REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第三十四話【再臨:白翼の神 ~REAPPEARANCE:White Winged God~】

第三十四話【再臨:白翼の神 ~REAPPEARANCE:White Winged God~】

 

 

 

――大戦艦ノアの箱舟。

 

 ブラックメイルから出撃の許可を得た五機の元・十二使徒たちは、懐かしき「本拠地」のタラップを駆け上がった。

 船内に一歩足を踏み入れれば、そこは二年前の激闘の記憶が色濃く残る空間だった。かつてタインとヴァレンが不毛なギャグバトルに興じた広大な甲板。ベルゼルガやタインが鋼の肉体を研鑽し続けたトレーニングルーム。そして、自分たちの誇りの象徴であった中央コロシアム。

 

 すべてが、あの日と同じ静寂と鉄の匂いを湛えて彼らを迎えた。

 

 現在、この超大型艦を実際に運用できる者はごく僅か。エデン国諜報部『トゥルース』、運搬部部長のロケットランチ、そして、この艦の本来の主である彼らだけだ。

 竜は操縦席に腰を下ろすと、瞬時にシステムを励起させ、コンソールを叩き始めた。

 

竜: 「タイン……。操縦の仕方、覚えていますか?」

 

タイン: 「……さり気に忘れた」

 

 無数に並ぶトグルスイッチや操作レバーを、タインは呆然とした目で見つめながら呟いた。

 

竜: 「……想定内です。最初から貴方のウジムシ以下の知能には一分(いちぶ)の期待もしていませんから」

 

タイン: (クッ……。クソ〜、本当に忘れてただけに何も言い返せねぇぜ……)

 

 竜の容赦ない言葉が、タインの耳を抉る。竜は溜息の代わりに排熱ファンを一度回すと、隣席のナギサへ視線を投げた。

 

竜: 「それではナギサさん、お願いします――」

 

ナギサ: 「戦いの場へと誘う翼……ノアの箱舟。そして、襲い来る強大な荒波から逃れ、迷える子羊たちを救う神の手向けであり……」

 

竜: 「…………リーブさんとレッドさん、お願いします」

 

 竜はコンマ一秒の猶予も与えずナギサのポエムを切り捨てると、実務能力のある二機へと指示を飛ばした。

 

リーブ: 「はーい」

 

レッド: 「…………」

 

 重厚なエンジン音が轟き、箱舟が離陸の衝撃に震えた、その時だった。

 

 ―――ッ!!

 

 全方位の外部モニターが、突然真っ白なノイズを吐き出した。

 夜の闇を一瞬にして蒸発させる、凄まじい光の奔流。南西の空を起点としたその輝きは、世界を白銀で埋め尽くさんとするほどの勢いで膨張し、爆発した。

 

竜: 「……ッ!?」

 

 数分後。

 光が収まり、再び夜の暗さが戻ってきたが、コックピット内の空気は冷え切っていた。全員が言葉を失い、先ほどまで「不浄な輝き」があった空の残像を見つめていた。

 竜がいち早く思考の硬直を解き、鋭い声を上げた。

 

竜: 「な、何か嫌な予感がします……。急いでください!!」

 

 巨大な鉄の翼が、決戦の地フユーンを目指して加速を開始した。

 

 

―――空中要塞フユーン、天蓋。

 

 

 シャインの機体を包み込んでいた、世界を白濁させるほどの猛烈な光が、ようやくその勢いを落とし始めた。

 カヲスは損壊した身体を支えながら、ゆっくりと光が窄(すぼ)んでいく様を、片時も目を離さず注視していた。アイセンサーが捉える熱源反応が、急速に再定義されていく。

 

 そして、光のカーテンが完全に晴れたとき。

 そこに立っていたのは、もはやF・G・シャインではなかった。

 

 どこをどう見ても、あのオレンジ色の雅な装甲は一片も残されていない。

 雪のように滑らかで冷徹な白き両腕。

 物理法則を切り裂くような、刃物のように鋭利な脚部。

 刺々しく、されど不気味な威厳を湛えた髭。頭頂には、神性を象徴する後光の如き輪。

 そして、その背に生えたるは――すべてを慈しみ、すべてを支配する、圧倒的な風格を纏った白き翼。

 

『……久しぶりだな。我が友カヲスよ……』

 

 懐かしい声だった。

 かつて暗い洞窟から自分を救い出し、共鳴し、そして九年前に永遠に失われたはずの、親友の声。

 

カヲス: 「……その声………我が友…N・G・ライト……」

 

 神は再臨した。

 名前はN・G・ライト。

 かつて神という名の理想を掲げ、人類を滅亡へと追いやり、メダロットだけの世界を創造した男。

 

ライト: 「久しぶりの再会だというのに、少々元気がないようだな? カヲス」

 

 カヲスは、白銀の神をじっと見つめ返した。

 親友との再会。本来であれば、手を取り合い、失われた時間の空白を埋めるべく昔話に花を咲かせる――そうあるべきだった。

 だが、今のカヲスにとって、親友の復活。それは即ち、愛するコスモスのメダルが、彼女自身の人格を失い、上書きされてしまったことを意味していた。

 

