第四十一話【何気に、そしてさり気に、そして】
タイン: 「ヴァレン、いつもの言ったげて!」
ヴァレン: 「おぉ! 聞きたいか、何気な武勇伝!」
タイン: 「そのさり気な武勇伝を言ったげて!」
ヴァレン&タイン: 「「何気でさり気なベスト10!!」」
―――〝ナニゲンタルサリゲ〟。
二年前、ラヴドの英雄と十二使徒のエースという、本来決して交わるはずのなかった二機によって結成された伝説のコンビ。メンバーの一機が物理的に消滅したことで解散を余儀なくされたあの「食わせ物」たちが、今、未曾有の激戦地であったフユーンの天蓋で、奇跡の再結成を果たした。
ちなみに、元ネタとなった人間たちはすっかりネタをやらなくなり、動画配信に精を出しているようだ。
ヴァレンとタインは、朝日を浴びて装甲を輝かせながら、リズミカルに、そして驚くほど無駄に高いテンションで踊り出した。
ヴァレン: 「一念発起してバンドを結成!」
タイン: 「すごい! 担当楽器は、全員トライアングル!」
ヴァレン&タイン: 「「何気に、さり気に、何さりげっげっげげっげ♪」」
タイン: 「レッツゴー!」
ヴァレン: 「目覚まし時計を、千個セット!」
タイン: 「すごい! 止めてる間に遅刻した!」
ヴァレン&タイン: 「「何気に、さり気に、何さりげっげっげげっげ♪」」
タイン: 「レッツゴー!」
ヴァレン: 「ラーメンのスープを全部飲む!」
タイン: 「すごい! 気分悪くなって全部戻す」
ヴァレン&タイン: 「「何気に、さり気に、何さりげっげっげげっげ♪」」
タイン: 「レッツゴー!」
ヴァレン: 「小説のプロット、原稿用紙一万枚!」
タイン: 「すごい! 本編書く前に、腱鞘炎!」
ヴァレン&タイン: 「「何気に、さり気に、何さりげっげっげげっげ♪」」
タイン: 「レッツゴー!」
ヴァレン: 「バグったカセット、全力で息を吹きかける!」
タイン: 「すごい! 唾液が飛んで、完全にトドメ刺す!」
ヴァレン&タイン: 「「何気に、さり気に、何さりげっげっげげっげ♪」」
タイン: 「レッツゴー!」
ヴァレン: 「世界中のプレイヤーと、ボイスチャットでゲームプレイ!」
タイン: 「英語わからず『オーケー! オーケー!』と叫び続ける!」
ヴァレン&タイン: 「「何気に、さり気に、何さりげっげっげげっげ♪」」
タイン: 「レッツゴー!」
ヴァレン: 「徹夜で書いたぜ、大長編小説!」
タイン: 「すごい! 保存忘れて、データ、
ヴァレン&タイン: 「「何気に、さり気に、何さりげっげっげげっげ♪」」
タイン: 「レッツゴー!」
ヴァレン&タイン: 「「意味はないけれどー、何気にさり気にぃ♪ うな重、鰻抜きでオーダー♪」」
ヴァレン&タイン: 「「二周目こそはー、フローラで行くと~、意気込んだけれど結局ビアンカ♪」」
ヴァレン&タイン: 「「ジャンジャンジャンジャンジャジャッジャジャッジャッ♪ ジャンジャンジャンジャンジャジャッジャジャッジャッ♪」」
ヴァレン: 「元ネタの人がやらなくなったから、このネタ何気にもらったぜ!」
タイン: 「さりポン!」
歌と踊りが終わると同時に、二機は彫像のようにピタリと動きを止め、決めポーズをとった。
「シャキーーーンッ」という幻聴が聞こえてきそうなほど、彼らの自尊心は満たされている。ヴァレンは東の空を、タインは少しかがんでヴァレンを両手で指し示し、朝日に目を細めながら余韻に浸っていた。
今、この瞬間、この世界で自分たちが最も輝いている。その確信に満ちた、あまりにも満足げな表情。
ヴァレン: (決まった……。何気に決まったぜ)
タイン: (完璧だ……。さり気に完璧だぜ)
その直後。
フユーン上空に停泊していたノアの箱舟から、二つの「殺気」が降り注いだ。
竜: 「貴方たちは……」
ローラ: 「一体……」
竜&ローラ: 「 何 を し て る ん だ ! ! ! 」
―――ド、ゴォォォォォォォォォンッ!!
