REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第三十七話【困惑する者達、悪フザケする神々】

第三十七話【困惑する者達、悪フザケする神々】

 

 

 

ヴァレン: 「ほいさぁー!!」

 

 漆黒の翼が夜気を叩き、ヴァレンが天頂から弾丸の如き速度で急降下した。その両腕に握られたL字型の鎌剣が、月光を切り裂いてN・G・ライトの脳天へと振り下ろされる。

 

ライト: 「……!」

 

 ライトは冷静に機体を静止させたまま、漆黒の両腕を瞬時に騎士剣の如き形状へと硬質化させ、頭上でそれを受け止めた。キィィィィィィン――!! という高周波の摩擦音が天蓋に響き渡る。以前の衝突よりも確実にヴァレンの出力は増しており、二機のメダルが放つ熱量が、空中に陽炎(かげろう)を生んでいた。

 

ライト: 「ほう……。そろそろ本気か?」

 

ヴァレン: 「何気に馬鹿にしてんのかジジイ? まだまだ序の口だぜ!」

 

 ヴァレンがさらに体重を乗せ、双剣を押し込む。対するライトもまた、背後の白銀の翼を僅かに羽ばたかせ、不敵な笑みを浮かべてそれを押し返した。

 

 膠着したその瞬間、N・G・ライトが異質な挙動を見せた。

 通常、飛行型であっても姿勢は垂直を保つものだが、彼は剣を交えたまま、空中で身体を水平へと傾けたのだ。さながら古のコミックに登場する正義の味方の如き姿勢。

 

 直後、ライトの巨躯が独楽(こま)のように勢いよく前転した。

 前転の回転軌道上、その末端にあるのは、刃物の如く鋭利に研ぎ澄まされたライトの脚部。それが円運動の遠心力を伴って、ヴァレンの頭上へと正確に叩きつけられる。

 

ヴァレン: 「のわっ!?」

 

 不意を突いた一撃。ヴァレンは咄嗟に首を捻り、紙一重でその殺意をかわした。地味な動きではあるが、一点に質量を集中させたその蹴りは、直撃すれば致命傷になりかねない。ヴァレンは反撃の機会を捨て、即座に大きく後退して距離を取った。

 

ライト: 「ふぅ……。まったく、面倒な道化だ。〝あの人間〟と一緒にあの世で大人しくしていれば良いものを、わざわざ出て来おってからに……」

 

 ライトの呟き。その慈悲にも似た言葉の端に宿る「ルク」の影。だが、ヴァレンはそれを拾い上げ、全く別の方向へと力任せに捻じ曲げた。

 

ヴァレン: 「〝あの人間〟……? ………………クリリンのことか?」

 

ライト: 「 全 然 違 う 」

 

ヴァレン: 「クリリンの……」

 

ライト: 「だから違うと……」

 

ヴァレン: 「……事かああぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」

 

 ヴァレンは天を仰いで絶叫した。怒りの放電が機体を包み、漆黒の羽が逆立つ。

 そしてヴァレンはスーパーサイヤ人になることは……なかった。

 

 

―――大戦艦ノアの箱舟・ブリッジ。

 

 広大な操縦席には、かつての激戦を共に潜り抜けた四機の男女がいた。

 ブラックスタッグの竜、グレインのタイン、ブロッソメイルのレッド、そしてメタル・ビートルのリーブ。本来ならば、久方ぶりの再集結を祝う言葉の一つもあって然るべき場所。だが、そこには電子機器の唸り音と、冷却ファンの虚しい回転音だけが停滞していた。

 

 全員の視線は、前方の巨大なメインモニターに釘付けになっていた。

 そこに映し出されているのは、満月を背景に、物理法則を置き去りにして激突を繰り返す、白銀の神と漆黒の死神の姿。

 

 ようやく沈黙を破ったのは、タインだった。だが、その剛健な発声回路を以てしても、溢れ出す困惑を言語化するには至らない。

 

タイン: 「お、おい……これって……何だよ?」

 

リーブ: 「N・G・ライトと……ヴァレンさん?」

 

 リーブが震える声でその名をなぞる。

 レッドは紅い瞳をモニターに向けたまま微動だにせず、竜もまた、唇を噛み締めて沈黙を守っていた。彼女のような理知的な個体が、驚きや悲しみの情動を表に出さないのはいつものことだ。だが、その内面ではかつてないほど狼狽していた。

