第四話【離脱】
――新たに建設された、ラヴド国本部。
真新しい通路には、激しい戦闘の跡が残されていた。壁には銃撃の痕が刻まれ、床には破壊された兵士たちが倒れている。
ジーヴァス:「ケッ!歯ごたえのない奴らだゼ!!」
ジーヴァスは右腕のライフル『スコッチ』から白煙を上げながら、吐き捨てるように言った。
その足元には、つい先ほどまで通路を守っていたラヴド兵たちが倒れていた。
マイル:「所詮、一般兵なんてこんなもんだなぁ。」
マイルは左腕のハンマー『ブロウパイプ』を肩に担ぎ、周囲を見渡した。
二機の攻撃を前に、守備隊は次々と倒されていた。
その中央では、シャインがあぐらをかいた姿勢のまま宙に浮いている。背後に並ぶ八本の赤い柱からは、炎が揺らめいていた。
シャイン:「クククク…さあこの扉の向こうに神様が待っているよ」
三機は行く手を阻む兵士たちを退けながら、さらに奥へと進んでいった。
侵入から、二時間。
幾重もの防衛網を突破し、ようやく最深部の防護扉の前へ辿り着いた。
この先に、白メダリアが保管されているはずだった。
シャインが操作パネルへ指先を伸ばす。
重い鋼鉄の扉が、ゆっくりと開いた。
しかし、部屋の中央に置かれたクリスタル製の器は、空だった。
シャイン:「無い……!?」
三機が室内を見回す。
そのとき、背後から足音が聞こえてきた。
ブラックメイル:「馬~鹿!ひっかかりやがったぁ~…なッ。」
振り返ると、そこにはブラックメイルが立っていた。
その隣には、ラヴド国王ビーストマスターの姿もある。
ビーストマスター:「本来ならここに来るまでに、5回は暗証番号入力が必要な扉があったのですが、全て解除しておきました。…貴方達を誘い出すためにね。」
シャインは二機を見つめた。
自分たちがここまで容易に進めたのは、最初から誘い込まれていたからだったのか。
ジーヴァス:「おい!!テメーら!!神様を……白メダリアをどこにやりやがった!!?」
ジーヴァスが怒鳴る。
ビーストマスターは落ち着いた様子で答えた。
ビーストマスター:「白メダリアならば昨日、安全な場所に移しましたよ。あなた達が来る事を予想していたのでね。」
だが、それは嘘だった。
つい一時間前まで、白メダリアはこの部屋に保管されていたのである。
―
――一時間ほど前。
ラヴド本部の最深部。
白メダリアが収められたクリスタル製の器の前に、ビーストマスター、ブラックメイル、そしてトゥルースの三機が集まっていた。
ビーストマスターは保管室の隔壁を解除し、白メダリアを慎重に取り出した。
そして、トゥルースの長であるデュオカイザーへ手渡す。
ビーストマスター:「貴方達トゥルースはこの白メダリアをもってここから一旦離脱してください。そして出来れば、その後連絡を下さい」
デュオカイザーが肩のあたりから伸びる突起を使って白メダリアを受け取った。
そのとき、それまで黙っていたセルヴォが口を開いた。
セルヴォ:「さて、そいつは『ただのお願い』か?それとも『任務』か?」
トゥルースは、エデン国女王直下の諜報部である。
他国の王であるビーストマスターが、彼らへ一方的に命令できるわけではない。
しかし、エデン国とラヴド国には、どちらかの王に何かあった際には互いに協力するという、同盟上の取り決めがあった。
今回のコスモスのメダル強奪は、その対象となる事件である。白メダリアの移送も、両国の協力に基づく正式な任務として扱うことができた。
ビーストマスターは、セルヴォの問いに答える。
ビーストマスター:「……任務です。」
セルヴォは小さく頷いた。
彼にとって重要なのは、今回の行動が単なる善意による協力ではなく、正式な任務であることだった。
そのうえで、何をどこまで引き受けるのか。
任務の範囲は、明確にしておく必要がある。
セルヴォ:「さて、だったら引き受けてやるよ。『白メダリアと共にここから離脱』……それだけだな。」