絶叫と共に、二つの質量が天蓋を叩いた。ローラの左拳がヴァレンの脳天を、竜の鋭いかかと落としがタインの脳天を、寸分の狂いもなく捉える。会心の一撃。
惜しまれるのは、この完璧な制裁が「ネタを最後まで言い終わった後」に放たれたことだろう。読者にとっても、そして作者にとっても、このどうしようもない空気はもっと手前で断ち切ってほしかったというのが本音であった。
ヴァレン: 「ケフゥッ!!!!」
タイン: 「カァッ!!!!」
奇声とも悲鳴ともつかぬ声を上げ、英雄とエースが同時に崩れ落ちる。火花を散らす頭部パーツ。地を這いながら、彼らは同時に同じ疑問に突き当たっていた。
ヴァレン&タイン: (何でオレたち、殴られたんだ……?)
……救いようのない大馬鹿であった。
ヴァレン: 「タイン……。相変わらず、ここの女性陣は何気にたくましいな……」
タイン: 「あぁ……。竜なんて、もはやさり気に女じゃねぇ……」
直後、タインの脳天にもう一発、無言のかかと落としがめり込んだのは言うまでもない。
そうこうしているうちに、ノアの箱舟からは残りのメンバーも続々とフユーンへと移ってきた。リーブとレッドは、竜やローラのように物理的な制裁は加えず、ただ半ば呆れ果てた様子で天蓋に降り立つ。
リーブ: 「いやぁ……。お二人さん、二年経っても全然変わったはりませんな~」
レッド: 「……………大馬鹿……………」
ディストは着地するなり、ローラの元へと駆け寄った。戦場を共にした戦友への、心からの労い。
ディスト: 「ローラ、お疲れ様!」
ローラ: 「うむ。なんとかワンダの代わりは務まったな」
短く応じるローラの目は、僅かに満足げに細められていた。
そして最後に、パーティクルのナギサが、貼り付けたような笑顔の中に僅かな不機嫌を滲ませて、ヴァレンの前に降り立った。
ナギサ: 「やあ。ワンダの身体……ボディを奪い取った気分はどうだい? 死神君」
負けじとヴァレンもナギサの笑みを真似て応じるが、すぐにいつものおちゃらけた仮面を被り直した。
ヴァレン: 「この体は何気に乗り心地がいいねぇ。……まッ! すぐに返すから、そう怒りなさんなって!」
ナギサ: 「当然さ……。まったく君という人は礼儀……マナーがなっていないよ。突然許可もなく人の体に乗り移ったと思えば、ひどく負担をかけるような戦い方をして……。君もN・G・ライトも、そして悲しき争いを続けるすべての者たちも。彼らは一体いつになれば、悲しみと憎しみを紡ぐことをやめるのだろうか……。人の犯した過ちを、僕らメダロットもまた繰り返す……」
ナギサが暴走を開始し、
ヴァレン: 「いや、お前、何気に話長すぎr――」
ナギサ: 「真の平和とは……。皆が望むものとは……」
ナギサのトークは止まらない。大暴走。ゴーイング・マイ・ウェイ。絶え間なく溢れ出す詩的なフレーズの濁流。
結局、その場にいた全員の意見が音もなく一致し、ナギサの存在は完全に無視されることとなった。
竜: 「ではヴァレンさん。お聞きしたいことがあるのですが。……よろしいですね?」
竜が冷徹な目つきでヴァレンを射抜く。ヴァレンもまた、それに応えるように鋭い目つきになり、真剣な表情を作った。
