REAPPEARANCE   作:土地_0000

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第四十話【感謝して敬え】

第四十話【感謝して敬え】

 

 

 

 ジ・バク――。

 それはかつてコスモスが全存在を懸けて放った、自身の体を触媒とする究極のメダフォース。だが、その原典は、彼女の器となったメダルの本来の持ち主――N・G・ライトの記憶の中にこそ刻まれていた。

 白メダリアという「力」の半分を失った状態から生まれたコスモスが使えたのなら、神である彼がそれをより高次元に使いこなすのは、理の当然であった。

 

 そして、今。

 

ライト: 「ジ・バク!!」

 

 ライトの黒き片腕から、逃れようのない重圧が解き放たれた。

 ヴァレンの目にも映らぬ神速。白銀の軌跡を描き、ライトの拳がヴァレンの腹部を真っ向から捉えた。

 

 刹那。

 

 ―――ッ。

 

 爆ぜた。

 だがそれは、辺りに閃光や轟音を撒き散らすような、拡散型の爆発ではなかった。破壊の全エネルギーを標的の内部一点にのみ閉じ込め、物質を分子レベルで崩壊させる、桁外れの凝縮火力。

 これまでライトの猛攻を浴びても「エクスタシー♪」と不敵に笑ってのけた死神も、この一撃には耐えられなかった。

 

ヴァレン: 「……が、……は…………っ!!」

 

 装甲に黒い(すす)を焼き付け、ヴァレンの機体は高度を失い、空中要塞フユーンの天蓋へと力なく墜落した。

 無惨に大の字となって横たわるヴァレンの傍らへ、白銀の羽を休ませながらN・G・ライトが悠然と降り立った。

 

ライト: 「この程度か」

 

ヴァレン: 「へ……んッ。……な……にげ……に……まだま……ださ」

 

 ライトの存在を至近距離に感じ、ヴァレンはかろうじて意識の断片を繋ぎ止めた。思うように動かぬ身体を無理やり突き動かし、ひしゃげた装甲を軋ませながら立ち上がろうとする。

 

 だが、神に慈悲など無かった。

 ライトは一切の容赦なく、追い打ちの拳を振るった。先ほどまでなら軽々とかわしていたはずの速度。しかし、深手を負ったヴァレンはその打撃をまともに浴び、再び床へと叩き伏せられる。

 

 それでも、ライトの蹂躙は止まらない。

 彼はヴァレンの頭部を乱暴に掴み上げると、自らの眼線の高さまで持ち上げ――そのまま一気に、鋼鉄の床へと叩きつけた。

 

ヴァレン: 「グアッ……!」

 

 衝撃が基盤を揺らす。ライトはさらにその右手の人差し指を、鋭利なレイピアの如く細く尖らせた。

 

 ―――グシャリ。

 

 冷徹な一刺。

 黒き指先が、ヴァレンの左胸の装甲を容易く貫通し、深々とその内面へと突き刺さった。

 

ヴァレン: 「……ッ!!」

 

 声にならない絶叫。ヴァレンは自身の胸を貫く「黒い釘」を引き抜こうと、震える手でそれを掴む。だが、限界を迎えた彼の力では指先一つ動かすことさえ叶わず、ただ虚しく串刺しにされ続けていた。

 

ライト: 「粋がったところで、この程度か。……失望したぞ、死神」

 

 ライトは、獲物を解剖するかのような最上級の軽蔑を込めて見下ろし、吐き捨てた。

 

ライト: 「さっさと帰れ。……あの狂った女の所へな」

 

 トドメの一撃を放つべく、ライトが空いた方の腕を高く振り上げた、その瞬間だった。

 

ヴァレン: 「…………なんつった?」

 

 ヴァレンの目に、濁った燐光が戻った。

 だがそれは、希望や勇気などといった輝きではない。深淵の底で煮え滾る、どす黒い『怒り』の炎。

 

ヴァレン: 「狂った……女……? ……誰が……だ?」

 

 ライトは不気味なほどの静寂を湛えたヴァレンを見下ろし、冷淡に言葉を重ねた。

 