セルヴォはデュオカイザーとビートへ目配せすると、部屋を出ていった。
三機は白メダリアを携え、非常警報の鳴り響く通路を走る。
その途中、ビートが隣を走るセルヴォへ声をかけた。
ビート:「相変わらず面倒な美学だな」
セルヴォ:「さて、重要な事だろ?任務以外のおまけなんて必要無い。任務を完璧にこなすのが……
セルヴォはそう答え、さらに速度を上げた。
彼らに与えられた任務は、白メダリアと共にこの場所から離脱すること。
今は、それを確実に遂行するだけだった。
―
――再び、現在。
白メダリアの保管室では、シャインたち三機がビーストマスターとブラックメイルに向き合っていた。
マイル:「他の場所……厄介だなぁ。怪しいところを虱潰しに調べていくしかないぞぉ、シャイン?」
シャイン:「クククク…そのようだね。でもまずはここから離脱するのが先かな?」
三機が撤退しようとした、そのときだった。
ブラックメイル:「おいおい……お前らこの状況下で離脱する気なのぉ~…かッ?」
ブラックメイルが、二機の前へ踏み出した。
同時に、ビーストマスターの脚部『スパゲティ』が動いた。
脚部からワイヤー状のケーブルが伸び、三機へ向かって放たれる。
――シュルルッ、バキィィィィィンッ!
ケーブルはシャイン、ジーヴァス、マイルの身体へ巻きつき、三機を一まとめに縛り上げた。
自由を奪われた三機の前で、ブラックメイルが腕を掲げる。
その全身から、漆黒の霧のような『ゴースト』が広がり始めた。
ブラックメイル:「…………散ぃ~…れッ!!」
ジーヴァスが咄嗟に頭部パーツ『フォーリー』を発動する。
デストロイによって迫るゴーストを相殺しようとしたが、攻撃を完全に防ぐことはできなかった。
――ド、オォォォォォォォォォンッ!!
激しい衝撃が室内に広がった。
拘束された三機の装甲が軋み、内部のフレームにも大きな負荷がかかる。
ジーヴァスとマイルは、まともに攻撃を受けていた。
シャインも損傷を負いながら、どうにか顔を上げる。
シャイン:「……ク、クク……甘いよ……!!」
シャインは左腕の『クサナギソード』を振るった。
鋭い刃が、三機を拘束していたケーブルを切断する。
自由を取り戻したものの、三機の損傷は大きかった。このままでは、逃げ切ることも難しい。
だが、シャインにはまだ手段が残されていた。
彼女は右腕の『ヤサカニボール』を掲げる。
シャイン:「クククク…僕のモチーフとなった天照大神は太陽の化身さ。全ての生命に癒しを与える光の塊……」
右腕から、眩い光が放たれた。
その光がシャインとジーヴァス、マイルの三機を包み込む。
ひしゃげた装甲が元の形へ戻り、損傷した内部のケーブルも修復されていった。
ビーストマスターが咄嗟にビームを放つ。
しかし、三機は既に回復を終えていた。
シャイン:「『オクトバーン』……焼き尽くせ!!」
シャインの背後に並ぶ八本の赤い柱から、炎が噴き出した。
たちまち保管室は火の海となり、黒煙が周囲の視界を遮る。
三機はその炎と煙に紛れ、部屋から逃げ出した。
ブラックメイルが追いかけようとする。
だが、ビーストマスターが彼を呼び止めた。
ビーストマスター:「ブラックメイルさん。彼らよりもまず、この部屋の消火を先にしなければ」
ブラックメイル:「あぁ!?何を呑気な事言ってやがる!あいつら、逃げちまうんだぞぉッ!!」
ブラックメイルが振り返る。
ビーストマスターは、落ち着いた様子で彼へ耳打ちした。
ビーストマスター:「大丈夫です。スパゲティで縛ったとき、ジーヴァスに発信機をつけておきました。」
ブラックメイルは、思わずビーストマスターの顔を見た。
白メダリアは既に移送され、敵の一機には発信機が取り付けられている。
ビーストマスターは、次の手を打っていたのである。
第四話【離脱】終わり