ヴァレン: 「なるほど。つまり……〝アロンアルファの妖精〟を呼び出したいと。そういうことだな?」
竜: 「 全 然 違 い ま す 」
わずか〇・〇二秒。竜のウルトラスーパーデラックス・ポーカーフェイスによる、超低温のツッコミ。
だが。厄介なことに、この場にはもう一人の大馬鹿がいた。
タイン: 「よしヴァレン! さり気にオレも手伝うぜ!!」
ヴァレン: 「さすがは我が友だ!!」
―――五分後。
ヴァレン: 「アロンアルファの妖精様ぁぁぁぁぁ~……」
タイン: 「妖精様ぁぁぁぁぁ~……」
空中要塞フユーンの天蓋中央。そこには、いつの間にか瓦礫を集めて作られた、何かを祀る
祠に向かって膝をつき、両腕を奇妙なリズムで上下させながら一心不乱に祈りを捧げる、二機の英雄。その光景は、あまりにも異様で、あまりにも冒涜的であった。
リーブ: 「 な ん か ヤ バ そ う! ! ! ! 」
リーブが、耐えかねたように悲鳴に近い声を上げた。背後で控える他のメンバーも、二機の行動があまりに人智を超越した領域に達しているため、ただ呆然と立ち尽くすしかない。
その時。一機の軍用ヘリが高度を下げ、フユーンへと接近してきた。
ハッチが開き、青きボディのメダロットが虚空へと躍り出る。特に行う必要もないはずだが、空中で華麗に数回転の宙返りを決め、ジャイロによる完璧な姿勢制御を披露。青きメダロット――セルヴォはプロの体操選手も顔負けの着地を、天蓋の上で決めてみせた。
自らのスタイリッシュな登場を自負しているのか、その声はどこか気取った響きを帯びている。
セルヴォ: 「さて、F・G・シャイン、発見だな」
だが、着地した場所が悪すぎた。
セルヴォの足元からは、パキパキという乾いた破砕音が響いた。彼が踏み抜いたのは、先ほどまで祠の形を成していたはずの木片。そう。彼はヴァレンとタインが捧げていた祈りの中央――まさに「ご神体」があった場所へ、土足で、しかもかっこよく着地してしまったのだ。
粉々になった祠の残骸と、その中央に立つ青い諜報員。ヴァレンとタインは、絶望のあまり口を半開きにしてその光景を見つめていた。
ヴァレン: 「な……なんてことだ……」
タイン: 「そ……そんな……」
――沈黙。
ヴァレン&タイン: 「 ア ロ ン ア ル フ ァ の 妖 精 が 降 臨 さ れ た ! ! ! 」
歓喜。
二機は弾かれたように立ち上がると、そのままセルヴォの方へと猛烈な勢いで詰め寄った。
セルヴォ: 「さて、お前らわけ分かんねーこと言ってんじゃ……て、ちょっ! 来んな! やめろ! な、なんかキモイッ!!」
慌てて後ずさるセルヴォだったが、彼の困惑と拒絶は、熱狂の渦にある二機には一切届いていないようだった。
ヴァレン: 「アロンアルファァァァァ~~~」
セルヴォ: (い、意味分かんねぇ!!! こいつら、本気でイカれてやがる!!)
暗殺のプロとして数々の死線を越えてきたセルヴォだったが、正体不明の「熱狂」に包囲され、生まれて初めて本当の命の危機を感じ始めていた。
タイン: 「ちなみに、木工用ゥゥゥ~~~」
セルヴォ: (さて! こいつら、本当になんなんだよオイッ!!)
