REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第四話【離脱】

第四話【離脱】

 

 

 建設されたばかりの『ラヴド国』本部。かすかにオイルの香りが残る真新しい壁面は、今や激しい放電とひしゃげた金属の軋みによって、その威容を無残に損なわれていた。

 

ジーヴァス: 「ケッ!歯ごたえのない奴らだゼ!!」

 

 ジーヴァスが、右腕の『スコッチ』から排熱の白煙を上げながら吐き捨てた。彼の足元には、数瞬前まで誇り高く通路を守っていたラヴド兵たちが、装甲を焼き切られて物言わぬ鉄屑と化している。

 

マイル: 「所詮、一般兵なんてこんなもんだなぁ。」

 

 マイルが、左腕の重厚なハンマー『ブロウパイプ』を肩に担ぎ、冷ややかに周囲を見渡す。一撃ごとに大気を震わせる彼の暴力的な格闘性能の前では、熟練の守備隊ですら「紙」に等しかった。

 

 その中央。八本の火柱を背負い、あぐらをかいた姿勢で優雅に宙を漂うシャインは、ギラギラと光る目を最深部へと向けた。

 

シャイン: 「クククク…さあこの扉の向こうに神様が待っているよ」

 

 三機は邪魔な兵士たちを、まるで自らに集る羽虫のように軽くいなしながら突き進んだ。侵入からわずか二時間。あらゆる防衛網を力技でねじ伏せ、ついに彼らは禁忌の至宝――『白メダリア』が安置されている最深部の重厚な防護扉の前へと辿り着いた。

 

 今、この扉を開ければ、かつて世界を統べた「神」の断片が放つ、神々しい輝きを拝めるはずだった。

 だが、シャインがその白い指先を操作パネルへ滑らせ、厚さ数メートルの鋼鉄が唸りを上げて開かれた瞬間、そこに広がっていたのは期待していた「光」ではなかった。

 

 部屋の中央。本来であれば、白メダリアが収められているべきクリスタル製の器は、無慈悲なほどに空虚だった。

 

シャイン: 「無い……!?」

 

 シャインの音声出力が驚愕に揺れる。三機が困惑と殺気を募らせ、殺風景な室内を見渡したその時だった。背後の闇から、乾いた金属の足音が重なった。

 

ブラックメイル: 「馬~鹿!ひっかかりやがったぁ~…なッ。」

 

 暗がりに浮かび上がったのは、不敵な笑みを湛えた漆黒の悪魔――ブラックメイル。そして、その隣には多脚の脚部を静かに蠢かせ、王としての絶対的な威圧感を放つビーストマスターの姿があった。

 

ビーストマスター: 「本来ならここに来るまでに、5回は暗証番号入力が必要な扉があったのですが、全て解除しておきました。…貴方達を誘い出すためにね。」

 

 その言葉は、冷徹な勝利の宣告だった。シャインは弾かれたように振り返り、冷酷な黄金の眼差しを二機へと突き刺した。自分たちが「無双」していた二時間は、この二機の掌の上で踊らされていた時間に過ぎなかったのか。その屈辱に、彼女の背後の火柱が激しく燃え上がる。

 

ジーヴァス: 「おい!!テメーら!!神様を……白メダリアをどこにやりやがった!!?」

 

 怒声と共に詰め寄るジーヴァス。ビーストマスターは微動だにせず、感情を削ぎ落とした無機質な声で答えた。

 

ビーストマスター: 「白メダリアならば昨日、安全な場所に移しましたよ。あなた達が来る事を予想していたのでね。」

 

 ビーストマスターは、一点の曇りもない声音で「昨日」と言い放った。だが、それは嘘。

 つい一時間前まで、白メダリアはこの部屋で眩い拍動を繰り返していたのだ。

 

 

 ―

 

 

 時間を一時間ほど遡る。

 静まり返った最深部、白メダリアが収められたクリスタル製の器の前に、ラヴドの頂点とエデンの暗部が一堂に会していた。

 無機質な音を発する冷却システムが、室内の緊張感をより鋭利に研ぎ澄ませていく。

 

 ビーストマスターは、迷いのない手つきで最後の一枚となる隔壁のロックを解除した。

 中から現れたのは、究極の結晶体。かつて人類を終わらせた力の断片。

 ビーストマスターはその珠を慎重に取り出すと、トゥルースの長、デュオカイザーへと手渡した。

 

ビーストマスター: 「貴方達トゥルースはこの白メダリアをもってここから一旦離脱してください。そして出来れば、その後連絡を下さい」

 

 デュオが肩のあたりから伸びる突起を器用に操り、メダリアを受け取り、不敵な笑みを浮かべて翻身しようとした、その時だ。

 それまで沈黙を守っていたセルヴォが、特有の軽薄さを削ぎ落とした、真剣な問いを王へ投げかけた。

 

セルヴォ: 「さて、そいつは『ただのお願い』か?それとも『任務』か?」

 

 本来、トゥルースはエデン直属の諜報機関である。

 他国の王であるビーストマスターの命に従う義理もなければ、その臣下でもない。

 依頼を「温情」や「友情」という曖昧な言葉で受け入れることは、彼らプロフェッショナルの流儀が許さなかった。

 

ビーストマスター: 「……任務です。」

 

 ビーストマスターは一秒の躊躇もなく言い切った。

 セルヴォとて、このタイミングでN・G・ライトが復活すれば、世界が再び混乱の渦に沈むことは理解しているはずだ。

 重要なのは「なあなあの関係」にしない事。

 飽くまでもこれはエデン女王コスモスからの「任務」と定義することで、今日まで平和を作り上げてきた『二大国家体制』を維持する

 ……実態はどうであれ。

 