ライト: 「無論、宝条ルクだ」

 

 その名を、神が口にした刹那。

 ヴァレンは、自らの胸を貫いていた黒い釘を――ライトの指を、自力で、力任せに引き抜いた。

 火花を散らしながら、彼はそのまま夜空へと舞い上がる。

 

ヴァレン: 「………………」

 

 無言。

 これまでどれほどの窮地にあっても減らず口を叩き続けていた道化が、一切の音声を絶った。

 その代わりに、砕けかけた仮面の奥に宿る死神(ヴァレン)の形相だけが、剥き出しの殺意を雄弁に物語っていた。

 

 

 ヴァレンは一気に急降下を開始した。

 手に握るは、禍々しき燐光を放つL字型の鎌剣。一切の言葉を捨て、ただ眼前の「不条理」を断ち切るためだけの、最短にして最速の軌道。

 

ライト: (……芯まで凍るような、禍々しき殺気か。相変わらず分かり易い男だ)

 

 ライトは冷静にヴァレンの斬撃を受け流し、カウンターの連撃を放つ。だが、覚醒したヴァレンの機動は、ライトの演算予測を僅かに、けれど確実に凌駕し始めていた。激突。黒き閃光と白銀の火花が夜空で交差し、ヴァレンは下方へ、ライトは上方へと吹き飛ぶ。

 

ヴァレン: 「……人類を滅ぼすだの、メダロットを消滅させるだの……。そんなことよりも何気に重い罪が、この世にはあるんだよ」

 

 低く、震えるような声が、夜風に乗ってライトの受信センサーに届く。ヴァレンは上昇しながら、空いた方の腕を無造作に振り払った。

 

 ―――シュ、ゥゥゥゥンッッ!!

 

 虚空から湧き出すようにして、数百枚に及ぶ巨大なトランプが実体化した。カードは意思を宿したように展開し、N・G・ライトを全方位から封じ込める鋼鉄の檻と化した。

 

ヴァレン: 「……それは、宝条ルクを侮辱することだッ!!!」

 

 ヴァレンの姿が、一瞬にして消失した。

 

 直後。ライトを取り囲むトランプの一枚から、ヴァレンが弾丸の如き速度で飛び出す。

 一閃。神の装甲を深く切り裂き、そのまま対角線上にある別のカードの中へと吸い込まれるように消える。そして次の瞬間には、また別の死角から現れては一太刀――。

 

 ――ズバァッ!! ズバァァァッ!!

 

 空間転送を極限まで加速させた、全方位同時斬撃。

 神の盾さえも間に合わぬ、執念の連撃がN・G・ライトの身体に刻まれていく。幾度もの重い衝撃が繰り返された後、ヴァレンはトランプの檻の頂点へと跳ね上がった。

 

ヴァレン: 「うおぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁあああッッッッ!!!!!」

 

 全体重を乗せた、渾身の最後の一撃。

 

 ―――ド、オォォォォォォォォンッ!!!!!

 

 勝負は決した。

 いかにN・G・ライトといえど、この怒りの奔流を完全に殺しきることはできなかった。致命的なダメージを負った巨躯から光が漏れ、浮遊していた数百のトランプは、力を失った花びらのようにヒラヒラと夜空へと散っていく。

 

ライト: 「フム……。流石だな、何気なるギャンブラーよ」

 

 ライトは依然として平然と滞空していたが、その装甲の隙間からは激しい放電が止まらない。

 どれほどの瀕死に追い込まれようとも、普段と何一つ変わらぬ王者の風貌。それこそが、神と自称した男の真の「強さ」であった。

 

ヴァレン: 「うるせぇよ……。この手抜きジジイ」

 

 舞い散るトランプの残骸の中、ヴァレンはフユーンへと着地した。

 再び口を開いた彼の声には、いつもの皮肉めいた調子が戻っていた。ライトは僅かに口角を上げ、茶目っ気のある笑みを浮かべる。

 

ライト: 「フハハハ……。……バレたか」

 

