第三十七話【困惑する者達、悪フザケする神々】
N・G・ライトの頭部――『セオロジー』が光を放つ。
先ほどの『サクリファイス』で失われていた左腕が、再び形を取り戻した。
ヴァレン:「ほいさぁー!!」
漆黒の翼が夜気を叩き、ヴァレンが天頂から急降下する。
L字型の鎌剣が、N・G・ライトの頭上へと振り下ろされた。
ライト:「……!」
ライトは両手を騎士剣のような形へ変え、その一撃を受け止める。
――キィィィィィィン!!
激しい金属音が夜空へ響いた。
ライト:「ほう……。そろそろ本気か?」
ヴァレン:「何気に馬鹿にしてんのかジジイ? まだまだ序の口だぜ!」
ヴァレンがさらに鎌剣を押し込む。
対するライトも、白銀の翼を僅かに羽ばたかせながら押し返した。
その時。
ライトが剣を交えたまま、空中で身体を水平へと傾けた。
さながら古のコミックに登場する、正義の味方のような姿勢。
直後。
その身体が勢いよく前転する。
鋭い脚部が、回転と共にヴァレンへ振り下ろされた。
ヴァレン:「のわっ!?」
ヴァレンが寸前でかわす。
そのまま大きく後退し、ライトとの距離を取った。
ライト:「ふぅ……。まったく、面倒な道化だ。〝あの人間〟と一緒にあの世で大人しくしていれば良いものを、わざわざ出て来おってからに……」
ヴァレン:「〝あの人間〟……? ………………クリリンのことか?」
ライト:「 全 然 違 う 」
ヴァレン:「クリリンの……」
ライト:「だから違うと……」
ヴァレン:「……事かああぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」
ヴァレンが天を仰いで絶叫する。
漆黒の翼が激しく広がった。
そしてヴァレンはスーパーサイヤ人になることは……なかった。
―
――大戦艦ノアの箱舟・ブリッジ。
ブリッジには、竜、タイン、レッド、リーブの四機がいた。
全員の視線は、前方のメインモニターへ向けられている。
そこに映っているのは、満月の下で戦い続ける、白翼のN・G・ライトと、黒翼のヴァレンだった。
タイン:「お、おい……これって……何だよ?」
リーブ:「N・G・ライトと……ヴァレンさん?」
レッドは黙ったままモニターを見つめている。
竜もまた、しばらく言葉を発しなかった。
竜:(驚いたな……。最悪、N・G・ライトの復活までは想定内だったが。英雄ジョーカードまでとは……)
その時、背後の入口が開いた。
ナギサに案内され、ローラとディストが入ってくる。
ディスト:「皆! 久しぶり!」
タイン:「お……おう」
リーブ:「ど……どうも」
ディスト:「……?」
妙にぎこちない二機の反応に、ディストが首を傾げる。
竜:「早速ですが。この状況の説明をして頂けますか……?」
竜がモニターを示した。
ローラ:「……なっ!?」
ディスト:「ヴァ……ヴァレン?」
ディストとローラが、揃って言葉を失う。
自分たちが天蓋から落ちる直前まで、そこにヴァレンはいなかった。
――数分後。
リーブ:「……という事は。ローラさんとディストさんがフユーンへ行かはった時には、N・G・ライトはもう復活しとって。ローラさんとディストさんが落ちる前には、まだヴァレンさんはおらへんかったっちゅー事ですか?」
ローラ:「あぁ、そうだ」
ローラとディストが、フユーンで起きたことを説明する。
ナギサ:「突如として再臨せし神と死神の姿……。それによって訪れし驚愕、動揺、困惑。……しかし。それですら、今の僕の抱く疑問を吹き飛ばすには至りはしないよ」
ナギサから、いつもの笑みが消える。
ナギサ:「……ワンダはどこだい?」
全員が、再びモニターを見る。
確かに。
そこにワンダの姿はなかった。
ローラ:「わ、妾たちが落ちる前には……確かにあそこにいたはずだが」