 

竜: (驚いたな……。最悪、N・G・ライトの復活までは想定内だったが。英雄ジョーカードまでとは……)

 

 そんな張り詰めた静寂を破り、背後のハッチが開いた。

 ナギサに導かれ、ローラとディストがブリッジへと足を踏み入れる。

 

ディスト: 「皆! 久しぶり!」

 

 ディストの無邪気で元気な挨拶。だが、それに応える者たちの反応は、あまりにも冷ややかだった。

 

タイン: 「お……おう」

 

リーブ: 「ど……どうも」

 

 愛想の良さが取り柄のリーブやタインまでもが、ぎこちないリアクションに終始している。その異様な空気に、ディストは不思議そうに首を傾げた。

 

竜: 「早速ですが。この状況の説明をして頂けますか……?」

 

 竜が指差したモニター。

 ディストとローラがその光景を視界に収めた瞬間、二機は激しく動揺した。

 

ローラ: 「……なっ!?」

 

ディスト: 「ヴァ……ヴァレン?」

 

 夜空で舞う、忘れもしない背中。

 戦友との、あり得ない再会。

 戦士たちの混乱は、もはや制御不能なレベルまで膨れ上がろうとしていた。

 

 

――数分後。

 

 

リーブ: 「……という事は。ローラさんとディストさんがフユーンへ行かはった時には、N・G・ライトはもう復活しとって。ローラさんとディストさんが落ちる前には、まだヴァレンさんはおらへんかったっちゅー事ですか?」

 

ローラ: 「あぁ、そうだ」

 

 ディストとローラは、自分たちが天蓋で目撃した光景を、断片的な記憶を繋ぎ合わせて説明した。混乱が渦巻く中、ナギサがその淀んだ空気を切り裂くように言葉を挟んだ。

 

ナギサ: 「突如として再臨せし神と死神の姿……。それによって訪れし驚愕、動揺、困惑。……しかし。それですら、今の僕の抱く疑問を吹き飛ばすには至りはしないよ」

 

 ナギサの顔から、あの絶やすことのなかった爽やかな笑みが消えていた。彼としては極めて珍しい、剣呑(けんのん)なまでに真剣な表情。

 

ナギサ: 「……ワンダはどこだい?」

 

 その一言に、全員が弾かれたようにモニターを注視した。サーチライトに照らされる戦場。たしかに、そこに「青い天使」の姿はない。

 

ローラ: 「わ、妾たちが落ちる前には……確かにあそこにいたはずだが」

 

ディスト: 「まさか、N・G・ライトに……!?」

 

 ディストの最悪な推測を遮るように、竜がもう一つの「欠落」を指摘した。

 

竜: 「F・G・シャインもいませんね」

 

 N・G・ライトとヴァレンという、あまりに強烈な存在感に目を奪われていた。だが、この事件の元凶であるはずのシャインの姿もまた、空中要塞のどこにも確認できなかった。

 

タイン: 「おいおい……。俺は何が何だか、さり気にさっぱり分かんねーぞ」

 

 頭を抱えるタインを余所に、竜の演算回路は一つの冷徹な真実に辿り着いた。

 

竜: 「消えたのは、F・G・シャインとワンダさん。現れたのは、N・G・ライトとヴァレンさん。……消えた者の数は二。現れた者の数も二、ですね」

 

リーブ: 「そ、それって……」

 

レッド: 「………………」

 

ディスト: 「まさか……」

 

ローラ: 「……そういう事なのだろうな」

 

 ナギサが静かに目を閉じ、鎮魂歌を詠うように声を落とした。

 

ナギサ: 「神は舞い降りる。自らを欲する者の体を借りて。死神は舞い降りる。自らを殺した者の体を借りて」

 

タイン: (は? ……何言ってんだコイツら? さり気に意味ワカンネー)

 

 約一名の単細胞を除いて、その場にいた全員が、いま目の前で戦う者たちの「正体」を理解した。彼らはもはや、純粋なN・G・ライトでもヴァレンでもない。失われた友を、そして憎き敵を器とした、不吉な受肉体なのだ。

 

ディスト: 「で、どうする? どっちかに加勢するのかい?」

 

タイン: 「加勢するんならヴァレンだろ! あいつ、さり気にイイやつだもん」

 

