で空を仰いでいたが、不意にクルリと軽やかに振り返った。その視線の先、背後に降り立った招かれざる客に、彼女は問いかける。
シャイン: 「そうは思わないかい?」
向けられた狂信的な問いに、静寂を纏った影が答えた。
カヲス: 「…………さあな」
招かれざる客――カヲスは、感情の削ぎ落とされた声で素っ気なく返した。ゴーストの推進炎を切り、ゆっくりと着地するその巨躯。だが、シャインは依然として上機嫌を崩さない。
シャイン: 「クククク……。自己紹介が遅れたね。僕の名前はF・G・シャイン……。いずれ神の忠実なる
カヲスは、先ほどまで上空でマイルたちを締め上げていた時とは打って変わって、不気味なほど落ち着いた声音で告げた。
カヲス: 「……我が名はカヲス。……コスモスを……返して……もらおうか」
奪われたコスモスを取り戻す。その一点のみに向けられた、低く重厚な意思。
シャインはそれを聞き、歪んだ、嫌味な笑みを浮かべた。
シャイン: 「クククク…。嫌だと言ったら?」
刹那。
カヲスの漆黒のアイセンサーに、細く、だが逃れようのない力強さを湛えた、真っ赤な光が射した。
二年前、戦争を引率したエデンの指導者としての顔が、鮮烈に蘇る。
カヲス: 「地獄の痛みの中で…………殺してやる」
新しき世界の女王を巡る、狂信者と混沌の対峙。
物語の終末が近づく。
第三十一話【カヲスと対峙し終末が近づく】終わり