絶体絶命。理性が崩壊する寸前。
竜: 「ですから……」
ローラ: 「いい加減に……」
竜&ローラ: 「 し ろ ! ! ! 」
本日二度目。一回目と寸分違わぬ精度で、二つの鉄拳がヴァレンとタインの脳天へと振り下ろされた。
天蓋に突っ伏した二機を、セルヴォは冷や汗を流しながら、ホッとした表情で見下ろした。ここ数年の彼の任務の中で、最も安堵した瞬間であったという。
作者も、そして読者も、このどうしようもない時間の濁流が止まったことに心から感謝している。願わくば、ヴァレンとタインは二度と同じ戦場に立たないでいただきたい。
ヘリがゆっくりとフユーンに着地し、コックピットからビートが降りてきた。彼は今の惨劇を上空からすべて目撃していたらしく、同情に満ちた眼差しを相棒に向けた。
ビート: 「……大丈夫か?」
セルヴォ: 「さて。……生きてるって、素晴らしいな」
プロの諜報員の呟きは、いつになく重厚な実感を伴っていた。
その時。天蓋の静寂を、この世のものとは思えぬ絶叫が引き裂いた。
『 ウ ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア ァ ア ァ ア ァ ア ァ ァ ア ! ! ! ! ! ! ! ! ! 』
少し離れた場所で横たわっていた、炎の狂姫――F・G・シャイン。意識を取り戻し、己の「神」が消失した現実を悟った瞬間、彼女の声は制御を失い、鼓膜を抉るような甲高い悲鳴を上げた。
シャイン: 「神が……! 僕の……唯一の神様がぁぁあぁあぁぁぁ~~!!」
その光景に、居合わせた全員が閉口した。
あまりに哀れで、惨めで。自らの存在意義を丸ごと喪失した者の姿は、勝利の余韻に浸っていた仲間たちの心を凍りつかせた。
だが、その不気味な静寂を縫って、一機の男が動いた。
脳天を殴られ、床に突っ伏していたはずのヴァレン。彼は何事もなかったかのように立ち上がると、不敵な、けれどどこか慈しみを感じさせる笑みを浮かべてシャインへと歩み寄った。
ヴァレン: 「F・G・シャイン……。Fascinate・God・Shine。神に魅せられし者……か」
一歩、一歩、距離を詰めるヴァレン。シャインは憎悪に満ちた目で彼を射抜いた。
シャイン: 「き、貴様のせいでぇぇ!! 僕の……僕の神様がぁぁぁぁ!!」
シャインは立ち上がろうとするが、機体は既に満身創痍。焼け付いた装甲を軋ませ、咆哮を上げることしか彼女には残されていなかった。
ヴァレン: 「何気に分かるぜ、アンタの気持ち」
シャイン: 「だまれ……ッ!」
ヴァレン: 「たった一人のために人生を投げ打ってさ。……何気に、全部をそこに懸けてきたんだろ?」
シャイン: 「うるさい……!!」
ヴァレン: 「願い虚しく、計画は失敗。……それはすなわち、自分の存在価値を失った瞬間だ。……死にたい気分。何気に、痛いほどによく分かるぜ……」
ヴァレンの声は、いつになく低く、優しかった。
それは、二年前。ルクを失い、絶望の果てに自らごと世界を消し去ろうとしたヴァレン自身の魂の独白でもあった。
シャイン: 「だまれぇぇえぇぇぇえぇぁぁあああ!!!!」
シャインの絶叫。
そこには、これまでのような狂信的な殺気はなく、剥き出しになった深い「悲しみ」だけが宿っていた。
ヴァレンは、そんな彼女へ向けて、静かに、けれど極力明るい調子で手を差し伸べた。
ヴァレン: 「ども。何気に初めまして」
ヴァレンはニッと笑い、自らの左腕の薬指に輝くリングを
ヴァレン: 「F・R・ヴァレンでっす♪」
―――Fascinate・Ruku。
宝条ルクに魅せられし者。
二つの歪な『愛』が、空中要塞の頂上で静かに交錯した。
第四十一話【何気に、そしてさり気に、そして】終わり