第三十八話【英雄】
傍観する。
かつての戦友ヴァレンと、N・G・ライト。
そのどちらも、今の自分たちにとっては敵。
竜の判断に、ディストは納得できずにいた。
ディスト:「お竜さん……傍観って、ただ黙って見てるだけだよね?」
竜:「はい……。見ているだけです」
ディスト:「なんでだよ!? じゃあ、僕たちは何をしにここまで来たんだ!!」
竜:「では逆にお尋ねします。今、ここで私たちがあの中へ乱入したとして……。一体どちらが『味方』なのですか?」
ディスト:「………………ヴァレン、じゃないの……?」
竜:「……人間一人の幸せのために、私たち全メダロットを無に還そうとした男が、味方ですか? それならば……同胞を愛するがゆえに過激な行動へ走ったN・G・ライトの方が、まだマシというものです」
ディスト:「で、でもさ!! 全てのメダロットを愛してるからって、ライトの方がマシっていうのも変じゃないかな!?」
ディストが竜へ詰め寄る。
ディスト:「会ったこともない、話したこともない。どこにいるかすら分からない誰かのために行動するなんて、僕には理解できないよ。……ヴァレンは確かに極端すぎた。でも……好きな人一人のために必死になって無茶しちゃう奴の気持ちの方が、僕は共感できるし……それが普通だと思うんだ!!」
竜:(……やれやれ、感情論ですか。ですが、一理ありますね……)
竜は少し考え、答えた。
竜:「そうですね……。身近な者と、世界中の見知らぬ者を天秤にかけた時。大切な一人の方へ心が傾いてしまう。それ自体は、ごく自然なことなのでしょう」
そして、モニターに映るN・G・ライトを見る。
竜:「……見知らぬ者すべてを等しく愛そうとし、その理念を絶対視すれば時に、ライトのような行動へ行き着くこともある。……だからこそ、私はどちらも味方とは判断できません」
ディスト:「う……うぅ……」
ディストは言葉に詰まる。
ディスト:「タ、タイン……!」
助けを求めるようにタインを見る。
だが、タインは腕を組み、モニターに映る二機の戦いをじっと見つめていた。
タイン:「
ディスト:「えっ?」
タイン:「これはヴァレンとN・G・ライト……二人だけの、魂を懸けた漢の戦いだぜ。……この勝負を邪魔することは、俺はさり気に認めねぇ」
ディスト:「そ、そんなぁ……」
その時。
レッド:「…………コスモス…………」
リーブ:「え?」
ずっと黙っていたレッドが、静かに口を開いた。
レッド:「…………目的…………」
コスモス。
目的。
それだけで、リーブには十分だった。
リーブ:「……せやな。レッドさんの言う通りや。僕らがここまで来た一番の目的は、コスモスさんを取り戻すことや!」
ナギサ:「おや? 皆の心の中にはコスモスしかいないのかい……? もしそうだとすれば、僕は悲しみの空へ投げ出されてしまうことになるね」
ローラ:「ワンダも……だな」
竜:「その目的を果たす上では……ヴァレンさんも、N・G・ライトも、障害になり得ます。……ディストさん、分かってください」
ディストは俯いた。
完全には納得できない。
ヴァレンを敵だと思いたいわけでもない。
それでも今は、コスモスとワンダを取り戻さなければならない。
ローラ:「ディスト……」
ディストが顔を上げる。
ローラは静かに彼を見つめていた。
その表情は、いつもより少しだけ穏やかだった。
ディスト:「…………」
ディストは拳を握る。
ディスト:「分かったよ……。コスモスとワンダのために……。N・G・ライトと、ヴァレン……。二人を『敵』だと……思うようにするよ」
―
――空中要塞フユーン上空。
ヴァレン:「ところでN・G・ライト。バグ技で『けつばん』を作る方法、何気に知りたいか?」
ライト:「 ど う で も い い わ ! ! 」
満月の下。
死闘を繰り広げているはずの二機だったが、ヴァレンの悪フザケは止まらない。
