第四十話【感謝して敬え】
ジ・バク――。
かつてコスモスが、自らの身を砕いて放った究極のメダフォース。
そして、その力の原典は、彼女の元となったN・G・ライトにあった。
今。
ライト:「ジ・バク!!」
N・G・ライトの全身を、青白い光が包み込む。
直後、頭部を残し、ライトの全身のパーツが一斉に砕け散った。
失われた装甲が、青白い力へと変わっていく。
ヴァレン:「……ッ!?」
ヴァレンが身を翻そうとした。
だが、間に合わない。
凝縮された莫大な力が、真正面からヴァレンを呑み込んだ。
――ッ!!
ヴァレン:「……が、……は…………っ!!」
ヴァレンの機体が大きく吹き飛ぶ。
漆黒の翼から力が抜け、そのまま空中要塞フユーンの天蓋へ叩き落とされた。
――ガシャァァァンッ!!
ヴァレンは大の字になって倒れ込む。
その上空。
ライトの頭部――『セオロジー』が光を放った。
砕け散ったパーツが、再び形を取り戻していく。
完全な姿へ戻ったN・G・ライトが、白銀の翼を広げながらゆっくりと天蓋へ降り立った。
ライト:「この程度か」
ヴァレン:「へ……んッ。……な……にげ……に……まだま……ださ」
ヴァレンが、かろうじて身体を起こそうとする。
だが、ライトは追撃を止めなかった。
拳が振るわれる。
――ドガッ!!
ヴァレン:「ぐッ……!」
再び床へ叩き伏せられる。
ライトはそのままヴァレンの頭部を掴み上げ、自分の目線の高さまで持ち上げた。
そして。
――ガァンッ!!
一気に床へ叩きつける。
ヴァレン:「グアッ……!」
さらにライトの右手が変形する。
一本の指先が、細い刃のように伸びた。
――グシャリ。
その刃が、ヴァレンの胸部装甲を貫く。
ヴァレン:「……ッ!!」
ヴァレンが震える手で、その指を掴んだ。
だが、動かせない。
ライト:「粋がったところで、この程度か。……失望したぞ、死神」
ライトがヴァレンを見下ろす。
ライト:「さっさと帰れ。……あの狂った女の所へな」
ライトが、空いた腕を振り上げた。
その瞬間。
ヴァレン:「…………なんつった?」
ヴァレンの声が低く響いた。
ライト:「…………」
ヴァレン:「狂った……女……? ……誰が……だ?」
先ほどまでとは違う。
笑っていない。
減らず口も叩かない。
ライトはそんなヴァレンを見下ろしたまま、淡々と答えた。
ライト:「無論、宝条ルクだ」
その名が口にされた瞬間。
ヴァレン:「………………」
ヴァレンが、胸を貫いていたライトの指を掴む。
そして力任せに引き抜いた。
ライト:「……!」
火花を散らしながら、ヴァレンが夜空へ舞い上がる。
一言も発しない。
いつもの薄笑いも消えている。
ヴァレンは一気に急降下した。
手には、L字型の鎌剣。
ただライトを斬るためだけに、一直線に迫る。
ライト:(……相変わらず分かり易い男だ)
ライトが斬撃を受け流す。
反撃。
回避。
再び斬撃。
黒き翼と白銀の翼が交錯し、激しい火花が夜空へ散った。
ヴァレンの動きが、それまでよりさらに鋭くなる。
ライトの読みを、僅かずつ上回っていく。
激突の末。
ヴァレンは下方へ。
ライトは上方へと吹き飛ばされた。
ヴァレン:「……人類を滅ぼすだの、メダロットを消滅させるだの……。そんなことよりも何気に重い罪が、この世にはあるんだよ」
低い声が、ライトのもとへ届く。
ヴァレンが腕を振るった。
その周囲に、無数の巨大なトランプが現れる。
カードはN・G・ライトを取り囲むように展開した。
ヴァレン:「……それは、宝条ルクを侮辱することだッ!!!」
ヴァレンの姿が消えた。
直後、ライトを囲む一枚のトランプから、ヴァレンが飛び出す。
――ズバァッ!!