 ディストとタインが、竜に詰め寄った。戦士として、この停滞した状況を力技で打破したいという本能。だが、竜のレンズに宿る光は、冬の月のように冷たく澄み渡っていた。

 

竜: 「いいえ。傍観します。……どちらも〝敵〟です」

 

 断固たる拒絶。

 かつての仲間さえも「敵」と定義する竜の冷徹な宣告が、ブリッジの熱を奪っていった。

 

 

―――空中要塞フユーン、天蓋。

 

ヴァレン: 「これはクリリンのぶん!!」

 

 ヴァレンが漆黒の翼を畳み、弾丸となってN・G・ライトの懐へ飛び込んだ。

 手に握った鎌剣は振るわず、敢えて剥き出しの「拳」を突き出す。これはかつて古の少年漫画で語られた復讐の叫び……ではなく実は、かつて人間の漫才師がネタにしていたフレーズであることはあまり知られていない。

 

ライト: 「クリリンに恨まれる覚えなど無い!!」

 

 神の冷徹な一喝。ライトは即座に反応し、右腕を畳一畳ほどの巨大な質量へと膨張させた。

 空を薙ぎ払う豪快な平手打ち。

 

 ―――ベ、シィィィィィィンッ!!

 

 ふざけた掛け合いとは裏腹に、凄まじい衝撃音が響き渡る。ヴァレンは正面からその一撃を浴び、機体を激しく軋ませながらも後方へ跳んだ。神の力の一端。致命傷には至らぬまでも、初弾の被弾は確実に彼の装甲に焦げ跡を刻んでいた。

 

ヴァレン: 「ケッ! 何気に冗談の通じないジジイだぜ!!」

 

ライト: 「ところで貴様……」

 

 ライトが、ゆっくりと片方の腕を持ち上げた。その指先が、静かにヴァレンの心臓(メダル)を捉える。

 機体全域から漏れ出す威圧感。空気がこれから起こる事態に怯えるように「ブルブル」と微細に震え、月光さえも歪んで見えた。

 

ライト: 「先程から〝ジジイ〟〝ジジイ〟とうるさいが……。神である私を、年寄り扱いするな!!」

 

 怒号。

 ライトの指先が眩い白光を放ったかと思うと、次の瞬間、それはすべてを飲み込む「闇」へと反転した。

 

ライト: 「サクリファイス――!!」

 

 ―――ド、ォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!

 

 問答無用の絶対破壊。

 不意を突かれたヴァレンは、回避のタイミングを完全に逸していた。彼は咄嗟に鎌剣を盾代わりにして衝撃を凌ごうとしたが、神の激昂を乗せた一撃はあまりにも重すぎた。

 

ヴァレン: 「なッ……!!?」

 

 防壁ごと押し出され、ヴァレンの機体はフユーンの天蓋へと叩きつけられた。

 ――バリバリ、ガラガラァッ!!

 強固な床板が砕け散り、ヴァレンの巨躯は要塞の内部構造へと貫通。崩落した屋根の瓦礫が、埋葬するように彼の機体を覆い尽くした。

 

ライト: 「……どうした。終わりか?」

 

 N・G・ライトは、サクリファイスの代償として消失した自らの片腕を、頭部パーツ『セオロジー』の輝きによって瞬時に再生させた。欠落が埋まり、白銀の威容が戻る。彼は冷ややかに、瓦礫の山を見下ろした。

 

ヴァレン: 「……いや~、何気にビックリしたねぇ~」

 

 ガラガラと音を立てて瓦礫が崩れ、漆黒の羽が再び隙間から突き出した。

 這い上がってきたヴァレンは、頭部のセンサーを不安定に明滅させながらも、相変わらずヘラヘラとした不気味な笑みを浮かべていた。

 

ヴァレン: 「ちょ~っとばかし痛かったが……。それが何気にエクスタシー♪」

 

ライト: 「貴様の言動は、本当に意味不明だ……」

 

 あきれ果てたライトの声が、夜の風に流される。

 死を覚悟した激突の只中でなお、茶番を続ける死神。そして、それに翻弄されながらも圧倒的な力を誇示する神。

 二機の「本気」が真に激突する瞬間は、まだ訪れていない。

 

 

 

第三十七話【困惑する者達、悪フザケする神々】終わり

 

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