 N・G・ライトは、親友の複雑に揺れる瞳を観察し、即座にその沈痛な心情を悟った。

 

ライト: 「心配するな。貴様の愛しき者は必ず返すつもりだ」

 

カヲス: 「本当か……?」

 

 カヲスの表情にあからさまな明るさが戻る。

 N・G・ライトはそのあまりに激しい変化に、僅かに苦笑を滲ませて応じた。

 

ライト: 「フッ……本当だ。神である私としても、愛し合う二人の間を引き裂くような真似はしたくない。だが……」

 

カヲス: 「だが?」

 

 N・G・ライトは、あご元にの鋭い髭のようなパーツを、親指と人差し指でつまむようにして静かに撫でた。その所作一つに、他者を寄せ付けぬ圧倒的な知性が宿る。

 

ライト: 「この世界で、一つだけやっておきたい事があってな……。それが終わるまでは、待ってもらいたい」

 

カヲス: 「…………………」

 

 カヲスは重い瞼を閉じ、しばしの沈黙に沈んだ。

 彼にとって、いま最も優先すべき事項はコスモスの安否。それは絶対だ。しかし同時に、九年の空白を経て再会した親友の意志を汲んでやりたいという情動もまた、胸を熱くさせていた。

 

カヲス: 「分かった……。信じよう。我が永遠の親友、Night・God・ライト……」

 

ライト: 「礼を言う……。我が唯一の親友、カヲスよ」

 

 カヲスとN・G・ライト。二人の間に通い合う友情は、死や時間の断絶を以てしても揺るぎはしなかった。カヲスは知っている。この白銀の神が、同胞たるメダロットに対してどれほど深い慈愛を注いできたかを。だからこそ、神の言葉を信じ、コスモスが無事に戻ってくることを確信できた。

 

カヲス: 「……ところで。この世界でやりたい事とは……一体……?」

 

ライト: 「うむ……。本当はやりたい事は一つだけのつもりだったのだが……。どうやら、増えてしまうかもしれぬな」

 

カヲス: 「どういう……ことだ?」

 

ライト: 「〝血の気の多い若造〟と、拳を交える事になりそうだ」

 

 N・G・ライトの視線が、カヲスを通り抜け、その遥か後方へと向けられた。

 視線の先にあるのは、三つの熱源。

 

 長い沈黙の空路を越え、ワンダに運ばれてようやくフユーンの天蓋へと辿り着いた三機。

 ワンダ、ローラ、ディスト。

 彼女たちは目の前に屹立する「神」の姿を捉え、その表情をこれまでにないほど険しくさせていた。

 

ディスト: 「カヲス!? なんでここに……いや、今はそんな事よりも……!」

 

ワンダ: 「N・G・ライト……。復活してしまったのね……」

 

ローラ: 「かまわん。復活してしまったならば、ただ倒すのみだ。……その覚悟で参上したはず」

 

 三機の覚悟を、そして再臨したライトの風格を交互に確認したカヲスは、フッ……と静かに笑うと、脚部の推進器を励起させた。

 カヲスはこの後に起こるであろう「儀式」を悟っていた。そして、その場において自分はもはや必要ないことも。

 

 白き龍は音もなく浮上すると、そのまま夕闇に溶け込むようにして雲海の中へと消えていった。

 高い索敵能力を維持したまま、静かに事態を傍観する。それが親友と、そして愛する女を信じた彼の選択だった。

 

 カヲスが雲海へと去り、フユーンの天蓋には再び、張り詰めた静寂が降りた。

 月光に照らされたその中心で、白銀の翼を広げるN・G・ライトは、蟻の如き矮小な侵入者たちを、感情の失せた黄金の瞳で見下ろしていた。

 

 ワンダは過酷な空輸による疲弊を振り払った。ローラが「ダブレスト」の障壁を微動させ、ディストが右腕の砲門に、最大級の警戒を込めた熱量を蓄える。

 人類を滅亡へと導いた「不条理」が、いま、実体を持って目の前に立っている。そのあまりにも神々しく、禍々しいプレッシャーに、三機の内部回路は焼き切れるような緊張を強いられていた。

 

 だが、誰一人として、視線を逸らす者はいない。

 

ワンダ&ローラ&ディスト: 「N・G・ライト! 覚悟!」

 

 三機の叫びが重なり、夜の静寂を叩き割った。

 かつての英雄ジョーカードが命を懸けて終わらせたはずの歴史。それを再び繰り返させないという、新世代の戦士たちの意志。

 

 対するN・G・ライトは、その宣戦布告を、慈悲にも似た嘲笑で受け流した。

 

ライト: 「本来、神である私は、同胞たるメダロットを傷つけることを嫌う。……だが。それが、貴様らの望みだと言うのであれば、叶えてやろう」

 

 不遜。圧倒的な優位。

 ライトが背後の白銀の翼を僅かに羽ばたかせた。それだけで大気が質量を伴って爆ぜ、L班を強烈な衝撃波が襲う。

 

 満月の下、世界の再編を懸けた究極の死闘が、静かに幕を開けようとしていた。

 

 

 

第三十四話【再臨:白翼の神 ~REAPPEARANCE:White Winged God~】終わり

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