 ヴァレンは沈黙したままライトを睨みつけたが、すぐに踵を返した。

 背中を向けた瞬間、誰にも見えぬところで、ヴァレンはフッ……と静かに口端を緩ませた。

 

ライト: 「一つ、貴様のあの女に対する愛だけは認めてやろう。……感謝して敬え」

 

 ヴァレンは背中越しに、N・G・ライトの言葉を聞いていた。歩みを止めることはなかったが、その耳は、かつての宿敵が遺した最期の肯定を、確かに(メダル)へと刻み込んでいた。

 

ライト: 「しかし。神である私の、人間やメダロットに対する考えが変わったわけではないぞ。神である私の信念は、常に変わらぬ……」

 

 ライトは正面で両腕をクロスさせ、黒き手を巨大化させた。そして、その掌で自らの身体を慈しむように包み込むと、天を仰いで高らかに叫んだ。

 

ライト: 「全てのメダロットに愛を!!」

 

 丁度その時だった。西の地平線に月が沈み、東の空から鋭い朝日の光が差し込んだのは。

 黎明の光に触れた瞬間、N・G・ライトの機体を眩い白光が包み込んだ。あまりの光量にその姿が一切見えなくなったかと思うと、直後、その輝きは霧散するように消失した。

 

 神の再臨は、夜の終わりと共に幕を閉じた。

 空中に残されたのは、意識を失い、力なく落下を開始したF・G・シャインの身体。ヴァレンは朝日を背に、逆光の中でその光景を見つめながら、ぽつりと呟いた。

 

ヴァレン: 「お前のメダロットに対する愛だけは、何気に認めてやるよ。……感謝して敬え」

 

 ―――ガシャンッ!!

 

 重厚な衝突音と共に、シャインの機体がフユーンの天蓋へと墜落した。その衝撃で、器となっていた彼女の腹部から一片の結晶が弾け飛び、空中要塞の外――遥か眼下の砂漠へと吸い込まれていく。

 

ヴァレン: 「……!? ヤバッ! コスモスのメダルが!!」

 

 ヴァレンが慌てて翼を広げようとした、その刹那。遥か上空、雲の切れ間から一筋の白い閃光が突き抜けた。

 

カヲス: 「任せろ……」

 

 地を這うような低い、けれど安堵を含んだ声。カヲスは弾丸のような速度で降下し、落下するコスモスのメダルを空中で優しく、確実に受け止めた。

 

 そのまま最愛の半身を抱いて、静かに戦場を離脱していく。ヴァレンはそれを見送り、大きく息を吐き出した。

 

ヴァレン: 「……ふぅ。う~ん、とってもナニゲラス♪」

 

 緊張の糸が切れたのか、意味不明な造語を口ずさむヴァレン。すると、彼の頭上に巨大な鉄の影が差した。ノアの箱舟。

 その甲板から一機の影が飛び降り、フユーンの天蓋へと降り立った。

 

タイン: 「そして、ほんのりサリゲラス!」

 

ヴァレン: 「タイン! 何気に久しぶりじゃねぇか!」

 

 ヴァレンは、自らの感性を唯一理解してくれる親友の方を嬉々として振り返った。だが、タインの顔は、いつになく真剣だった。

 彼は知っている。二年前、ヴァレンが成そうとした残酷な救済を。そして、その動機となった深い孤独を。

 

タイン: 「ヴァレン……。お前に、さり気に言っておきたいことがある」

 

ヴァレン: 「………………」

 

 二機の間に、張り詰めた沈黙が流れる。朝日が照らす戦場。風の音以外、何も聞こえない。タインは一度目を閉じ、これから発する言葉を噛み締めるように確認すると、力強く目を開いた。

 

そして……

 

 

 

 

 

タイン: 「ヴァレン…………!! いつもの、言ったげてぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

ヴァレン: 「おぉ!! 聞きたいか、何気な武勇でぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!」

 

 

 

 

漢たちの宴は始まった。

 

 

第四十話【感謝して敬え】終わり

 

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