ライト:「……ッ!」
一閃。
ライトの装甲が切り裂かれる。
ヴァレンはそのまま別のカードへ飛び込み、姿を消した。
そして、また別のカードから現れる。
――ズバァッ!!
斬る。
消える。
別方向から現れる。
――ズバァァァッ!!
さらに斬る。
全方位から、途切れることなく鎌剣が襲いかかる。
ライトの装甲へ、次々と傷が刻まれていった。
ヴァレン:「うおぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁあああッッッッ!!!!!」
ヴァレンが、トランプの上方から飛び出した。
鎌剣を両手で握り締める。
そして。
渾身の一撃を振り下ろした。
――ドォォォォォォォォンッ!!
二機の間で、凄まじい衝撃が弾けた。
ヴァレンは荒い動きで距離を取る。
ライトの装甲には深い傷が刻まれ、至る所から火花が散っていた。
ライト:「フム……。流石だな、何気なるギャンブラーよ」
それでも、ライトは、平然と宙に浮かんでいた。
ヴァレン:「うるせぇよ……。この手抜きジジイ」
ライト:「…………」
ヴァレンが睨む。
僅かな沈黙。
やがて。
ライト:「フハハハ……。……バレたか」
ヴァレン:「最後の最後で、何気に決着を譲りやがって」
ヴァレンがフユーンの天蓋へ降り立つ。
その声には、ようやくいつもの調子が戻っていた。
ライトもまた、僅かに笑う。
ヴァレンは踵を返した。
ライト:「一つ、貴様のあの女に対する愛だけは認めてやろう。……感謝して敬え」
ヴァレン:「…………」
ヴァレンは振り返らない。
それでも、その言葉だけは黙って聞いていた。
ライト:「しかし。神である私の、人間やメダロットに対する考えが変わったわけではないぞ。神である私の信念は、常に変わらぬ……」
ライトが両腕を正面で交差させる。
両手が大きく広がり、自らの身体を包み込む。
そして。
天を仰いだ。
ライト:「全てのメダロットに愛を!!」
その頃、西の地平線へ月が沈み、東の空から朝日が差し始めていた。
白い光が、N・G・ライトの身体を包む。
次第にその姿が見えなくなっていく。
そして、光は静かに消えた。
神の再臨は、夜の終わりと共に幕を閉じた。
空中に残されたのは、意識を失ったF・G・シャイン。
その身体が、力なく落下を始める。
ヴァレンは朝日を背に、その姿を見つめていた。
ヴァレン:「お前のメダロットに対する愛だけは、何気に認めてやるよ。……感謝して敬え」
――ガシャンッ!!
シャインの身体が、フユーンの天蓋へ落下した。
その衝撃で腹部から、一枚のメダルが弾け飛ぶ。
ヴァレン:「……!? ヤバッ! コスモスのメダルが!!」
メダルはフユーンの外へ飛び出し、遥か眼下へ落ちていく。
ヴァレンが翼を広げようとした。
その時、上空から白い影が急降下した。
カヲス:「任せろ……」
カヲスが落下するコスモスのメダルへ追いつき、両手でしっかりと受け止めた。
カヲスはそのメダルを抱えたまま、静かに戦場を離れていく。
ヴァレンが大きく息を吐いた。
ヴァレン:「……ふぅ。う~ん、とってもナニゲラス♪」
すると、ヴァレンの頭上を巨大な影が覆った。
ノアの箱舟。
その甲板から、一機のメダロットが飛び降りてくる。
タイン:「そして、ほんのりサリゲラス!」
ヴァレン:「タイン! 何気に久しぶりじゃねぇか!」
ヴァレンが嬉しそうに振り返る。
だが、タインは、いつになく真剣な顔をしていた。
タイン:「ヴァレン……。お前に、さり気に言っておきたいことがある」
ヴァレン:「………………」
二機の間に、沈黙が流れる。
朝日に照らされたフユーン。
タインはヴァレンを真っ直ぐ見つめた。
そして……。
タイン:「ヴァレン…………!! いつもの、言ったげてぇぇぇぇぇ!!!!!」
ヴァレン:「おぉ!! 聞きたいか、何気な武勇でぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!」
漢たちの宴は始まった。
第四十話【感謝して敬え】終わり