ディスト:「まさか、N・G・ライトに……!?」
竜:「F・G・シャインもいませんね」
その一言で、再び沈黙が訪れる。
N・G・ライト。
ヴァレン。
二機の存在があまりに強烈すぎて、誰もすぐには気づかなかった。
シャインも消えている。
タイン:「おいおい……。俺は何が何だか、さり気にさっぱり分かんねーぞ」
竜は、モニターを見つめたまま口を開く。
竜:「消えたのは、F・G・シャインとワンダさん。現れたのは、N・G・ライトとヴァレンさん。……消えた者の数は二。現れた者の数も二、ですね」
リーブ:「そ、それって……」
レッド:「………………」
ディスト:「まさか……」
ローラ:「……そういう事なのだろうな」
ナギサが静かに目を閉じる。
ナギサ:「神は舞い降りる。自らを欲する者の体を借りて。死神は舞い降りる。自らを殺した者の体を借りて」
タイン:(は? ……何言ってんだコイツら? さり気に意味ワカンネー)
タインを除いた面々は、一つの可能性へと辿り着いていた。
シャインの身体を使って、N・G・ライトが現れた。
そして。
かつてヴァレンを介錯したワンダの身体を使って、ヴァレンが現れたのではないか。
ディスト:「で、どうする? どっちかに加勢するのかい?」
タイン:「加勢するんならヴァレンだろ! あいつ、さり気にイイやつだもん」
ディストとタインが竜を見る。
だが。
竜:「いいえ。傍観します。……どちらも〝敵〟です」
竜は迷わず言い切った。
―
――空中要塞フユーン・天蓋。
ヴァレン:「これはクリリンのぶん!!」
ヴァレンが漆黒の翼を畳み、一気にライトへ突っ込んだ。
鎌剣ではなく、拳を突き出す。
これはかつて古の少年漫画で語られた復讐の叫び……ではなく、実はかつて人間の漫才師がネタにしていたフレーズであることは、あまり知られていない。
ライト:「クリリンに恨まれる覚えなど無い!!」
ライトの右腕が巨大な掌へと変わる。
――ベシィィィィィィンッ!!
豪快な平手打ちが、真正面からヴァレンを叩いた。
ヴァレン:「ぐおッ!?」
ヴァレンが弾き飛ばされる。
それでもすぐに体勢を立て直した。
ヴァレン:「ケッ! 何気に冗談の通じないジジイだぜ!!」
ライト:「ところで貴様……」
ライトがヴァレンを睨む。
ライト:「先程から〝ジジイ〟〝ジジイ〟とうるさいが……。神である私を、年寄り扱いするな!!」
ヴァレン:「そこ怒るのかよ!?」
ライトが左腕をヴァレンへ向ける。
眩い白光が、その腕を包み込んだ。
ライト:「サクリファイス――!!」
――ドォォォォォォォォォンッ!!
ヴァレン:「なッ……!!?」
ヴァレンが咄嗟に鎌剣で受け止める。
だが、勢いを殺し切れない。
そのままフユーンの天蓋へと叩きつけられた。
――バリバリ、ガラガラァッ!!
床を突き破り、ヴァレンの姿が要塞内部へ消える。
瓦礫が次々と崩れ落ち、その姿を覆い隠した。
同時に。
サクリファイスを放ったライトの左腕も崩れ落ちる。
ライト:「……どうした。終わりか?」
ライトの頭部――『セオロジー』が光を放つ。
失われた左腕が、再び形を取り戻した。
ヴァレン:「……いや~、何気にビックリしたねぇ~」
ガラガラと瓦礫が崩れる。
その隙間から、漆黒の翼が現れた。
傷だらけになったヴァレンが、いつもの薄笑いを浮かべながら這い上がってくる。
ヴァレン:「ちょ~っとばかし痛かったが……。それが何気にエクスタシー♪」
ライト:「貴様の言動は、本当に意味不明だ……」
ヴァレンが再び鎌剣を構える。
ライトもまた、蘇った左腕を下ろし、死神を見据えた。
悪フザケを続ける死神。
それに苛立ちながらも、圧倒的な力で応じる神。
二機の「本気」が真に激突する瞬間は、まだ訪れていなかった。
第三十七話【困惑する者達、悪フザケする神々】終わり