ライト:「神である私にとって、この戦いは無意味だ。……そろそろ、目的を遂行せねばならぬ」
ヴァレン:「じゃあ、さっさとオレに斬られろよ♪」
ヴァレンが笑いながら鎌剣を振るい、ライトへ飛び込む。
ライト:「……だが。本気でない貴様に、後れを取るつもりも無い!」
ライトが一気に加速した。
右腕の一撃が、ヴァレンの腹部へ直撃する。
ヴァレン:「グッ……!!」
ヴァレンが大きく吹き飛ばされる。
だが、漆黒の翼を広げ、空中で体勢を立て直した。
ヴァレン:「ヘッ……。さっきから何気にポカスカ殴ってくれちゃってよ。……悪いが、全部何気にエクスタシーだぜ」
ライト:「…………」
ライトがため息をつく。
そして、自らの胸元へ手を添えた。
ライト:「貴様にも、目的があるのではないか? ――〝この女〟に、かつての貴様の姿を重ねて、興味が湧いたのではないかな?」
ライトの身体となっている、F・G・シャイン。
N・G・ライトを復活させるために狂奔し、最後には自らの身体さえ差し出した女。
その姿は、たった一人のために世界すら敵に回したヴァレンと、どこか似ていた。
ヴァレン:「興味~? 馬鹿言ってんじゃねえよ。……オレの興味を何気に惹くのは、愛しの妻……」
ヴァレンが鎌剣を構える。
ヴァレン:「……宝条ルクただ一人だ!!」
ヴァレンが鎌剣をライトへ投げつけた。
ライトが僅かに身体をずらしてかわす。
その背後。
色彩豊かな巨大なトランプが現れた。
鎌剣がその中へ吸い込まれる。
ヴァレンが指を鳴らす。
次の瞬間。
鎌剣は再びヴァレンの手元へ戻っていた。
そしてヴァレンは、純白の左腕を掲げる。
薬指には、銀色のリングが鈍く光っていた。
ライト:「……フン。その迷惑な女のお陰で、全メダロットが消えかけたというのに」
ヴァレン:「何気に言い方悪いな、お前」
ライト:「だが、神である私はここで、貴様との共通点を見出したぞ。……貴様も悟ったのだろう? 人間とメダロットの共存は不可能だ。いずれにせよ、どちらかが消える運命なのだとな」
ヴァレン:「人類だのメダロットだの……何気に興味ねぇよ。どっちも勝手に滅んどけ」
ライト:「…………」
ヴァレンが翼を広げる。
ヴァレン:「ルクが幸せなら、何気にそれだけでいいのさ!!」
急降下。
一直線にライトへ迫る。
ライト:「愚かな……」
ライトはその一撃をかわした。
そして。
無防備になったヴァレンの背中へ右腕を叩き込む。
ライト:「デストロイッ!!」
――ドォンッ!!
ヴァレン:「ぐッ……!!」
ヴァレンの身体が真下へ叩き落とされる。
そのままフユーンの天蓋を突き破った。
――バガァァァァンッ!!
崩れた天蓋から瓦礫が落ちていく。
ライトは、その穴を見下ろした。
ライト:「どうした? ……〝ラヴドの英雄ジョーカード〟」
その時。
暗い穴の奥から。
ヴァレン:「……俺を、その名前で呼ぶな」
低い声が響いた。
――バガァァァァンッ!!
瓦礫が吹き飛ぶ。
漆黒の翼が、再び夜空へ躍り出た。
ヴァレンが天蓋へ戻ってくる。
先ほどまでの薄笑いは、消えていた。
ヴァレン:「〝ラヴドの英雄ジョーカード〟は……二年前、何気に死んだぜ」
ヴァレンが鎌剣を強く握る。
ヴァレン:「今、お前の目の前にいるのは……」
その声に。
いつものふざけた調子はない。
ヴァレン:「〝宝条ルクただ一人の英雄、ヴァレン〟だッ!!!」
ヴァレンの姿が消えた。
ライト:「……ほう。それは失礼したな」
ライトが不敵に笑う。
次の瞬間。
二機は、同時に加速した。
――ズドドドドォォォォォォォォンッ!!
満月を背に、
凄まじい爆音と光が夜空を埋め尽くした。
その衝撃だけでフユーンが大きく揺れ、周囲を飛ぶノアの箱舟さえ押し退けられる。
たった二機のメダロットによる激突。
それはまるで、小国と小国が全戦力をもってぶつかり合う「戦争」のようだった。
決着の
第三十八話【英雄】終わり