第三十五話【血の気の多い若造】
ライト:「それにしても……素晴らしい世界だ」
N・G・ライトは、自分を囲むワンダ、ローラ、ディストの三機から目を離し、フユーンの天蓋から世界を見渡した。
ライト:「神……すなわちメダロットたちがお互いに助け合い、愛し合う平和な世界! これぞ、かつて神である私が求めた楽園――エデンだ。……残念なのは、これを神である私自身の手で完成させられなかったことぐらいか」
ローラ:「悪いが、その素晴らしき世界はもう貴様を必要としていない」
ローラが右腕のダブレストを構える。
だが、ライトは穏やかに答えた。
ライト:「分かっておる。……いや、それどころか。神である私の存在そのものが、再び凄惨な戦争を巻き起こす火種になることも否定できん」
ワンダとローラが、一瞬言葉を失う。
その中で、ディストが一歩前へ出た。
ディスト:「だったら……貴方にはここで死んでもらわなきゃ、僕たちは困るんだ。……ごめん」
ライト:「フッ……」
ライトが僅かに笑う。
その刹那。
ワンダ&ローラ&ディスト:「うおぉぉぉ!!」
三機が同時に動いた。
ライト:「来るがいい!!」
決戦が始まった。
先陣を切ったのはローラとディストだった。
二機が左右からライトへ迫る。
ライトは動かない。
右手が液体金属のように形を崩し、瞬く間に巨大な掌へと変わった。
――ブォンッ!!
巨大な平手打ちが二機を薙ぎ払う。
ローラとディストは寸前で左右へ飛び退いた。
その隙に。
ワンダ:「いっけー! 最大出力ぅ!!」
上空から、ワンダのレーザーがライトへ放たれる。
黄金の熱線が一直線に迫る。
ライト:「……フンッ」
ライトが右腕を振り抜いた。
ライト:「デストロイッ!」
――ドンッ!!
強烈な一撃が、真正面からレーザーを叩き潰した。
ワンダ:「な、なんてデタラメなパワーしてんのよ……!」
だが、その一瞬をディストは逃さない。
左腕のエアストを突き出し、一気にライトへ迫った。
――ガシッ!!
ライトが片手でエアストを受け止める。
ライト:「うむ……。良いパワーだ」
ディスト:「ク、クソッ……! 攻撃が当たっても、ビクともしないよ……!」
ディストが距離を取る。
ライト:「悪いが、あまり長引かせたくは無い……」
ライトの左腕が、眩い白光を放ち始めた。
その光がローラへ向けられる。
ライト:「サクリファイスッ!!」
――ドォォォォォォォォォン!!
白い閃光がローラへ襲いかかった。
ローラ:「な……ッ!?」
ローラがダブレストの青い障壁を展開する。
だが。
光は障壁を突き破り、そのままローラを吹き飛ばした。
同時に、攻撃を放ったライトの左腕も崩れ落ちる。
ディスト:「ローラァーー!!」
ローラはフユーンの天蓋を滑り、そのまま端から外へ投げ出された。
ローラ:「妾のことは気にするな! 今は目の前の敵に集中しろ!!」
ディスト:「嫌だ! たまには〝僕が〟ローラを守るんだ!!」
ディストが走る。
そして。
迷わず天蓋から飛び出した。
ディスト:「うおぉぉ!!」
空中でローラの身体を抱き留める。
ローラ:「何をしている! これではお前も一緒に落ちてしまうぞ!!」
ディスト:「僕がローラの下敷きになって落ちる! そうすればローラは無事だ!」
ローラ:「それではディストが……」
ディスト:「いいから!!」
ローラが黙る。
ローラ:「…………馬鹿者が……」
二機はそのまま、雲海の向こうへと落ちていった。
ワンダ:「ディストォォ!! ローラァァ!!」
ワンダが叫ぶ。
ライトは、二機が消えた方向を見ながら告げた。
ライト:「一応言っておくが、あれはあのディストスターしか間に合わなかっただろう。飛行型の自分が行けばよかったなどと、自分を責める必要はないぞ」
ワンダ:「……アンタがやったんでしょうが!!」
ワンダがライトを睨みつける。
その姿を見て、ライトが僅かに目を細めた。
ライト:「ん? ……思い出したぞ。たしか貴様は、宝条ルクのもとにいた……あの忌々しい道化の仲間か」
―
――メダロポリス。
ブラックメイル:「しっかし、困ったもんだぁ~……ぞッ」
瓦礫の残る中央広場。
ブラックメイルは、壊れた英雄ジョーカード像の破片を手にしていた。
ロケットランチ:「さっきの空の光のことっスか?」
傍らにいたロケットランチが、フユーンの方角を見る。
ブラックメイル:「違う、違う。オレが言ってんのは、この像のことだぁ~……ぞッ」
ロケットランチ:「像?」
ブラックメイル:「この像にはな……二年前に死んだある男のメダルを、粉末にして材料に混ぜてあるんだぁ~……よッ」
ロケットランチ:「二年前、死んだ……? まさか、ある男って……」
ブラックメイル:「あぁ」
この英雄ジョーカード像には、かつてヴァレンだったメダルの欠片が混ぜられていた。
文字通り、彼の墓標でもあった。
ブラックメイル:「だから破片は、絶対に漏れなく回収しなきゃならねぇんだ……って、ぬあ!?」
その時。
ブラックメイルが持っていた『アレ』が、突然強い光を放った。
ロケットランチ:「ブラックメイルさん!! こ、これは一体……!?」
ブラックメイル:「くッ……黒メダリア! 何かの役に立つかも知れないっつって、エデンを出る前にビーストマスターに持ってけって言われたんだぁ~……ぞッ!」
黒メダリアが宙へ浮かぶ。
そして。
広場に散らばっていたジョーカード像の破片が、次々と黒メダリアへ吸い寄せられていった。
ロケットランチ:「な、なんスかこれ!?」
破片が渦を巻き、黒い塊となって一つに集まっていく。
――シィィィィィィィン……!!
次の瞬間。
黒い光は、フユーンのある方角へ向けて飛び去った。
ブラックメイル:「な、なんかヤバイィ~……ぞッ!!」
黒い光は夜空を駆け抜け、決戦の地へと向かっていった。
―
――空中要塞フユーン・天蓋。
残されたワンダは、それでもライトへ向かっていた。
ワンダ:「レーザー!!」
黄金の熱線が放たれる。
ライトは片腕を僅かに動かし、それを打ち消した。
ライト:「無駄だ」
ワンダ:「私は諦めない……! アンタにだって、弱点や隙は絶対にどこかにあるはずよ!!」
ライト:「残念だが。パワー、スピード、知略……。神である私に、欠けたるところなど何処にも無いのだよ」
その時。
夜空の彼方から、黒い光が飛来した。
ライトがその光を見る。
ライト:「フッ……。来たか。〝血の気の多い若造〟が」
ワンダ:「え……?」
黒い光が、そのままワンダへと飛び込んだ。
ワンダ:「な……に……よ、これ……ッ」
激しい黒い光が、ワンダの全身を包み込む。
先ほどシャインを包んだ白い光とは正反対の、漆黒の輝き。
やがて。
その中から、一つの声が響いた。
『欠けたるところなど何処にも無い……? 嘘をつくな。お前にだって、欠けたるところはあるぜ』
ライトは驚かなかった。
むしろ、待っていたかのように、その声へ返す。
ライト:「ほう。神である私に欠けたるところがあると? フン……それは何だ?」
黒い光の中から。
不敵な声が返ってきた。
『…………〝何気さ〟』
第三十五話【血の気の多い若造】終わり