セルヴォ: 「さて、だったら引き受けてやるよ。『白メダリアと共にここから離脱』……それだけだな。」

 

 セルヴォのレンズに満足げな光が宿った。彼はデュオ、ビートに目配せをすると、音もなく部屋から駆け出していった。

 非常警報の鳴り響く通路を、風を切り裂きながら疾走する影。背後でビートが、隣を走る相棒に声をかける。

 

ビート: 「相変わらず面倒な美学だな」

 

セルヴォ: 「さて、重要な事だろ?任務以外のおまけなんて必要無い。任務だけを完璧にこなすのが……プロフェッショナルだ」

 

 背後に残した王の信頼も、地平線の向こうから迫る死神の如き襲撃者も、今の彼らにとっては「任務の障害」に過ぎない。

 白メダリアを守り抜き、この戦場を離脱する。

 ただそれだけのことが、彼らにとっての絶対的な正義であった。

 

 

 ―

 

 

 再び、現在。白メダリアという「目的」を失い、静まり返った最深部の保管室。

 

マイル: 「他の場所……厄介だなぁ。怪しいところを虱潰しに調べていくしかないぞぉ、シャイン?」

 

シャイン: 「クククク…そのようだね。でもまずはここから離脱するのが先かな?」

 

 三機が撤退の予備動作に入ろうとした刹那、背後の闇が物理的な殺気と共に膨れ上がった。

 

ブラックメイル: 「おいおい……お前らこの状況下で離脱する気なのぉ~…かッ?」

 

 ブラックメイルの挑発が耳を打つのと同時だった。

 ビーストマスターの多脚部『スパゲティ』が、まるで意志を持つ鋼の蛇となって爆発的に伸長した。

 

 ―――シュルルッ、バキィィィィィンッ!

 

 高強度のワイヤーケーブルが、逃げ場のない室内でシャイン、ジーヴァス、マイルの三機を強引に一まとめに縛り上げる。

 

 自由を奪われた三機の視界の先、漆黒の悪魔がその腕を天へ掲げた。

 ブラックメイルの全身から、光を吸い込むほどに濃厚な漆黒の霧――怨嗟の質量である『ゴースト』が解き放たれる。

 

ブラックメイル: 「…………散ぃ~…れッ!!」

 

 ジーヴァスが頭パーツ『フォーリー』によるデストロイで迫りくる闇を相殺しようと抗う。

 しかし、ラヴド最凶の格闘機が放つ一撃はあまりにも重すぎた。全力を持ってしても、絶望の奔流を僅かに減じるのが精一杯だった。

 

 ―――ド、オォォォォォォォォォンッ!!

 

 轟音と共に、凄まじい衝撃波が室内に吹き荒れた。

 強固な装甲が軋み、内部フレームに致命的な負荷が走る。

 三機の音声スピーカーが激しくノイズを発し、機体からオイルの飛沫が舞った。

 

 だが、その地獄のような爆煙の中で、シャインの瞳だけが冷徹な光を失っていなかった。

 

シャイン: 「……ク、クク……甘いよ……!!」

 

 シャインは損傷に耐えながら、左腕の『クサナギソード』を一閃させた。鋭利な手刀が、自らを縛る高テンションのケーブルを音もなく断ち切る。

 拘束から逃れたものの、三機の身体は既にボロボロだ。このまま逃げ切ることは不可能に思われた。

 だが、シャインは静かに、その右腕『ヤサカニボール』を天に掲げた。

 

シャイン: 「クククク…僕のモチーフとなった天照大神は太陽の化身さ。全ての生命に癒しを与える光の塊……」

 

 瞬間。

 保管室に、もう一つの「太陽」が降臨した。

 右腕から放たれた眩いばかりの黄金の光が、三機の傷ついた機体を慈しむように包み込む。ひしゃげた装甲が魔法のように形を取り戻し、断裂したマッスルケーブルが瞬時に再結合していく。

 ビーストマスターが咄嗟にビームを放ち、その「回復」を阻もうとしたが、既に治癒を終えた三機の反応はそれを上回っていた。

 

シャイン: 「『オクトバーン』……焼き尽くせ!!」

 

 シャインの背後に並んだ八本の赤い柱から、咆哮と共に紅蓮の業火が噴き出した。

 保管室は一瞬にして逃げ場のない火の海と化し、酸素が奪われ、猛烈な黒煙が視界を完全に遮断する。その炎のカーテンに紛れ、三つの影は爆音と共にその場から消失した。

 

 ブラックメイルが、熱風を突っ切り追いかけようと一歩踏み出した。しかし、その肩をビーストマスターの冷徹な制止が止めた。

 

ビーストマスター: 「ブラックメイルさん。彼らよりもまず、この部屋の消火を先にしなければ」

 

ブラックメイル: 「あぁ!? 何を呑気な事言ってやがる! あいつら、逃げちまうんだぞぉッ!!」

 

 激昂するブラックメイル。だが、ビーストマスターは微塵も揺らがず、相棒の耳元で密かに、けれど確信に満ちた声を囁いた。

 

ビーストマスター: 「大丈夫です。スパゲティで縛ったとき、ジーヴァスに発信機をつけておきました。」

 

 燃え盛る炎の中、王の瞳には既に「次なる一手」が映し出されていた。

 

 

第四話【離脱】終わり

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